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第11話
【 倉科side 】
10分って、あっと言う間だったな。
あ、ユキの容体聞きそびれたじゃねぇか!
ユキは、怪我のせいだろうけど顔色が悪くて・・・・・・
機嫌もちょっと悪くて・・・・・・
いや、死にそうな怪我したわけだから、機嫌がいいわけないのは当たり前なんだけど。
他人行儀って言うか・・・・・・
俺達もっとこう・・・・・・さぁ、もっと、えっと・・・・・・なんて言ったらいいのか。
本当は桐条胡桃のことより、ユキの怪我の具合を聞きたかったけど・・・・・・
なんか、いちいち充が邪魔で。
いや、事件が大事なのは解ってるけどさ。
まぁ、あれだけ話せたんだから、大丈夫だろうけど・・・・・・
医者だって命に別状はないって言ってたから心配ねぇんだけど・・・・・・
他にも、もっと話をしたかったというか・・・・・・
最近どうしてた、みたいな、お互いの近況報告とかしてみたり?
うーん・・・・・・
しかも、ユキの病室に胡桃ちゃんの携帯忘れて来て・・・・・・
あいつ、気付いたら警察に渡しちまうんじゃぁ・・・・・・
本来俺達が持ってたらマズイもんなんだし!
そうなったら、俺達が誰から手に入れたのかって聞かれるだろ?
そしたら、充の従兄弟の鉄ちゃんに迷惑が掛かる・・・・・・か。
でもなぁ、さっきユキのヤツ、なんか怒ってたろ?
眉間に皺が寄ってて・・・・・・
話し方もなんか、昔のユキとは違ってて・・・・・・イライラしてたっていうか・・・・・・あれ?
初対面の充に対してイライラするわけねぇか?
あいつ超人見知りだし。
あれ?
え?じゃぁ・・・・・・あれって原因は俺?
俺何かした?
って、したじゃねぇか!
やっぱり五年前のこと・・・・・・関係してる?
あの後会えなくなるなんて思ってなかったし。
あれっきりになっちゃって、お互い連絡も取らず今に至るわけで。
でもさ、まさか、あれって・・・・・・冗談なんかじゃなく本気の告白だったりした?
だから告白を邪険に扱った俺が、なんでもなかったかのようにユキの目の前に現れてイライラした・・・・・・とか?
なんなの今さら・・・・・・みたいな?
いやいや、まさか?
え?
ユキが・・・・・・俺のことずっと好きっだったって・・・・・・言ったんだよな?
好き?
友達としての好き・・・・・・え?それ以外にどんな好きがあるんだよ・・・・・・?
す・・・・・・きって・・・・・・
「倉科くん?顔赤いけど大丈夫?」
友達としての好きじゃなくって・・・・・・・こ、こここ・・・・・・
え?
俺、ユキのことフッた形になってるんだよな?
からかわれたと思ったんだ。
卒業式に、女子達にボタン取り合いされて調子に乗ってて・・・・・・
それをユキに、あんな形で茶化されてって、なんか一気に熱が冷めたって言うか・・・・・・
だから、あんな態度をとっちゃったわけなんだけど・・・・・・
ユキ、それでも・・・・・・今でも俺のこと好きでいてくれたりする?
ひょっとして一緒に病室に現れた充に嫉妬したとか?
まさか・・・・・・なぁ?
話が飛躍しすぎたな。
「倉科くん?」
ユキは怪我人なんだし・・・・・・
ゆっくり休ませねぇと・・・・・・
昔から無茶ばっかしてたし・・・・・・
自分のことより、人のことばっか気にしやがって・・・・・・
誰かが側にいてブレーキ掛けてやらねぇと・・・・・・
あいつ、倒れるまで無理して・・・・・・
昔は、その役目はいつも俺がしてたんだよな・・・・・・
いつも俺がユキの隣にいて・・・・・・
「あ、ちょっと、倉科くん!あれじゃない?」
充に言われて車を道の端に停める。
小っさい看板・・・・・・
ごちゃごちゃ考えてたから、危うく見落とすとこだった・・・・・・
啓太に聞いてなかったら通り過ぎるところだったな。
雛森探偵事務所に到着。
「啓太、今事務所の前・・・・・・・分かった。地下の駐車場な」
携帯で啓太と連絡を取り、指示された駐車場に停車させ、俺達はエレベーターで事務所のある階に向かった。
事務所には、啓太だけがぽつんとパソコンの前に座っていた。
男ばかりだと聞いていた事務所の中は、想像していたより綺麗に整理整頓されている。
「お前一人なのか?」
他に誰もいねぇじゃん?
「皆の行き先掲示板は真っ黒・・・・・・僕だけ、なぁんにもないんだ」
そりゃ、お前いっぺん辞めてっからなぁ・・・・・・ってか、よく戻って来られたもんだ。
正社員の人達の予定表はびっしりと埋まっていた。
そのホワイトボードの下の方、バイトの欄に啓太の名前があった。
「って、そうだ、啓太・・・・・・あのさぁ、お前・・・・・・」
啓太経由でユキに連絡を入れればいいんじゃん。
俺、今なんて声を掛けたらいいか分かんねぇ・・・・・・
ユキの声聞いたら、自分の声がひっくり返りそうだし・・・・・・そんなの恰好悪いじゃん。
「胡桃ちゃんの携帯?」
事情を説明すると、不思議そうに俺を見てから、快く引き受けてくれた。
あいつの部屋は個室。
面会謝絶の札が掛かっていたにも拘わらず、内線電話で直接ユキと話せるようになったらしい。
「うん、そう・・・・・・今代わるね」
ん?
「先輩、雛森くんが代わってって」
なんだって?
俺に代われって?
なんで?
俺大丈夫だろうか?
めちゃくちゃ意識してるぞ、今。
第一声、が、大事だ・・・・・・よし。
受話器を渡されて、ドキドキしながら耳に押し当てる。
「も、もしもし?」
なんで今更緊張なんかするんだろう?
声が少しだけ上擦った・・・・・・
そんな憐れむ目で見るなよ、充。
「倉科?携帯は要に持たせた。倉科んちに持って行くように言っておいたから・・・・・・あと、今日はわざわざ見舞いに来てくれてありがとう。ごめんな・・・・・・でも嬉しかった・・・・・・それじゃぁ」
ぷつっと一方的に電話は切れた。
「倉科くん?」
俺は何も言うことが出来なくて、ただ、ツーツーッと鳴り続ける受話器を握り締めたまま、しばらく突っ立っていた。
ごめんなって・・・・・・なんで謝った?
「お~い、倉科く~ん?」
俺が行って嬉しかったんだろ?
でも、ごめんって?
俺、何かされたか?
「倉科くん!」
充に何度か名前を呼ばれて我に返る。
「どうかしたの?」
受話器を啓太に返し、不思議そうな顔で見詰めてくる二人を他所に、俺は近くの椅子に座った。
「ゆ、雛森が携帯・・・・・・要に渡したって・・・・・・で、俺んちに持ってきてくれるって」
「あ、そうなんだ」
充の知りたかった答え。
そして、啓太は・・・・・・
「ねぇ、雛森くん他に何か言ってなかった?」
あぁ、なんか頭ん中ぐるぐる回ってる・・・・・・
「見舞いに行った礼言われた」
「それだけ?」
なんだよ、それだけって?
何を期待してんだよ?
ってか、それ以外に何があるんだよ?
いや、俺もちょっと期待してたのかも・・・・・・しれねぇけど・・・・・・ごめんって・・・・・・何?
「雛森くんが代わってって言うくらいだから、なんか特別のこと言われたんじゃないかなぁって思って・・・・・・ほら、同級生だったんでしょ?なんか、こう・・・・・・」
例えば・・・・・・って、お前、そこ誰の席だよ?
位置から言って、バイトのお前が座るよう席じゃねぇだろ?
机の上に散らばった書類の一番上に置いてある封筒・・・・・・
どこかで見覚えのあるソレの宛先は、雛森由貴・・・・・・ってことは、そこ、ユキの席なんじゃねぇか?
「同窓会一緒に行かないか、とか?」
封筒を見つけた啓太が、それを手にした。
同窓会へ一緒に?
「だって雛森くん、まだ出欠の返事出してないみたいだよ?」
お前、この状況でそういう話は出ねぇだろ?
それに、勝手に中身見てんじゃねぇよ。
確かに出欠の葉書が入ったままだな・・・・・・あいつ、行かねぇのか?
同窓会なら、俺絶対顔出すって分かってるよな?
ってことは、やっぱり俺に会いたくなかった・・・・・・みたいな?
社交辞令で、来てくれてありがとうって?
もう俺のことなんか何とも思ってないんだ、ごめんねって?
いかん・・・・・・どんどん考えが暗くなってく・・・・・・
「啓太くん、この状況下でそういう話は出ないと思うよ?」
俺が言いたかったことを代弁した充は、ねぇと俺に相槌を求めてきた。
「でもさぁ、しばらく雛森くん動けないんだから退屈でしょ?休みの日だって仕事入れて休もうとしないんだよ、あの人・・・・・・仕事の鬼だもん」
そんなに働いてんのか・・・・・・
「こういうときこそ、ゆっくり休んでもらいたいじゃん」
なんだ、たまには良い事言うんだな、啓太。
「でも、雛森くんを刺した犯人見付かってないからさぁ・・・・・・心配なんだよなぁ」
そうだ・・・・・・あいつを刺した犯人、まだ捕まってねぇんだ。
「何が目的で雛森くんを襲ったかも分からないし・・・・・・」
なんでユキは刺されたんだ?
桐条胡桃に呼び出されて彼女のマンションへ行き・・・・・・そこで刺された。
状況から言えば、ユキを刺したのは桐条胡桃って可能性が高い。
でも、その桐条胡桃は既に誰かに殺されてて・・・・・・
じゃあ、桐条胡桃の偽物がユキを?
桐条胡桃の偽物?
「なぁ、俺がゆ、雛森に付き添おうか?」
思い切って切り出してみる。
「え?」
「まぁ、そのうち言い出すだろうとは思ってたけど・・・・・・で、倉科くん、モデルのバイトはどうするの?」
なんだ充?
何で俺がそのうち言うって事が分かった?
お前は預言者か?
「暫く休業する」
別に金に困ってバイトしてるわけじゃない。
ただの暇つぶしだったんだから・・・・・・
「あ、先輩、俺も一緒に泊まっちゃおっかな?」
お泊まり会かよ!
「あのね、啓太・・・・・・あそこは警察病院だから、警護はばっちりだと思うよ・・・・・・・」
「何言ってるの!充ちゃん!よくドラマとかで警察病院に入院中の被害者が殺されるってパターン、よくあるじゃない!!」
嫌なこと言うなぁ、啓太・・・・・・
でもまぁ、確かになぁ。
その場合、その被害者は犯人に繋がるなんらかの証拠を掴んでる。
ユキは・・・・・・自分でも知らないうちに、犯人と繋がっちゃってたりするのか?
「あのねぇ、それはフィクションですって最後にちゃんと書かれてるでしょ?」
呆れ顔の充が啓太の頬を抓る。
「痛いよ、充ちゃん・・・・・・でもさぁ・・・・・・」
充がなんと言おうと、俺の気持ちは決まったぜ。
「だよな、啓太、ゆ、雛森にそう連絡入れといてくんね?」
今からマンションに必要なもん一式取りに帰って、そのまま病院に直行する。
いろいろ話がしたい・・・・・・
五年前の事も・・・・・・ちゃんと話そう。
俺は冗談だって受け取っちまったけど・・・・・・ひょっとしたら、あいつは本気だったのかもしれない・・・・・・
いや、本気だったんだよな?
結果、俺は、ユキを傷つけた・・・・・・
ってことは、最初はやっぱり謝った方がいいんだよな?
で・・・・・・俺は・・・・・・ユキのことどう・・・・・・思って・・・・・・るのか・・・・・・
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