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第8話

【 雛森side 】 は? 「今詳しく調べてるんだけど、どうも間違いないらしいんだ」 その遺体が、桐条胡桃だって? 桐条胡桃が死んだ? そんな様子じゃ自殺ってわけじゃないよな? つまり殺されたってことで、で、誰に? なんで? やっぱりストーカーは存在してたってか? 「分からないのが、その死体・・・・・・殺されてから何日か経ってるって」 は? 「おかしいでしょ?だって、僕達ずっと会ってたんだよ、胡桃ちゃんに・・・・・・」 彼女の護衛のために、ずっと一緒にいたし・・・・・・ だって、俺を刺したのって、桐条胡桃ってことになってんだろ? それなのに、何日も前に殺されてたって・・・・・・ 俺、幽霊に刺されたのかよ? どういうことだ? 「でね・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・・・・・だって!」 は? 今なんて? これまで何が起こったのかを要から聞いていて、最後に付け足されたのが・・・・・・ あまりにも、あり得なさ過ぎて・・・・・・ 「だから、啓太から電話があって、これから倉科くん達がお見舞いに来てくれるって!」 良かったね、って続けられても・・・・・・ 「クラシナくんって?」 そんな依頼人いたっけ? クラシナって言ったら、倉科の顔しか浮かばねぇけど、そればっかりは絶対に有り得ないっつうの! でも、俺が怪我してるのを知って、わざわざ見舞いに来てくれるような依頼人で、クラシナだろ? 誰だよ? 「ちょっと、雛森くん・・・・・・同級生なんでしょ、倉科くんと」 は? ちょ、ちょっと待て・・・・・・なんで要がそんなこと知ってるんだよ? てか、なんでその倉科がここに来るんだよ? 俺が怪我したの知ってるわけ・・・・・・ないだろ? さっきのは夢だろ? 俺の願望が見せた夢・・・・・・じゃねぇの? あの倉科なのか? 本当に、あの倉科が俺の手、握っててくれたのか? 意味が解らない。 俺、五年前にフラレて・・・・・・ 男の俺に告白されて、気持ち悪いって言われて・・・・・・ それから・・・・・・会わないようにして・・・・・・ 軽いパニック状態に陥った俺に、要は不思議そうな眼差しを向けてきた。 「なんか不味いことでもあった?」 大ありだ、要。 そもそも俺の見舞いってなんで? どうして俺がココに入院していることを知ったんだ? 要によれば、ニュースに名前は出なかったって言ってただろ? 今人気沸騰中のアイドル桐条胡桃のマンションで殺人未遂事件があったってのはマスコミにとっちゃ恰好のネタだろうけど、俺の素性は放送されてないって言ってたじゃん。 「あ、俺『面会謝絶』なんだろ?」 手を握ってくれていた夢の中(?)の倉科、久しぶりに見たけど、相変わらず格好良かった。 俺の妄想力がすごいのか? あんなのが来たら、俺・・・・・・ 「うん。でも、お医者さんにも許可取ってきたよ。少しの間だけなら良いって」 なんでそういう時だけ行動が早いんだよ、要。 そんなことなら普段からもっとてきぱきと働け!! 怪我が治ったらスパルタ教育決定!! ビシバシ扱いてやるからな! 覚悟しておけよ! 「雛森くん、なんか目が怖いんだけど?」 って、どうしよう・・・・・・倉科が来る・・・・・・ どんな顔しろって言うんだよ! 俺、こんな格好だし・・・・・・そもそも何しに来るんだ? 見舞いって言ったけど・・・・・・? あ、あれか? 実は桐条胡桃のファンで、何処かから俺が彼女のボディーガードしてるって知って、サインもらってほしいとか、彼女に会わせてくれなんて・・・・・・言われたらどうしよう? 「雛森くん、何百面相してんの?」 そんな面白そうに俺の顔を覗くな、要。 こっちは今パニック中なんだよ。 と、とにかく平常心・・・・・・平常心だ・・・・・・深呼吸! 吸って・・・・・吐いて・・・・・吸ってぇ、すーはー・・・・・・すーはー・・・・・・はぁ・・・・・・ あれから五年も経ってるんだし・・・・・・ 俺の告白は冗談だったってことにすれば・・・・・・前みたいに一緒に・・・・・・って。 冗談・・・・・・じゃねぇもん。 なかったことにも出来ねぇもん・・・・・・はぁ。 「無理だよなぁ」 ぽつりと出てしまった俺の独り言に、要が振り返る。 「何?どうしたの?傷が痛む?」 「いや、平気・・・・・・なんでもねぇよ」 はぁ・・・・・・顔合わせたくねぇ・・・・・・ってか、どんな顔しろってんだよ? 五年、経ってるけど・・・・・・ 忘れててくれたら、ありがたいけど・・・・・・倉科記憶力良かったもんなぁ・・・・・・ 外は雲っているけど、雨は降りそうにない。 いきなり嵐が来て、外出が無理なくらいに天気が荒れる・・・・・・なんてこともなさそうだ。 いつの間にか病室を出て行った要にも気付かず、俺はうだうだと考え事をしていた。 ふっと視線を感じた。 窓の外を眺めている俺の背後。 窓ガラスに反射した部屋の扉が少し開いている。 そこに・・・・・・部屋の中を覗く目があった。 気付いた事を、そいつに悟られちゃいけない気がした。 何気ないフリを装いつつ、ジッと窓ガラスで様子を見ていた。 それ以上扉は動かず、ただ、忙しく瞳だけが動いている。 この部屋に俺以外の人間がいるのか探しているんだろうか? ここは個室。 たぶん名札だって扉んとこにあるはずだし、部屋を間違えたってんなら、もうとっくに気付いているはず。 俺はたった今その存在に気付いたかのような芝居をして視線を扉へ向けた。 「あれ?何か御用ですか?」 急には動けねぇから・・・・・・ゆっくり・・・・・・ 「なぁ、廊下にお客さんがいるんだけど」 誰もいない部屋で、俺は芝居をする。 この部屋には俺一人じゃない、もう一人いますよって。 要はまだ戻ってこない・・・・・・ この状況で襲われたりしたら・・・・・・完全にアウトだ。 襲われる? いや、それはないよな? 「いえ、すみません。間違えました」 すっと扉が閉まる。 その声は聞いたことのない、背筋がゾッとするくらいの冷たい印象を受けた。 「・・・・・・なんだったんだ?」 ホッと息を吐いた。 何者だったんだ? 声は低かったけど・・・・・・女だったような・・・・・・? 「入るぞ?」 突然ガラッ・・・・・・と勢いよく扉が開いて・・・・・・ 「へ?」 慌てた俺は思わず腕や足、腹に力を入れてしまって・・・・・・ しかもベッドから落ちそうになって・・・・・・ 「痛っ!!」 「うわっ、バカ!なにやってんだ!!」 ギュッと目を閉じて衝撃を耐えようとしたけれど・・・・・・ 誰かがぐいっと腕を引っ張ってくれて、なんとかベッドから落ちずにいられた。 ズキズキと傷口が傷む。 シーツを掴んで痛みが通り過ぎるのを待つ。 「おい、大丈夫か?」 ちょっと待って・・・・・・痛みが治まるまで、もう少し・・・・・・ 「雛森くん!!大丈夫?」 今のは要? ちょっと待て・・・・・・離れてる? じゃぁ今俺の腕を掴んでるのは誰だ? そっと目を開ける。 ゆっくりと掴まれた腕へ視線を移動し、高そうな時計が目に飛び込んできた。 うん百万するブランドもんの腕時計・・・・・・・・・俺がしてるのは三千円。 要がしてるわけねぇよな、そんな高級なもん・・・・・・ え? じゃぁ、啓太? あいつ、いろいろ時計持ってたけど・・・・・・こういうんじゃなくて・・・・・・もっとカジュアルな感じで・・・・・・ その腕を辿っていき・・・・・・ 「よぉ、久しぶり」 そこに、夢の中の倉科と寸分違わぬ姿の倉科の顔があった。

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