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第5話

【 倉科side 】 なんだって? 俺はそのまま受話器を握り締めたまま固まっちまった。 受話器から聞こえてきたのはユキの声で間違いはない。 間違いはないけど、でも、なんだか様子が変で・・・・・・ 妙に言葉は途切れてるし・・・・・・息遣いが荒くって・・・・・・? 間違えて電話してきたんだろう、その声が呼んだのは俺の名前じゃなかったけど・・・・・・ だいたいキョウスケって誰だよ? 俺知らねぇぞ、そんな名前のヤツ。 「おい、ユキ?お前どうし・・・・・・た?」 確認しようとしたらブツッと通話が切れやがった。 「ちょっ!おい、ユキ!!」 ツーッツーッと無機質に聞こえる電子音を一旦切って、短縮ボタンに登録してあったユキのナンバーを呼び出す。 けど繋がらない。 何やってんだよ、あいつ! 何度目かのコールの後、留守番電話サービスに切り替わってしまった。 「倉科くん?」 何かあったの?と言う充の言葉に、まだ啓太を保留状態で待たせている事を思い出して通話を切り替える。 「啓太、今ユキのヤツ何処にいる?」 「へ?先輩?!びっくりしたぁ、いきなり・・・・・・ってか『ユキ』って?」 「あ、ユキは・・・・・・雛森だ!雛森由貴!お前のバイト先の上司だ!で、ドコにいる?!」 「え?雛森くん?何処って聞かれたって分かんないよ・・・・・・俺事務所飛び出してきちゃったし、カナちゃんなら知ってるかもしれないけど?」 「じゃぁ聞いて折り返し連絡くれ!!いいな!!今すぐにだ!!」 急げよ!と言って通話を一方的に切った。 そして再びユキのナンバーをコールする。 今度は呼び出し音もなく、電源が入っていないか圏外かなんてメッセージが流れた。 くそ! 「倉科くん、どうしたの?そのユキって人に何かあったの?」 充が冷静に、真顔で聞いてくるけど・・・・・・ 俺を落ち着かせようとしてくれてんのは解るけど・・・・・・なんだろう、この胸騒ぎ。 ドキドキする。 心臓の鼓動が早い。 ユキが・・・・・・・・あいつに何が? 「分かんねぇ・・・・・・分かんねぇけど嫌な予感がするんだ」 髪を掻き乱して、啓太からの連絡を待つ・・・・・・ こういう時って、一分一秒が、すっげぇ長く感じる。 ぜんぜん啓太から掛かってこねぇ・・・・・・遅ぇよ! 「充」 けど、やっぱり待っていられねぇから。 「俺ユキ探してくる!」 「ちょっと待って!何処にいるか分からないんでしょ?」 充に腕を掴まれて制止させられて・・・・・・混乱する頭で考える。 「・・・・・・何処って」 ユキが行きそうな場所で、ユキがしていたこと・・・・・・ 啓太が事務所を辞めてきて・・・・・・ 胡桃ちゃんのボディーガードは打ち切りだって言ったのがユキで・・・・・・ 理由が胡桃ちゃんのストーカー被害は自作自演じゃないかって疑いが出て来たってことで・・・・・・ そのあとユキは何をしてたんだ? 啓太が事務所を飛び出した後・・・・・・ユキはそれを見送って・・・・・・ 通常の仕事に戻った? 啓太の奴、さっきみたいに熱くなってユキに迫っただろう? それを冷静に、落ち着いて聞いていられた? ユキは助けてって言った・・・・・・ 何しに、どこへ行ったんだ? ふと胡桃ちゃんの顔が浮かんだ・・・・・・ それがどういう意味なのかは分からないけど。 でも、きっと・・・・・・ユキは・・・・・・・・・ユキなら? 「桐条胡桃んとこだ!!」 いきなり打ち切ったボディーガードの仕事。 ユキも納得してないんだ! 「ちょっと!倉科くん!!」 充の手を振り払う。 変な確信があった。 ユキは桐条胡桃のところに行ったに違いない。 そこでユキの身に何かあったんだ! 充と会っていた喫茶店を飛び出し、愛車を桐条胡桃のマンションへと走らせる。 途中、赤信号で停まった交差点で啓太からの連絡を受けた。 要が事務所に着いた頃には誰もいなくて、机の上にユキのメモ書きが残されていたと。 そこには『桐条胡桃から連絡有り、行ってくる』とだけ書かれていたらしい。 俺の勘は冴えてる。 信号が青に変わると一気にアクセルを踏み込み、彼女のマンションへ急いだ。 桐条胡桃のマンション前は、想像以上にシンと静まり返っていた。 駐車場へ車を入れず、道路の端にハザードを付けて停車させる。 ちらっと視界に入った場所で、1人の男を見付けた。 雰囲気からしてワイドショー関係者かもしれないけど構ってられない。 このマンションを見張ってたんならって知ってるはずだ。 そいつを捕まえて、俺が来る前に誰か中に入っていかなかったかを確認する。 「え?あ、あぁ、1人入って行ったかな・・・・・・?」 特徴は小柄な男・・・・・・ あんた、本当にもう少し観察力を磨いた方がいいと思うぜ! それだけでユキだと判断出来ないけど、要の言うメモの存在でその男がユキだと確信出来た。 更に。 「いや、まだ出てきてないよ?」 ってことは、まだ中にいるはずだよな! ユキは、ここから俺に連絡してきたんだよな? まさか監禁されてるとか? 助けてって言ったよな? 何かあったのかと興味津々の男を突き放して、俺はマンションの中に・・・・・・ 自動ドアが開かない。 そりゃそうだ・・・・・・オートロックだもんな。 っつうか、これじゃぁ入れねぇじゃねぇかよ!! 「そこで何してる?」 突然背後から肩を捕まれて振り向けば、そこには桐条胡桃のマネージャーが立っていた。 「林原さん!」 「倉科くん?どうかしたんですか?」 訝しげにジロジロと見られても構ってられない。 用があるのは桐条胡桃じゃなくて、ユキだ! 「中に俺のダチがいるんだ!こっから電話を掛けてきたんだけど様子が変で・・・・・・入りたいけどオートロックが」 そうだ、林原さんはユキを知ってるんだった。 「ユキ・・・・・・俺の同級生の、雛森由貴が桐条胡桃んとこに行ったって聞いたんだけど・・・・・・で、さっきその雛森から連絡があって、なんか様子が変だったんで飛んできたんだけど、俺中に入れなくって」 俺、ちゃんと説明出来てるか? この人に中へ入れてもらわねぇといけねぇんだからな! 自動ドアのガラスって、俺が体当たりしたくらいじゃ割れないだろ? え? じゃぁ、車ごと突っ込む? いやいやいや・・・・・・落ち着け、俺。 「ちょっと待ってください、倉科くん」 ここでは、と背後の男を気にしつつ、林原さんが素早くロックを外してくれて、俺達はマンションの中に入った。 そのまま桐条胡桃の部屋があるフロアを目指して・・・・・・って、何階? 林原さんがエレベーターの開閉ボタンを押して・・・・・・ 開いた扉の向こう側に・・・・・・ 「ユキ?」 「由貴くん?」 そこには、ぐったりと壁に寄りかかって座り込んだユキがいた。 「ユキ!!おい、ユキ!!」 駆け寄って肩に触れれば、ぐらりとユキの身体が揺らいで倒れかけたのを慌てて支えて、ぬるっとした感触が手にあった。 「き、救急車!!」 林原さんが携帯で連絡を取ってくれたらしい。 らしいっていうのは、どうもその頃から記憶が曖昧で・・・・・・ 俺はただ、動かないユキを抱き締めることしか出来なくて・・・・・・ 「ユキ?俺だよ、ユキ?しっかりしろよ!ユキ!!」 なんなんだよ!! いったい、何が・・・・・・? これ・・・・・・どういうことだよ!! 「ユキ!!!」 今世紀最大に混乱した。 ワケが分からない。 どうしてユキが刺された? 誰に殺されかけた? こんなに大量の血を流して・・・・・・ 一命は取り留めたものの、家族以外面会謝絶・・・・・・って。 あんな血の気のない、真っ白い顔で・・・・・・ぴくりとも動かなくって・・・・・・ ユキの親族だって言うおっさんに威嚇されまくりながら、それでも要が何とか俺を病室に入れてくれて。 眠ったままのユキの手を握って・・・・・・ すごく長い時間だった気がする。 ユキの手を自分の額に当てて、ずっと祈ってた。 戻って来いって・・・・・・俺のところに戻って来いって、ずっと祈ってた。 ユキの手術中、ユキのおっさんはずっと落ち着きがなくって、イライラしてるっつうのか、心配し過ぎって言うか、なんて言うか。 いや、俺だって心配だったけど。 おっさんと目が合うたびに威嚇されたけど。 俺に噛みつこうとした瞬間、ユキが重傷を負ったのは俺のせいじゃないんだからって・・・・・・啓太と要に抑えられてたけど。 そのことで、おっさんが俺を邪険にしてたんじゃないと思うわけで。 おっさんが俺の事を嫌がる理由って・・・・・・ 「なんでテメェなんかがココにいる」 初対面のはずのおっさんは、手術室の前にいた俺にそう言った。 俺がいたら変なのか? 俺だってユキのこと心配してたわけで。 ユキが電話してきた相手は俺だったわけで。 あぁ、それが気に入らないのか?

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