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第2話

【 雛森side 】 「・・・・・・か・・・・・・たか・・・・・・由貴、起きろ!!」 恭介に肩を揺すられて目が覚めた。 え? ぼんやり辺りを見回すと、俺は自分の部屋のベッドの上にいて・・・・・・ってか、いつの間に?! 慌てて飛び起きると、呆れ顔の恭介がいて。 「熟睡してたとこ悪いんだが、書類探し手伝ってくれ・・・・・・この間の報告書、何処にある?」 「何の報告書?」 部屋を出て行く恭介の後をついていく。 俺を送ってベッドにまで運んだのは啓太なんだろうけど、あいつもう帰ったのか? っつうか、今何時? 覗き込んだ所にしていたはずの腕時計は外されてて、同じフロアーの事務所に入ってから掛け時計を見上げた。 時刻は八時になろうとしている。 「浮気調査の報告書、明後日には依頼人に会うんだぜ?俺もちゃんとチェックしておかないとなぁ」 独り言のような呟きに、恭介が何の報告書を探しているのか分かった。 俺が啓太に出しておけって言った例の報告書だろ? 「啓太が出してったろ?」 出してから帰れって言っておいたんだから・・・・・・俺の机の・・・・・・上に・・・・・・・・・・・・ ねぇじゃんか? 決して綺麗とは言えない俺の机の上には、吸殻が山となった灰皿と、電源の落ちているノートパソコンと、何冊かのファイル・・・・・・ あれ、携帯はどこだ? 「恭介ぇ、俺の携帯知らねぇ?」 引き出しを開けてもない。 「あ?俺持ってるぞ・・・・・・ほら」 なんで恭介が持ってるんだよ? 自分の携帯はどうした、自分のは・・・・・・ったく。 恭介の上着から出てきた携帯電話を受け取って、啓太のナンバーを呼び出す。 コール音が一回・・・・・・二回・・・・・・・・・・・・三回・・・・・・・・・・・・四回、五回! 留守電にも切り替わらず、ずっとコール音が続き・・・・・・そろそろ切ってやろうかというころで・・・・・・ プツッとコール音が途切れた。 「てんめぇ啓太ぁ!!さっさと出ろぉ!!!」 通話中というディスプレイに向かって怒鳴りつけた。 「どんだけ待たせんだ、お前はぁ!!!おい、聞いてんのかぁ!!啓太ぁ!!返事は!!」 近くで恭介もあんぐりと口を開けたまま、こっちを見ている。 「啓太ぁ!!!昼間言っておいた報告書が出てねぇたぁどういうことだぁ!!!」 「ご・・・・・・ごめん、雛森くん・・・・・・明日の朝一れらすから・・・・・・今日もう飲んじゃったから行けない・・・・・・」 漸く返事したかと思ったら・・・・・・飲んでるだと? 今、呂律怪しくなかったか? 「人が仕事してるっつうのに、てめぇは何飲んでんだよ?!」 いや、俺は今まで寝てたんだけど・・・・・・ 啓太が車の中で寝ちまった俺を部屋に運んでくれて、ベッドに寝かせてくれたんだろうけど・・・・・・ 「カナちゃんも一緒らよぉ?」 お前・・・・・・完ぺき酔ってるだろ? あんのヤロー、また明日説教してやる!! 酒は二十歳になってからってことを、じっくり教え込んでやるっ! あれ?あいつ前にダブってる言ってたような気もするけど・・・・・・・・・ってことは、今いくつだっけ? まぁいっか、今はそれよりも。 「要はちゃんと報告書出てんだよ!ったく、しょうがねぇなぁ・・・・・・絶対明日の朝一で出せよ!!」 大学の授業はいいのかとか、聞いてやらなくても良かったかな? いや、あいつが朝一でって言ったんだから、いいのか。 「うん、分かった!雛森くん御疲れ様れす。たまには、ゆっくり休んれね!!」 「だから俺は仕事終わってねぇっつうの・・・・・・じゃぁ、また明日な」 苦笑しながら携帯を折り畳む。 「由貴・・・・・・もう少し優しく言ってやれよ・・・・・・大事なバイトなんだから」 既に自分の席で別の書類に目を通し始めた恭介が溜息混じりにタバコの煙を吐き出した。 あんたがいるって言った報告書のことなんですが? 「ちぇ・・・・・・俺の事ももう少し大事に扱ってくれよ、恭介」 「分かった分かった・・・・・・お前ももう休んでいいから、さっさとベッドに戻れ」 なんだよ、起こしておいて。 「あぁ、それからさぁ、由貴」 カムカム、と手招きされて、素直に恭介の元に近づいて行く。 俺の携帯を指差して、溜息交じりに言ってきたのは・・・・・・・・・ 「お前、そろそろスマホに替えない?」 「必要ない」 即答する。 ガラケー持ってることが悪いのか? スマホが便利だってのは知ってるけど、俺はソレを使いこなせる自信がない。 そもそも、電話とメールが出来ればいいんだ。 それに、この携帯の中には・・・・・・・・・アイツのアドレスも入ってる。 連絡を取ることもないし、アイツから着信することもないって分かってる。 もう、とっくに番号変わっちゃってるかもしれないけど。 それでも、まぁ、御守りみたいなもんだから。 「スマホって、俺の使い方じゃすぐに画面とかバキバキに割れそうだし」 「そうだな」 なぜ即答する? 俺だって丁寧に扱わなきゃいけないようなもんは、そぉっと使ってるんだぞ? スマホがデリケートなだけだろ? その点、この携帯電話は何年モノだと思ってんだ? 頑丈だぞ? 充電池さえ替えれば、まだまだ使える。 モノは大切にしないとな! 「ほら、もう寝ろ寝ろ、寝てしまえ」 追い出す様にシッシッと手を払う。 俺は猫か! 「恭介も、んなとこで寝ずに、ちゃんとベッド行けよ?」 くるりと恭介に背を向けて、出口に向かう。 「おぉ、んじゃぁ、お前の隣ちゃんと開けとけよ?」 「自分のベッドで寝ろ!」 振り返ると、恭介の視線は何かのファイルに落とされていた。 「冷たいこと言うなよ・・・・・・昔はよく一緒にくっついて寝てたじゃん?」 「昔は、だろ?」 いつの時代の話をしてるんだ? そりゃぁ、ちっちゃい頃は何度か恭介の布団に潜り込んだこともあったさ。 溜息交じりに言葉を吐いて、事務所の外に一歩踏み出した。 「あれ?最近も一緒に寝たような記憶が俺にはあるんだが?」 ワザとらしい言い方しやがって。 「恭介が勝手に俺のベッドに潜り込んでくるんだろうが!」 俺が一緒に寝ようと誘ってるわけじゃない。 気付いたら隣で寝てたんだ。 隣で大人しく寝てるじゃなく、俺を抱き枕代わりにしてる時だってある。 がっちりと腰の辺りで腕が固定されて、起きれないことだって何度かあった。 「減るもんじゃねぇんだし・・・・・・ん?なんだ?恥ずかしいのか?」 「鍵かけてやる!」 「俺にはムダだ・・・・・・どんな鍵でも開けられるスキルを身に着けているからなぁ」 ドヤ顔で言うセリフか! チェーンとかも、しっかり忘れずに掛けてやるからな! それでも、もし俺のベッドに潜り込んできたなら不法侵入で訴えてやる。 「あぁ、そうだ、由貴」 なんだよ? 俺にもう寝ろってさっき言ったよな? 「寝に行く前に、俺にコーヒー淹れてってくれ」 顔を上げることもなく。 俺が今、どんな表情で恭介を見てるのか気にもならない? 何かそこら辺に投げつけるモンねぇかな? まぁ、しょうがねぇからコーヒー・・・・・・淹れておいてやるけどさ。

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