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金は何も生まない③
◆ ◆ ◆
「あんた、床で寝ろよ。狭いんだから」
「私は怪我人だよ?優しくしてくれないか」
「う、るさいな、勝手にしろよ」
寝る場所の取り合いをして、結局、一緒に寝て、おじさんが起きる前に俺は家を出た。あまり眠れなかったことは言うまでもないだろう。
今日の授業は午前だけだ。バイトもない。いや、ヤコーマートでのバイトは辞めることにした。家を出て、すぐに電話をしたのだ。あんなことがあったから、店長は俺が辞めることに何も言わなかった。
授業中、ずっとおじさんのことを考えていた。不思議だった。あいつのこと……、恭二(きょうじ)のことを思い出さなくなっていた。今は名前を出すことも怖くない。そう思っていたのに……
「ただいま」
部屋に入るとタバコの匂いがした。日向が吸っていたタバコの匂いだ。もしかして、帰ってきてくれたのか?自然と頬が緩む。
「恭二?」
部屋の扉を開けて、ベランダに駆け寄った。でも、そこに居たのは、おじさんだった。俺の顔を見てニッコリと笑った。でも、俺は反対に表情を沈めた。
「あんた、タバコ吸うんだ?でも、その匂いは好きじゃない。ここに居るなら、それ辞めて」
タバコの匂いなんて昨日はしなかったじゃないか、お金だって無さそうだったし……、いや、消毒液の匂いで分からなかっただけだ、お金だって、本当は持っていたのかもしれない。
「恭二って、誰かな?」
「は?」
「さっき、言っていたよね?」
「あんたには関係ない」
ああ、イライラする。あんたには関係ないじゃないか。あんたはあいつとは違う。
「君が嬉しそうな顔してたから、もしかして、前の恋人とか?」
「うるさいな!あんたには関係ないって言ってるだろ!!」
こんなにも人を殴りたいと思ったことは一度もない。俺はおじさんの胸倉を勢い良く掴んだ。ここは五階、またおじさんは誰かに殺されることを望んでいるのだろうか。なんで、何も言わないんだよ。
「死にたいなら、勝手に死────」
「キスして良いかな」
「何言……っ、ん」
片腕でいとも簡単に引き寄せられて、気付けば俺はおじさんに唇を奪われていた。重なる唇から、あのタバコの味がした。泣きそうになる。いや、恭二のことを思い出して、涙が止まらなくなった。
「君が泣きそうな顔してたから……って、泣かしてしまったね」
不器用な左手が俺の涙を拭う。あんたが同じタバコを吸っていなければ、俺は恭二のことを忘れられたのに。あんたのことばっかり考えてたのに。
「私は君が好きだよ。君は私を叱ってくれる。私は君のそばに居たい」
俺の名前さえ知らないくせに、会って一日しか経ってないくせに、俺のこと何も知らないくせに。
「……あんたの歳になったら、誰にでもそういうこと言うんだろ?」
経験がどうとか言って、余裕を誰彼構わず見せつけるんだろう?あんたなんて、容姿も整ってて、性格も良さそうで、きっと誰からも好かれる。
「私は特殊だよ。────今すぐ君を抱きたい」
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