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十二話め
そして迎えた体育祭本番の日。
朝から翔来は忙しそうに走り回ってて、ちょっと心配になる。熱中症を避けるために夏より少し涼しいこの時期にやってるらしいけど、あんなに動き回ってたら大変だろ。委員会だけでも疲れきってたのに、翔来大丈夫かな…。
自分の席に座りながらも、いざというときにすぐ駆けつけられるように常に翔来を探している。視界に捉える度に翔来は違う生徒と話してる。翔来は学校一のモテ男だからこういう行事のときは女子からの声掛け率がグンと上がる。
(…顔、疲れてるのに気がつかないのかな)
無遠慮に翔来に話しかける女子に苛立ちを覚える。助けに行こうとしたら、クラスリレーの為三年は集合というアナウンスが入った。
(翔来も一緒に入場だし、流石にあの輪から逃げ出せるだろ)
そう思い翔来を待っていると入場前ぎりぎりに翔来が来た。だけど翔来と俺は走順が全く近くないので声をかけることも出来ない。
(辛そう、走れんのかよ…)
もう本当に疲れてて、立ってるのも大変そうだ。とにかく無理はしないで欲しいことを胸の中で願いつつ、前を向いた。
入場の合図が出されて三年が一斉に足を踏み出す。
整列が完了すると直ちに一走目の生徒がレーンに並ぶ。
俺は十三走目なので一度腰を下ろす。翔来は反対側の待機列にいる。それも一番後ろ。…そう、翔来はうちのクラスのアンカーだ。普通の生徒はグラウンド半周だけどアンカーはグラウンドを一周走りきらなくてはいけないルールがある。どうしても心配で何度も見てしまう。
そうこうしてるうちに俺の番が回ってきて、スタンバイする。
(向こうに着いたら、翔来に大丈夫か聞こう)
待機列とは別に走り終わった生徒の列があるので俺はそちらに並ばなくてはならない。だがまあ、少しくらい寄り道しても平気だよな。
女子からのバトンを受け取って走り出す。そこそこな運動神経なので無事抜かされずに次の生徒に繋ぐことができた。
息を整えながら翔来の前にしゃがむ。
「おい、大丈夫か?」
「……ちょっと辛い、」
「アンカーいけんの」
力なく笑った翔来は俺の問いかけには答えないで、その代わりに俺に耳打ちしてきた。
「え、…あ、うん…、わかった、」
「よっし、アンカー頑張ってくるぜ」
一瞬何を言われたか分からなかったけど、じわじわと脳が理解してきた。
かっこいい爽やかな笑顔を俺に向けてから翔来はあと少しの出番を待ち始める。俺は取り敢えず走り終わった列に並んだ。
…翔来、期待、させないでほしい
『俺がこのリレーも個人100メートルも一位取ったら、稜に伝えたいことあるから』
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