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【問3】(2)

ゆるゆる歩く廊下はひやりと肌寒い。 いつの間にかすっかり冬らしい空気になっている。ついこのあいだまで、中庭のイチョウが黄色く輝いていたのに。 俺は自分の教室へと向かっていた。 特に用はない。いや、帰りのホームルームの後、教卓に忘れ物をした気がするから。何をって、何かをだ。たぶん何か忘れてきたはず。 いや、本当のところは。 別に、用はなかったけど。 その手前の教室で、窓際の席に一人で座る後ろ姿を見つけたことなんて、いや、だから。別に。 偶然だ。探したわけじゃねえって。 俺は開きっぱなしの戸口から、そのまま教室に足を踏み入れる。 先日俺の壁ドン童貞が散らされ、もしかしたら小鳥遊のファーストキスが遂げられ、アラサー男が生徒にちんこを触られ、危うく犯罪が成立しかけた現場だ。薄緑色のカーテンは、今日は静か。 放課後に一人で教室に残っている意味がわからなかったが、手元を盗み見れば理由がわかった。学級日誌だ。 どうやら日直だったらしい。 これはマジの偶然。 やっぱり小鳥遊には何か、そういう特殊能力があるんだろうか。ぼんやり思いながら、そっとひとつ後ろの席の椅子を引く。 小鳥遊の髪はふわふわだ。見れば見るほど犬っぽい。やわらかい栗色をしていて、でもきっと地毛なんだろう。染めているなら林先生が黙っていない。 あ、説教。 先刻の職員室でのやりとりが思い出されると同時に、そのワードがぽんと浮かんだ。 そうだ、説教だ。俺はこいつに説教するべき事があるんだ。 「……せんせい」 ペンを走らせる手を止めて、小鳥遊が振り向きもせず呟いた。 小鳥遊の後ろの席は誰だったっけな、と考えていた俺の肩が跳ねる。 「何で俺だってわかったんだよ」 「え、匂いで……」 「嘘……」 俺そんな独特のニオイすんの? 加齢臭……? コンクリートブロックを頭にゆっくり乗せられたような衝撃に一瞬くらりとするが、小鳥遊は「せんせいの匂いくらいわかります」と当たり前のように続けた。 そういえばこいつ、結構、大丈夫じゃないんだった。

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