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第7話

【 倉科side 】 最初に目が覚めた時、俺の事呼んだし。 ってか、ユキの目が覚めた途端、俺らは病室から追い出されたわけで。 その後ちょっとして、桐条胡桃が殺されていたって連絡が入って・・・・・・ しかも殺されたのは昨日今日の話じゃねぇって? じゃぁ、今まで会ってた桐条胡桃は誰なんだよ? 遺体の状況からして随分と時間が経ってるだなんて、一体どういうことだ? それが本当に桐条胡桃だったら、今まで雑誌やテレビに出ていたあの女は何者・・・・・・っつうか、大騒ぎになるぞ。 まだニュースでは身元不明の遺体が発見されたってことなってるけど。 それが桐条胡桃だと知ったら・・・・・・いや、ばれるのは時間の問題で、すぐにワイドショーも騒ぎ出すはず。 あの怯えてストーカーのことを俺らに打ち明けた桐条胡桃・・・・・・ あの時の彼女は本物の桐条胡桃だったのか? それとも、すでに偽物の桐条胡桃だったのか? それをあのマネージャーは知ってたのか? マネージャーの林原・・・・・・本物か偽物かなんて、いつも彼女と一緒にいたあいつなら見分けられるんじゃねぇのかよ? ストーカー対策で影武者を立ててたとか? いや、だったらユキや啓太が知ってるはずだし、啓太はそんなこと一言も言ってなかったし・・・・・・ 守秘義務があるにしても、啓太が俺にまで黙ってるわけねぇし・・・・・・ 携帯を取り出してアドレス帳を呼び出すものの、俺、林原の携帯ナンバーなんか知らねぇし。 そのまま操作していて、桐条胡桃のアドレスが表示された。 いつ聞いたんだっけなぁ、この番号・・・・・・最近だった気がするけど。 一回も掛けたことねぇから、これが本当に彼女の番号なのかも判らないけど。 まだ繋がるだろうか? 「・・・・・・掛けてみっか?」 深呼吸を一回して・・・・・・携帯を耳に当てる。 コールは・・・・・・してる。 けれど、何度目かの呼び出し音の後、留守番電話サービスに切り替わってしまった。 何処かに置きっぱなしにされてるんだろうか? 家か、それとも何処かのスタジオか・・・・・・それとも・・・・・・・・・ チッと舌打ちして、もう一度コールしてみる。 すると。 「・・・・・・もしもし?」 突然相手が出て、携帯を耳から遠ざけた。 携帯画面は通話中の文字・・・・・・相手の声は機械っぽい。 「あんた誰?」 俺から掛けておいて言う台詞じゃねぇよな・・・・・・ もうこの番号の携帯はとっくの昔に解約されてて、別の人間が持ってたとかだったりしないか? でも、いきなり掛かってきた相手に対して声を加工するなんて警戒し過ぎじゃねぇの? そもそも、そんなことする必要なくねぇか? だって、俺はお前のことを知らないわけだし。 「あぁ、そういう君は倉科遼、くん?ふふっ、これはね、桐条胡桃の携帯だよ」 こいつ、俺のこと知ってるのか? っつうか、桐条胡桃の携帯ってことは、俺の番号が登録されてるはずだから名前が表示されたのか? 「俺はあんたに誰だって聞いたんだけど?」 俺のことを知っている正体不明の相手としゃべるのって・・・・・・嫌な感じ。 「誰だっていいでしょ、そんなこと・・・・・・この携帯、ここに置いておくから、なんだったら取りにくれば?倉科くんの知りたいこと、いろいろ分かるかもよ?」 ボイスチェンジャーで声が換えられてるから、男なのか女なのか区別が出来ねぇけど・・・・・・ 「ここって何処だよ!」 クスクス笑ってやがる! ムカつく!! 「ここはね、桐条胡桃の死体が見付かったところ、だよ」 は? つまり街外れの廃旅館? って、ちょっと待てよ! そこは警察が封鎖していて、まだ何人もの捜査員が出入してるはず。 なんで、そんなところで・・・・・・ 「じゃぁね」 「ちょっ、待てよ!おい!!」 プツッと通話は一方的に切れてしまった。 「んにゃろ」 再び彼女の携帯を呼び出そうとして、逆に呼び出し音が鳴り出した。 ディスプレイには、充の名前が表示されている。 さっきの相手は気になったが、仕方なく通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。 「充、悪い、俺今急いでんだ。手短に頼むぜ」 用件は? 「え、あ、うん。あの、要くんから連絡があって、雛森くんの目が覚めたからって・・・・・・倉科くんの携帯が話中で繋がらなかったって僕のところに掛かってきたんだけど?」 ユキが・・・・・・よかった。 最初に目が覚めたとき、あいつ、俺のこと、ちゃんと気付いてたかなぁ? 手・・・・・・握り返してはくれなかったけど・・・・・・いや、力が入らなかっただけか? あのおっさんに、病人を刺激するなって、もっともらしい理由で部屋を追い出されちまったし・・・・・・ いや、分かってるさ。 ゆっくり休ませてやりたいのは俺だって同じだ。 でも、だ! 『さっさと出てけ』はねぇんじゃねぇの? くそっ、なんであんなに睨まれなきゃならねぇんだよ! 「倉科くん?」 あ、俺充と電話中だった。 「悪ぃ・・・・・・あのな、充、実は・・・・・・」 俺はさっき掛かってきた電話の事を充に伝えた。 「分かった。でも、一人で行くのは危険だよ。わざわざ捜査中の現場に携帯を置けるなんて、それが出来る人物ってことだよ?誰かと一緒に・・・・・・啓太くんとか連絡取れないの?」 俺一人じゃ危険だけど、啓太と一緒なら大丈夫だとでも? そりゃまぁ、あいつはいろんな武術を体得してるけどさぁ、俺だってそこそこ喧嘩強かったんだぜ? 啓太に護ってもらえと? いや、あいつ、もしそんな状況に陥ったとして、俺をピンチから救ってくれたとして、あいつ・・・・・・すっげぇドヤ顔しそうで嫌なんだけど。 嫌だな・・・・・・それ、嫌だ。 そんなことより。 「なぁ、まさか警察関係者ってことはねぇよな?」 二時間もののドラマみたいなさ・・・・・・ 「そんなドラマみたいな展開、そうそうないと思うよ?」 お前、俺の思考を読んだのか? っても、啓太は今事務所で待機中の身だしなぁ・・・・・・ん? あれ? そういや、あいつバイト辞めたって言ってなかったっけ? 待機中と言うより、謹慎中の方が正しかったりして。 まぁ、いいか。 どっちにしたって、啓太と出掛けるんなら、あいつ、あのおっさんに許可を取らないといけないだろうなぁ。 俺、今あのおっさんと係わりたくねぇ・・・・・・ ユキと親戚だかなんだか知らねぇけど、触りすぎだろ、あれは! 俺をユキから遠ざけるように間に割り込んできやがってぇ・・・・・・ なんなんだよ! 要が触ってたってなんともなかったくせに、あの、『テメェが触るな』みたいなオーラ? ユキはあんたのモノかってんだ! 間 いや、俺のモノでもねぇけど・・・・・・ でも・・・・・・ でもさ・・・・・・ いくら身内だからって・・・・・・ 「しょうがないから僕が一緒に行ってあげるよ」 はい? 俺、充となんの話してたんだっけ? 「たぶん、僕の方が早く着くと思うから、その旅館の近くにあるコンビニで待ってるね」 あ・・・・・・ 「あ、あぁ、分かった」 なんだよ、お前、渋々って感じ? 嫌ならいいんだぞ? 俺一人だって平気だ・・・・・・と思うし・・・・・・ 啓太より、お前の方が頼りないような気がするし・・・・・・ 充との通話を終えて、部屋と車の鍵、携帯と、それから財布・・・・・・ とりあえず、急いで廃旅館方面へ向かう事にした。 外は曇っていたけれど、雨が降り出しそうな雰囲気はなかった。 運転席側と助手席側の窓を全開にして、車内に風を取り込む。 もともと車通りの少ない道だったため、渋滞に巻き込まれる事もなく、信号に引っかかることもなく、スムーズに走れた。 既に到着していた充がコンビニの立ち読みコーナーにいた。 駐車場に入って来た俺の車に気付いて店から出てくる。 「お前車は?」 「知り合いに乗せてきてもらってたから帰りは送ってね。ほら、行こ」 そのまま助手席に乗り込んで、しっかりとシートベルトを締める。 「それでね、倉科くん・・・・・・僕なりに胡桃ちゃんの身辺をもう一度詳しく調べてみたんだけど、君は知ってた?」 何を?と目だけで問いかける。 勿体ぶってねぇで、さっさと話せ。 「君と胡桃ちゃんは同じ中学出身だったってこと」 中学? 「そうなのか?」 それはユキとも同じってことだ。 これで桐条胡桃とユキの繋がりが確認された。 でも、俺達は彼女と面識なんてないぞ? この業界に入って、一緒に仕事するようになって・・・・・・ でも中学の時の話なんかしたことないし。 桐条胡桃だって俺達のこと知らなかったんじゃねぇか? 「学年で言うと、倉科くんが三年の時に胡桃ちゃんが一年生ってことになるんだけど・・・・・・」 なんだよ? 意味ありげな視線をくれるじゃねぇか。 「君、その中学で有名人だったらしいね」 「親が有名人だからな」 だからって俺には関係ない。 親は親で、俺は俺だ。 「ルックスも良くって、お金持ちで、頭も良くって、スポーツも出来て」 そう、この俺、頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能!! 否定はしないが、誉めても何も出ねぇぞ? 「男の子からも告白された経験をお持ちだそうで」 にやっと充が笑った。 「うっ、うっせーよ」 その告白してきた相手がユキだということまでは知らねぇだろうなぁ? 「ごめん。話がずれちゃった」 今時自分の頭をコツンと小突いて舌を出す表現って古いんだよ! てへっ、じゃねぇんだよ! 「あ、あれ!」 案の定、パトカーが数台とワゴン車が何台か止まっていて、立入り禁止の黄色いテープが道を塞いでいる。 ドラマ見てるみたいだ。 野次馬もいるなぁ。 「どうやって中に入れてもらう?」 ここまで来たものの、奴はどうやって旅館の中に潜り込んで、どの辺に携帯を置いたって言うんだ? ってか、もう既に警察が押収してるんじゃねぇのか? 「あの中に僕の従兄弟がいるんだ。ちょっと待ってて」 車を道路の端に寄せてハザードを点滅させる。 「鑑識やってるんだ・・・・・・あ、もしもし?鉄ちゃん、着いたから・・・・・・うん、分かった」 鉄ちゃんだから鉄郎?鉄也?鉄三郎? 充の従兄弟の名前を想像しながら、俺は充に指示されたとおり、車を旅館の裏手へと回した。 こちらは正面より車の数は少ない。 そこに、テレビの中でよく見る鑑識ですって感じの人が近づいてきた。 「充ちゃん、これ」 って、ちょっと待てよ! 「あんた簡単にそれ渡してくれるけど、いやありがたいけど、いいのか?」 その鉄ちゃんの手には、透明な袋に入った携帯があって。 ステッカーが貼られていて、ナンバーが書かれてる。 「大事な証拠品じゃないのか?」 「大事な証拠品に決まってるでしょ?でも充ちゃんの頼みだから・・・・・・あとでこっそり返してくれれば良いよ。で、分かった事があったら教えてね。あ、でも、なるべく早くにね?」 じゃぁね、と鉄ちゃんが去っていく。 マジでいいんだろうか? 大丈夫なんだろうか? 「ありがと、鉄ちゃん」 充の言葉に笑顔で答え、鉄ちゃんは旅館の中へ入って行った。 「ほら、倉科くん、ぼさっとしないで車出して」 そうだった、早くこの場を離れなきゃ。 俺は不審がられないように、そっとアクセルを踏んだ。 俺達はいつも時間を潰しているカフェに入った。 マスターとは顔なじみ。 そして、いつもと同じ席、いつもと同じ飲み物を注文して・・・・・・充が袋に入った携帯を取り出してテーブルの上に置いた。 「指紋がつかないようにしないとね」 そう言ってハンカチを取り出す。 俺も・・・・・・って、ハンカチ持ってなかった。 仕方がないので充に操作してもらう事にする。 「着歴・・・・・・あった、倉科くんのナンバー・・・・・・それと、これ、雛森くんの」 俺とユキ以外に掛かってきた形跡、掛けた形跡があるのは雛森恭介と林原・・・・・・啓太、だけ。 「友達とかいなかったのかな?」 連絡を取りあうような、親しい友達はなかったのか? 「メールの受信箱に・・・・・・いくつかあるけど見てみる?」 ハンカチごと携帯を受け取って、画面を動かしていく。 内容は林原との仕事の打ち合わせがほとんど。 送信ボックスを覗いて、ソレに対する返事を読む・・・・・・ 普通の会話のように見えて、なんだろう、なんか違和感が・・・・・・ 「なぁ、充・・・・・・その、何がって言われても分かんねぇけど、これってなんか変じゃねぇ?」 「変って?」 携帯を充に渡し、中身を確認してもらう。 俺が感じた違和感を、充も感じるだろうか? 「途中で書き方が変わってるね・・・・・・語尾の使い方とか、顔文字なんかの使い方も違う気がする・・・・・・」 それぞれの飲み物が運ばれてきて、とりあえず喉を潤す。 その数分後、俺の携帯が鳴った。 「啓太?何か分かったのか?」 新情報か、それともユキに何かあったのか? 「ううん・・・・・・所長から何も連絡ない・・・・・・だから暇で・・・・・・先輩達の方で何か分かったことある?」 暇だからって掛けてくるなよ、ったく。 俺はこれまでのことを簡単に説明してやった。 「胡桃ちゃんの携帯ゲットしたって?」 すごいって、感心してるけど・・・・・・ 別に特殊ルートから入手ってわけじゃねぇんだし・・・・・・いや、十分特殊なのか? 鑑識さんから手に入れてんだから。 しかも、その前には、ひょっとしたら犯人かもしれねぇヤツと話してるわけなんだし? 「なぁ、お前んとこの所長、他に何か言ってなかったか?」 なにか・・・・・・ あのおっさんと林原が話してたこととか、何か、これってヒントじゃねぇかなみたいな・・・・・・ 「さぁ・・・・・・僕は分かんないけど・・・・・・雛森くんなら知ってるかなぁ」 ユキ? 「先輩って雛森くんと知り合いだったんだね、僕驚いちゃった」 なんで驚くんだよ? 別にいいじゃねぇか、知り合いだって。 あ、そうだ! 「なぁ、啓太。ゆ、ひ、雛森に会って話出来ねぇかな?」 今は、なんだか顔が見たい。 大丈夫だって言う確認がしたいというか・・・・・・ ただ会いたいって言うか・・・・・・ 動いてるユキが見たいというか。 「一応まだ『面会謝絶』になってるよ。刑事さんの事情聴取は終わったって言うのは聞いてるけど」 ユキと話がしたい。 さっきは邪魔が入ったから。 出来れば、あのおっさんがいない時に。 「じゃぁさ、啓太、俺らこれから会いに行くって伝えておいてくれないか?」 五年ぶりだけど。 面会謝絶ってことだけど。 ユキなら、会ってくれるんじゃねぇか? 「先輩、雛森くんの御見舞いに行くの?」 えっと・・・・・・そうだよな? 「あ、あぁ」 見舞い・・・・・・ってことは手ぶらじゃまずよな? こんな普段着でもいいのか? 一旦家に帰って着替えてくるか? 髪もちゃんとセットし直して、髭とか大丈夫かな? 「今カナちゃんが付き添ってるから、中に入れるように言っておくね」 啓太との通話を終えて・・・・・・携帯を折り畳んで・・・・・・ドキドキと高鳴り始めた心臓を、胸をギュッと上から押さえつけた。 五年ぶり。 ちゃんと、まともに・・・・・・顔見て話すって・・・・・・ 「倉科くん?」 目の前で手をひらひらと動かして、充が下から覗き込んできた。 「どうしたの?行くんでしょ、病院?」 充が不思議そうな顔をしている。 「へ?あ、あぁ」 やべっ、緊張してきた。 相手はユキなのに・・・・・いや、ユキだから緊張すんのか? と、とりあえず、見舞いって言ったらメロン・・・・・・だよな? いや、豪華に果物の盛り合わせか?

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