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名探偵ぽややんの事件簿~依頼人Eの悲劇・第十章~
6月15日 17:41
「生徒会室まで、ご同行願えますか?」
ドラマの刑事役の様な台詞を口にした先輩に逆らう者はなく、リーダー格は念の為連れ添ったポチ先輩によって生徒会室へと連行された。
ストーカー先輩を含めた部員達は部室で事情聴取されることとなり、ポチ先輩が吉川先輩を伴って戻ってくるのを待ちながら、きちんと証拠品も回収してきた。
彼らの聴取は吉川先輩が行うらしい。
一通りの証拠品を押収し終わった生徒会室には、水嶋会長、一瀬先輩と僕、依頼人Eこと凛先輩、容疑団体代表のリーダー格、と事件関係者が揃っていた。
「さて、一瀬副会長。 報告をお願いできますか?」
いつものパソコンデスクに向かい、カチャリと黒縁眼鏡を押し上げた水嶋会長は、どうやらパソコンに記録しながら話を聞くつもりらしい。
わざわざ水嶋会長の近くに取調室よろしくパイプ椅子を引っ張り出し、座らされていたリーダー格がビクリと竦み上がった。
「そうだな~…」
まずは事件のおさらいからと、今日も定位置のソファーに座って話し始めた一瀬先輩。
その対面に座った凛先輩は、部活中に抜けてきたようで袴姿のまま成り行きを窺っている。
今回、生徒会が携わった事件は全部で3つ。
盗まれたわけではない盗難、なんちゃら風味事件
校内での尾行及び隠し撮り、ストーカー盗撮事件
疑惑のある部活による使途不明金、部費横領事件
同時に発生したこれらの事件を解決すべく、生徒会役員で事件を分担して捜査に当たった。
それが2日前のこと。
「すまん。 そんなに忙しいとは知らず、余計な世話をかけたな…」
「いえ、心配には及びません。 それが生徒会役員の任務でもありますので」
「そうそう~。 それにこの事件、全部繋がってたんだよね~」
――繋がってた?
「――いっちー、それは聞いていませんが?」
「確信したの、さっきだからねぇ~」
「…続けて下さい」
顬を抑え先を促した水嶋会長に「はいは~い」と請け負った一瀬先輩がソファーに深く腰掛け、長い足を玩ぶように組み替えた。
いつもの名探偵得意の台詞がやってくる。
「ヒントは2つ。 動機と被害者、かな~」
今回のヒントも動機?
確か、なんちゃら風味事件の初期捜査の頃にもヒントとして出ていたような…。
「“この件が盗難であると前提した場合の動機は、営利目的か悪戯あるいは嫌がらせ”、時期的に考えて嫌がらせは考え難く、“動機を営利目的とするならば、入れ替えている段階で単純な営利目的ではなくなる”…?」
先輩の台詞を思い出しながら考えをまとめていると、話が止まっているのに気付いて顔を上げる。
「ゆず、覚えてたの~?」
「えっ? あ、はい。 覚えてました、けど…」
「偉い、えら~い。 さすが助手さんだね~」
「いっちー、巻でお願いします」
いい子いい子と、僕の頭をわしゃわしゃと撫でていた先輩に水嶋会長が進行を促す。
「あっきーのせっかちさん。 つまりね~、営利目的の“営利”がなんなのかってことなんだよね~」
“営利”とは単純に言い換えれば、利益。
犯人にとってのメリットは何か、ということ。
「ゆずが言った通り、入れ替えてるからには“物”を手に入れること自体がメリットになってないのは明白でしょ~」
“物”自体に価値があるならば、交換などせずに購入すればいいだけ。
“盗難”そのものに“スリル”としてのメリットを感じていたのなら、入れ替え自体が必要のないことになる。
「では、犯人にとってのメリットとは何だ?」
「凛ちゃんは鈍感さんだな~」
「鈍、感…だろうか? すまんな、こういったことには疎いんだ」
「ふふっ、凛ちゃんらしいね~」
“物”でも“スリル”でもないメリット。
その答えは、“付加価値”。
“物”その物には価値がなくても、そこにある条件が加わることによって価値が変わることがある。
例えば、ホームランボール、記念硬貨、サイン本…。
同じ“物”はいくつも存在するのに、それだけが“特別”になる。 それが、“付加価値”。
組んだ足の上に更に片肘をつき、頬杖をついた名探偵ポーズで淡々と語られているのは恐らく真実で、その証拠にリーダー格の彼がどんどん俯いていく。
「簡単に言えば、“好きな子の物が欲しくなっちゃう症候群”を拗らせちゃった、ってことなんだよね~」
「先輩、まとめが雑です…」
「いっちー、巻き過ぎです」
「一瀬すまん、僕にも分かるように説明してくれ」
ざっくりとまとめた名探偵に、方々からツッコミが入る。
「あれ~? 上手くまとめたつもりだったのにな~」
「仕方ないな~」と説明し直した名探偵によると、なんちゃら風味事件の動機は、“被害者”の使用済みもしくは愛用している品物を手に入れることだと言う。
どこにでもある品物に付いた付加価値は“被害者が使用した”という事実。
では何故“被害者”たちは狙われたのか。
「それがヒントの2つ目だと言っていたな。 弓道部が狙われた理由もそこにあるのか?」
「正確に言うと、狙われたのは弓道部じゃなくて凛ちゃんだよ~」
「――僕?」
「そう。 ゆずとあっきーには昨日も話したけど…被害者の共通点、覚えてる~?」
頬杖を止め、姿勢を正した先輩が振り返って、視線で答えを促す。
「…容姿が優れている方、ですね」
「そう。 つまりね~、今回の事件の全ての理由はそれなんだよね~」
最初にあったのはストーカー盗撮事件。
取材に託けて、可愛い、美人、格好良い、と言われてる、所謂アイドル的な人物の写真を撮り始めた新聞部。
きっかけまでは分からないけれど、盗撮に没頭していたのは間違いないない。 新聞部にあった大量の写真が全てを物語っていたし、その頃から校内新聞の質が明らかに下落していたのは周知の事実。
ところが、アイドルの追っかけよろしく盗撮していた新聞部が写真だけでは飽き足らず、“被害者の私物”にまで手を出した。
しかし彼らの心理はあくまでも“アイドル”の追っかけ。 崇拝すべく存在に損失を与えることを良しとしなかったのか、行われたのが入れ替え盗難――なんちゃら風味事件となった。
とは言え、安価な品物ばかりでも一介の高校生にそれだけの品物を揃える余裕があるはずもない。
「その結果が部費横領事件、かな~。 違う~?」
問われたのはリーダー格の彼で、自業自得とは言え見てきたかのように説明した名探偵の推理に驚愕の表情で青ざめている。
「……どうやら間違いなさそうですね」
なんちゃら風味事件の動機
ストーカー盗撮事件の真相
部費横領事件の使途不明金の行方
これで全ての事件が繋がった――。
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