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名探偵ぽややんの事件簿~依頼人Eの悲劇・第四章~
6月14日 1303
翌日の昼休み。
お昼ごはんを食べるため、僕と瑛士は学食に来ていた。
「へ~、学食って初めて来たけど結構栄えてんのな」
「―――人いっぱい…。 瑛士、テラス行こうよ」
「ったく、しょうがねぇな。 俺、カレーにするけどお前は?」
初めて来た学食とそれなりに栄えた様子に若干尻込みしている僕とは違い、あっさりとメニューを決めてしまった瑛士。
券売機にはカレー、ラーメン、丼物に定食と和洋中入り交じったメニューが沢山表示されていて目移りしてしまう。
「えっと…うーんと…。 あっ、日替りランチって何?」
「あ? そこに書いてあんだろ。 中華丼だと」
「んー…それにする」
「ん。 先行って席とっとけよ」
ひょいっと食券を奪った瑛士がさっさと受け取りの列に並んでしまったので、お言葉に甘えて大人しくテラスへと向かう。
外に出ると、ここ数日続いた雨が嘘のように晴れ上がり、久々の青空が見えた。
もうすぐ夏だな――。
だからといって特別な予定は何も無いし、年々酷くなっていく暑さに毎年滅入りそうになっていたことまで思い出して若干げんなりしてしまう。
今の時期か、何なら夏を通り越して秋の方が過ごしやすくていいのに。
室内よりは少ないながらもそれなりに賑わったテラス席。
その中でも人集りの少ないテーブルを選び、先に座っている人の居る場所から数席空けた所に二人分の席を確保した。
「あれ? 君、昨日の…」
突然話しかけられ隣を向くと、昨日見知った顔がそこに居た。
お昼休みの学食だというのにピンと伸ばされた背筋と、きちんと整えられた身なり。
昨日も思ったけれど、今日もやっぱり“良い人”としか形容できない雰囲気を醸し出している。
「――あっ、えっ…と、こんにちは…です」
えっと…何先輩、だったかな…。
弓道部の…。
「こんにちは。 これから昼かい?」
「あっ、はい…そう、です」
「一人…じゃ、ないか。 場所取りかな?」
「そう、です」
手ぶらな僕と二人分取った席を見て気付いたのだろう。
「そうか」と頷かれて思い出した。
円城寺先輩だ。
由緒正しきお家柄という品格ある雰囲気は、珍しい漢字三文字の名字の影響もあるのだろうか。
円城寺先輩自身の雰囲気も相俟って、声に出したら緊張で噛みそうだ。
「一瀬から聞いたよ。 早速、生徒会が動いてくれるんだってな」
「あ、弓道部…は、ポチ先輩が…」
「もう役割が決められてるのか? さすがだな。 水嶋が率いてるだけあって仕事が早い」
「先輩達…みんな、凄いです」
「そうだな。 特に水嶋と一瀬のコンビは最強だろ? いや…最恐、か?」
恐いって字の方でな、と悪戯っぽく言われて二人の先輩を思い浮かべる。
確かに色んな意味でサイキョウだ。
「ふふっ。 二人ともサイキョウ、です」
テキパキと仕事をこなし異次元で会話をする二人を思い出して、思わず笑ってしまう。
「クラスでもアイツらに敵うやつは中々居ない」
「クラス、でも?」
先輩達は特進科だったはず。
優秀な生徒が多いはずの特進科においても二人の能力は抜きん出てるということだろうか。
「えん、じょーじせんぱいも…叶わない、ですか?」
「呼びにくそうだな。 下の名前で呼んでくれても構わないぞ」
僕の問いには苦笑で答え、ひらがな発音で微妙につっかえながら呼んだ名前を指摘された。
「下の…?」
「凛だ。 凛々しいとか凛としたという字を書く」
「凛、先輩?」
「ああ。 君はなんというか…素直、だな。 一瀬が気に掛けるのも分かる気がする」
一瀬先輩が気に掛ける、とはこの間のお気に入り発言のことを言っているのだろうか。
それとも先輩が言っていた“特別仲良し”だろうか。
どちらにせよ、先輩が僕を気に掛けてくれているというのなら嬉しいことのような気がする。
「柚、顔崩れてんぞ」
「ふぇっ!? あ、瑛士」
指摘された顔を抑えながら声の方を向くと、二人分の昼ごはんを乗せたトレーを持った瑛士がいた。
そんなに変な顔をしていただろうか。
「――ドーモ…」
トレーをテーブルに置き「誰だ?」という顔をしながらもペコリと挨拶をした瑛士。
きっとネクタイの色を見て先輩だと気付いたんだろう。
「あっ、あの…この人はえっと、凛、先輩で、弓道部さんで…それで…」
「――凛先輩?」
「弓道部2年の円城寺だ。 君、バスケ部の上原だろう?」
「そうっす。 よく知ってますね」
「球技大会で大騒ぎされていただろ。 うちのクラスのバスケ部連中もレギュラーを取られそうだって焦っていた」
「あー…。 譲る気はねぇっすね」
また俺様発言してる…。
言葉遣いはいつもよりは丁寧だけど、先輩相手でも瑛士は瑛士のままだ。
「そうか、頑張れよ。 やる気のある1年は嫌いじゃない。 では、僕はそろそろ失礼するよ」
流れるような所作で立ち上がり「お先に」と言い席を立った凛先輩を瑛士と二人で見送る。
「お前なぁ…」
「えっ?」
「この顔は自覚なしか…。 プリンス様も浮かばれねぇなぁー」
「?? 何が? とりあえず僕の中華丼ちょうだい」
瑛士の前に置かれたトレーから中華丼を奪いながら何の事かと問うと、今世紀最大レベルの呆れ顔をされた。
受け取った中華丼は白菜や人参などの色とりどりの野菜と豚、海老、イカ、それに鶉の卵まで入っていてボリュームたっぷりだ。
中華丼の鶉の卵って美味しくて好きなんだよね。
「円城寺凛ってどっかお偉い家柄の出だっていう弓道部の副部長だろ? お前いつから接点あったんだよ?」
「知らないけど…そうなの? 昨日生徒会室で会った」
通りで品格もあるし、立っても座っても姿勢が良いと思った。
流れるような所作も礼儀正しい雰囲気も、家柄や弓道で鍛えられたものなのだろう。
「ふーん。 プリンス様程じゃねぇけど結構人気あるらしいから気を付けろよ?」
「気を付ける?」
「――鈍感プリンセス」
「僕、男だってば。 鈍感って瑛士が意味分からないこと言うからだろ」
「和洋のプリンス両脇に従えてたら妬まれるか観賞用にされるかすんじゃねーのかってこと。 おまけに“凛先輩”だしな。 プリンス様がキレても知らねーからな」
和洋のプリンス?
観賞用?
おまけに凛先輩?
一瀬先輩がキレる??
瑛士の呆れポイントがさっぱり理解出来ない。
とりあえず。
「先輩は怒ったりしないと思うけど…」
たった数分で今世紀最大レベルを更新するような呆れ顔をした瑛士は、盛大なため息を吐きながらチキンカレー に向き合ってしまった。
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