18 / 47

第18話

【 倉科side 】 三十分後、俺の車は閑静な住宅街に停まっていた。 助手席のユキ、後部座席に充、要を挟んで、啓太。 俺達は、一軒の豪邸を眺めていた。 「こんなでっけぇ家に住んでんのかよ?」 有名な警備会社のシールが至るところに貼ってある。 「うん。鉄ちゃんの情報によると、ここには彼女?彼?と、あと二人の男性が住んでるみたい」 計三人で、この広さかよ・・・・・・敷地もったいねぇ。 「倉科くんだって、ちょっとパパにお願いすれば、これくらいのところ一人で住めるでしょ?」 うるせぇよ・・・・・・パパって言うな! お前が言うと、なんか違ったパパに聞こえる。 親父の力なんか借りなくったって、俺はこれ以上のところに住める。 噴水付き? もしくはプール付の豪邸で、両手に美女を抱えて、うはうは・・・・・・ブランデーグラスを傾けながら、満月に乾杯って・・・・・・ 「倉科くん?」 要に名前を呼ばれてハッと我に返る。 「で、今彼?彼女?は家の中にいるのか?」 めんどくせぇなぁ・・・・・・ 彼なのか彼女なのか・・・・・・まぁ、どっちでもいいんだけど? 「うぅん・・・・・・昼間は出掛けてるし、夜も出掛けてるって」 は? 充・・・・・・昼も夜もいないんじゃぁ、いつ会えるんだよ? 「じゃぁ、いつ家に帰ってくるの?」 要が代表して充に聞く。 「さぁ?」 さぁって・・・・・・充・・・・・・お前、ちゃんと鉄ちゃんに聞いたのか? 俺達何しに来たんだよっ! 「こうなったら張り込みしかないね!!」 おい、啓太。 お前ちょっと嬉しそうだぞ? 「こんなところで張り込みなんてしてたら、すぐにバレる」 そう、ユキの指摘した通りだ。 今だって俺の車以外路駐してる車ねぇんだから・・・・・・ こんなところで、ずっと長い時間駐車してたら不審がられる。 っつうか、誰かに通報されたりして・・・・・・ 男が5人も乗ってる車が、人の家の中の様子を探ってますぅって? 「じゃぁ、倉科くん、お願いね」 ぽんっと肩を叩かれて、きょとんと充を見返す。 「なにが?」 俺は何をお願いされたんだ? ただ充がニコニコと・・・・・・ 更に時間は流れ・・・・・・・ 「すみません、奥様・・・・・・御無理を言って」 俺は精一杯の笑顔を目の前の熟女へ向けた。 「いいえ、いいのよ。構わないわ。先日主人に先立たれて淋しい独り身・・・・・・突然こんなにもいい男達が5人も舞い込んでくるなんて・・・・・・夢のようだわぁ」 舞い込んでって・・・・・・っつうか、充の話じゃ旦那は海外に出張へ行ったって・・・・・・ 顔も知らない旦那さん、あんたいつの間にか死んだ人になってるぜ? 「それで奥様、お向かいさんのことなんだけど、何か知りませんか?」 噂好きそうだよなぁ、この年代・・・・・・ 所々奥さんの私情が挟まれた情報を得ながら、窓から見える豪邸を観察する。 啓太と要は、ここ以外の聞き込みに出掛けていて、充は家政婦と話し中。 家政婦の人も、この奥さんと同じくらいの年齢だな・・・・・・ この奥さんの世話って大変そうだ。 で、奥さんの情報によると、まず、あの家、近所は付き合いはあまりない。 男達とは挨拶も交わした事がないっつうか、顔を合わせる事がないらしい。 住んでいるは女が一人と、男が二人。 男のうち一人は公務員。 ビシッとスーツを着こなして、優しげな笑みを浮かべて通勤。 出勤時間、帰宅時間、共にバラバラ。 もう一人は何をやっているかは分からないが派手な容姿だという。 若いくせに、高級ブランドを身に付けているらしい。 同じく出勤時間、帰宅時間共にバラバラっつうか、帰って来ない日もあるらしい。 女はというと、普段帽子を目深に被り、サングラスをかけて外に出るらしいが、遠目から見ても高価なお召し物で、毎回着ているブランドも違う。 同じだった日はない。 毎日高級車に乗ってお出掛け・・・・・・何処に勤めているのかは不明。 こちらも出勤、帰宅、共にバラバラ・・・・・・帰って来ない日もあるらしい。 顔合わせた事ないって言ってなかったか? まぁ、この派手な女っていうのが、桐条胡桃の腹違いの兄貴で、ニューハーフ・・・・・・なんだろうな。 ちなみに、桐条胡桃の方の母親が正妻で、こっちの母親が愛人ってことらしいけど・・・・・・ 「誰か他に、あの家に出入している人っていますか?」 おぉ、ユキ・・・・・・メモ帳なんか取り出して探偵みたい・・・・・・って、探偵だったな。 「そうねぇ・・・・・・前に一度女の子が来たかしら?でも、その子、何処かで見た事があるのよねぇ・・・・・・とても可愛い子だったわ」 女の子ねぇ・・・・・・ 「その女の子は、一人でこの家を訪れたんですか?それとも、その家の誰かと一緒だったりしました?」 ちょうど家政婦さんが冷たいコーヒーを出してくれて、俺らはそれぞれ喉を潤した。 「そうねぇ、どうだったかしらねぇ?公務員じゃない方と一緒に来たような気がするけど?」 その女の子って、ひょっとして桐条胡桃だったりして? そういえば、2人って自分達の生い立ちを知ってたんだろうか? 同い年で、同じ学校・・・・・・ 最初はお互い知らなかったかもしれねぇけど、この奥さんみたいに噂好きの人達が近所にいたら、あること、ないこと、いろんな噂が飛び交ってたかもしれないし・・・・・・ そういう情報は簡単に本人の耳にも届くだろう? お互い親に確かめたりもしたか? 知った上で交流があったのか? あの家を訪れたのが桐条胡桃だったんなら・・・・・・ 彼女載ってる雑誌とかって、その辺に置いてねぇかなぁ・・・・・・ なさそうだけど・・・・・・・ 「奥さん、その女の子って、この子ですか?」 おぉ、ユキ、用意万端じゃねぇかぁ!! 鞄の中から桐条胡桃の載っている最新号の雑誌を取り出して、彼女が載っているページを開いた。 ユキ、それに俺も載ってるんだぞ? 知ってる? 知らなかったら今度教えよ。 「えぇ、そうねぇ・・・・・・似てる気がするわねぇ」 じっと桐条胡桃を見詰める。 「声は掛けられたんですか?」 「えぇ、ちょうど私も外にいたものだから。挨拶くらいはしないとねぇ?」 こんにちは、と声を掛けたら、ニッコリ笑って会釈をしてくれたらしい。 「清楚可憐って感じかしらねぇ・・・・・・私も若い頃は・・・・・・・」 あ、昔話が始まった。 ユキはその話をまるっきり聞いてないように、難しい顔をして何か考えてるな。 っつうか、残念ながら俺も奥さんの若い頃には興味ございません。 「奥さん、この子と、あの家の誰かが揉めてたってことはありませんか?例えば、一緒に居たっていう派手な子とか」 何かが原因で諍いが起こり、なにかの弾みで桐条胡桃を殺してしまったってことか? 本当は殺すつもりはなくって、偶然打ち所が悪かったとか・・・・・・ だって、腹違いって言っても血は繋がってるんだ・・・・・・ いくらなんでも身内を殺すだなんて考えたくはねぇよな? 「さぁ・・・・・・分からないわねぇ」 奥さんはただ首を捻るだけ。 2人が一緒の時は、仲良さ気だったっていうし・・・・・・ 「なぁ、倉科・・・・・・この雑誌の桐条胡桃は、本物の方の彼女かな?」 ユキに差し出された雑誌を受け取って、そこで笑顔を振りまく彼女を観察する。 「よおっく思い出してほしいんだけど、俺達が最初に会った桐条胡桃の首元に、二つ並んだ黒子があったんだけど・・・・・・これには無いんだ」 雑誌の撮影日は、彼女が死亡したと推定される日より二週間ほど前だ。 どうだったかなぁ? 首に黒子って・・・・・・っつうか・・・・・・ 「で、お前、女の首元いっつも見てんの?」 つつっとユキの首に指を這わせた。 「たっ?!たまたま・・・・・・偶然、そこに目がいっちゃっただけで、別にいつもは・・・・・・」 真っ赤になって否定しなくってもいいのに。 可愛い・・・・・・ 「く、倉科は・・・・・・女の人に会ったら最初どこ見るわけ?」 俺? そうだなぁ・・・・・・まずは顔だろ? 化粧の濃すぎるのはパス・・・・・・ それから、首筋をつつーって下りていって、胸元にいって・・・・・・ でかすぎず、小さすぎず・・・・・・こう、手にすっぽりと納まるような? それから、やっぱ手は見るな、うん。 細い指とか? あとは、こうキュッと締まったウエストとか、足首なんかも見るかも。 「倉科のエッチ」 なんだよ? 「顔が緩みっぱなし」 指摘されて、コホンッと咳払い、キッと表情を凛々しく・・・・・・ 「楽しそうだね、2人とも」 いつの間にか部屋の入口に充が立っていて、俺達を・・・・・・いや、俺を見ながらニヤニヤ笑っていやがる。 「僕、お邪魔だったかな?」 邪魔だと思ったら声掛けるなよ! 「何か分かったのか?」 「まぁいろいろとね・・・・・・あの家の持ち主は公務員、派手な方の男はその人の弟ってことになってるらしいよ」 おぉ、ユキみたいにメモ取って、探偵っぽいじゃねぇか。 でもまぁ、公務員とその弟、女の正体は判らず・・・・・・ねぇ? 怪しいよなぁ? 「表札が出てないから、名前は分からないらしいんだけど」 詰めが甘いじゃねぇか! 「でね、さっき鉄ちゃんから連絡があったんだけど・・・・・・」 桐条胡桃の兄は店で『エミリ』と呼ばれているらしいっと。 店って言ったら、店だな・・・・・・ どんな店って言わなくても・・・・・・うん・・・・・・分かるから・・・・・・ 店の名前は『薔薇の館』って・・・・・・はははっ・・・・・・ 「その『エミリ』の本名は、里中真央・・・・・・卒業アルバムに載ってた」 そんなヤツが、なんでユキを襲ったんだ? そもそも、なんで桐条胡桃と入れ替わる必要があったんだ? 腹違いとは言え、自分の妹を殺して、おっさんと林原を殺して・・・・・・・ まだユキを狙ってるかもなんて・・・・・・ いったい、ユキが何をしたって言うんだ? 人に恨みを買うようなこと、ユキがするわけねぇんだ! 順番的には桐条胡桃、ユキ、おっさん、林原・・・・・・か。 里中は・・・・・・どんな理由があったかは分からねぇけど、桐条胡桃を殺して成り代わる。 桐条胡桃と違う部分に気付いたマネージャーの林原が、おっさんに相談する。 依頼を受けたおっさんが調査した結果、本物の桐条胡桃が殺されていたことを知り、秘密を知ってしまった二人は里中に殺された・・・・・だとして・・・・・・ユキはどうして? ユキはどう関係してるんだ? 「なぁ、ユキ・・・・・・前に犯人から電話があったとき、なんて言われたんだ?」 「何って・・・・・・次は失敗しない・・・・・・次に裏切れば絶対に殺す・・・・・・だったかな?」 なに? そう言えば俺、その電話の内容って詳しく聞いてなかったけど・・・・・・ 「次は失敗しないってことは、また命を狙われるってこと確実じゃねぇか!!」 で、裏切るって何だよ? 「ユキは里中と面識はないんだろ?」 「ない」 即答だな・・・・・・うん、隠してる様子もない。 あの時・・・・・・・・・・おっさんに言われたからな。 ユキの演技力を舐めんなって。 お前なんか簡単に騙せるんだからなって。 随分と自慢されたからな。 さすが俺の甥っ子だって。 特に、自分のことになると・・・・・・ 「なぁ、話は変わるけどユキ、ちょっと」 くいっとユキの胸倉を掴んで引き寄せ、耳元で。 「お前、痛み止めは持ってきたか?」 暫くココで待機の身だ。 本当なら入院してなきゃならないくらいの大怪我してるんだから。 ねぇんなら啓太に取りに行かせて・・・・・・ 「薬関係は一式啓太が持ってる。俺が持っていてもどうせ飲まないからって」 ナイスだ、啓太。 それにしても、腹刺されたって言うのに涼しい顔してやがる。 いつ痛み止めの効果が無くなるか・・・・・・ 見極めるの難しそうだな・・・・・・ 「無理しないですぐに飲めよ?これから何が起こるか分からねぇんだから」 素直に頷いたのを確認して、俺は窓の外へと視線を移した。 まだ何の動きもない。 そんな中、ユキの上着のポケットの中で携帯が音を鳴らした。 奥さんに一言断って、ディスプレイを覗き込む。 「倉科、石橋さんからだ・・・・・・ちょっと外す」 そのまま俺の前を通り過ぎて、廊下に出ていく。 何話すんだろう? また俺に黙って一人で動いたりしないように・・・・・・うん、そうだな、しょうがない。 立ち聞きはよくないけど、しょうがない。 「・・・・・・まだ、恭介の気配が残ってるあの部屋に」 ユキ?おっさんの部屋? 「・・・・・・いえ。なかったんですか?」 ない? おっさんの部屋、あのグチャグチャになってる部屋で、あの時ユキは何も無くなったもんはないって言ってなかったか? やっぱり何か盗まれてたのか?

ともだちにシェアしよう!