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第9話

【 雛森side 】 「大丈夫か?」 五年ぶりに見る倉科の顔・・・・・・ 倉科の声・・・・・・ 倉科の体温・・・・・・ これは現実か? 「おい?」 それとも夢の続き? 俺は、とうとう起きたまま夢を見るなんて能力を身に着けたのか? 「ユキ?」 ただポーッと見詰めるだけしか出来ない俺を、倉科はそっと背中に手を添えて寝かせてくれた。 「なんか言えよ・・・・・・久しぶりぃとか、元気だったかぁとか」 言いたいことなんて、今は何も浮かばない。 なんでいるの、って聞けば良かったのかな? だいたい俺にこの状況をどうしろって言うんだ? だって、もう一生会うことはないと思ってたんだもん。 「おい、ユキ?」 ユキって・・・・・・懐かしい・・・・・・ 俺の事をそんな風に呼ぶのは倉科くらいだよ? そんな風に呼ばれることも・・・・・・もうないって思ってた。 「くら・・・・・・」 「大丈夫ですか?」 ひょっこりと、突然、俺と倉科の間に見知らぬ男のドアップが割り込んできて、俺は思わず硬直してしまった。 「痛っ!」 余計なところに力が入って、ズキッと傷に痛みが走って涙目になる。 「充!お前はいきなり出てくるな!!」 なん、だよ? 「だって話が進まないじゃない!二人して見詰め合っちゃって。こっちは時間決められてるんだから、さっさと用件。ほら、倉科くん」 ミツルって誰? なんなの、あんた? 俺、知らない・・・・・・って当たり前か・・・・・・ 五年も経ってるんだから、俺の知らない友人がいたって・・・・・・ でも、なんか、すっげぇ親しそう・・・・・・ 本当にただの友人? 実は・・・・・・こ、ここ、恋人だったりとかしない? でも、倉科ってノーマルだよな? こっ!ここっ、こいつ、倉科の肩に手ぇ乗せてる・・・・・・ さりげない! なんて、さりげなく倉科に密着してるんだ? そんな簡単に倉科に触れられる仲なんだな・・・・・・ 「ごめんね、感動のご対面中に割り込んじゃって。でも、こっちも時間がないんだ。君もゆっくり休まないといけないしね?」 感動の対面? どこら辺に感動の要素があった? 「いえ・・・・・・あの、用件って?」 俺の見舞いが目的じゃないのか? 見舞いはついでにって事? じゃぁ、何しに来たんだ? 「あぁ・・・・・・その・・・・・・」 なんだよ、倉科。 あ、ひょっとして、その隣にいるミツルってヤツを俺に見せに来たとか? この人が今俺の付き合ってるヤツ・・・・・・ってか? まさか・・・・・・な? わざわざ? 怪我して入院してる俺に見せに? そうだったら・・・・・・俺、今この場で泣くぞ? 五年前俺のことフッたくせにって、その人の前で号泣してやるぞ? 「ちょっと倉科くん?もう、僕が話すよ?」 邪魔するなよ、お前・・・・・・ 倉科も素直なんだ・・・・・・そいつの言う事大人しく聞いちゃうんだ・・・・・・・・・・・・ちぇ。 倉科が横に退けられて・・・・・・ 「雛森さん、これのメール見てもらえます?」 ミツルってヤツがカバンの中から携帯を取り出した。 それを受け取ろうとして、素手で触らないようにと、携帯を包んでいたハンカチごと渡された。 どっかで見た事があるようなカバーとストラップ・・・・・・ 「指紋がつくとまずいんで・・・・・・操作の方も慎重にお願いします」 なんだよ、それ? まぁ、いいけど・・・・・・ で、メールの受信ボックスを一通り見てから、送信ボックスへ。 どちらも桐条胡桃と林原さんの仕事の打ち合わせメールばかり・・・・・・着歴に啓太? 恭介のに・・・・・・俺の番号? あ、これって・・・・・・まさか倉科の番号? つまり、これって・・・・・・ 「これ、誰の携帯ですか?」 なんとなく想像は出来てるけど・・・・・・ 「亡くなった桐条胡桃さんの携帯です。何か気がつきませんか?」 何かって何? そう言われてもう一度注意して一つずつ読んでいくと、なんか違和感があった。 なんだろう、語尾の使い方だろうか? それとも、絵文字の量? 俺は人差し指で下唇をなぞりながら、画面を睨むように見詰めた。 けど、一番気になるのは・・・・・・ 「どうしてコレを貴方が持ってるんですか?」 これは重要な証拠品じゃないのか? 本来なら警察が保管しているはずのものだ。 っつうことは、このミツルって奴は警察関係者? いや、だったら、さっき石橋さんと一緒に来るだろ? 石橋さんは彼女の携帯について何も言ってない。 そもそも、なんで倉科と一緒にいるんだ? 「犯人と思われる人物から電話があったんです。桐条胡桃の携帯を、彼女の遺体が見付かった場所に置いたから取りに来いって」 桐条胡桃の遺体が見付かった場所・・・・・・廃旅館? 犯人から呼び出しを食らった? なんで? しかも、どうやって取ってきたんだ? きっと、まだ捜査員が大勢いただろう? そんな中から、彼女の携帯を取ってくるだなんて・・・・・・ 下手すれば、犯人に間違われてその場で逮捕・・・・・・ 「貴方は、彼女を殺した犯人を知っているんですか?」 ミツルは首を左右に振った。 お前と桐条胡桃とどんな関係なわけ? 「いいえ、知りません。電話が掛かってきたのは倉科くんの携帯で・・・・・・」 「違う。俺が彼女の携帯に電話を掛けたんだ・・・・・・そしたら、たぶんだけど、男だと思うヤツが出た」 声はボイスチェンジャーで加工されていて、性別は分からなかったらしいから、男っていうのは倉科の感なんだな? 「なぁ、ユキ・・・・・・そのメールを読んでて思ったんだけど」 なんでだろう、倉科に『ユキ』って呼ばれると胸がぎゅ~って痛ぇよ。 倉科、お前覚えてる? 俺五年前に告白してフラレてるんですけど? そんな普通に話しかけられたって、俺、困るよ・・・・・・ 「ひょっとしたらさ、俺達が会ってた桐条胡桃は、最初から偽物だったって可能性はないか?」 え、どういうこと? ってか、その前に、俺達って・・・・・・? 「本物の桐条胡桃さんは、もう随分前に殺されてたって言ってたでしょ?なのに、最近まで僕達は彼女と仕事してたんだ」 僕達? 「俺達は最初から偽物の桐条胡桃と出会って、偽物の桐条胡桃の手の上で良いように動かされてたって・・・・・・・」 偽物の・・・・・・桐条胡桃の手の上? 「何か、彼女と会っていて気付いたことってありませんか?」 さっきから交互に話してきて・・・・・・息の合ったコンビだな。 「俺より恭介・・・・・・所長の方が分かると思う。マネージャーの林原さんから何か他の事も依頼されてたみたいだし・・・・・・俺はその内容を聞かされてないけど」 ひょっとしたら、桐条胡桃のことが気になって林原さんが恭介に依頼していたことがあるのかも? いつの間にか入れ替わった本物と偽物? 俺達が最初に会ったのは本物だったんだろうか? 偽物の桐条胡桃が本物を殺したのか? それはいつ? 林原さんは気付かなかったのか? 「その、あのさ、あのおっさ・・・・・・ユキの叔父さんに会って話出来るかな?」 今度は恭介に会って話を聞こうって? 俺はもういいの? 用済みですか? 「さぁ・・・・・・忙しい人だから、アポなしは無理」 アポなんかなくっても・・・・・・いつもなら事務所にいて簡単にすぐに会えるけど。 そういえば、恭介、何処に行ったんだろう・・・・・・ 最初はココにいたらしいけど・・・・・・ 「あ、じゃぁさ!」 その時、コンコン、とノックされて看護士が顔を覗かせた。 「時間です」 「あ、すいません・・・・・・ユキ、あのさ・・・・・・・・」 「ごめん、もう休みたいから」 俺は倉科の言葉を遮って布団を被った。 倉科は恭介にアポを取っておいてって言おうと思ったんだろう? なんで倉科が彼女の事を調べてるのかは知らないけど・・・・・・ 結局俺の見舞いに来たんじゃないし。 マジでミツルってヤツ、見せに来ただけなんじゃねぇの? 「・・・・・・ユキ、また来るから・・・・・・無理すんなよ?」 ぽん、っと軽く布団の上を叩かれた。 扉が閉まる音が聞こえて、そっと布団から顔を出す。 そこには要しかいなかった。 「何やってるの、雛森くん?折角倉科くん達お見舞いに来てくれたのに」 お前、どこをどうとったらお見舞いに来たって言えるんだよ? 今のは警察の事情聴取みたいだったろ? 石橋さんより、いっぱい聞いてったろ? 俺の話題なんて何処にも無くて、ずっと桐条胡桃のことを聞いていただけ。 「雛森くん?さっき倉科くん達からもらったメロン、切ってあげようか?」 メロンもらったら全部見舞いだと言う気か、お前は? モノに釣られるなよ、要。 その前に、メロンは食べる一時間前に冷蔵庫に入れて冷やしてからの方が美味しいんだぞ? ・・・・・・じゃなくて。 「なぁ、要・・・・・・なんで倉科は桐条胡桃のこと調べてんの?」 ミツルって奴と一緒に・・・・・・ 「えぇっと、倉科くんモと充さんはモデル仲間で・・・・・・」 へぇ、通りで綺麗な顔してると思った。 俺じゃ、倉科の隣に立つには不釣合いってこと・・・・・・か? 倉科と・・・・・・ミツル・・・・・・わぁ、お似合い・・・・・・って、ショック受けてんじゃねぇよ、俺! 「一緒に仕事したことある胡桃ちゃん本人から、うちみたいにストーカー被害に合ってるって相談されたみたいで、職場で彼女のボディーガードみたいなことしてたみたいだよ?」 職場でのストーカー行為は見られないって林原さんが言ってたけど? 同じ業界仲間なら、俺達の知らない情報とかも持ってたんだろうか? いや、俺達は探偵のプロ。 それに、警察との情報交換も行っているから、落ちはないはずだ。 倉科達素人だけの捜査には限界がある。 ふっと手元に何かが当たって、その正体を確かめる。 そこには、さっきミツルってヤツが寄越した桐条胡桃の携帯があった。 「要、石橋さんに連絡してくれ」

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