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【問1】(3)

焦点の合わない距離で小鳥遊の睫毛が震えている。 壁ドンって本当に逃げ場、ないんだな、と頭のどこかで思った。 唇を小鳥遊のそれで塞がれている。 俺より少し低い位置から、ちょっと背伸びをしているのだろう、押し付けるようにされて後頭部が壁に当たった。痛い。 あ、キスされてしまった、と思ったところまでは、まだ良かった。 この歳にもなればキスのひとつやふたつ、大した問題じゃない。犬に舐められたようなもんだ。 だが、開いた唇の間から舌が侵入してきた瞬間、さすがに焦りが生まれた。 「んぅ……っ」 ぞわりと全身に鳥肌が立つ。 慌てて押し退けようにも、いつの間にか右手の手首を掴まれていて、片手ではろくな抵抗にならない。 技巧も何もない、ただこっちの口の中を無闇に舌で探るだけの、見様見真似のディープキス。 そこまでやるか、という動揺は、しかしすぐに信じがたい現実によってあっさり凌駕された。 「ッむ、ん、っ! ……っおい、どこさわって……!」 小鳥遊の片方の手のひらが、はっきりと意志を持った動きで、スラックス越しに俺の下半身に触れた。 「だって、やっと目が合ったんで、嬉しくて」 「ッ、はあっ?」 「せんせい、さっきから全然、俺のほう見てくれなかったから」 ぐ、と中心を露骨に掴んだ手が、無遠慮に蠢く。 未だ成長途中であろう小鳥遊の手は俺よりも小さい。まさぐる手つきは性急で、スラックスにいかがわしい皺がつくんじゃないかと妙な心配をした。 「本当は、俺のも、さわってもらいたいけど。今日は我慢します。せんせいのちんこさわるほうが楽しそうだし」 「なっ……、だ、誰か来たらどうすんだ、バカ!」 「誰も来ないとこならいいの?」 「あ、よせって、小鳥遊! やめ……っ」 無理矢理身体を触られて、快楽に流されて抵抗できない……なんていうのは、エロ漫画の中だけの話だ。 まさか身を以て実感することになるとは思わなかった。 無理矢理が嫌だとか、気持ちいいとか気持ち悪いとか、そういう問題ですらない。 俺の頭の中には焦りしかなかった。 こんな状況、誰かに見られたら終わりだ。俺の人生だけじゃない。こいつだってただじゃ済まない。 そのくらい、わからないわけではないだろうに、小鳥遊は栗色の瞳に欲情を滲ませて、より強く俺の身体を壁に押し付けていた。 自由のきく左手で精一杯もがくが、体勢が悪すぎる。覆い被さってくる小鳥遊を押し返すだけのことがどうしてもできなかった。 そうしている間に、カチャ、と金属音が耳に届く。 小鳥遊の手が俺のベルトに触れたのだ。 「せんせい……生でさわりたい。さわっていい? ですか?」

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