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第15話
【 雛森side 】
それから、どれくらい時間が流れたのかは分からない。
俺は、駆けつけた医師によって鎮静剤を打たれて眠っていたようだ。
目が覚めると、病室には、うちの事務所の連中と、要や啓太がいて・・・・・・
それから倉科が側にいてくれて・・・・・・
石橋さんが・・・・・・いて・・・・・・・・・・・・
「由貴くん、君がこんな状態な時に酷だが・・・・・・恭介が・・・・・・」
さっきの携帯に送られてきた動画ファイルに映っていたことが・・・・・・
事実だということを・・・・・・・・・・・・
「恭介が遺体となって発見された」
この日・・・・・・恭介が・・・・・・・・・・・・死んだ・・・・・・・・・・・・
その事実を、どこか他人事のように聞いていた。
理解できないわけじゃない。
理解したくないだけ。
だって、恭介が死んだ・・・・・・・・・・なんて・・・・・・・・・・
「林原の遺体が発見された場所と近い位置にある、普段はほとんど使われていない倉庫の中。その奥にある小部屋の中で・・・・・・刺殺体となって発見された」
あの動画の通りのまま・・・・・・
死亡時刻は林原さんより前らしい。
遺留品、着ていた物などから恭介である可能性が高いって・・・・・・
詳しい鑑定結果はまだだけど・・・・・・でも・・・・・・俺は見たから・・・・・・添付されていた動画に映っていた恭介を・・・・・・
顔の半分以上は潰れてたけど・・・・・・あれは、間違いなく恭介だ・・・・・・
俺が恭介を間違えるわけない。
俺はただ、静かに石橋さんの説明を聞いていた。
その時、感情がうまくコントロールできてなかったと思う。
俺は無意識のうちに流れた涙が頬を伝い、倉科が拭ってくれるまで・・・・・・
焦点の合わない目を石橋さんに向けていた・・・・・・だけ。
「ユキ・・・・・・少し休め・・・・・・な?俺らがいたら眠れないってんなら、外で待機してるし・・・・・・」
俺は首を左右に振った。
「・・・・・・・・・・・・いて・・・・・・ほし・・・・・・」
今だけは、誰か側にいてほしかった・・・・・・
手が震えて・・・・・・指先も冷たくて・・・・・・・・・・体にうまく力が入らないんだけど。
さっきは俺のことに倉科を巻き込みたくないって遠ざけようとしたくせに・・・・・・
勝手だよな。
でも、今はその手に縋りたくって・・・・・・何か掴んでないと、今の自分が壊れてしまいそうで。
涙を拭ってくれる倉科の手を両手で掴んで引き寄せた。
ごめんな、倉科・・・・・今だけだから・・・・・・少しだけ・・・・・・今だけでいいから。
「じゃあ、由貴くん・・・・・・俺は捜査に戻るから・・・・・・その、なにか分かったら必ず知らせるし、絶対に犯人は捕まえるから」
そう言って石橋さんは俺の髪をくしゃっと撫でて病室から出て行き、なにかを言いにくそうにしていた事務所の連中も帰って行った。
一応・・・・・・お大事になんて言葉を口にしながら・・・・・・
部屋に残ったのは、啓太に要、そして・・・・・・倉科。
「雛森くん、あのね・・・・・・ものすっごく言いにくいことなんだけど」
「カナちゃん、今言わなくってもいいじゃないの?」
彼らが出てった直後だった。
「だってあの人達に頼まれてるし、今日付けだし・・・・・・これからのことだって考えなきゃならないから」
これからの・・・・・・・こと?
「・・・・・・でね、あのね、雛森くん、さっきの人達全員、今日付けで辞表を出したよ。皆、結構前からうちより条件のいいところから引き抜かれてたみたいで・・・・・・もう明日からは別の仕事が入ってる人もいるって・・・・・・なんであんな冷血漢野郎ばっか雇ってたんだろうね?」
「カナちゃん!!オブラートに包んで!」
そっか・・・・・・辞めたか・・・・・・・・・・・・
俺が殺されかけて、所長が殺されたなんて・・・・・・こんな事務所にいられねぇよな。
次の仕事が見付かってるんなら心配いらねぇ・・・・・・な。
「そうか・・・・・・お前らも悪かったな・・・・・・今日までのバイト代なら、俺の口座から落としといていいぞ・・・・・・暗証番号は要なら知ってるだろ?」
俺・・・・・・・・・・また独り、だな。
「僕らは辞めないよ、ねぇ啓太?」
は?
「何言ってるんだ・・・・・・恭介が・・・・・・所長があんなことになって、俺にはお前らを雇う力なんてないし」
まともなバイト代だって払えない。
うちは結構ギリギリだったんだからな?
「別にいいよ?僕もカナちゃんも他にいくつかバイトしてるし?僕の場合、お金に困ってバイトしてたわけじゃないし?ここは、ほら、ボランティア?ただ働きしてあげる」
俺、怪我のせいで熱があって・・・・・・
「僕と雛森くんの仲だし?」
俺と啓太の仲って何?
さっき身内が死んだんで・・・・・・だからおかしくなってるのか?
二人の言うことが理解できない。
「だって、雛森くん、あの事務所続けるんでしょ?」
そりゃ、取り合えず今抱えているお客さんの分はなんとかしないと・・・・・・
他の同業者にお願いするとか・・・・・・
自分で出来そうなのは自分でやって・・・・・・
それからでないと辞められないだろ、仕事を途中で放り出すなんてこと。
恭介が遺したものを途中でやめるなんて・・・・・・
「だから、僕と啓太で手伝ってあげるって言ってるの」
要はそう言って笑う。
「なんでだよ?お前らには関係ねぇだろ?」
だから、なんでそこでお前らが手を出してくるんだよ?
俺に関わらねェ方がいいんじゃねぇの?
「関係ないことないよ!ちょっとの間だけでも僕らのこと雇ってくれた人が殺されたんだよ!恩があるもん!雛森くんだって刺されたんだし!!」
珍しく要が怒ってる?
しかも俺のために怒ってるわけ?
なんで?
赤の他人の俺なんかのために、なんでそこまで真剣に怒れるんだよ?
「絶対犯人捕まえるんだ!僕らの手で!!」
俺らの手で?
犯人を・・・・・・捕まえる?
「警察より先に見付けてやる!!」
何言ってんだ?
ダメだ・・・・・・これ以上は・・・・・・
啓太や要や・・・・・・倉科のものまで、縁起でもねぇけど・・・・・・血まみれで、冷たくなった死体のイメージがぶわっと浮かんできて・・・・・・
俺はそのイメージを振り払うように頭を振った。
「ダメだ・・・・・・これは遊びじゃないんだ・・・・・・お前らだって殺されちまうかもしれねぇんだ!もう首突っ込むな!」
それがお前らのためだ!
「やだよ!もう決めたことだもん!ね、カナちゃん!!」
即答かっ!
「そうだよ、雛森くん!だから、早く怪我治してね!!」
息ぴったりじゃねぇか、お前ら!
ね!とか、そうだよ、じゃねぇんだよ!!
「お前らなぁ!!」
それまで黙っていた倉科が突然話に入って来た。
そうだ、倉科、言ってやってくれ・・・・・・
これは遊びじゃない・・・・・・
怪我したくなかったらやめておけって・・・・・・いや、怪我だけじゃ済まないかもしれない・・・・・・
殺されちまうかもしれねぇんだ・・・・・・・
そんな危ない事は・・・・・・
「僕らってのに俺は含まれてんのか?」
は?
「えぇ?!先輩も一緒に犯人探してくれるのぉ!!!」
「く・・・・・・くら、し?」
二人を止めてくれるんじゃねぇの?
お前、何言ってるんだよ?
「約束したんだ、俺」
何?
なんだよ、約束って・・・・・・誰と?
「そんな心配そうな顔するなよ」
心配するに決まってるだろ!
お前らは、これ以上首突っ込まない方がいい。
「犯人探しなんて警察に任せておけばいい」
素人が殺人犯捜しなんて。
「任せられるわけねぇだろ?お前をこんな目に合わた奴を野放しになんてできねぇ!大丈夫だって!俺がいるんだから!!」
ぐしゃぐしゃと俺の髪を掻き回して、ニッと笑う。
その自信はどこからきた?
「心配すんな」
ほんと、笑顔は昔と変わらないな・・・・・・って、絆されてる場合じゃねぇ!!
「今度はお前らが殺されるかもしれねぇってのに、心配するなってのが無理だろうが!!」
「ユキ、お前、縁起でもねぇこと言うなよ・・・・・・俺らは死なねぇし、犯人もこの手でばっちり捕まえてやるさ!!」
ダメだ、俺の言うこと聞きゃしねぇ・・・・・・
倉科って昔っからそうだ・・・・・・こうと一度決めたら最後までやり遂げる・・・・・・
途中で、どんな困難なことが起こっても一緒にいる奴らに声を掛けながら最後まで諦めない。
しかも、出来ちまうからすげぇんだけど・・・・・・
俺はいつもそんな倉科の背中を見ていたわけで・・・・・・
振り向いて俺に差し出してくれた倉科の手を・・・・・・俺はいつも、すぐにその手を取る事は出来なかったけど・・・・・・
焦れた倉科がいつも俺の手を掴んで引っ張ってくれた。
倉科、お前はいつまでそうやって俺に手を差し伸べてくれるんだ?
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