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空色2(よその子)
部屋にはカップとスプーンが立てるカチャカチャという音だけが響いている。
趣向品である珈琲なんて飲むのはいつぶりだろうか。
そんな事を考えながら、掌で目許を擦ると目尻が熱く熱を持っている事が分かった。
「擦ったら駄目ですよ!」
「え…あぁ。はい」
目許を少し擦った所で、アルガーさんがぼくの横に飛んできて腕をとられる。
相手の突然の行動になんとも言えない返事を返してしまった。
「赤くなってますね」
「お恥ずかしい所をお見せし…」
瞼をさらりと撫でられたので、やんわりと腕から逃れる様に距離をおいた。
この人はなんで冴えないぼくにこれ程親身になってくれるのだろうか。
トナカイの角や毛皮などを売に山の麓へ降りた時に、生活用品を買うのに入った商店で偶然会ってからぼくが麓へ降りた時にたまに顔を会わせる程度の知り合いだった。
それが、初めて置き去りにされていたレーヴィを抱えて急いで行った麓で何を買えば良いのか右も左も分からないぼくへアドバイスをくれたのもこの人だった。
何処かへ電話をして、すぐに要るものをジャケットの胸ポケットに入っていた手帳に書いてくれて、リストが書かれたページを破って渡してくれたのだ。
子供達の養子の手続きや里親探しなんかも全てこの人の尽力の賜物だったりする。
だから、ぼくはこの人に感謝しても仕切れないのだ。
「熱も持っているし、明日腫れてしまうかも」
「いえ。お気になさら…」
「折角なので風呂でケアしましょう!」
私の目許を心配している様子のアルガーさんは名案とばかりに顔を明るくした。
アルガーさんの発言に疑問符を浮かべているうちにあれよあれよとバスルームに連れてこられてしまった。
「あの…お恥ずかしながら風呂って初めてなんですけど、一人で入るものと聞いているのですが?」
「サウナも大勢で入るものでしょ?それにバスルームで体調が悪くなった時の為に複数で入る方が安全じゃないですか?」
「あぁ。それは確かに」
アルガーさんの言葉に納得したぼくは服を脱ぎ、サウナに入るときのスタイルの様に腰にタオルを巻いた。
我が家は近所と言える様な家もないし、山中の小川の横に建てたサウナ小屋しかないがサウナは家族で入ることが多いと村の人たちも言っていたし、風呂もきっとそうなのだろう。
「うわぁ」
「別荘なのでそこまで広くないですけど、二人位なら平気ですよ」
浴室の中はタイル張りになっていて、大きな浴槽があった。
浴槽はボコボコと泡が沢山出ているし、アルガーさんが言うほど狭いとも感じなかった。
むしろぼくが建てたサウナ室よりも全然広くて、キョロキョロと周りを観察してしまっている。
「申し訳ないですが、タオルを外して入る物なのでタオルを外して貰ってもいいですか?」
「あ、そうなんですね!スミマセン」
浴槽のそばまで来ると、元々手に持っていたバスタオルを手摺に引っ掻けてアルガーさんが入っていったのに続こうとしたところで声をかけられた。
タオルは水に浸けてはいけないらしい。
ぼくも腰に巻いていたタオルを外すと、手摺にかけて恐る恐る足をつける。
「おぉ!」
「温かいでしょ?」
思ったより少し熱かったが、勇気を出して入ってみるとお湯に体を包み込まれている様で何とも心地いい。
アルガーさんがくすりと笑った顔にぼくもなんだか安心してしまった。
お湯は乳白色でお互いの体は見えないので入るときだけ気をつければなんら恥ずかしいとも思わなかった。
家にもバスタブを入れようかなと考えてみるも、水を膨大に使いそうだしそもそも山の上の家に汲み上げる装置も設置するのは大変かもしれない。
冬場は飲み水以外の水の確保にも追われているので我が家には無理だな。
「ユハニさん髪の毛濡れちゃいますよ?それにしてもいつも思ってましたけど綺麗な色の髪ですね」
「ありがとうございます」
「思ったより痛んでますね…良かったらヘアパックとかしてみますか?」
「え?何ですかそれ?」
「いいからいいから。あ、目元にタオル乗せた方がいいですね」
気持ちよさにとろけていると、アルガーさんが髪を触ってきたが特に気にすることもなくそのままにしてた。
しかし、考え事をしていたのもあって適当に返事をしていたら気が付いた頃には目許に暖かいタオルが乗っている。
これもとっても気持ちがいい。
「頭をこっちに倒してもらっていいですか?」
「ふぁ!あ、はい!」
「寝てても大丈夫ですよ?」
髪が濡れる感覚の後に頭に冷たいものが乗った。
縮み上がったぼくをなだめる様な穏やかな声が聞こえてくる。
「色々疲れてるんですね…首とか張ってますよ?」
「そうなんですか?」
「肩も、あぁ…腕もですね」
「あ、あの!どこ触って…」
「これくらい友達同士のふれあいですって!もう一回熱いタオル乗せましょうか!」
「そうなんですか?ならいいのかな?」
髪の毛に何かを塗った後は、首筋に手が降りてきた。
ぐっ、ぐっと首や肩を押されると少し痛いが気持ちがいい。
腕を触られた時も何も思わなかったが、胸の当たりや腹を触っている様な感覚にぼくは慌てて倒していた体を起こす。
その時目元のタオルが落ちてお湯に落ちそうになって慌てたが、アルガーさんは何でも無いように笑っていた。
特に不審な事も無い様なので言われるがまま、目の前で絞って貰ったタオルをもう一度目許に乗せてもらう。
「洗い流しますね!ここの縁にうつ伏せに寝てもらってもいいですか?」
「凄く上手ですね…アルガーさんって、こういったお仕事なんですか?」
「いえいえ。色々とお世話をしてあげるのが好きな性分でしてね」
「へぇ…それは素敵ですね」
「ええ。皆泣くほど喜んでくれますよ。あ、お世話ついでに香油でマッサージしてもいいですか?」
「えー。お言葉に甘えてもいいんですか?」
「どうぞどうぞ。友達じゃないですか…」
頭皮に指が置かれ何かやらマッサージしてもらっているのも夢心地で、すっかりとろけてしまっているぼくにアルガーさんはとっても優しかった。
頭の物を洗い流す為に浴槽の縁に寝かせられ、頭を洗い流すと体にいい香りの何かが塗られる。
浴槽の縁には休憩する為のスペースなのか、横になれる場所がついていて画期的だなぁと感心してしまう。
「いい筋肉ついてますね」
「アルガーさんの見てたらぼくなんて微妙ですよ」
「そんなこと無いです。それにしても腰細いですねぇ。でも、足の筋肉ちゃんとついてて格好いいです」
肩甲骨辺りを滑る手が、どんどん下に降りていく。
笑いながら腰を掴まれたが、ぼくってそんなに細身の方じゃないのになぁと思いつつ今度は太股を撫でられる。
同世代の男性にこうやって褒められると気恥ずかしいけど、何だか嬉しかった。
内腿に手がするりと入っていたので、流石に恥ずかしくて力を入れると直ぐに手は引いていく。
「あぁ。ちょっとのぼせちゃったかな?」
「え?」
「顔が赤いよ?」
マッサージして貰ってるのに、手が際どいところを触って来るのを少し不審に思っていたらアルガーさんに抱き上げられてベッドルームに連れてこられた。
確かに頭がぐらぐらする気がする。
自分で頬を触ってみると確かに熱い。
「ちょっと長湯でしたかね?」
「そんなに入ったつもりは無かったんですけど、今日は本当にお恥ずかしい姿ばかり見られてしまって情けないです」
アルガーさんが心配そうに覗きこんできてくれているのに、ぼくは本当に情けない気持ちでいっぱいだった。
アルガーさんはバスローブをゆったり着ているのに、ぼくは下半身をタオルで隠しただけの情けない姿だ。
「冷たいタオルでも乗せましょう」
「スミマセン」
部屋から出ていったアルガーさんは、すぐに何かを手に部屋に戻ってきた。
じゃぶじゃぶと水音の後に冷たいタオルが額と目元を覆うように顔に乗った。
「長湯しすぎちゃいましたね。水分補給もしておきましょう!」
「えっ!むっ」
ぼくが何かをいう前に唇に何かが触れて、すぐに咥内に生ぬるい液体が流れ込んできた。
常温の水かもしれないが、急の事だったので驚いてしまった。
それから何度か息継ぎを挟んで水を飲ませてもらったが、今度はぬるりとした物が咥内に侵入してくる。
舌を捕らえられ、舌の表面にざらざらした物を擦り付けられくちゅくちゅっと微かな水音のがし始めた時に、ぼくは我にかえった。
多分ディープキスされている。
アルガーさんを押し退けようとしたところで足の間に固いものが差し込まれ、腕も押さえつけられた。
「ちょっ!アルガーさん!!何するんですか!!」
「自分がレイプされる寸前ってどんな気分?」
「それ…は…」
首を振って顔に乗っているタオルを振り落とすと、ぼくの足の間にはアルガーさんの逞しい太股があった。
抵抗しようと腕に力を入れようとしたのに、アルガーさんに言われた言葉に怯んでしまう。
ぼくは父の指示とはいえ、何人もの女性を無理やり犯してきた。
それが自分になっただけだ。
罪深いぼくが、どうしてアルガーさんのする事を責められるだろうか。
「そんな顔しなくても、私はとっても上手だから心配いらないよ?」
ぼくの顔を覗きこんでにっこりと微笑む顔を見るとこれからぼくを犯そうとしているなんて微塵も感じられない表情をしている。
それに一瞬でも気を抜いてしまったのを見逃さなかったアルガーさんにキスをされた。
狭い咥内に相手の舌を入れられると、すぐに舌を捕らえられる。
挨拶程度のバードキスくらいしかしたことが無かったぼくにとって、ディープキスなんてどうしていいか分からない。
気持ち悪さも感じず、頭の中は心地いいという思いが支配し始めた。
「男にキスされてるのに不思議でしょ?キスすると、幸せな気持ちになれる物質が脳ミソにドバドバ出るんですよ?」
「ふぇ?」
「これからキスしながら沢山気持ちよくしてあげますからね」
腕の拘束もいつの間にか無くなっていたのに、ぼくはぼんやりとアルガーさんを見上げていた。
アルガーさんの言っていることが理解できなくてつい首を傾げる。
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