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二十一話め
十分くらい歩くとそこは翔来の家で、今日は誰もいないらしい。
(まじか…誰もいないのか……、まじか〜!)
ワクワクのようなザワザワと落ち着かないような、つまりよく分からない複雑な感情になる。
俺の後ろで鍵を閉めた翔来は、さっさと中に入ってしまって、慌てて追いかける。
「稜、コーラでいいよな」
「あ、え…うん、」
リビングにある冷蔵庫から大きなコーラをコップに注いでくれる。
「ありがとう…」
さっきまでの空気が感じられなくて、もしかして告白とか俺の勘違いかと急に恥ずかしくなってきた。
(そ、そりゃそうだよ、そんな都合いいことないよな)
もらったコーラを一気に飲み干して一息つく。なんか、無駄に緊張して損したな…。
「それで、話なんだけど」
凹んでいながらも、いざ話を振られて漫画みたいにドキィッ!となる。翔来は俺の手からコップを取るとテーブルにそれを置いて両手を握ってきた。翔来は俺の前に両膝立ちをして下から見つめてくる。
(可愛い…)
握られた手は軽く揉まれて、自然に指を絡められる。そして翔来のかっこいい顔が近づいた。
「稜」
「う、うん…」
超至近距離で、ちょっとでも動いたら唇がくっついちゃうんじゃないかってくらい。翔来の吐息が感じられた直後に話しが始まった。
「俺、転校してくる前の学校が凄い大好きで」
「……おう…?」
何を話されるのかとドキドキしていたら突然の思い出話。取り敢えず聞いてみようと相槌を打つ。
「引っ越す前に絶対行きたくないって、めっちゃ駄々こねて」
「…あー、想像出来る」
今は落ち着いてるけど、来たばかりの時なかなかふざけてる奴だったし、きっと騒ぎまくってたんだろうな、
「でもガキだから一人で残るなんて出来ないし、仕方なく着いてきたけど転校初日とか本当地獄だったし、…何なら朝一回泣いた」
「えっ泣いた後来たのかよ」
そんな顔してたか?と思い浮かべるも出てこない。でも小五で泣いちゃう翔来可愛い、と少し笑えてくる。
「泣いた。で、クラスの中から担任に名前呼ばれたけど、そん時ひねくれてたから無愛想にドア開けて…」
「え〜めっちゃガキじゃん」
「そりゃガキだわ。入ったら凄い視線だし、何かいざそんな視線向けられたら、全員の顔覚えてやろうって謎の奮起して」
「なんだよそれ!意味わかんねー」
あはは、と笑うと「笑い事じゃねえよ」と一瞬だけ頬を摘まれた。むっとした翔来が可愛くて、謝って頭を撫でてあげる。
てかまじあの日そんな風だったか?俺全然思い出せないんだけど…
「んで、クラス中見回して、したら一人だけこっち見てねえ奴いて」
「えっ、待って、」
「お前だけど」
「まじか!通りで全然覚えてないわけだ!」
耐えられず爆笑して翔来の肩をバンバン叩く。
は〜でも謎解決、まじで全く翔来の初日思い出せねんだもん。覚えてんの初めて話した時だし。
翔来は相変わらずの至近距離だけど小学生の頃を思い出して笑っていると、あまり気にならなくなってきた。…目は合わせられないけど!
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