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第11話 芽吹く季節(1)

 6月。先日梅雨入りしたという発表を受け、憂鬱な気持ちになったところにさらに追い打ちをかける事態に陥っていた。  朝起きると、体に鉛でも入れられたかと思うほど重く、頭は万力で頭蓋を押しつぶされているように痛かった。もしやと思い体温を測ってみると38.8度という結果だった。    平熱を知らないのでスマホで調べてみるとどうやら38度を超えると一般的に風邪をひいているということらしい。  思えば「風邪」というものを引いたことがない僕は、その事実に僕はショックを受けた。    とりあえず、学校に休む旨を伝えた。担任は「大丈夫かー」といつも通りのゆったりとした、それでいていつもより心配をしている風な声を出し、心配だから今日放課後に様子を見に家に行くといわれた。  教師も仕事とはいえ生徒一人ひとり心配するように装わないといけないのは大変だな。    そんなことを考えつつ、僕は重い体を引きずってベッドへと入り、風邪になった原因について考えた。  雨に濡れたとか風邪の人に近づいたとか直接的な原因は考えられない。昨日も一昨日もいつも通りの日常を送っていた。  つまるところ僕の中で「日常」が変化したため風邪を引いてしまったのではないだろうか。  今までの「日常」になかったもの。  心当たりがある。  吉野と添木、あいつらが周りに来てから僕の「日常」は乱されてばかりだ。    ああ頭が痛い。身体が痛い。寒い、汗が止まらない。  風邪ってこんなにつらいものなのか。  ひょっとしてこれは重病で、僕は死ぬんじゃないか。  考えすぎか。寝たらきっとよくなるはずだ。  そうして僕は布団を深くかぶった。  夢を見た。  僕は城の城主。四方を囲む城壁の堅牢さにただ満足する。  城の中には僕以外誰もいない。    誰もこの城には入ることができない。  だってつり橋などないのだから。  この城の中なら何をしても許される。だって僕しかいないのだから。  孤独な城主。それが僕だ。  そうして僕はいつも通り、小高い丘から城下の町々の祭りを傍観する。  これでいい。僕は傍観者でいたい。関わりたくない。関わってはいけない。  これでいい。  僕は一人で終わりに向かいたい。  これでいい。  ・・・・・・でもなぜだろう。  ・・・・・・ここはとても静かだと思う。  その時、「ドンドンドン」っとドアをたたく音が城の中に響き渡った。  誰だ。この城に来る奴は誰だ。  敵か?敵が攻めてきたのか。    それなら扉を開けてはいけない。    無視をしなければ。  ドンドンドンドン  扉の音は鳴りやまない。  もう帰ってくれ。  ドンドンドンドンドンドン  どうして  ドンドンドンドンドンドンドンドン  どうしてお前は!いつも僕に付きまとうんだ!  目を開けると、薄暗い天井が見える。  変な夢を見ていた気がするが思い出せない。  ピンポーン   ドアホンが家に鳴り響く。  そういえば担任が家に来るって言ってたな。  相変わらず、というか寝る前よりも頭が痛い。  頭を持ち上げるだけでも精一杯だ。  ピンポーン  ベットから出て立ち上がろうとすると、自分の身体の重さに膝をついてしまった。  汗でパジャマが重い  ピンポーン  うるさい!今扉を開けるから待て!  ようやく扉の前に着き、いつもより重いカギを開け、扉に手をかけると扉は独りでに開いた。思いがけないことに気を取られ、扉の外に身体が放り出される。    そんな僕を受け止めたのは担任ではなく、吉野だった。

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