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二十九話め
翔来が家の前まで送ってくれて、去り際に両手を優しく揉まれる。
「本当は今すぐにでも稜をくださいって言いたいけど、…それは高校入ってからな……」
「うん…、待ってる、絶対来いよ…」
「ん、入学式終わったら速攻行くよ」
「汗だくで来んなよ」
はは、と笑い合って手を離した。手の温もりがなくなって、すぐまた触れたくなる。でも明日はもう学校だから、俺も翔来も帰らなきゃいけない。ぐっと堪えて「じゃあな」と背を向ける。
「稜」
振り返って門を閉める時に呼ばれて、そのまま翔来を見る。返事をすると翔来がこちらに一歩近づいて、
「俺が迎えに来るまで誰のとこにも行くなよ」
そう言っておでこにキスされた。階段一段分、俺の方が高くて少し背伸びした翔来が可愛い。俺の脳内がまた乙女化して、かっこよくて可愛い翔来に振り回される。
(翔来すき…はあ…押し倒されたい……)
そんなことを思いながらこくりと頷いて、満足そうに笑った翔来の背中を見送った。
晩御飯を食べ終えて、家族みんなでテレビを見てる時、俺は意を決して、口を開いた。
「あのさっ 、」
「わ、びっくりした、急に何?」
思ったよりも声が大きく出て、母さんが目を見開いてこちらを見てくる。父さんもテレビから俺に視線を変える。二個上と四個上の兄貴も俺に注目した。
(きき緊張する…)
俺は握りしめた拳に更に力を入れる。
「お、俺…、おれ、翔来が、…っ好き!」
反応を見るのが怖くて、目を瞑る。テレビの音がやけに大きく聞こえて、母さんの「あら…」という声が小さく聞こえた。父さんは咳払いをして「それは伝える相手が違うんじゃないのか?」と不思議そうに聞いてきた。
「翔来か〜イケメンだしなあ、」
二個上の兄貴、秀 がそう言って、四個上の兄貴、藍 は「俺の弟を落とすとは、なかなかやる」と感心してる。
予想してた反応と違い、俺がきょとんとしてしまう。
「えっ、あの…反対、とか…しないの、」
男だよ?と改めて聞くと母さんがにっこり笑った。そして、兄貴達を指差す。
「うちの子孫はこの二人が残せるから大丈夫」
「そうだぞ、任せとけ。俺モテるからな〜」
「秀は結婚までいかないだろ。俺が橋川家の血を繋ぐ」
「は?藍こそ相手いないじゃん」
「俺が本気を出せば…」
兄貴達が言い合いを始めて、俺は、一安心?と少し息を吐いた。父さんはまたテレビを見てて、怖々隣にしゃがむ。
「…ほんとに良いの?」
「母さんも言ってたが、うちには男があと二人いるからな、…もしいなくても大事な子供の恋路を邪魔したりなんかせん。だから父さんたちじゃなくて早く翔来に伝えてこい」
父さんは笑顔を俺に向けてくれて、何年ぶりかに頭を撫でられる。ほっとして、涙ぐみながら父さんに抱きついた。
「お前、でかくなったな」
父さんがハハと笑うと兄貴達が飛んできて
「「稜、俺の方に来い」」
そんなことを言ってきた。
母さんはもうすっかりテレビに夢中だし、兄貴達はまたこっちで喧嘩を始めるしで騒がしいけど、この人たちが家族で良かったなって心から思った。
「翔来、高校入ったら挨拶来るって」
「……待て、もう付き合ってるのか」
「ううん、付き合うのは高校から」
父さんに説明すると「お前らも翔来を見習え」といつまでも喧嘩をやめない兄貴二人に説教していた。
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