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 名探偵ぽややんの事件簿~依頼人Eの悲劇・第二章~  同日17:43 「さて、どう致しましょうか」  円城寺先輩が退室し、一瞬訪れた静寂の後に水嶋会長が「夕飯何する?」位の軽い口調で言った。  それぞれがいつもの場所に戻り、新たに増えた事件の謎にどうしようかと考えあぐねている。 「どうしようね~」 「亮も煌來もなんでそんなに落ち着いてるの!?」 「ポチは煩すぎよ。 しばらく黙っててちょうだい」 「―――――…」  吉川先輩の一言に素直に従い口パクだけで「あーやん酷い…」を言ってみせるポチ先輩。  僕、ポチ先輩好きだなぁ…。 「ゆず、浮気はダメだよ~?」  ――浮気??  意味が分からず首を傾げてしまう。 「いっちー、全く伝わってないようですよ」 「ん~。 まぁ、ポチ相手じゃ所詮良い人止まりだろうからいいけどね~」  「変なのに懐いたらお仕置きかな~」とますます謎を深めるような呟きがボソリと続けられる。  名探偵が謎を生むなんて主客転倒だ。 「一瀬くんのお仕置きは気になるところだけど、先に仕事を片付けちゃいましょう」 「そうですね。 差し当たって弓道部は張り込み、投書については聞き込みをするしかないでしょう」  いつもなら言葉遊びの繰り返しが延々と続いていく所なのに、珍しくあっさりと本題に戻る。  こういう風にやるべき事をきちんとこなしているからいつも仕事が後に残らないのだろう。  優しい楽しいばかりではない先輩達に尊敬の念を抱きながらトントン拍子に進んでいく話を聞いていると、突然爆弾発言が投げ込まれた。 「あっきー、もう1つ調査対象を増やしてもいいかな~」  トントンと進んでいた話を止めるには十分な威力の発言。  爆弾発言を投げ込んだ本人はいつもと変わらずぽややんとしていて、投げ込まれた水嶋会長は新たな事件出現の予感に訝しげに眉根を寄せる。 「それは、最近ずっとご覧になってる書類の件ですか?」 「ご明察~」 「そちらはまだ日数的に余裕があったかと思いますが…」 「ん~、ちょっと早めに対象した方がいいかな~って」 「――勘、ですか」 「そうだね~、今のところは~」 「はぁ…。 貴方がそう言うのなら早めに対処した方が良いのでしょう。 ――ポチ、行動が煩いですよ?」  先輩と水嶋会長の会話は相変わらず主語が迷子で分からないことだらけだ。  辛うじて水嶋会長が最後に放った一言が、お喋り禁止令を出されたポチ先輩が発言許可を得るために手を挙げてぴょこぴょことアビールしている姿に向けたものだというのは分かった。  水嶋会長の一言で“ガーン”と効果音が聞こえてきそうなリアクションをしたポチ先輩に、呆れた様子の吉川先輩が「喋ってヨシ」を出す。 「あ、いい!? 喋っていいの? ありがと、あーやん!!」 「ありがとうって、お喋り禁止令出したのもあーやんだけどね~」 「良いのいいの、細かいことは! ねえ、煌來が見てた書類ってオレの仕事手伝ってくれたやつでしょう!?」  ポチ先輩曰く、生徒会の中で明確に役割が決まっているのは会長、書記、会計の3名のみ。  副会長と庶務はその役職ならではという仕事はほとんどなく、突発的な仕事…主に生徒の相談窓口の対処をしているそうだ。  しかし、そんなに度々突発的な仕事や事件が巻き起こるはずもなく、暇を持て余した一瀬先輩がポチ先輩の抱えていた仕事を一つ請け負ったのが先週末のこと。 「そうそう~。 部活動費用使用用途報告書の精査、要するに無駄遣い&横領チェックのお仕事だね~」  無駄遣いと横領を並べると違和感が半端ないです、先輩。 「え…事件捜査と並行するってことは、まさか横領の方に疑惑が掛かっているってこと?」 「さすがあーやん。 そのまさかだよ~」 「部費横領じk…」 「「「ポチ煩い」」ですよ」  あ、ついに最後まで言わせて貰えなくなった。  ドンマイです、ポチ先輩。 「いっちーが同じ書類を数日眺めていたのでまさかと思ってましたが…。 どちらの部活ですか?」 「使途不明金がある部活は3つ。 映画研究部、パソコン部、それから…新聞部、かな~」 「新聞部、ですか…」  新聞部の名前を聞いた瞬間、元々怪訝そうな顔をしていた水嶋会長の表情がその色を濃くする。  そういえば、前に新聞部さんが部費の相談に来たことがあったような…。 「1つは金額が小さいから領収書を紛失した可能性も有り得るんだけどね~。 残り2つ、特に新聞部は限りなく…黒、かな~」 「――さすがに…それは後回しには出来ませんね」 「だよね~」 「同時に三つも事件が起こるなんて、前代未聞じゃないかしら…」  盗まれたわけではない盗難、なんちゃら風味事件  校内での尾行及び隠し撮り、ストーカー盗撮事件  疑惑のある部活による使途不明金、部費横領事件  数日前までの平和な学園生活が懐かしくなるくらいの事件の数々。  こうなったら早いところ名探偵に解決してもらわなければ――…って、あれ?  なんちゃら風味事件の詳細…聞いていないような…。  それに、犯人は2年生の可能性が高いって…。 「あの、先輩…。 質問、してもいいですか?」

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