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十六話め
お弁当を広げると結構な量が入っていた。
(…これは、翔来と一緒に食べろってことだな)
未だに俺が翔来と仲がいいのは両親も知っていて、たまに翔来は元気なのかと聞いてくる。そんな親がこんなに入れたってことは、そういうことだな。
「翔来、これ一緒に食べよ?」
「……多いな」
「だろ?母さんの、翔来にも食べてもらいたい気持ちがすごい出てる」
翔来は笑うと「じゃあ遠慮なく、いただきます」と唐揚げを取って食べた。
(…相変わらず唐揚げ好きだなあ)
小学生の時、俺の家に翔来が何回か泊まりに来る度、母さんは唐揚げを出していた。翔来は、大好物ですってガツガツ食べていたっけ。
「なんだよ、何か面白いことでもあったか」
「え?」
思い出に浸っていたら、顔が笑ってたみたいで翔来にほっぺを抓られた。
(あ〜もう、そういう、…きゅってなるだろ!)
ふい、と顔を逸らして、俺もお弁当を食べる。
「…拗ねた?」
下から覗き込んでくる翔来は可愛くて、さらに胸きゅんしてしまった。
「拗ねてない」
「じゃ〜、痛かった?」
そう言って俺のほっぺに掌を当てて、指でなぞられた。その行動に思わず硬直してしまって、何も答えられない。翔来は翔来ですりすりしてくるだけで何も言わないし、無言の状態が続く。…ただ視線が絡んでるだけ。
こんな至近距離なかなかないし、俺はじわじわと顔がりんごになっていく。
「…しょ、き?」
喉がカスカスで辛うじて出た声が予想以上に弱々しかった。恥ずかしい。
「ん、何?」と返事をしてくれたはいいものの、それがあまりにも、かっこいい声で…、俺は言葉を返せなくて吐息しか出なかった。
「稜?」
右手で持っていた箸を置いた翔来が両手で俺のほっぺを包んできた。…つか、その声、まじでやばいから…。かっこいい、し、……う、反応しそう…。
絶対に俺の顔は赤いから見られたくなくて、下を向くと更に翔来の顔が近づいた。
驚いて一瞬目線だけ上げると予想外に近くて気絶するかと思った。そしてバッチリ目が合って逸らせなくなった。
(…あ、甘いって、…こういう、目か……)
女子達の発言が今ようやく分かった。
でも分かったところで、このドキドキが治まるわけでもなく、また無言の見つめ合いが続く。
手汗半端ないし、午前中に汗かきまくったから絶対俺臭いし、翔来かっこいいし、とにかくこんな近いの、困る…
だけど「やめて」というのも勿体無い。
「稜、さっき言ったこと、覚えてる?」
「さ、き……ぁ、うん…一番、とったら、」
「よし、覚えてるな。…絶対一位とるから、期待して待っとけ」
「……きたい…」
期待してって、俺の思う期待?それとも何を言うか楽しみにしてろってこと?
…どっちか不安だけど、うん、と頷く。
そしたら翔来の両手がすっと離れてしまった。思わず手を追うと前髪を分けられて、そこにキスされた。可愛い、と台詞付きで。
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