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 名探偵ぽややんの事件簿~依頼人Eの悲劇・第六章~  6月14日 17:57 「先輩はいつから分かっていたんですか??」  最後の最後までご丁寧にお見送りをして頂いて映研の部室を後にした僕達は、夕陽に照らされた廊下を歩きながら第一の調査を振り返っていた。  6月ともなればこの時間でもまだ外は明るく、グラウンドからは走り込みをする運動部の元気な声が聞こえてくる。  事の真相は実に呆気なく、リサイクルショップでテレビを購入した時、部室で映画鑑賞ができるようになることに浮かれうっかり領収証を貰い忘れてしまった、というものだった。  部費の使用報告には領収証を添付することを必須としているため、レシートは不可だろうと生真面目に判断した結果“その他”として報告をしたらしい。  提出されなかったレシートもきちんと保管してあり、報告書の金額とも一致したため映研の疑惑はその場で完全に晴れることとなった。 「ん~、テレビを見た時かな~」 「テレビ…」 「いくら私立高校とはいえ、部室にテレビは完備していないからね~」 「そう、なんですか?」  生徒会室にはあんなに立派なソファーとミニキッチンまであるのに?  脳裏に疑惑を浮かべた僕に「生徒会室はあっきーが居るから特別~」と苦笑を返した先輩が、赤く染まる廊下を進みながら続けた。 「無いはずのテレビがあって、でも買ったばかりにしては妙に年季が入っていたし、使途不明な金額も中古って考えたらちょうど合いそうだな~って」 「僕、全然気付きませんでした…」 「ふふっ。 あとは 軽音楽部が第二視聴覚室を使い始めたのもあるしタイミング的にもそうかな~って」 「あ、そっか。 最初の事件の時に…」  先日のオカルト研究部との諍いを収めるために先輩が下した采配によって、軽音楽部は活動場所を第二視聴覚室に移した。  確かその時、映画研究部は第一視聴覚室を使っていると言っていたような気がする。 「第二の方は誰も使ってなかったからね~。 たまに映研がサスペンスとラブストーリーの二作品同時上映とかしてたんだよね~」 「贅沢な使い方、ですね…」 「ふふっ、そうだね~。 でも贅沢なのはちゃんと分かってたんじゃないかな~。 文句も言わずにテレビを買って対処したわけだしね~」  確かにあんなに唐突に決めたにも関わらず、映研を含めどこからも苦情は出ていなかった。  あのたった数分で導き出した采配が、山程ある部活がいつ、どこで、どのように活動しているのかをきちんと把握した上で出されたもので、誰もが納得出来るように考えられていたことに今更ながら気付かされる。 「…先輩、すごいです」 「そう? ゆずに褒められると嬉しいな~」  「ふふっ」と嬉しいそうに笑う名探偵は、複雑に組まれたロジックのような事件を謎解くことよりも、僕のたった一言を喜んでいるようにみえる。  何となく擽ったくなって話題の修正を図った。 「つぎっ…は、パソコン部と新聞部、ですか?」 「ん~…新聞部は明日かな~」  階段で一つ上の階へと上りながら窓の外を見やり、今日中にあと二つは難しいかなと呟く先輩。  視線の先では太陽が一日の終わりに幕を引くように、赤から紫へとグラデーションに空染め上げている。  日が落ちるのが遅くなってきたせいで錯覚しがちだが、気付けば完全下校まであと一時間ほどしかない。  ぼんやりと空のグラデーションを眺めながら歩いていくとドアの前で先輩が足を止めた。  立ち止まったドアの上には“コンピュータ室”というプレートが掲げられていて、ここが目的地だと知る。  先に立ち止まった先輩を見ると、映画研究部を訪ねた時より少し硬い表情でドアを見据えていて「この教室には何かがある」と考えているのだろうと嫌でも察してしまう。  そんな僕の心情まで理解したかのように苦笑しながら「行こっか」と呟いた先輩の手が、僕の頬をそっと撫でてからドアの中程をノックした。  ――トントンッ。 「…居ない、ですか?」 「ん~…微かに物音がしてるから居るとは思うんだけどねぇ~」  言われて耳をすませば微かに機械音が聞こえる。  何か手が離せないような作業でもしているのだろうか。  トントンッ。  トントンッ。  トン…  ―――――ガラッ。 「――何だ?」  もしかして席を外しているのだろうかと思い始めた三度目のノックの途中、先輩のノックを遮るように渋々とドアが開かれた。

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