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第16話

【 倉科side 】 許さねぇ! 絶対にっ! ユキをいっぱい泣かせた。 ユキをいっぱい苦しめた。 ユキの大事なもん、奪っていきやがった。 犯人は絶対捕まえる! って、ユキの病室で俺達結束したわけだよな? な、の、にっ! 「退院したぁ?!」 どうしても落とせない学科があって、その日は仕方なく啓太に代わってもらって俺は大学に行っていて、午後から病院を訪れた。 真面目に授業受けてれば良かったと思っても後の祭り・・・・・・ 駆けつけた病室にユキの姿はなく、ガランとしていて、見張っとけって命令したはずの啓太もいなくって。 ナースステーションに聞きに来て・・・・・・ 「は、はい・・・・・・あの、間違いなく、雛森由貴さんは午前中に退院されまして・・・・・・」 あんの馬鹿!!! ちゃんとユキを見張ってろって言ったのに・・・・・・いや、そもそも啓太にユキを押さえつけるのは無理か・・・・・・ くそっ、人選ミスだ!! 駐車場に向かいながら、俺は携帯を取り出してユキのナンバーをコールした。 すぐに通話状態となり・・・・・・ 「ユキ!!退院したってどういうことだ!!!」 ユキの声を聞く前に俺は怒鳴りつけた。 出かける前に、大人しくしてろと言っていったよな? ちゃんと念を押したよな? お前は素直に頷いたよな? 「り、遼先輩・・・・・・耳が痛い」 はぁ? なんで啓太が出るんだよ? 間違えたか? 俺はディスプレイで掛けた相手を確かめたが、間違いなくユキの名前が表示されている。 「啓太、ユ、雛森は?ってか今何処にいる?」 もちろん一緒にいるんだろうな? 「今は事務所ぉ・・・・・・えっと、雛森くん・・・・・・遼先輩から電話なんだけどぉ」 一緒にいるんだな? そこにいるんだな? 「や、ダメだって、出てよぉ・・・・・・雛森くんの携帯なんだよ、これ」 ユキの声までは聞こえないけど、啓太の言葉でだいたい何を言っているのか想像がつく。 「啓太、これからそっちに行くから、その馬鹿今度こそちゃんと抑えとけ」 俺とユキの間に挟まれて気の毒・・・・・・かもだけど、そんなこと構ってられない。 愛車に乗り込んで、その日はパトカーの巡回とよくすれ違うもんだから、こんな時に捕まって時間を裂かれるのもなぁと法定速度すれすれの速度でぶっ飛ばし、いくつかの信号に引っかかってイライラが更に募り・・・・・・ 漸く雛森探偵事務所の前に到着した時。 「あ」 血相を変えて建物から飛び出してきた啓太が、俺を見付けるや否や・・・・・・ 「先輩!!早く来て!!!」 そのただならぬ事が起きたような啓太の様子から、ユキに何かあったのかもしれないという不安がイライラを吹っ飛ばして・・・・・・ ハザードを点灯させて道路脇に車を停車させて、俺は建物の中へ飛び込んだ。 エレベーターを待ってられなくて、階段を二段飛ばしで駆け上がる。 二階。 目の前の扉に『雛森探偵事務所』と書かれている。 「ユキ!!」 ノブに手を掛けたが、ガチャガチャと音が鳴るだけで扉が開かない。 なんでだ? 「ユキ!!!中にいるのか?」 ドンドンと強く扉を叩いていると、漸くエレベーターで啓太が登場。 「先輩、事務所じゃなくて所長んち、上の階!!」 啓太、お前、俺が事務所に向かうって分かってんなら最初に言えよ! 「先に言え!」 エレベーターに飛び乗って・・・・・・ 「何があったんだよ?」 ゆっくりと上昇して・・・・・・ 「それが・・・・・・あ、着いた」 扉が開くと、一つだけ、玄関の扉が開けたままになっている部屋へ駆け込んだ。 たぶん、ここが雛森恭介の部屋なんだろうと思って・・・・・・ 「ユキ?」 靴は一足しかない・・・・・・ 見た事があるから、これはユキのものだろう・・・・・・ 短い廊下を進んで行く。 途中の洗面所に風呂場、トイレにはいない。 それから、リビング・・・・・・キッチン・・・・・・にもいないけど・・・・・・何にもない部屋だなぁ。 まるで、誰も住んでいないような印象を受ける。 人が生活していたなんて信じられないくらい、床だって傷ひとつないし、テレビや他の電気製品も見当たらない。 「先輩、こっち」 啓太に呼ばれた方角は、カーテンが閉められたままなのか、少し暗い。 そして、部屋の中央にぽつんとユキが立っていた。 「ユキ?」 名前を呼んでも、こっち向かない。 俺はそのまま窓に近づいて、カーテンを開け、遮られていた太陽の光を部屋の中へ取り込んだ。 「なんだよ、これは!!!」 よく踏まなかったものだ。 部屋の中は荒らされ放題、床の上に散らばった書類、開けられたままの引き出し、ディスプレイの割れたノートパソコンに、倒された電気スタンド・・・・・・ ユキはその部屋の真ん中に立っていて・・・・・・手に何かを握っていた。 「ユキ」 漸く俺のことを認知したのか、ゆっくりと振り向いて、握っていたものを俺に差し出した。 「コインロッカーの鍵?」 数字の書かれた札がついた小さな鍵は、何処かのロッカーの鍵のようだけど・・・・・・ 「これを探していたのかも・・・・・・恭介が、ナースステーションに置いてったって・・・・・・俺が退院するときに渡してくれって頼んだらしいんだけど」 何処の鍵かは言ってなかったらしく、そのヒントでもないかとこの部屋を訪れたらしい。 「警察に連絡は?」 調べれば犯人の指紋とか、毛髪とか出てくるんじゃねぇか? 「・・・・・・してないけど、必要ない」 は? なんで? 「無くなったものはないから」 お前、なんでこの状況でそんなことが言えるんだ? いろんなモン盗られたんじゃねぇの? だって、何にもないぜ? この家ん中、この部屋の中以外、綺麗さっぱり・・・・・・ 「ここにあったものは全部記憶してる・・・・・・無くなったものは何もない」 まぁ、ユキがそう言うんなら・・・・・・もともと何もない部屋だったんだろうな・・・・・・ まさか、おっさん本人が暴れまわった跡だったりとかしねぇだろうなぁ、これ・・・・・・ 「恭介はほとんど事務所か俺の部屋にいて・・・・・・こっちには、たまに寝に来るくらいで・・・・・・痛っ」 小さく呻いて、ユキが腹を押さえた。 啓太が慌ててユキを背後から支えてやり、俺は散らかっているベッドの上の書類を束ねて場所を空けた。 ベッドに腰掛けたユキの額に薄っすらと汗が滲んでいて、啓太は水を取ってくるからって部屋を出て行った。 「大丈夫か?俺に黙って退院なんかすんなよ・・・・・・メチャクチャ心配したんだぜ?」 また黙って俺の前から消えたのかと・・・・・・ 大学なんか行ってる場合じゃなかった・・・・・・ くそっ! 単位なんかクソ喰らえだ! こうなったら、教授に金掴ませて・・・・・・ 「・・・・・・ごめん」 ユキは俯いている。 「もう二度とこういうことするなよ?なんかあったんなら絶対俺に言え」 俺の手の届くところにいろよ? 「・・・・・・・・・・・・ない」 ボソッと呟いた言葉はよく聞き取れなくて? 「なんだよ?」 なんで、そんな辛そうな顔するんだよ? 「これ以上倉科に迷惑掛けられない」 迷惑って、お前なぁ・・・・・・ 「最初に桐条胡桃が殺されて、林原さんや恭介が殺されて・・・・・・俺の事はリベンジでまた狙ってくるかもしれない。それなのに倉科が一緒にいたりしたら今度は倉科が・・・・・・俺、そんなの嫌だ」 リベンジって・・・・・・しかも俺が殺される? そんな縁起でもねぇこと言うなよ・・・・・・ 「だからって、お前を一人にさせて、俺の知らないところで殺されたら・・・・・・俺死ぬほど後悔するんですけど?」 俺はユキの頭を抱き寄せて、言い聞かせるように話す。 「俺は殺されたりしないし、お前は俺が守ってやる。絶対に!」 ユキにこんな思いさせてるヤツ・・・・・・絶対に許さねぇ! 「お前は俺から離れるな」 ユキの腕が俺の背中に回った。 「守られるだけなんて嫌だ・・・・・・俺だって倉科のこと!!」 「ごめん、お邪魔だったみたい」 水のペットボトルとコップを持って戻ってきた啓太が部屋の入口で、申し訳なさそうに立っている。 えっと・・・・・・ 「啓太、お前も言ってやれ・・・・・・こいつ、ネガティブ思考から抜け出せねぇ」 悪い方向にばっかグルグル考えてて抜け出せない。 こんな時はポジティブ王子な啓太の出番だろ? 「ネガティブ?」 ぴくりと啓太の片眉が反応した。 腕の中でユキが俺から離れようとしているけれど、俺は腕の力を緩めなかった。 離してなんかやらない。 「・・・・・・ちょっ、く、倉科」 って、耳まで真っ赤だぜ? ちょっと可愛いかもって思った。 「俺やお前がそう簡単に殺されるわけねぇっつうのに」 「僕殺されるのぉ?まっさかぁ?そんなことあるわけないじゃん、ねぇ?」 な? 見てみろ、ユキ・・・・・・あの楽天的な思考の持ち主を・・・・・・ 悩みなんて一つもなさそうな、あのお気楽な顔を・・・・・・ あいつは絶対に死なない。 んで、俺もな。 「雛森くん、分かったよぉ!!そのロッカーの鍵が何処のなのかって、あれ・・・・・・倉科くんもいたの?」 お前こそ今まで何処に行ってたんだよ、という要が部屋に顔を出した。 「あ・・・・・・ごめん、お邪魔だったみたいだね」 抱き締めたままのユキを見て、要が口元を押さえた。 「く、倉科、ホントに・・・・・・離してくれ・・・・・・その、心臓がもたない」 腕の中で小さくユキが声を出した。 顔を覗き込めば、案の定、涙目でまっ赤な顔してて・・・・・・これ以上は拙いかな? 俺はそっとユキを解放してやった。 離したんだけど、やっぱり、ユキの表情見てたらギュッと抱きしめたくなっちまった・・・・・・・・けど、我慢だ。 「で?」 要は何用かな? 「要、ロッカーの鍵・・・・・・何処のだったか分かったって?」 あぁ、それ探しに行ってたのか。 「あ、そうだった。あのね、駅のコインロッカーなんだけど、ほら、札が一緒でしょ?」 コレの為に何か預けてきたのか? 要の手にもロッカーの鍵が握られている。 ユキが持ってるのと番号も近い。 「その雛森くんの番号、使用中になってたよ」 「・・・・・・そっか」 ユキは俺の肩に手を乗せて立ち上がった。 まぁ止めても無駄だろうし、ユキが駅に向かうって言っても俺は止めなかった。 こっからは俺も一緒に行くから。 部屋はこのままにして、玄関だけに鍵を掛けた。 そういや、犯人はどうやってこの部屋に侵入したんだろうか? 一見鍵を壊された形跡はないし? ぐるっと部屋の中を見回った啓太は、窓ガラスも割られた様子は無かったって言ってたし。 ここはオートロックじゃねぇから、部屋の前までは簡単に行ける。 合鍵が作られてる可能性が高い・・・・・・か? それって、この部屋だけか? それとも事務所や・・・・・・ユキの部屋のなんかとかも? だったら、ここへユキを帰すのは危険だな。

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