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第6話

【 雛森side 】 とても懐かしい夢を見た。 あいつのことを【親友】と呼べた頃の・・・・・・二人でゲーセンに行った夢。 あの頃が一番楽しかったなぁ・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・キ?」 ぼんやりと誰かが見える。 輪郭がはっきりしねぇなぁ・・・・・・誰なんだろう? 「ユキ?」 誰かは分からないけど、なんだか懐かしい声が俺の事を呼んでる。 でも、この呼び方するのって・・・・・・1人しかいなかったはずなんだけど・・・・・・ 誰だったっけ? 「目ぇ、覚めたのか?」 これは恭介の声だ。 でも、今手を握ってくれているのは違う。 「雛森くん、大丈夫?」 これは・・・・・・啓太。 でもさっき名前を呼んでくれた声じゃない。 「雛森くん、御見舞いのメロンがね・・・・・・いったいなぁ、啓太」 要だ。 「ユキ」 また・・・・・・この声・・・・・・誰だっけ? 次第に視界がはっきりとしてきて、俺の手を握ってくれていた奴の顔が見えてきた。 「ユキ?」 俺、まだ夢の中にいるんだろうか? 倉科がいる。 俺の記憶よりちょっと歳をとってるけど・・・・・・ 相変わらずカッコいい・・・・・・俺の想像力、すげぇ。 「ユキ・・・・・・なぁ、何か言えよ?」 倉科の手が俺の頬を撫でてくれる。 何か言えって・・・・・・何を言えばいいんだ? 夢の中なんだから、ちょっと我儘言ってもいいってわけ? 現実には絶対ありえねぇもんな? このまま手ぇ、繋いでてほしいとか・・・・・・ もっと名前を呼んでほしいとか・・・・・・ 「まだ無理をさせないでくれるか、えっと・・・・・・倉科くん」 恭介が俺から倉科の手を遠ざけた。 なんか・・・・・・・・・・・・惜しい。 恭介のバカァ・・・・・・ 「あ・・・・・・すいません・・・・・・」 倉科が恭介に場所を譲る。 俺の視界から倉科の姿が消えた。 俺の夢なのに、なんで俺の思い通りになんねぇかな? 「由貴、もう少し寝ろ」 寝る? そういえば俺、なんで寝てんだろ? ここドコだ? なんか薬臭い。 体が・・・・・・重くって動かせねぇ・・・・・・ 「由貴?」 確か・・・・・・俺事務所にいて・・・・・・ 恭介が・・・・・・啓太を辞めさせて・・・・・・ 桐条胡桃から連絡があって・・・・・・ なんか彼女の様子が変で・・・・・・ 桐条胡桃のマンションへ行って・・・・・・ それから・・・・・・エレベーターが開いて、青いレインコートのヤツがぶつかってきて・・・・・・ 「ユキ?」 あぁ、俺・・・・・・刺されたんだった。 「赤い・・・・・・マニキュアが・・・・・・笑ってた」 透明なビニールの手袋で、赤いマニキュアの・・・・・・細い指が・・・・・・ それで・・・・・・何か言われたんだ・・・・・・ 「由貴?」 なんて言われたんだっけ? ダメだ、眠くて・・・・・・ 「ユキ?」 倉科が・・・・・・助けてくれたのか? まさかな・・・・・・ そんなわけない。 都合が良すぎるぜ、俺・・・・・・ 「ユキ」 夢ん中の倉科って・・・・・・俺に優しいなぁ・・・・・・ 目が覚めたとき、視界には要だけがいて・・・・・・なんだろう、この残念感。 「あ、起きた」 にっこり笑って要は俺の頭上にあったナースコールを押した。 「丸々1日寝てたよ」 そういえば、夢の中に倉科が出てきたなぁ・・・・・・ 俺、吹っ切ったつもりだったけど、まだ倉科のこと引き摺ってんのか? いかんいかん、昔の恋なんて忘れちまえ! 弱ってるからあんな夢見たんだ。 俺に優しい倉科だなんて・・・・・・告白する前だったらあり得たかもだけど。 白衣の男と二人の看護婦が入ってきて、体温や、傷の具合とか一通り診終えた頃、要が廊下で刑事が待っていると教えてくれた。 現在、病室の前には『面会謝絶』の札が掛かっているらしい。 医者は渋い顔をしたけど・・・・・・俺は構わないからと、刑事を部屋に通してもらった。 「よぉ、由貴くん。大丈夫かい?」 想像していた人物の登場。 恭介の悪友パート2、石橋達也(いしばしたつや)さん。 要に手伝ってもらいながら身体を起こし、枕を背中に挟んで、なるべく楽な姿勢を取った。 「寝たままでよかったのに」 そう言って石橋さんはパイプ椅子に腰掛けた。 「話せそうかい?無理はしないでくれよ?恭介に怒られるからな」 両手の人差し指を立てて、頭に角を出す。 「大丈夫です」 林原さんや石橋さんは、恭介が超過保護だって言うけど、そうかなぁ? 「じゃぁまずは、マンションの防犯カメラだけど、君と青いレインコートの人物が映っていた。君を刺したのは、その人物だ」 心当たりはあるかい、なんて聞かれても・・・・・・ 刺されるほどの恨みを買っている人って、すぐには思い当たらない。 「君は桐条胡桃さんに呼び出されてマンションへ行き、その人物に襲われた」 ある程度の事情は既に恭介から聞いたらしい。 「で、さっき目が覚めた時に言った『赤いマニキュアが笑ってた』・・・・・・マニキュア塗ってるっていうと犯人は女の可能性が高いと思うんだけど・・・・・・実際どんな感じ?」 今の時代、マニキュアつけてる野郎はいっぱいいるし、細い指だからって女だと断定は出来ない。 現場には、これといって犯人が特定できるようなものは残ってなかったらしい。 俺の腹に突き立てられたナイフからも犯人の指紋は検出されなかった。 「一瞬だけだし・・・・・・顔はよく分からなかったけど・・・・・・ただ、そいつ、俺を見て笑った気がするんだ」 口元だけだけど・・・・・・? あと、なにか言われた気がしたんだけど・・・・・・? そこに、給湯室で石橋さん用のお茶を入れに行っていた要が帰ってきた。 「由貴くんが救急車で運ばれた後、桐条胡桃さんの部屋に行ってみたんだけど、誰もいなかったよ」 「え?」 そんな? 「うん、僕も行ってみたよ。何回チャイム鳴らしても胡桃ちゃん出てこなかったんだ。管理人さんに事情を説明して鍵を開けてもらって入ったけど、誰もいなかった」 じゃぁ、桐条胡桃はどこから俺に電話してきたんだ? だって誰かがベランダにいるって言ってきたのは・・・・・・やっぱり嘘? 「今は桐条胡桃を重要参考人として行方を捜してる」 俺を刺したのが桐条胡桃? なんで? マンションの防犯カメラに桐条胡桃が外出する様子は映っていなかったらしい。 「捜してるって、行方不明なんですか?」 いったい、いつ、マンションから外へ抜け出したのか。 マンションの入口にはワイドショー関係者がいたが、その人物の証言からは俺以外誰も出入していないことが分かっているらしい。 桐条胡桃はドコに行った? 青いレインコートのヤツはドコへ? じゃぁ青いレインコートの人物が桐条胡桃? 「その日の桐条胡桃のスケジュールは休暇になっていた」 そして、俺の携帯の着信履歴に残っていた彼女の番号はマンションのものではなく、携帯からということで、部屋から掛けたのか、他の場所から掛けたのかも分からない。 現在調査中だと言う。 「それからな・・・・・・」 話は続きそうだったのに・・・・・・ 慌しい足音が近づいてきて、荒っぽいノックの後、返事をする前に扉が開いた。 「警部!!大変です!!」 スパーン!!っと石橋さんが履いていたスリッパがその人物の顔面を強打。 「け、警部ぅ・・・・・・」 「ここは病院で、しかも怪我人の前だ。もう少し静かにしろ、馬鹿者」 あんたも十分うるさいんですけど・・・・・・ 「す、すびばせん・・・・・・でも警部、大変なんですぅ」 薄っすらと目に涙を溜めて、鼻を押さえながら石橋さんにボソボソと伝える。 残念ながら内容は聞き取れなかった。 「なんだと!!すぐ戻る!!由貴くん、また来るよ!今度はちゃんと見舞いの品を持ってくるからな!お大事に!!」 去り際、チュッて頬にキスしていく癖は相変わらずだ。 ここは日本だから、こんな習慣ないってば。 最初の頃は焦ってバタバタしたけど、もう今は慣れた。 っていうか、ちょっと、今の内容知りたいんですけど? あぁ、行っちゃった。 まるで台風一過。 病室に残された俺と要は顔を見合わせた。 「何があったんだろうね」 俺だって気になるけど・・・・・・ 要に手伝ってもらいながら横になる。 「事件に何か進展でもあったのかな」 結局一口も飲めなかったお茶をサイドテーブルの上に置き、要は先程まで石橋さんが座っていた椅子に腰を下した。 「そういえば、さっき倉科くんから電話があったよ」 え、クラシナ? クラシナって、どちらのクラシナ? 夢の中に出てきた倉科のこと? なんてな、あるわけねぇっつうの。 もう何年も連絡とってねぇし? でもクラシナなんて依頼人いたっけ? 「雛森くんのこと心配してた。何かあったらすぐに呼べって言われててね」 俺の事が心配? 「要、そのクラシナって誰のこと?」 俺の知ってるクラシナって1人しかいねぇんだけど・・・・・・まさか、そんなはずねぇし? そりゃ、まだ携帯のアドレス消せてねぇけど・・・・・・ まぁ、とっくに番号変わってるだろうし、俺だっていつまでも未練たらしく残しておくわけにはいかんから、そろそろ消さなきゃとか思ってたけどさぁ・・・・・・ ってか、前に俺の携帯覗いた恭介にも言われたし・・・・・・ いやいや、その前に何勝手に人の携帯見とんじゃって感じだけど・・・・・・ 「啓太の先輩で、僕は最近紹介されて知り合ったんだけど、胡桃ちゃんのモデル仲間でね、充さんって人とも仲が良くってね」 へぇ・・・・・・ でもまぁ、俺が知ってる倉科と同一人物なわけねぇよな・・・・・・とか思いながら、倉科がモデルやってる姿を想像してみた。 昔っから何着ても似合ってたよなぁ・・・・・・ モデルかぁ・・・・・・ やっぱ、格好いいな。 夢ん中の倉科は、俺が知ってる頃より少しだけ成長してて・・・・・・ いやいや、俺って想像力豊かだなぁ? 「へへっ」 突然要が俺の顔を覗き込んできた。 「な、なんだよ?」 「雛森くん、何?思い出し笑い?」 無意識のうちに笑っていたのか、俺? 「そんなんじゃねっ・・・・・・っつ!!」 否定して両肘に力を入れた瞬間腹に激痛が走って・・・・・・ 「ちょ、ちょっと雛森くん!看護婦さん!!」 要は慌ててナースコールを押した。 「もう!怪我人なんだから大人しくしててよ」 うるせぇよ・・・・・・俺は涙眼で要を睨み付けた。 要の呼んだ看護婦が入ってきた。 その中の一人が要に何事かを告げている。 俺はそれを横目で見ながら看護婦の指示通りにゆっくり動いていて。 「雛森くん、所長から電話が入ったらしいからちょっと行ってくる」 そう言ってバタバタと病室を離れて行った。 恭介からの電話? さっきの石橋さん達の様子に関係ありか? つまり、何か事件に進展があったんだろうか? 看護婦が病室から出て行って数分後、要は先程よりも足音を響かせて、なぜか慌てた様子で戻って来てベッドの側で膝を折った。 「要?」 荒い息を整えるのを待ってやる。 「ひ、雛森くん・・・・・・あの、落ち着いて聞いてね」 お前が落ち着けよ。 「あのね・・・・・・あの・・・・・・えっと・・・・・・」 早く話せって、気になる。 「さっき、街外れの廃旅館から女の人の死体が見付かったんだって、でね」 廃旅館? 十数年前、幽霊が出るとか噂になって潰れたとこか? その後、買い取った業者がホテルを建てようとしたものの、次々と原因不明の事故が続いてそのまま手付かずになっているって言う、あの廃旅館? 今じゃ格好の肝試しスポットのとこだろ? 俺も中学の時1回だけ行った事がある。 「で?」 続きを促す。 「全裸で、顔が潰されてて、身元照合するのに時間が掛かるかと思われたらしいんだけど、その人の、その手首のところにあったタトゥが」 手首のタトゥ? 「胡桃ちゃんにも同じタトゥがあったって林原さんが言っててね」

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