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第14話

【 雛森side 】 「あの人はおっさ・・・・・・お前んとこの所長と一緒だったんじゃねぇのか?」 おっさん? うちの所長って・・・・・・ そうだ・・・・・・林原さんは、今頃恭介と一緒に行動してるって・・・・・・そう要が言ってた。 それがどうして? じゃぁ恭介は? 恭介は無事なのか? 「あぁ、分かった・・・・・・詳しいこと分かったらまた連絡してくれ」 俺は枕の下に隠し持っていた自分の携帯電話を取り出して恭介のナンバーを呼び出した。 振り返った倉科が俺の姿勢を見て顔を顰めたけど、何をしているのかすぐに察してくれたようだ。 「・・・・・・おっさん出ないか?」 コールはするのに。 「出ない」 なにやってんだよ、恭介・・・・・・なんで出ない? 「ユキ、あのな・・・・・・・啓太が最後に付け加えたんだけど・・・・・・林原さんが殺されて、一緒にいたはずのおっさんが行方知れずで、連絡もつかねぇ・・・・・・当然ながら警察は、雛森恭介を最重要参考人としたそうだ」 石橋さんも恭介が林原さんと一緒にいるって知っていた。 どんな手段を使っても恭介と連絡を取ろうとしてくれたはずだ。 それでも恭介に繋がらなかった・・・・・・ 恭介が林原さんを? 「・・・・・・啓太は他になんて?」 恭介が林原さんを殺した? 「おっさんから事務所の方に連絡は無いし、自宅の方を見に行った社員の人からも、おっさんが戻った形跡はないって報告があったって」 まさか・・・・・・まさか恭介が、林原さんを殺した? だから姿を消した? なんで? 林原さんを殺す理由って何? 桐条胡桃が関係してたりするのか? 彼女はどうして殺された? じゃあ・・・・・・俺を襲ったのは誰? 犯人は同一人物なのか、それとも別にいるのか? 「そんなの、恭介が犯人なわけ・・・・・・ない、けど」 考えろ・・・・・・俺、よく考えろ・・・・・・この中で一番俺が恭介の事を知ってるんだ。 小さい頃から、何かと世話を焼いてくれて・・・・・・ 恭介がどんな人間かなんて、俺が全部知ってて・・・・・・・・知ってて・・・・・・ 恭介は今回の事件にすべて絡んでる。 犯人だから? じゃぁ動機は? そんなの、俺は知らない。 それに・・・・・・恭介が俺を殺そうとするはずない。 でも・・・・・・でも、恭介なら可能だ・・・・・・ 全ての犯行が・・・・・・恭介なら・・・・・・スケジュール的にも・・・・・・ 桐条胡桃も、林原さんも殺す事が出来る・・・・・・時間の空白はある。 それに俺の事も・・・・・・ 「ユキ、大丈夫だ。おっさんが犯人なわけないだろ?」 ぐしゃぐしゃっと髪を掻き回される。 「お前、おっさんのこと疑ってるのか?」 倉科はそうじゃないのか? 恭介は、立場上桐条胡桃のマンションには自由に行き来が出来るし、彼女の動向も知ってた。 石橋さんを始め、警察内部に知り合いも沢山いて、捜査状況は手に取るように分かる。 警察の裏を掻くなんて朝飯前だ。 それに、今回一緒にいたはずの林原さんが殺されて・・・・・・ 恭介はどこにいるか分からない・・・・・・ 携帯だって繋がらないし・・・・・・ 「動機はなんだよ?」 そんなこと知らない。 「今回の一連の事件って、同一犯の可能性が高いって、石橋のおっさんも言ってたろ?」 そんなの知らない。 知らないけど、きっと何かあったんだろ? 「ユキ、桐条胡桃や林原さんじゃなくって、おっさんが、お前を襲う動機って何だよ?なんで、おっさんがお前を殺そうとするんだよ?」 俺を殺そうとした動機? 俺は、自分でも無意識のうちに恭介の恨みを買うような何かをしでかしていたのかもしれない。 俺のことが鬱陶しくなったとか? 嫌になったとか? 「・・・・・・邪魔になったんじゃねぇの?」 瞬間、倉科が息を飲んだのが分かった。 「・・・・・・ユキ」 「平気・・・・・・俺、捨てられることには慣れてるから・・・・・・」 生まれて間もなく実の親に捨てられ・・・・・・ 中学卒業の日に倉科に・・・・・・で、今日ついに恭介に捨てられた。 俺ってその程度の人間だったんだよ。 誰からも必要とされてなかった・・・・・・情けなさすぎて、涙も出て来ない。 俺の涙って枯れちゃったのかな? 「・・・・・・・・・・・・それだけのこと」 パン!! 突然頬に衝撃が与えられて、俺は呆然と倉科を見上げた。 「っざけんな・・・・・・お前まだ寝惚けてるのか?」 なんで怒るんだよ? 「お前が刺されたって聞いて、おっさんがどんな気持ちでお前の手術が終わるの待ってたのか知りもしないで・・・・・・」 そんなの・・・・・・知らない。 でも、でも、恭介は元々探偵なんかじゃなくって役者を目指してたんだよ。 倉科は知らないだろうけど・・・・・・恭介はさ、中学の時、卒業記念に石橋さんたちと作成した映画で主演してるんだ。 その映画、地区の何とかって大会で準優勝してるんだよ・・・・・・ その時、主演男優賞ももらったって恭介は前に自慢してたよ。 事務所にその時の賞状と記念品が飾ってあるんだ・・・・・・ だから、俺らを騙すなんて朝飯前なんだよ、きっと。 「ユキ!!ぜってぇ違うって!」 どうして倉科はそんなに恭介犯人説を否定するんだよ? 「おっさんのこと信じてやれよっ!」 恭介のこと知らないだろ? よく考えてもみろよ? すべてが指し示しているじゃねぇか・・・・・・? どこか不自然な点ってある? あるなら教えてくれよ・・・・・・頼むから、俺に教えてくれ・・・・・・ もう分からないんだ・・・・・・ その時、ベッドに置いた携帯のサブディスプレイに受信のマークが浮かび上がり、俺は咄嗟にそれを布団の中へ隠した。 マナーモードに設定してあったため、その振動音に倉科は気付いていないようだ。 「なぁ、倉科・・・・・・出てってくれないか?ゆっくり考えたい・・・・・・俺を独りにさせて・・・・・・」 そんな顔するなよ・・・・・・ 「ユキ」 俺のこと心配してくれて、ありがとう。 甘えちゃって、ごめんな。 でも、俺、これ以上倉科に迷惑かけたくないし、巻き込みたくない・・・・・・ 俺のこと嫌いじゃないって言ってくれて嬉しかった。 もう一度倉科に会えて、少しでも話が出来て良かった。 もう十分だから・・・・・・ 「頭ん中がぐちゃぐちゃで・・・・・・整理したいんだ」 そんな真っ直ぐな目で見るな。 俺は・・・・・・もう見れない・・・・・・ 今は倉科のこと、直視できねぇんだよ・・・・・・頼むから・・・・・・ 「出てってくれ」 俺は両腕で顔を覆い隠した。 少しして・・・・・・小さな溜息が聞こえて・・・・・・ 「俺は帰らないからな?外にいるから、何かあったらすぐに呼べよ?」 倉科が動いて・・・・・・ 扉が開いて・・・・・・閉まって・・・・・・・・・・・・ 俺は腕を退けて、閉じられた扉へ視線を向けた。 擦りガラスの向こう側に見える倉科・・・・・・ ごめんな、倉科。 俺は携帯を開いた。 「・・・・・・恭介」 なんでさっき電話に出なかったんだ? 皆心配してるってのに・・・・・・ 犯人でも、犯人じゃなくても・・・・・・俺、話がしたいよ・・・・・・恭介。 今会いたい・・・・・・顔が見たい。 さっきのメール・・・・・・? 未開封のメールを開くが、そこには件名も本文も書かれていない。 このアドレスは恭介からに間違いはないけど・・・・・・ 添付ファイルだけ・・・・・・動画? 開く前から嫌な予感がした。 それを開けちゃいけない気がした・・・・・・・・・けど・・・・・・ 恭介へ繋がる手がかりは、今、これだけだ。 震える指先で決定ボタンを押して・・・・・・ 「な・・・・・・に・・・・・・これ?」 それに写っていたのは・・・・・・ 「な・・・・・・んで?」 動画が自動に再生されて・・・・・・・ 天井の裸電球がゆらゆら揺れながら部屋の中を照らしていて、そこに・・・・・・人が・・・・・・? 「きょ・・・・・・す・・・・・・・・・・恭介?!」 俺の叫び声を聞いて、すぐに扉が開いた。 「ユキ?」 慌てて飛び込んできた倉科が駆け寄ってきて、俺の手元を覗き込む。 「恭介が・・・・・・恭介・・・・・・・・・・・・なんで?」 携帯を覗き込んだ倉科の表情が変わる。 携帯からは、誰のモノか分からない荒い息遣いが聞こえる。 でも、それは恭介じゃない。 何者かが低く、冷たく笑う声が微かに聞こえた。 それも恭介じゃない。 だって、ずっと映されてる恭介はぴくりとも動いていない。 壁に凭れて、ぐったり座っている人は・・・・・・・・・・・・ 俺が誕生日にあげた服着てるんだから、間違いなく恭介なんだろ? 普段ファッションなんか全然気にしないって、でも、ココだって重要な場面、いつも俺があげた服着てたじゃねぇか。 画面はゆらゆら揺れて、壁中に赤いのが飛び散ってて・・・・・・赤いのは・・・・・・・・・血? 恭介の胸に突き刺さっているのは・・・・・・ナン、ダ? 恭介が座っている一面が真っ赤なのは・・・・・・・・・ナン・・・・・・デ? 「恭介がぁ・・・・・・」 俺から携帯を奪い取って倉科が強く抱き締めてくれた。 「ユキ」 俺は、今見たモノが信じられなくて・・・・・・ だって、恭介が・・・・・・あんな・・・・・・ 「恭介が・・・・・・なんで?イヤだ、恭介ぇ・・・・・・いやだぁっ!!」 ただ、恭介の名前を呼ぶだけが精一杯で・・・・・・ 今ココに恭介はいなくて・・・・・・ 「恭介ぇ」 「ユキ!!」 こんな・・・・・・ことって・・・・・・あるわけないっ! 「恭介ぇ・・・・・・恭介ぇ!!」 恭介の声が聞こえない? バタバタと大勢の足音が聞こえたのに、涙で視界が歪んで誰の顔も分からない! 「ユキッ!」 恭介は俺のところに絶対帰ってくるって言ってた! いつも、そう言ってた! 俺の事独りにしないって言ってくれたっ! 今すぐにでもココを飛び出して、恭介の所へ行きたいのに、なんで身体が動かない? あんなのは嘘だって、笑って出迎えてくれるはずだよな? 誰かが、冗談だって・・・・・・ 倉科の背後からは二人の警官が入ってきて、倉科から携帯を受け取った。 そこに写っている恭介を見て険しい表情になると、一人が病室を飛び出し、もう一人が倉科に何かを言って、彼もまた病室を飛び出して行った。 俺の携帯を持ったまま・・・・・・ 「きょう・・・・・・す・・・・・・」 俺と恭介を繋ぐものを・・・・・・持って・・・・・・・・・・ 「ユキ!!おい、ユキ!!!」 恭介・・・・・・違う、よな? 冗談だって・・・・・・笑って・・・・・・・・・・今すぐ、俺を・・・・・・抱き締めて・・・・・・よ・・・・・・

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