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第5話 出会いの季節(5)
次の日の放課後。美化委員会の説明会の行われる教室に僕と吉野の2人は向かっていた。ちょっと速めについたのか教室にはまだ誰もいなかった。僕は後ろの方に座るとすぐに本を開いた。そして当然のように吉野は隣に座ってきた。あぁ、またこいつと二人きりかぁ・・・昨日は何とか流すことができたが、流石に今日は暴言を抑えることができそうにない。
「・・・染井ってさ」
ほら来た。もういい加減にしてくれ。ほっといてくれ。なんなんだこいつは昨日から。なんで僕なんかに関わってくるんだ。ずっと無視しているのに話しかけてくるなんて正気じゃない。
もういっそこいつに思いっきり暴言を吐いて
「何にそんな怯えてんの?」
・・・・・・・
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。本のページをめくる音、部活の喧騒、風が木の葉を鳴らす音。今まで意識せずに聞いていた音すべてが止み、まるで外界から遮断されたように不自然なほどの静寂が教室を包んでいる。しかし、その静寂の中で自分の鼓動だけがだんだんと高く、強くなっていくのをはっきりと感じることができた。それと同時に重く鈍い痛みがじわじわと胸を締め付け、満たしていく。そしてついに容量を超えた痛みがまるで毒のように全身にゆっくりと満ちていくのを感じた。
息苦しい。息を吸いたいのにうまく空気を吸うことができない。体の感覚もまるで吹雪の中に裸でいるようにやけに遠く感じる。
吉野。あいつは今どんな顔しているのだろう。いつも通り笑顔でいるのか、それとも無視し続けている僕に対して軽蔑した視線を送っているのだろうか、はたまたもう僕なんて見ておらずどこか別の方を向いているのだろうか。僕は見開いた眼を恐る恐る隣の吉野へと向けた。すると吉野は笑顔でも軽蔑するでもなく、ただまっすぐ僕のことを見つめいていた。僕はそのまっすぐな瞳からなぜか目を離すことができずに、そのまま固まったように吉野を見つめ返していた。
永遠にも感じられる刹那の時間。僕たちはただ無言で見つめあったまま動けずにいた。
不意に吉野の口が開き何かを言いかけたその時、ガラと扉が開いた。
「おお、お前ら速いなぁ。ちょうどいいちょっと手伝ってくれー」
「先生!?は、はい!!何すればいいっすか」
な・・・何だったんだ。今の時間は・・・。胸が苦しい、まだ息がうわずっている。初めて経験する感覚だった。まるで心臓を鷲掴みにされたような、自分の領域に土足で踏み込まれたような、そんな感覚だった。
その後、次々と美化委員が集まり、説明会が行われたが、僕はというと先ほどのことが頭から離れず、まったく集中できずにいた。よく考えればすごく失礼なことを言われたような気がしてきた。怯えてる?僕が?何に?僕もなんであの時、言い返せなかったんだ。ああもう!なんだか時間がたつにつれてどんどんイライラしてきた。吉野にはどうも無視するだけでは足りないみたいだ。
説明会が終了すると、「また明日」とだけ言い残して足早に去っていった吉野を追いかけ、僕は下駄箱へと向かった。
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