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第2話
恋人である士郎に任せた撮影もひと段落し、共に入った風呂から上がると、不意に克己から渡された小包の存在が思い出された。
包装紙を破り、箱を開けてみれば、色とりどりのメタリックな銀紙に包まれたキューブ状のチョコが、綺麗に4つ並んでいた。
ソファに腰掛け、試しにその内の一つを口にしてみたが、中から溢れた液体状のアルコールが香るくらいで、これといって不審な点は見当たらない。
「……甘ェ」
眉をひそめながら、わずかに溶けて手についたチョコを舐め取った。
「どうした?」
「……克己のヤツに押しつけられた。オマエも食うか?」
「いらない。甘いものは苦手だ」
拒まれると、何としてでも口にさせたくなる。
厄介な己の性格を笑った。
「……まァ、そう言うな」
もう一粒銀紙を開き、己の口に放り込んでから立ち上がる。
口内の熱でチョコレートのコーティングが溶け、中からアルコールが溢れ出したところで、士郎の首の後ろに腕を回し、強引に引き寄せて、口づけた。
「ん……っ!?」
舌を絡め、溢れ出した液体を溶けたチョコと共に流し込んでやる。
強く抵抗されたが、許さなかった。
「ぁ……っ」
歯列をなぞり、舌先を吸い、性感を煽ると、やがては諦めたようにコクリと喉が鳴った。
互いの吐息から、ほのかなアルコールが香る。
最後に薄く形のよい唇を味わい、舐めて綺麗にしてやると、ようやく両の腕の力を抜いた。
わずかに距離を取り、ゆっくりと反応を堪能しようとした瞬間、ようやく士郎の様子がおかしいことに気がついた。
煽られ、昂っただけにしては、顔が紅過ぎた。
目は潤み、視線もうまく定まっていない。
自分の身体にはまるで異変がないのを確認して、ため息をつく。
「……オマエ、酔ってンな?」
「……? 酔って……ない……」
言いながら、こちらの肩にコツンと額を預け、目を閉じてしまう。
「……おい」
「……ん…?」
肩にもたれたまま、 ゆっくり目蓋だけが持ち上がる。
「……っ」
じっと潤んだ目で見つめてくる、その甘く霧がかった視線の凶悪さたるや、まるでセックスの最中に正気を失った時のようで。
理性が音を立てて崩れていく。
「龍……?」
「……っ」
こんな姿はとても他人には見せられなかった。
「……オマエ、オレがいねェ時に飲むなよ? ……いいか、ぜってェ飲むな」
「……飲んで…ない……」
うまく呂律が回らないのだろう、いつになく舌ったらずで甘えかかるような物言いが、愛らしいやら、腹立たしいやら……。
「……ったく、どンだけ弱ェんだか」
毒づきながら、緩んだ唇の狭間からのぞいた紅い舌に噛みついた。
「んぁ……、ん….」
いつになく素直に、甘く喉を鳴らす。
うっとりと味わうように吸いつかれて、たまらずソファに組み敷いた。
「……名前、呼べよ」
「龍……」
「……もっと」
「……龍……?」
はぁ……、と吐息して、甘く笑う。
「……ったく、オマエには参る。……油断して他のヤツにこンなツラ見せたりしたら、お仕置きくらいじゃ済まねェからな?」
シャツをはだけさせ、心臓のある側の胸の頂を思うままに吸い上げた。
「ぁ…やぁ……っ」
舌でゆっくりと舐め転がすと、うねるように大きく腰が揺れる。
普段はイキそうなほど感じていても、滅多に吐息以上の声を上げない士郎だが、わずかな刺激だけで甘く啼いて乱れる様がたまらなかった。
「……なァ、どうして欲しい?」
「あ……」
「……言えよ」
低く、濡れた声でささやけば、
「もう、このまま……」
すべてを投げ打つような揺れる瞳に魅せられ、絡め取られていく。
「このまま、ずっと……」
最後の言葉は、甘く切ない吐息に溶けた。
「……離れたくない」
滅多にさらされることのない本音に掻き乱されて、だったらこのまま共に来いと、危うく叫びそうになった。
「……っ、さっさと目ェ覚ましやがれ……っ。じゃなきゃ本気でさらっちまうぞ……?」
いったいどれだけ我慢してると思ってる?
……あまり煽るな。
どこまで深く抱いたって、満たされた端から乾くのに。
愛しくて……愛し過ぎて、胸が痛んだ。
「泣くな……」
乾いた目元を拭われて、笑った。
「……バカが。泣いてンのはオマエだろ?」
濡れた目元に、舌をはわせた。
今夜はいっそこのまま切なさに酔って、アルコールに浮かされ理性の飛んだ身体に、溺れてしまおうか?
酔いの醒めた士郎に今夜のやり取りを話してやったら、いったいどんな反応をするだろう?
きっと二度と酒は飲まないと、屈辱に震えるに違いない。
それもまた楽しいだろうと喉の奥で笑いながら、一月ぶりに触れる愛しい恋人の溶けた身体を抱きしめた。
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