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第7話

その時だった――。 和室にかん高いノックの音が響き、仲居さんの声が聞こえてくる。 「失礼します。お夕食の準備、させていただきますね?」 入り口から襖1枚隔てた場所で絡み合っていた僕たちは、慌てて身を起こし、乱れていた浴衣を直した。 「ゴホン、どうぞ……」 気恥ずかしさをごまかし、僕は襖を開けにいく。 すると仲居さんの運んできた、色とりどりの料理が目に映った。 「うわ、美味しそうですね」 「ありがとうございます、うちはお料理が自慢の宿ですから」 和室の座卓に4人分のお膳を並べながら、仲居さんが説明する。 「こちらのかには北海道から取り寄せたもので、今が一番美味しい季節ですよ。それからこちらのすき焼きも最高級のお肉を使っていますから、きっとご満足いただけるかと思います」 そこで僕は、アラタの目が料理に釘付けになっていることに気づいた。 さっきまでどうにかして僕を連れ出そうとしていたけれど、たぶんあの顔は目の前の料理も逃すつもりはない。 (まあ、タイムリミットまではまだ5時間くらいあるしね……) そう思ってから、すでにちょっとだけ期待している自分に驚いた。 男同士での経験なんかないのに、恋人からあんなふうに求められてその気になってしまっている。 (いやいや! 加藤たちもいるのに) 考えを打ち消そうとしても、下着越しに触れてきたあいつの熱を思い出し、体が疼いてしまう。 「先輩? 飲み物はビールでいいかって、仲居さんが」 「……ああ、うん! とりあえずそれでいいと思う」 (あーもー! 僕はなに考えてるんだろ!) すき焼き用の霜降り肉までが、生々しい想像に拍車をかけてきて困った。

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