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十一話め

俺が通う中学は五月に体育祭があるんだけど、今年もそろそろ準備が始まってきた。 体育の授業ではクラスリレーの練習をして、クラスから実行委員が選ばれ、放課後には入退場の練習、…当然の如く授業中に眠るやつが増えた。 俺の隣も寝ていて無防備な寝顔をこちらに向けている。 (う…翔来かわいい……) チラ見を何度も繰り返しては教師の言葉も聞かずに悶えている。俺も眠いといえば眠いけど、翔来を見て楽しんでいると眠気も飛ぶ。 実行委員を務めている翔来は他の生徒より大変な筈だ。眠ってしまうのも無理ない。今くらいは大目に見てまだ眠らせてあげよう。そして寝顔を堪能させてもらおう。 授業終了のチャイムが鳴るとまるでそれが目覚ましのように翔来の目がパチと開いた。見つめてたので、うっかり目が合いそうになって慌てて前を向く。 給食の後に翔来は実行委員会があるようで教室を出て行った。真っ赤な俺を残して。 「橋川くん…、流石にあれはずるいね…」 「見てて恥ずかしかったわ」 「あれもう絶対好きでしょ…」 ごく自然に俺の周りに来た女子が口々にそう言ってくる。というのも、翔来がなかなか行こうとしないので、腕を引っ張って何とかして教室の扉まで連れてきた時に思い切り抱きしめられた。それだけでもう胸が最高に苦しくなってしまうのに 「稜…可愛い…俺の癒し…俺の奥さん…」 と頬ずりされた。死んだ。今度こそ自分爆発して昇天したと思った。 翔来は眉毛を八の字にして、名残惜しそうに俺から離れた。そして「行ってきます」といつもの爽やか笑顔で教室を出たのだ。 「……好き、」 両手で顔を覆ってから呟くと女子が歓声を上げた。もうバレてんだ。誰にも相談できなかった分、これからは女子達と話そう…圧がすごいけど、話はちゃんと聞いてくれるっぽいしな…。 「あれはずるいよね〜」 「なんかもう期待するなって方がおかしいよ!」 「うんうん、一回告白してみたら?」 一人がそう言うとみんなから告白しろオーラが感じられる。 いやいや無理だろ…いくらああは言ってくれても、本気の恋愛なんて…。 「それに、高校行ったら、もっとモテるだろうし、…やっぱり女の子がいい、とか?…無理」 本音を零すと「そんなこと言われたら十発くらい殴れば良い」と何とも野蛮なことを言われた。しかも周りも頷いてる。女子って怖いな。 …だけど告白とか、やっぱり出来ないし、今の状況で全然嬉しいから、出しゃばったりしないよ。 「うーん、…橋川くんって、なんかさ…なんて言うのかな、」 「女子以上に女子」 「あ、そうそんな感じ、あとこの前国語で出た……つつましい?」 「わかる。引きすぎも駄目だよ、たまには押してみなって」 俺そんな弱い男に見られてんの?悲しい。 その後も女子に何度も熱弁されたけど、結局告白なんて怖いから無理と断った。 委員会を終えて「疲れた…」と言って抱きついてきた翔来の向こうに見えた女子が相変わらず「言え!」と口パクで伝えてきたけど頭を振って拒否した。

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