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第10話

22時半頃――。 アラタを連れ雪柳の間に移動した僕は、部屋の浴室に続く脱衣所で1人おろおろしていた。 アラタには先にシャワーを浴びてもらい、僕も念入りに身を清めた。 ところがドアの隙間から常夜灯に照らされた布団を見た途端、なんだかびびってしまい出ていくタイミングを見失ってしまった。 日常に地続きな和室の景色が、かえって生々しい。 これだったらラブホテルにでも行った方が、変なテンションでやり過ごせたかもしれなかった。 (参った。自分から誘っておいて、勇気が出ない……) アラタは僕のことを男らしいなんて言ってくれたけれど、全然そんなことはなかった。 気持ちだけで動いてしまって、肝心の体がついてこない。 そうこうしているうちにも、時間は刻々と過ぎていく。 (いま何時だ!? ぼんやりしてると今年が終わっちゃうよな……) 時計のない脱衣所で、気ばかり焦ってしまった。 そんな時――。 「せーんぱい」 ドアの向こうから聞こえた声に、ビクリと体が震える。 「もしかして窓から逃げちゃいました?」 「窓から!? そんなわけない」 さすがにこの年の瀬の夜に、浴衣姿で外に出たりしたら凍えてしまう。 「ならよかった。早く来てくださいよー」 アラタが普段あまり聞かないような、猫なで声で催促してきた。 「何も取って食べたりしませんから」 いや、今から取って食べる的なことをするんじゃないのか、違うのか。 「アラタ……念のため聞きたいんだけど。キスの次の段階って何?」 緊張しながら確認すると、目の前にあるドアの裏側に、アラタが手を突く気配がした。 「それは……」 「……それは?」 「お互いに、恥ずかしいところを見せ合うんです」 その言葉に、耳の奥がカッと熱くなる。 「その婉曲表現は……かえってやらしい」 「やらしいことするんだから仕方ないでしょう……!」 ドア越しで顔が見えないけれど、アラタの半笑いの顔が頭に浮かんだ。 「とにかくもう、籠城はそれくらいにして、さっさとこのドアを開けてください!」 勢いに乗ったアラタに、強い口調で言われる。 そして反射的にドアノブを押さえようとしたのと、向こうからドアを引かれたのとが同時だった。 「わっ!」 バランスを崩した僕は次の瞬間、背の高い彼の胸板に倒れ込む。 「待ってました」 速い胸の鼓動を感じながらおずおずと見上げると、顎をつかまれいきなりキスをされた。 「んっ! ふ……」 強引に舌をねじ込まれる。 触れ合う粘膜の温度が、いつもより高かった。 「先輩は……エッチなキスに弱いから……」 舌先を絡め取られ、それから唾液と一緒に吸われる。 しばらく僕の口内を蹂躙したあと、唇の先を触れさせたままアラタがクスッと笑った。 「ほらー、エロい顔になってきた」 頭の中が……体の中も熱い。 「アラタ……」 僕は我慢できなくなって、自らキスを求めて首を傾ける。 その首の後ろに、大きな手のひらが回り込んできた。 首の角度を固定され、さっきより深いキスが来る。 (やばい、気持ちいい……) そうして口内での交わりに意識を集中するうちに、数分前まで強ばっていた体がいつの間にか緩んでいた。 (……あっ!) 崩れ落ちる感覚はほんの一瞬で、僕はアラタの腕の中にしっかりと抱き留められる。 「足下ふわっふわじゃないすか、俺より先輩の方が酔ってるでしょ」 顔にかかる金髪を掻き上げ、恋人は艶っぽい笑みを浮かべた。

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