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第10話

【 雛森side 】 要は俺の手にある彼女の携帯を見て、こくっと頷いて部屋を出て行った。 が、すぐに戻ってきた。 何か忘れものなのかと思いきや・・・・・・ 「この部屋の内線専用電話、所長がね、外線も繋げられるようにしてやってくれって言ってくれて使えるようになったの忘れてた」 あわてんぼさん、と自分の頭を軽く小突いて舌を出す。 なんか、表現が古いな。 桐条胡桃の携帯・・・・・・大切な証拠品だ。 犯人から倉科に渡された。 どうして犯人は倉科に? 「雛森くん、石橋さんに繋がったけど?」 電話が乗っている小さな台車を、コロコロと音を立てながら、電話線が伸びるギリギリまで引っ張ってきた。 受話器を要から受け取って耳に当てる。 「石橋さん、桐条胡桃の携帯なんだけど・・・・・・・・今、俺の手元にあるんだ」 あ、驚いてる。 そうだよな、そういうリアクションになるよな? 俺はそのまま先程倉科達から聞いた、彼女の携帯を手にするまでの経緯を説明した。 「それでね、このままこの携帯を倉科に預けておこうと思うんだ」 そうしたら、犯人がなんらかのアクションを起こすかもしれない。 石橋さんは数秒考えたようだけど、すぐに許可してくれた。 上司に確認しなくてもいいのかなって少々心配したけれど、そうなったらそうなった時だってと豪快に笑うから・・・・・・まぁ、ありがたくそうさせてもらうことにしよう。 で、今頃この病室に携帯を置いてきちゃったことに気付いたかなぁ? それとも、ミツルとおしゃべりが忙しくって忘れちゃってるかなぁ? ふっ、ふっ、ふっ・・・・・・あれ? 「要?どこに掛けるんだ?」 俺の手に握られたままの受話器を取り上げて、別の場所に繋いでいるようだ。 「暇な啓太からメールが来たんだ。倉科くん達が事務所に来たって。冷蔵庫の中のジュース出してもいいかって・・・・・・あ、もしもし?」 倉科がうちの事務所に? 「なぁ、倉科に代わってくんね?」 この携帯のこと言わなきゃ・・・・・・ それから・・・・・・要から受話器を受け取って、倉科の声が聞こえた。 「倉科?携帯は要に持たせる。倉科んちに持って行くように言っておくから・・・・・・あと、今日はわざわざ見舞いに来てくれてありがとう。ごめん・・・・・・でも嬉しかった・・・・・・それじゃぁ」 ぷつっと一方的に電話を切った。 っつうか、緊張したぁ。 「それ、倉科くんちに持ってくの?僕が?」 聞こえてただろ? 繰り返して聞くなよ。 「取りに来てもらえばいいのに」 なんだ、何か不満でもあるのかよ? 「あ、啓太からの着信だぁ」 はぁ?今音鳴ってねぇだろ? あぁ、マナーモードになってんのか・・・・・・ってか、本当に繋がってるのか? 「え?倉科くんが雛森くんのボディーガードしにくるって?」 ん? 今なんだって? 要、なんだよ、そのキラキラした目は・・・・・・ 「雛森くん、これから倉科くんがボディーガードしに来るって」 は? なに、なんで? 何をそんな浮かれた顔してんだよ、要・・・・・・ お前の言ってる意味が分からん・・・・・・ そして、なぜ、お前は嬉しそうに笑うんだ? 「なぁ、要・・・・・・なんで倉科が来るんだよ?」 ここ警察病院だぜ? しかも、ボディーガードしにくるなんて・・・・・・ 素人の倉科より警護の方が頼りになると思うんだけど? いや、だからって倉科が頼りにならないってんじゃなくって・・・・・・ 格闘技やってる倉科・・・・・・胴着は白より黒が似合うかも・・・・・・うん、格好いい・・・・・・って! 俺、倉科本人に会って妄想力増幅中? 「もう!何言ってるの雛森くん!倉科くんは心配なんだよ!!」 何が? 桐条さんの携帯は要に渡すって言ったろ? ちゃんと紹介されたミツルってヤツのこ、こっ、こいびっ・・・・・・・・・こ、こと見ただろ? 確かに綺麗な顔してたよ! 倉科の隣で、すっごくお似合いだったよ。 何? まさか、その感想が聞きたいとか? 「なにその顔は!!」 俺の眉間に寄っていた皺に要の指が伸びてきた。 それをスレスレで叩き落とす。 「倉科くんは雛森くんがまた襲われたりしないかって心配なんだよ!」 は? 俺が心配って・・・・・・なんで? 扉の外には警官配備されてるし、至るところに防犯カメラもついてるし・・・・・・ 「なんでそんなこと、倉科に心配されなきゃいけねぇんだよ?」 俺はな、要・・・・・・ あいつに中学三年の卒業式の日、好きですって告ってフラれたんだよ。 気持ち悪いって言われたんだよ。 それに、さっきだって・・・・・・俺の態度悪かったろ? ちゃんと自覚あるんだよ。 だって、隣に俺じゃない、ミツルってヤツがいたんだぜ? 好きだって告白して、フッた相手に、今のこ、こここっ、こいびっ、こっ、見せびらかしに来て・・・・・・ なんだテメェって視線をミツルに向けてたろ? 俺のギラギラに鋭い視線が、ミツルってヤツにグサグサァッと突き刺さってたろ? あれで気を悪くしないはずがない。 あ、だからなのか? だから俺に文句を言いに来るのか? 俺のこっ、こいびっに対してなんだ!その態度は・・・・・・とか? そんなこと・・・・・・・・・俺・・・・・・泣く? 泣いちゃうかも? 泣いてもいいよな? その時は要、俺にハンカチ貸してくれよ? 「あのねぇ、そんなの雛森くんのことが大事だからに決まってるでしょ?」 え? どうした要? お前そんな・・・・・・いや・・・・・・いや、まさか・・・・・・そんなこと・・・・・・なぁ? 要・・・・・・いきなり、そんなドキッとすること言うなよ・・・・・・ 有り得ねぇから・・・・・・マジそんなこと・・・・・・絶対ない。 「幼馴染が幼馴染を心配して何かおかしいところでもある?」 その疑問はごもっとも・・・・・・でも、俺たちの場合はそうじゃねぇんだよ。 もう、ただの幼馴染じゃねぇんだよ・・・・・・ フッた男と、フラれた男って関係なんだよ。 「そうだ、この際、ほら、同窓会のことでも話せば?一緒に行こうって誘ってさぁ」 ばぁか・・・・・・そんなコトに行けるわけねぇだろ・・・・・・ 知られてるから。 俺が倉科に告ったって、クラスの奴ら全員知ってるんだよ・・・・・・フラれたショックで呆然と立ち尽くしてたから、目撃情報多数。 そんな中、二人で行ったりなんかしたら・・・・・・ もう、なんの関係もないのに、いらん誤解を招くだろうが・・・・・・ 俺なんかのことはともかく・・・・・・倉科は迷惑だろ? ミツルってヤツがいるのに・・・・・・ 俺なんかのことで・・・・・・っつうか、そもそも、なんで同窓会の事をお前が知ってるんだよ? 「それは啓太が勝手に中身を見ちゃったから、なんだけど・・・・・・ねぇ、雛森くん・・・・・・怪我のせいで考え方が暗くなってない?」 いや、こればっかりは怪我のせいでってことはねぇよ・・・・・・ 俺はフラれた身だから・・・・・・ 俺なんかのことで、倉科の手を煩わせるようなことしちゃいけねぇんだ。 「あのね、雛森くん・・・・・・」 はぁ、なんだよ・・・・・・ 俺は盛大な溜息をついて、髪を掻き乱して顔を上げた。 「気付いてないかもしれないけど・・・・・・さっきから全部口に出して言っちゃってるよ?」 ずいっと要の顔が迫ってきた。 「へ?」 間 「だ・か・ら!!雛森くんが中学校三年生の卒業式の日に倉科くんに告白して玉砕、更にそれをクラス全員知ってる・・・・・・・更に更に、新恋人だという充さんに対して烈火の如く嫉妬しまくってるって・・・・・・みんな聞いちゃってるんですけど・・・・・・」 うそ?! 「本当!あのねぇ・・・・・・これって相当重傷だよ?そっかぁ・・・・・・雛森くん、倉科くんのこと好きなんだね」 うんうん、って何納得してんだよ? なんで嬉しそうなんだよ? まさか、俺の弱みを握ったとでも思ってるのか? それでバイト代上げろとか脅迫する気か? お、俺はそんな脅しには屈しねぇぞ! 恭介だって俺が男に告ってフラれたこと知ってるんだぞっ! 恭介が、要が俺の事を脅迫してるって知ったら、バイト料没収されるんだからなっ! 「僕恋愛の相談ってされたことないから、なんてアドバイスしたらいいか分かんないけど・・・・・・でも、充さんが倉科くんの恋人ってのはないと思うよ?」 いや、俺お前に恋愛相談なんてしてねぇし。 アドバイスくれとも言ってねぇし、そもそもお前にそんなもん期待してねぇ! 「啓太だったら、もっと上手く雛森くんのこと励ましてあげられたかもしれないけど・・・・・・」 いやいや、ちょっと待て? 励ましなんていらねぇから・・・・・・それに! 「要、啓太には絶対言うなよ!」 あいつ、いろいろ煩いから・・・・・・ 「大丈夫だよ。僕達口は堅い方だから」 なんか不安だ・・・・・・ でも・・・・・・こいつの態度・・・・・・ 「なぁ?」 どうして、俺が倉科に告白したって聞いてそんな平気でいられるんだよ? 男の俺が男の倉科に告ったんだぜ? 倉科だって、気色悪ぃって・・・・・・俺・・・・・・最低って言われたんだぜ? たぶん、俺だって逆の立場だったら・・・・・・そう言ってたかもしれない。 「なぁ、要・・・・・・俺のこと、気持ち悪くねぇの?」 「なんで?」 なんでって・・・・・・ 「雛森くんは雛森くんなんだし?」 そんなマジな顔で聞かれても・・・・・・ 「しょうがないじゃない・・・・・・倉科くんのこと、好きになっちゃったんでしょ?」 そうだけど・・・・・・ 「倉科くんって格好いいもんね?僕が見てもそう思うし・・・・・・まぁ倉科くんだったら良いんじゃない?」 何が? 倉科ならいいって・・・・・・何が? 何がいいの? 「お前、ひょっとして・・・・・・お前も倉科のこと・・・・・・」 だって、いくらなんでも・・・・・・これって理解ありすぎるだろ? 倉科ならいいって言いだすし? 要って実は・・・・・・そっち系だったのか? で、倉科に気があったりする? こっそり、ひっそり、ライバルだった? ライバ・・・・・・ル・・・・・・って・・・・・・恋敵と書いてライバルと読ませる? 「僕は女の子が好きだよ。倉科くんは友達として格好いいし、熱いし、いい人だって思うよ?まだ付き合いは短いけどさ?」 本当に? 「俺だってちゃんと女の子見て可愛いとか綺麗だって思える・・・・・・でも、さ・・・・・・なんか違うんだ・・・・・・倉科とは」 気付いちまったら、どうしようもなくて・・・・・・ 倉科以外を・・・・・・倉科以上に想えなくて・・・・・・ 「今でも倉科くんのこと好きなんでしょ?」 あぁ、好きだよ。 忘れられないんだよ・・・・・・ だから、これ以上嫌われたくねぇんだ。 諦めなきゃいけないって、分かってるからさ・・・・・・ちゃんと分かってるから・・・・・・ この先に幸せなんてないってことくらい、分かってるから・・・・・・時間をくれ。 「なぁ、要・・・・・・倉科にさぁ、来なくていいって言ってくんね?」 今顔見たら甘えちまうから・・・・・・ 迷惑掛けちまうから・・・・・・ 倉科は優しい・・・・・・から、こんな状態の俺に、きっと手を差し伸べてくれる。 その手を掴んだら離せなくなる。 倉科にはミツルってヤツがいるのに・・・・・・どんな卑怯な手を使っても・・・・・・二人を引き離したくなる、気がする。 「嫌だ」 短い返事で・・・・・・嫌だぁ? 「なんでだよ!」 たった今俺の気持ち分かってくれたんじゃねぇのか!! 「雛森くんの言いたい事も分かるけど、倉科くんだって馬鹿じゃないんだから、五年前のことだって覚えてるでしょ?なのにボディーガードしてくれるって言うのは、なにか考えがあってのことだと思うし。それ知ってからでもいいでしょ?」 そんな怖いこと言うなよ・・・・・・ 俺、次は・・・・・・今度こそ立ち直れない・・・・・・ あの後だって、何も喉を通らなくなって・・・・・・ ぶっ倒れて恭介に怒られて、病院に連れてかれて・・・・・・ 「倉科くんの気が変わったかもしれないじゃない」 それはねぇって・・・・・・ 「俺、雛森の事が好きだったんだって気付いたとか?」 あ、お前今俺のこと呼び捨てにしただろう! それに、今ちょこっと倉科のモノマネ入れた? 全然似てねぇからなっ! 「・・・・・・それは、絶対にねぇって」 お前は、あの時の去り際の倉科を見てないからそう言えるんだよ・・・・・・ ったく、どうして今日はそうポジティブなんだよ? お前、前はネガティブ大王だったじゃねぇか! ひょっとしてポジティブ大王、啓太の生霊が憑いてるとか? お前ら正反対同士のくせに! あ、そういえば・・・・・・ 「倉科、モデルやってるんだろ?ってことは、女の子にモテ放題だろ?」 男の俺に未練なんてないだろうし? いや、そもそも未練だなんて感じねぇか・・・・・・ 「逆に女の子の嫌な部分を見すぎて嫌になっちゃってさぁ・・・・・・俺、男に目覚める!!だったら、雛森みたいなやつがいいっ・・・・・・みたいなさぁ」 またモノマネ入れたな! なんだ、その拳を握ってガッツポーズ・・・・・・倉科なら、絶対にそんなダセェポーズしねぇからなっ! それに・・・・・・倉科に限ってそんなこと絶対言わない。 妄想力増幅中の今だって、そんな姿想像も出来ない。 男に目覚める、なんて叫ぶ倉科なんて絶対にない! 有り得ないから! 「そりゃ、そんなこと大声で叫ばないだろうけど・・・・・・もう!怪我のせいでどんどん悪い方向にしか考えれてないじゃない!!考えるのやめ!やめ!!ほら、もう一度寝て!!」 そんなこと言ったって・・・・・・ 目を閉じたら思い出すんだよ・・・・・・ あの時のこと・・・・・・ 満開の桜が・・・・・・ 校舎裏に呼び出した倉科は・・・・・・告白した俺に・・・・・・気色悪いって言って・・・・・・ それから・・・・・・一度も振り返らずに・・・・・・ 離れて・・・・・・行ったんだ・・・・・・・・・・・・ 意識が遠ざかっていくのが分かる・・・・・・ 俺、このまま眠って・・・・・・・・・・・・ その時だった。 聞き覚えのあるメロディーが流れて、俺の意識は浮上した。 要が携帯を手にして、困惑した顔を俺に向けてくる。 「どうしよう・・・・・・胡桃ちゃんの携帯が鳴ってるんだけど・・・・・・出た方がいいのかなぁ?」 ソレを受け取ってディスプレイを確認すると、非通知の文字が表示されていた。 非通知拒否の設定してねぇのか? そのまま通話ボタンを押す。 「・・・・・・・・・・・・もしもし?」 向こう側からは何も聞こえない。 出たのが女の声じゃなくて、男の声だったから相手はビックリしてるんだろうか? まだ桐条胡桃が死んだった知らない人なのかも? でも、非通知になってるし・・・・・・ 普通友人とかなら番号は表示させるんじゃねぇか? 「もしもし?聞こえてますか?」 だが、相手からは何の返事も無い。 ただの悪戯電話なのか? 桐条胡桃に本物のストーカーがいて・・・・・・そいつからとか? でも、無言だ。 出たのが桐条胡桃じゃないって分かったはずなのに切れもしない。 「何も言わないんだったら切るぞ?」 クスッと笑う声が漏れた。 「?」 俺と要は顔を見合わせた。 「元気だね、刺されて間もないのに」 その声は冷たく加工されている。 「お前・・・・・・誰だ?」 こいつ、出たのが俺だって分かってる? 「誰って・・・・・・あんたを刺した者でぇっす」 俺を刺した? あの青いレインコートのヤツ? 乾いた唇を舐めて、携帯を握り直す。 「あんたが俺を刺したって?」 目の前の要がギョッと目を見開いた。 「そうだよ・・・・・・ついでに言うとぉ、桐条胡桃も僕が殺したようなもんかな?」 携帯のスピーカーをオンにした瞬間、通話相手がとんでもねぇこと抜かしやがった。 そのまま、要は廊下に待機していた警官を病室に入れた。 「だぁってぇ、僕桐条胡桃嫌いだったんだもん。くくくっ、僕のものを盗ろうとするから・・・・・・ふふっ、しょうがないよねぇ?」 会話の間に聞こえてくる笑い声がイラッとする。 「結構簡単に騙されてくれてさぁ、僕の後ひょこひょこついて来てぇ、自分が殺されるって分かったあの時の、あの瞬間の顔って言ったら・・・・・・あははははっ」 「てめぇ!!」 メキッって携帯が音を立てた。 「でさぁ、僕思ったんだよ」 俺の怒りなんか意に介していない様子で奴は続ける。 「僕の言うこと聞けないバカな奴、皆いなくなればいいんだって」 だからさ、と一旦言葉が途切れる。 少しの間沈黙が流れ、俺達は奴の次の言葉をただジッと待った。 「だから次は失敗しない・・・・・・僕の事を裏切れば、絶対にあんたを殺すよ」 プツッと通話が切れ、無機質な音が繰り返された。 「ちょっ!おい、もしもし?もしもし!!」 俺に対しての殺意? 裏切るってなんだ? 警官が要に何か言って病室を飛び出して行った。 「雛森くん」 携帯を握り締めたままの俺の手から、要がソレを抜き取った。 「雛森くん、大丈夫?」 掴んでいた携帯は桐条胡桃のモノで、指紋を付けちゃいけなかったことなんて今更どうでもいいことだった。 桐条胡桃がヤツから何かを盗ろうとした? 俺と桐条胡桃の接点ってなんだ? なんで俺が狙われる? 裏切るって・・・・・・なんだ? 「雛森くん!」 犯人は俺が知ってるヤツなのか? 一体誰なんだ・・・・・・

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