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第5話
時を遡り、去年の12月30日――。
バイト先である物流倉庫の業務用エレベーターの中で、僕はアラタに告白された。
「先輩……1年も一緒にいて、まさか気づいてないんですか? 俺、めちゃめちゃアピールしてんのに」
鈍い僕は、そう言われてようやく気づく。
バイト中、アラタは用もないのに寄ってきて、何かあれば僕を助けてくれていた。
ピッキング作業で高いところにあるものを取ってくれたり、重いものは積極的に運んでくれたり。
それからバイトのあとも何かと理由をつけ、食事に誘ってきたりするのだ。
そんなアラタを僕は、単に人懐っこい後輩だと思っていたけれど……。
いま思うとあれは、僕への好意からだったんだろう。
時折肩や背中に触れてくるのも、よく考えたら僕だけにだったかもしれない。
「あー……今、気づいたかも……」
「先輩、好きです」
「……そっか……」
曖昧に濁す僕を壁際まで追い詰め、アラタは有無を言わさぬ瞳で見つめてきた。
「俺が嫌いじゃないなら、お試しでいいので付き合ってみてください」
「お試し……?」
「はい、それくらいならいいですよね?」
強い瞳に射すくめられ、僕はほとんど反射的に頷く。
アラタは男の僕から見ても魅力的で、アリかもしれないと思わせる何かがあった。
「……よかった」
彼は紅潮した頬を緩めると、僕の顔を両手で包み、ついばむようなキスをする。
(え、と……いきなりキスしちゃう!?)
初めは戸惑ったけれど、キス自体は全然嫌じゃなくて……。
何度も繰り返しながら少しずつ大胆になっていくキスに、僕はすぐに慣されてしまった。
目を閉じて舌先を触れ合わせ、お互いの舌と溢れてくる唾液を吸う。
アラタとこんなキスをしていることを不思議に思いながら、一方で気持ちは高まっていった。
「先輩、キス……上手いじゃないすか……」
アラタが鼻にかかった声で言って、僕の太腿にも手を伸ばす。
再開されるキスと同時に、片腕が太腿の内側にもぐってきた。
その手はいつの間にか主張し始めていた、僕の一部を服の上からさすってくる。
(うわ)
下半身がムズムズしてしまって、本当にまずいと思った。
「……アラタ、それダメ」
慌てて腕をつかんでやめさせる。
アラタは苦しげな息を吐き出して聞いてきた。
「……キスはいいのに、その先はダメなんですか?」
「だって……急すぎる。お試しで付き合うにしても、さすがに今日は……」
長い吐息が、耳元に触れる。
「じゃ、いつしましょっか?」
「え……?」
「今日じゃないならいつがいい?」
「わ、分かんないけど……少なくとも来年?」
今日明日はさすがにない。そういう意図から出た言葉だった。
アラタが額をくっつけるようにして僕を見つめる。
「分かりました、来年ですね。じゃ、先輩がその気になってくれるのをじっくり待つとします」
――そうだ、去年の12月30日。
あの日約束した『来年』は、今日で終わってしまう。
浴衣姿の恋人から視線を外し、壁の時計を見た。
「よーやく思い出しましたか」
僕の慌てようを見て察したのか、アラタがため息をつく。
「けど今年はあと5時間しか残ってませんよ、どうしますか?」
「どうするって……」
彼は僕の太腿の脇に腕を突き、ぐっと距離を詰めてきた。
「いい加減、キスより先に進みたい」
「でも……みんなもいるのに無理だよ……」
「俺は先輩を攫っていく気満々ですよ?」
アラタはそのために、この旅行についてきたらしい。
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