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炎狼の快楽 3

 部屋に戻ると、レイスは寝台の上で膝を抱えて待っていた。扉を開けたとたんびくりと震え、それがヴァルディースだと気付いてほっとしたようにわずかに表情を緩める。  まだ先日の事件から日が浅いからだろう。少しずつユイスやメイスとは顔を合わせることができるようになったものの、レイスは未だ部屋の外に出ていくことが、できていない。 「一人にさせて悪かったな」  ゆるく首を振るレイスの頬を撫で、口づけて抱きしめる。ことりと肩に頭が乗せられて、ぎゅっときつく抱きつき返された。  手足が冷たい。震えているわけではないし、表情もこわばっているわけでもないが、まだ一人にするのは少し早かったかもしれない。  冷えたレイスの手を温めるように撫で、包み込んだ。 「ちょっとフェイシスと話してただけだ。お前を置いてどこかに行ったりはしない」 「っ、勝手に、読むな……」  心を読んだわけではないのだが、恥ずかし気に視線を逸らすレイスが、可愛らしかった。思わずそのとがらせた唇をついばんでしまう。  それが不意打ちだったのか、かっと頰を染めてレイスはヴァルディースの胸に埋もれるように顔を押し付けてしまった。今度は頰をつついてみても、顔を上げようとはしない。  仕方なくゆっくりと頭を撫で、長い金髪を梳く。サラサラと流れるその感触が、ヴァルディースは好きだ。  しかしその感触を楽しんでいるのもいいのだが、今日は試してみたいことがあるのだ。まずはレイスがどこで快楽を感じるか、それをレイスの心の内に見つけて繋いでみないといけない。 「レイ、顔を上げてくれ」  レイスはキスが好きだ。甘くついばんでやるとくすぐったそうに照れるし、深く舌を絡めると気持ちよさそうに蕩けたようになる。そこで首筋や耳を嬲ってやればあっという間に身体を熱くして息を上げていく。たぶんああいうのを快楽というのだろうと、ヴァルディースは思っているのだが、今日のレイスも頑なだ。  昨日の今日であるから仕方ないといえばそうなのかもしれない。  とりあえず顔を上げないレイスの耳を指でくすぐってみる。それから耳の裏、首筋。少しずつ触れる指先に魔力も乗せてやる。ぱっと触れるところから朱が広がった。しかしレイスはむず痒そうに身悶えはしても、首をすくめただけで顔は上げてくれない。まだ、ダメらしい。  このまま無理矢理煽っても昨日の二の舞か、最悪拗ねてしまうかもしれない。  まだ昼日中で、レイスの魔力消費もさほどでもない。どうしても今じゃなければいけないというわけでもないし、とりあえず夜まで待とうと手を止めたヴァルディースだったのだが、その途端、寂しげな表情でレイスが顔を上げた。 「やんねぇの?」  ぎゅっと引き止めるようにヴァルディースの袖を引くレイスに見上げられ、ヴァルディースは困惑した。さっきまではあまり乗り気ではなかったように思えたのに、どうしたのだろう。 「やりたいのか?」 「お前が必要ないっていうなら、別に……」  訊ねてみても、レイスは首を振る。  どうしたらいいのだろうとレイスの心も困惑していた。  もっと一緒にいたいという願望は聞こえてくる。それと同時に寂しさのような怖れのようなものがある。  お互いがお互いにどうしたらいいのかわからない。  戸惑っている間に、レイスは背を向けて毛布を被ってしまった。ヴァルディースはまたやり方を間違えたことを悟った。 「レイ。すまん。俺はお前たちとは違う。だからお前が望むようなものは与えてやれないかもしれない」  ベッドの縁に腰かけ、頭を撫でる。身をすくめるレイスが悔しそうに肩を震わせた。  人間の恋人同士であったならなんのことはないのだろうに、ヴァルディース自身もどかしくてたまらない。 「少し試してみたいことがあるんだが、いいか?」  試してみたいこと、という言葉に、レイスが振り返った。 「何、するんだ?」 「お前が不安に思うようなことは何もない。ただいつものように、俺を感じてくれればそれでいい」  そうは言っても不審がるレイスに、はたしてどう説明したものだろう。 「俺がお前と感覚を共有できることはわかるだろう? それの応用だ。まあ、やっても意味はないかもしれないが、やらないよりはお前の希望に応えられる」  どうだろうかと提案すると、少し考えてレイスは身を起こし、驚いたことに自分から服を脱ぎ捨てた。 「よくわかんねぇけど、お前がやりたいって言うなら……。オレは、なんだって、いい」  少し恥じらいつつも脚を開き、ヴァルディースの前に全てさらけ出す。普段だったら正気の時に自分から絶対にそんなことをしないレイスに、正直ヴァルディースはあっけにとられてしまった。  実際自分でやっておきながら、レイスは次第に俯いて全身真っ赤になっていくし、心の中では羞恥心で激しく後悔している。今日は一体どうしたと言うのだろう。 「やるんなら、さっさとしろよ、馬鹿!」  羞恥のあまり語気が荒い。このまま何もしなかったらレイスの機嫌を損ねるのは間違いない。ヴァルディースは戸惑いながらもレイスの身体に覆い被さり、抱き寄せた。

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