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第13話
【 雛森side 】
暫くして、石橋さんが戻ってきた。
俺が素手で触っちゃった桐条胡桃の携帯を、もちろん石橋さんは白い手袋しながら操作してて。
これまでの捜査状況も、本当はダメなんだろうけど、いや、ちょっとだけだけど、こっそり俺に教えてくれて・・・・・・
それでも、あんまり捜査が進んでるわけでもなく、新しい手がかりを掴めているわけでもなく・・・・・・
言うなれば、この携帯が新しい手がかりなわけなのに、俺の我儘で倉科に渡しちゃうわけで・・・・・・
話の区切りがついた頃、倉科達が病院に着いたって連絡があった。
要が入口まで迎えに行くって出ていく扉の向こう側、警官が一人から二人になってた。
「じゃぁ、由貴くん。我々は捜査本部に戻るよ」
カタッと音を立てて石橋さんが椅子から立ち上がる。
「事件のことは気にしないで大人しく寝てるんだよって言っても無理だろうけど、無茶はしちゃダメだからね?、恭介が鬼の形相で怒るから?」
知ってる。
恭介に・・・・・・・・・本気で怒られたことあるから。
無茶はしない。
恭介に心配は掛けない。
「解ってますよ」
石橋さんは俺の髪をくしゃっと撫でて・・・・・・
「お大事に」
そう言って、俺の額にチュッて・・・・・・・・・この人、キス魔だな。
「これ、途中で倉科くんに渡しておくよ」
桐条胡桃の携帯を手に、石橋さんは病室から出て行った。
パタン、と扉が閉まる。
部屋には俺一人。
いや、もうすぐココに倉科が来る。
どうする?
どうしよう?
と、とりあえず、寝ておく?
寝たふりしておく?
傷口に負担を掛けないように、扉側に背中を向けて横になったところでノックが聞こえた。
「雛森くん、倉科くん来てくれたよ」
パタパタと要が駆け寄ってきて、俺と視線を合わせるように腰を折った。
「さっき、石橋さんが倉科くんに桐条さんの携帯渡してた」
要、なんでそんなにニコニコしてんの?
「ん」
「倉科くんね、雛森くんのこと護る気満々だから」
護る?
倉科が・・・・・・俺を護る?
「だから、僕一旦事務所に戻るね」
は?
ちょっと待てよ!
お前が帰ったら俺、倉科と・・・・・・あれ?ミツルってのは一緒なのか?
え?
嫌だよ、そんなイチャラブな二人の間に挟まれるのなんか!
そんな空間にいたくねぇぞっ!
「なっ!なんで帰るんだよ!痛っ!!」
焦って腹に力を入れてしまった。
「もう、何やってるの、雛森くん。大丈夫だよ、倉科くんが一緒にいてくれるから」
いや、だからっ!
「いや、そうじゃなくて・・・・・・お前が帰ったら・・・・・・おい、要!!」
「じゃぁ、倉科くん、後お願いします」
俺を無視するなよっ!
どうすんだよ!
俺はどうしたらいいんだよ!
「あぁ、分かった」
倉科が分かったって・・・・・・・分かったって何を?
「折角の二人っきりなんだから、甘えちゃえば?」
ぼそっと要が耳元で囁く。
「こっちは怪我人なんだから。この状況をうまく使って、ね?」
おい、こら、要!
マジで勘弁してくれよ・・・・・・俺の願いも空しく、要は今にもスキップするんじゃないかって足取りで病室を出て行った。
どうすんだよ、この空気。
俺から話しかけるべきなのか?
いや、無理だ・・・・・・無理無理無理。
倉科が何も言わないのをいいことに、俺は倉科が見えないような体勢を取った。
重い・・・・・・・・・なんか重いぞ、この空気。
「・・・・・・・・・えっと、ゆ・・・・・・ユキ、だだいじょぶか?」
倉科が緊張してる。
噛むなんて・・・・・・ってか、俺、これに応えた方がいいのか?
それとも寝たふりした方がいい?
倉科はパイプ椅子に腰を下したみたいだ。
「ユキ?」
どうしよう・・・・・・心臓のドキドキ、はんぱねぇ・・・・・・・・・
ゆっくり息を吐き出して・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・何?」
自分が思ってたよりも声は小さかった。
「あ、いや、その、態勢とか、それでいいのか?辛くねぇ?位置変えるんなら手伝うし・・・・・・あ、それとも何か飲むか?」
備え付けの冷蔵庫を開けた?
倉科、優しいな。
五年前のことが嘘みたいだ。
「今はいらない・・・・・・倉科好きなの飲んでいいから」
俺はそのままの体勢で応えた。
ぱたんっと冷蔵庫の扉が閉まる。
「俺も別に喉渇いてねぇから・・・・・・・・・ってか、こっち向けよ」
肩に触れられた瞬間、ビクッと身体が震えた。
ってか、倉科が俺に触った。
「わ、わりぃ・・・・・・俺今傷に触ったか?」
いやいや、刺されたのって腹だし・・・・・・触ったの肩だし・・・・・・
「なんでもない・・・・・・ごめん・・・・・・・・・ちょっとビックリしただけ」
もぞもぞと布団を引っ張り上げて、顔を埋めていく。
ガタンっていう椅子の音で、ひょっこり顔を覗かせたら、なぜか目の前に倉科がいて・・・・・・
「ユキ」
再び布団を引っ張った。
倉科の顔、超ドアップは心臓に悪い。
でも、思いっきり布団を引っ張ったせいで足の先が出てしまった。
「なにやってんだよ」
一気に布団を足元のほうに引っ張られて顔が出てしまう。
「うっ」
「お前顔赤いけど、熱あんのか?」
倉科の手が俺の額に当てられる。
相変わらず倉科の手は暖かいな。
逆に俺のは年中冷たい。
「な、なんでもない!なんでもないから・・・・・・・・・お、俺、寝るから!」
再び布団を引っ張って顔を隠した。
布団から覗く前髪を掻き分けてるのって、倉科の手だよな?
倉科の・・・・・・
「俺の手でも熱いって分かるんだから冷やしてもらった方がいいだろ?俺ちょっと冷やすやつもらってくる」
え?
「い、いい!そんなことまで・・・・・・大丈夫だから」
甘えてちゃいけないんだった。
「遠慮なんかしなくていいから」
倉科が病室を出たみたいだ。
ほっと布団から顔を出す。
倉科・・・・・・相変わらず優しいんだな。
俺が怪我してっから・・・・・・迷惑、掛けちゃってるんだよな。
ゆっくりと、傷に負荷を与えないように身体を起こして・・・・・・
ガラッ!
いきなり扉が開いて、ギョッとした。
「何やってんだ?」
何やってって・・・・・・倉科、戻ってくるの早くないか?
「え?いや、その・・・・・・ノックなかったから、誰かと思って・・・・・・」
「悪ぃ・・・・・・冷やすヤツ、看護士さんに頼んだから・・・・・・すぐに持ってきてもらえるって」
俺、今どんな顔してるんだろう。
倉科が心配そうにしてるから、俺はゆっくりと体を横にした。
「別に平気だ・・・・・・この程度の熱なんか・・・・・・」
だから、倉科はもう帰ってくれていい・・・・・・んだけど、そんなこと言えない。
って言うか、言いたくない。
もう少し一緒にいたい・・・・・・本音はね。
でも、そんな我儘言っちゃいけないんだ。
あ、倉科が呆れた顔して溜息ついた。
「そうやって無理やって、いつも倒れたんだろうが」
そういえば小学校の時も中学校の時も、こうやって保健室で付き添ってくれてたなぁ。
なんだか懐かしい。
あれ?どうして倉科は立ったまま俺を見下ろしてるんだ?
「・・・・・・なに?」
「いや、昔のこと思い出してただけ」
「え?」
昔のこと?
それって・・・・・・いつ頃のこと?
俺が・・・・・・倉科に告った時のこと?
「あの、いや、そうじゃなくって・・・・・・えっとぉ・・・・・・」
忘れてくれてる、わけじゃないよな。
ごめん。
ごめんな、倉科。
「ごめん・・・・・・本当は啓太か要に押し付けられたんだろ?」
そうだよな、倉科が自分から進んで俺の側になんて・・・・・・
「何?」
「俺なんか顔も見たくなかっただろうし・・・・・・その、俺から言って今からでも・・・・・・」
それに、倉科を巻き込んじゃいけないんだ。
これは俺の問題。
倉科に危険が及ぶ前に離れなきゃ。
「お前、何言ってんの?」
え?
「ユキ、お前俺のこと好きだったんだろ?」
え?え?え?
なっ、ななななっ、何?
「それとも、五年前のあの時に・・・・・・俺のこと大嫌いになった?」
何言ってるんだよ、倉科?
俺が倉科のこと嫌いになんてなるわけないだろっ!
「お前ねぇ、あの程度のことで俺はお前の事を嫌いになったりしてねぇよ?ただ、驚いたけど・・・・・・ってか、今の状況って二人っきりなわけで、お前はラッキーとか思えばいいんだよ」
あの程度って・・・・・・
男が男に告白って、ものすごいことだと思うんですけど。
二人っきりがラッキーって・・・・・・
「・・・・・・俺のこと、気持ち悪いって」
そう言っただろ?
俺のこと幻滅したんだろ?
嫌いになったんだろ?
「ごめん、本当にごめん!冗談だって思ったんだ・・・・・・あん時、卒業式の日、制服のボタン全部取られて浮かれてて・・・・・・お前が告白してくれて・・・・・・でも、それを浮かれてる俺に嫌がらせしてきたって思って・・・・・・えっと・・・・・・そんなことユキがするわけねぇのに」
倉科の制服のボタン・・・・・・実は俺も一個欲しかったんだよ。
「ユキが、その手の冗談嫌いなヤツって知ってたくせに・・・・・・お前の本気を、俺は無視しちまったんだけど・・・・・・」
俺の・・・・・・本気の告白、伝わった・・・・・・のか?
え?
いつ?
え?
今?
「あのさ、その・・・・・・俺はユキのこと嫌いじゃないんだぞ?」
え?
「だから・・・・・・えっと・・・・・・」
倉科、なんだか必死だな。
俺・・・・・・隣じゃなくてもいいから、倉科の側にいてもいい?
友達・・・・・・に、戻ってもいい?
倉科が何かを言おうと口を開いたら部屋の隅で、無機質な電子音が鳴り響いた。
「何?」
「あ、内線」
そうだ、内線があったんだった。
倉科がバリバリと髪をかき乱して受話器を持ち上げて耳に当てる。
ナースステーションから、倉科宛に啓太からだと言う。
なにか動きがあったんだろうか?
「もしもし?どうしたんだよ、啓太」
ここまで声は聞こえてこない。
「で?」
啓太から電話だと言って、内線電話の受話器を握り締めたまま倉科が動かなくなって数秒後・・・・・・
「おい、林原さんが殺されたってどういうことだ?!」
え?
なんだって?
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