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第17話
【 倉科side 】
事務所の前に停めたままの俺の車に四人乗り込んで、駅へと向かった。
啓太がユキの手を引いて、さっさと後部座席に乗り込んじまったから、助手席に要がいて道案内中・・・・・・
俺、駅への行き方知ってるんだけど。
「この通りをまっすぐ行ってねぇ・・・・・・あそこって、なんて名前の店だったっけ?そこでねぇ・・・・・・」
いや、俺も知ってる道なんですけど?
チラチラ、ルームミラーで様子は見てるけど・・・・・・
なんか・・・・・・近くねぇか?
近いよな?
そんなにくっついて話すことか?
後ろのユキは、啓太と何か話してるけど小声過ぎて聞こえない。
啓太は嬉しそうに笑ってる・・・・・・
内容がメチャクチャ気になりますぅ・・・・・・
ユキも時折笑顔で・・・・・・まぁ、気を紛らわせてやってくれてるってのは分かるけど。
暗いこと考えないようにしてやらなきゃってのは理解してるけど。
近いだろ、その距離。
この車、後ろは二人なんだから、ゆったり座れるだろ?
そんなにくっつかなくってもいいだろ?
啓太、近ぇんだよ!
「倉科くん、聞いてる?」
まぁ、不安な顔してたり、辛い顔してるよりは、ずっといい。
でもなぁ・・・・・・近い。
なんか、おもしろくねぇって言うかぁ・・・・・・近いんだって。
「倉科くん」
ちょんちょんっと要に袖を引っ張られた。
「あぁ、聞いてる、聞いてる」
ふと鏡越しに啓太と目が合った・・・・・・
何?みたいな視線寄越しやがって!
けど俺が何か口に出す前に、啓太は隣のユキに意識を戻した。
とにかく、今はユキと話したいらしい・・・・・・
いや、だからさ、ユキも気が紛れるだろうから、それはいいんだけどぉ・・・・・・
今四人いるんだし。
もっと声のボリュームを上げよう。
ちょっとは運転手の俺にも話題を振れ。
俺はこの程度のことでハンドル捌きをミスるような男じゃねぇぞ。
要はずっと道案内のつもりか?
次を右だの、左だの・・・・・・
車線を変更しろだの言ってくるけど、俺目的地知ってるっつうの!
俺もよくこの道通りますっ!
今現在だって最短ルート通ってますよ、要さんっ!
お前が言ってる道って、俺が全部曲がったり突っ切ったりした後だぞ?
「着いたぞ」
近くのパーキングに車を停めて、要を先頭にロッカールームへ向かう。
さっさと降りた啓太が、すぐにユキ側のドアを開けて・・・・・・
紳士だな・・・・・・
手を添えて、ユキが降りる手伝いをしてる。
ユキの隣には・・・・・・ずっと啓太が付き添ってた。
そりゃ、俺が言ったさ。
ユキの側にいろって。
離れるなよって。
でも、それは、俺が大学に行ってる間で!
もう俺いるんだし?
そのポジションは俺だと思うんですよ?
選手交代だと思うんですよ?
なので!
さりげなく・・・・・・
そう、偶然を装って・・・・・・俺はユキと啓太の間に割り込んだ。
「ここのロッカールームって使ったことねぇなぁ」
新設されたばかりの、新しいロッカールーム。
どれもこれもがピッカピカ。
ロッカールームには・・・・・・俺達以外誰もいなさそうだ。
「こっちだよ」
要の案内で奥に進む。
ユキが持っている鍵のロッカー番号はすぐに見付かった。
中に手掛かりになるようなモンが入ってればいいけど・・・・・・
変なモノが入れられてたりしたら・・・・・・
って、あのおっさんがナースセンターに、ユキに渡せって言って置いてった鍵だから変なモンなんか入ってるわけねぇか。
でも、とりあえず・・・・・・
「俺が開ける」
ユキから鍵を受け取った。
アタッシュケースとか、ボストンバックとか想像していた俺の目の前に現れたのは、ヨレヨレの茶色い紙袋。
それ・・・・・・しか、ない。
ほら、敵と戦うための武器とか、何かに使用するための大金とかは入ってなくて・・・・・・
ガサッと開けてみれば、中には・・・・・・
「アルバム?」
卒業アルバムが入っていて・・・・・・学校名は・・・・・・?
「これって俺らの中学じゃん」
卒業した年は違うが、表紙には懐かしい名前があった。
パラパラとページを捲る。
そして、振る。
何かが挟まっている形跡はない。
紙袋の中にはこのアルバムしか入っていなかった。
「これだけ?他には何もないの?」
啓太が俺の手からアルバムを奪い、何度もページを捲り、更にはガサガサと俺より乱暴に振ってみたが何も出てこなかった。
なんで、こんなもんをわざわざロッカーに?
意味もなく入って・・・・・・たわけねぇよな?
「取り合えず、場所変えよう」
ユキの提案で俺達はロッカールームから出た。
「あれ、皆さんお揃いで?」
俺らがやって来た、いつもモデルのバイトんときに使っているスタジオの下にある喫茶店には充がいた。
「もう驚いたよ。お見舞いに行ったら雛森くん退院したって言うし」
で、ここで見舞いの果物渡してんじゃねぇよ。
この間メロン持ってって、今度は桃か!
まぁ、いっか・・・・・・ユキ桃好きだし。
チラッと隣に座っているユキに視線を送る。
「あの・・・・・・すみません・・・・・・わざわざ」
ユキ、そんな畏まらなくっていいって。
ん?
違うか・・・・・・なんだろう?
ユキ・・・・・・ちょっと充の事警戒してねぇか?
まぁでも、ユキって人見知り激しいし・・・・・・いや、でも、なんか空気がピリピリしてるような?
いや、気のせいか?
「まぁ、でも充がいてくれてちょうどいいや・・・・・・実はさぁ」
俺は今までの経緯を充に話し、アルバムを取り出した。
桐条胡桃が俺らと同じ中学だと教えてくれたのは、充だったと言う事を思い出したから。
他にも何か知ってる事があるんじゃねぇか?
「そうだねぇ・・・・・・まず、この卒業アルバムが胡桃ちゃんの卒業した年ってことでしょ?」
あ、そう言えば・・・・・・俺らが三年の時に彼女が一年だって言ってたからそうなるんだな。
「充に指摘されるまで気付かなかった」
「え?」
驚いたように他の三人が俺達を見る。
「あぁ、言ってなかったっけ?桐条胡桃は俺らと同じ中学の卒業生だったって」
ユキも驚いてるなぁ・・・・・・つまり、俺が今新事実を提供したってことになるんだよな?
「そう。それでね、もう一つ、僕も最近鉄ちゃんから聞いたんだけど」
鉄ちゃんと言えば、鑑識をしている充の従兄弟。
桐条胡桃の携帯電話を渡してくれたんだけど・・・・・・石橋って言う刑事は俺が持ってるって知ってるけど、怒られたりしてねぇか?
その辺、充がフォローしてくれてればいいけど。
「胡桃ちゃんの腹違いのお兄さんも、その学校にいたんだって」
何?
何だって?
腹違いってことは、父親が一緒で、母親が別ってことだよな?
「警察内部の情報で、まだ外部に漏れてはいない情報らしいんだけど・・・・・・同じ年に生まれた、異母兄弟って言うやつ?でね、そのお兄さんって言うのが・・・・・・これ見て」
どこか怪しい感じの雑誌を取り出して、パラパラと捲り・・・・・・
「この子がそうなんだ」
これって・・・・・・
「新人類ニューハーフ?」
大きな見出しを声に出して読んだ。
そこには、何処からどうみても女だろっていう人達がズラッと並んでいた。
メチャクチャ綺麗です。
肌の白さ、腰のくびれ・・・・・・男を妖艶に誘う目元、色っぽい口・・・・・・
きわどい・・・・・・セクシーな衣装に身を包んだ、夜の女王っと言った感じの彼女達・・・・・・
いや、彼ら。
その中央に充の指がある。
「この子、胡桃ちゃんに似てると思わない?」
言われて俺達は雑誌を凝視・・・・・・まぁ確かに、桐条胡桃と化粧の仕方とかは違うけど目元が似てる気がする。
でも、いや・・・・・・なんか、どっかで会った事があるような・・・・・・?
どっかって、何処だ?
俺ニューハーフの方々とお仕事する機会はなかったけどなぁ?
っつうか、なんでこういう雑誌をお前が持ってるのか疑問なんだけど・・・・・・まぁ、敢えて聞くまい。
聞けば答えるだろうけど、それを知るのが怖い。
「充ちゃん!ひょっとして、このお兄ちゃんが胡桃ちゃんに成り代わったとでも?」
男の・・・・・・このお兄ちゃんが桐条胡桃に化けた?
まぁ、これじゃぁ、ぱっと見男だって判らねぇもんなぁ?
どんな事情があるのかは知らねぇけど、妹との仲はどうだったんだろうか?
腹違いの兄妹・・・・・・
同い年で、同じ学校に通ってるなんて・・・・・・周囲は誰も知らなかったんだろうか?
それとも・・・・・・
「一つの可能性として、それはあるかもね・・・・・・でさぁ、彼?いや彼女?に一度会ってみればいいんじゃないかって思うんだけど?」
何?
「もしも犯人だったら何らかのアクションを起こすかもしれないし、違っていたら変な誤解したままでいるのも悪いじゃない?」
まぁ、勝手にこっちが犯人扱いしていたら悪いわなぁ・・・・・・
かと言って、もし犯人だったらユキを会わせるのは危険だろう?
顔を合わせた途端、襲い掛かってきて・・・・・・
いや、俺が守るけど・・・・・・
ユキには指一本触れさせねぇけど・・・・・・
「分かりました。あの、甲斐さん、その人の住所って分かりますか?」
だよな?
お前は、絶対会うって言うと思ってたけど・・・・・・
「ちょっと待て、ユキ!お前まさか今から会う気なのか?」
俺に相談しないで、いきなり返事してんじゃねぇよ。
飲もうとしていた水、慌てて膝の上に零しちまったじゃねぇかよ・・・・・・冷てぇ。
「他に何も手掛かりがないんだし、このまま何もしないなんて・・・・・・それに・・・・・・折角甲斐さんが、こんなに調べてくれたんだし」
何だよ、その視線は?
なんか・・・・・・ユキの言い方が引っ掛かるけど・・・・・・なんで今『折角』を強調した?
「住所なら鉄ちゃんに聞けば調べてくれると思うから」
なんだよ?
充、お前まで意味深な視線を俺に向けるな!
「倉科が俺のこと守ってくれるって言ったんだろ?」
う・・・・・・なんだよ、ユキ?
何でそこで笑顔なんだ?
一体どういった心境の変化だ?
さっきから随分と・・・・・・?
「へぇ、倉科くんったら雛森くんのボディーガードしてあげてるんだぁ」
にんまり笑うな、充・・・・・・
「そうですよ」
うっ、ユキ・・・・・・なんか視線が痛いんですけど?
なんか、グサグサ刺さってねぇ?
「先輩、僕より弱いのに大丈夫なの?」
うるせぇぞ、啓太。
でも、お前今のちょっと棘ねぇか?
気のせいか?
「まぁ、倉科くんでもいないよりはマシかなぁ?」
か~な~め~さ~ん?
「倉科?」
上目遣いで顔を覗き込んでくんじゃねぇよ!
心臓がバクバク言ってやがるぅ!!
お前のその目・・・・・・なんか・・・・・・ヤバイ。
「守ってやるさ!!」
そう宣言して・・・・・・
「うあっ!」
ぐいっとユキの肩を抱き寄せて、三人に睨みを効かせる。
「犯人のヤツだろうが、誰だろうが!ユキに指一本触れさせねぇからなぁ!!」
予想以上にでかい声を出してしまった・・・・・・
「・・・・・・倉科くん、分かったから落ち着いてくれる?」
充の呆れた眼差しを受け・・・・・・
「先輩、恥ずかしい」
店内の視線がぁ・・・・・・痛い。
「お、おら、てめぇら!さっさと行くぞ!」
けど、突き出した拳は引っ込められねぇ・・・・・・
「じゃぁ、早速、鉄ちゃんに電話してみるよ」
ニッコリと、充が俺の拳を下ろさせて携帯電話を取り出した・・・・・・
「おう。んじゃ、行こうぜ」
ユキの手首を引っ張って、会計している要の後ろを通って・・・・・・
俺達の後ろを話中の充と、会計を済ませ、小銭を財布に入れてガチャガチャ振っている要の背中を啓太が押しながら続いて・・・・・・
どうせ、充が道案内とかで助手席に座るんだろうなぁ・・・・・・なんて思っていたら・・・・・・
当然のように、やっぱり充が助手席のドアを開けて・・・・・・
「はい、雛森くん」
へ?
「怪我人なんだから、後ろで3人ぎゅうぎゅうで乗るより1人でゆったり座れる方がいいでしょ?」
充、お前、イイやつだったんだな。
ユキが助手席に乗って、充は俺の後ろに乗り込んで道案内。
俺達は渋滞に巻き込まれることもなく・・・・・・
ぼんやりとサイドミラーを眺めてたユキがゴツンッとガラスに額を当てた。
「ん?どうした、ユキ?」
心配して手を伸ばしてみたら・・・・・・なんでもないって、その手を避けられた。
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