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第18話
【 倉科side 】
三十分後、俺の車は閑静な住宅街に停まっていた。
助手席のユキ、後部座席に充、要を挟んで、啓太。
俺達は、一軒の豪邸を眺めていた。
「こんなでっけぇ家に住んでんのかよ?」
有名な警備会社のシールが至るところに貼ってある。
「うん。鉄ちゃんの情報によると、ここには彼女?彼?と、あと二人の男性が住んでるみたい」
計三人で、この広さかよ・・・・・・敷地もったいねぇ。
「倉科くんだって、ちょっとパパにお願いすれば、これくらいのところ一人で住めるでしょ?」
うるせぇよ・・・・・・パパって言うな!
お前が言うと、なんか違ったパパに聞こえる。
親父の力なんか借りなくったって、俺はこれ以上のところに住める。
噴水付き?
もしくはプール付の豪邸で、両手に美女を抱えて、うはうは・・・・・・ブランデーグラスを傾けながら、満月に乾杯って・・・・・・
「倉科くん?」
要に名前を呼ばれてハッと我に返る。
「で、今彼?彼女?は家の中にいるのか?」
めんどくせぇなぁ・・・・・・
彼なのか彼女なのか・・・・・・まぁ、どっちでもいいんだけど?
「うぅん・・・・・・昼間は出掛けてるし、夜も出掛けてるって」
は?
充・・・・・・昼も夜もいないんじゃぁ、いつ会えるんだよ?
「じゃぁ、いつ家に帰ってくるの?」
要が代表して充に聞く。
「さぁ?」
さぁって・・・・・・充・・・・・・お前、ちゃんと鉄ちゃんに聞いたのか?
俺達何しに来たんだよっ!
「こうなったら張り込みしかないね!!」
おい、啓太。
お前ちょっと嬉しそうだぞ?
「こんなところで張り込みなんてしてたら、すぐにバレる」
そう、ユキの指摘した通りだ。
今だって俺の車以外路駐してる車ねぇんだから・・・・・・
こんなところで、ずっと長い時間駐車してたら不審がられる。
っつうか、誰かに通報されたりして・・・・・・
男が5人も乗ってる車が、人の家の中の様子を探ってますぅって?
「じゃぁ、倉科くん、お願いね」
ぽんっと肩を叩かれて、きょとんと充を見返す。
「なにが?」
俺は何をお願いされたんだ?
ただ充がニコニコと・・・・・・
更に時間は流れ・・・・・・・
「すみません、奥様・・・・・・御無理を言って」
俺は精一杯の笑顔を目の前の熟女へ向けた。
「いいえ、いいのよ。構わないわ。先日主人に先立たれて淋しい独り身・・・・・・突然こんなにもいい男達が5人も舞い込んでくるなんて・・・・・・夢のようだわぁ」
舞い込んでって・・・・・・っつうか、充の話じゃ旦那は海外に出張へ行ったって・・・・・・
顔も知らない旦那さん、あんたいつの間にか死んだ人になってるぜ?
「それで奥様、お向かいさんのことなんだけど、何か知りませんか?」
噂好きそうだよなぁ、この年代・・・・・・
所々奥さんの私情が挟まれた情報を得ながら、窓から見える豪邸を観察する。
啓太と要は、ここ以外の聞き込みに出掛けていて、充は家政婦と話し中。
家政婦の人も、この奥さんと同じくらいの年齢だな・・・・・・
この奥さんの世話って大変そうだ。
で、奥さんの情報によると、まず、あの家、近所は付き合いはあまりない。
男達とは挨拶も交わした事がないっつうか、顔を合わせる事がないらしい。
住んでいるは女が一人と、男が二人。
男のうち一人は公務員。
ビシッとスーツを着こなして、優しげな笑みを浮かべて通勤。
出勤時間、帰宅時間、共にバラバラ。
もう一人は何をやっているかは分からないが派手な容姿だという。
若いくせに、高級ブランドを身に付けているらしい。
同じく出勤時間、帰宅時間共にバラバラっつうか、帰って来ない日もあるらしい。
女はというと、普段帽子を目深に被り、サングラスをかけて外に出るらしいが、遠目から見ても高価なお召し物で、毎回着ているブランドも違う。
同じだった日はない。
毎日高級車に乗ってお出掛け・・・・・・何処に勤めているのかは不明。
こちらも出勤、帰宅、共にバラバラ・・・・・・帰って来ない日もあるらしい。
顔合わせた事ないって言ってなかったか?
まぁ、この派手な女っていうのが、桐条胡桃の腹違いの兄貴で、ニューハーフ・・・・・・なんだろうな。
ちなみに、桐条胡桃の方の母親が正妻で、こっちの母親が愛人ってことらしいけど・・・・・・
「誰か他に、あの家に出入している人っていますか?」
おぉ、ユキ・・・・・・メモ帳なんか取り出して探偵みたい・・・・・・って、探偵だったな。
「そうねぇ・・・・・・前に一度女の子が来たかしら?でも、その子、何処かで見た事があるのよねぇ・・・・・・とても可愛い子だったわ」
女の子ねぇ・・・・・・
「その女の子は、一人でこの家を訪れたんですか?それとも、その家の誰かと一緒だったりしました?」
ちょうど家政婦さんが冷たいコーヒーを出してくれて、俺らはそれぞれ喉を潤した。
「そうねぇ、どうだったかしらねぇ?公務員じゃない方と一緒に来たような気がするけど?」
その女の子って、ひょっとして桐条胡桃だったりして?
そういえば、2人って自分達の生い立ちを知ってたんだろうか?
同い年で、同じ学校・・・・・・
最初はお互い知らなかったかもしれねぇけど、この奥さんみたいに噂好きの人達が近所にいたら、あること、ないこと、いろんな噂が飛び交ってたかもしれないし・・・・・・
そういう情報は簡単に本人の耳にも届くだろう?
お互い親に確かめたりもしたか?
知った上で交流があったのか?
あの家を訪れたのが桐条胡桃だったんなら・・・・・・
彼女載ってる雑誌とかって、その辺に置いてねぇかなぁ・・・・・・
なさそうだけど・・・・・・・
「奥さん、その女の子って、この子ですか?」
おぉ、ユキ、用意万端じゃねぇかぁ!!
鞄の中から桐条胡桃の載っている最新号の雑誌を取り出して、彼女が載っているページを開いた。
ユキ、それに俺も載ってるんだぞ?
知ってる?
知らなかったら今度教えよ。
「えぇ、そうねぇ・・・・・・似てる気がするわねぇ」
じっと桐条胡桃を見詰める。
「声は掛けられたんですか?」
「えぇ、ちょうど私も外にいたものだから。挨拶くらいはしないとねぇ?」
こんにちは、と声を掛けたら、ニッコリ笑って会釈をしてくれたらしい。
「清楚可憐って感じかしらねぇ・・・・・・私も若い頃は・・・・・・・」
あ、昔話が始まった。
ユキはその話をまるっきり聞いてないように、難しい顔をして何か考えてるな。
っつうか、残念ながら俺も奥さんの若い頃には興味ございません。
「奥さん、この子と、あの家の誰かが揉めてたってことはありませんか?例えば、一緒に居たっていう派手な子とか」
何かが原因で諍いが起こり、なにかの弾みで桐条胡桃を殺してしまったってことか?
本当は殺すつもりはなくって、偶然打ち所が悪かったとか・・・・・・
だって、腹違いって言っても血は繋がってるんだ・・・・・・
いくらなんでも身内を殺すだなんて考えたくはねぇよな?
「さぁ・・・・・・分からないわねぇ」
奥さんはただ首を捻るだけ。
2人が一緒の時は、仲良さ気だったっていうし・・・・・・
「なぁ、倉科・・・・・・この雑誌の桐条胡桃は、本物の方の彼女かな?」
ユキに差し出された雑誌を受け取って、そこで笑顔を振りまく彼女を観察する。
「よおっく思い出してほしいんだけど、俺達が最初に会った桐条胡桃の首元に、二つ並んだ黒子があったんだけど・・・・・・これには無いんだ」
雑誌の撮影日は、彼女が死亡したと推定される日より二週間ほど前だ。
どうだったかなぁ?
首に黒子って・・・・・・っつうか・・・・・・
「で、お前、女の首元いっつも見てんの?」
つつっとユキの首に指を這わせた。
「たっ?!たまたま・・・・・・偶然、そこに目がいっちゃっただけで、別にいつもは・・・・・・」
真っ赤になって否定しなくってもいいのに。
可愛い・・・・・・
「く、倉科は・・・・・・女の人に会ったら最初どこ見るわけ?」
俺?
そうだなぁ・・・・・・まずは顔だろ?
化粧の濃すぎるのはパス・・・・・・
それから、首筋をつつーって下りていって、胸元にいって・・・・・・
でかすぎず、小さすぎず・・・・・・こう、手にすっぽりと納まるような?
それから、やっぱ手は見るな、うん。
細い指とか?
あとは、こうキュッと締まったウエストとか、足首なんかも見るかも。
「倉科のエッチ」
なんだよ?
「顔が緩みっぱなし」
指摘されて、コホンッと咳払い、キッと表情を凛々しく・・・・・・
「楽しそうだね、2人とも」
いつの間にか部屋の入口に充が立っていて、俺達を・・・・・・いや、俺を見ながらニヤニヤ笑っていやがる。
「僕、お邪魔だったかな?」
邪魔だと思ったら声掛けるなよ!
「何か分かったのか?」
「まぁいろいろとね・・・・・・あの家の持ち主は公務員、派手な方の男はその人の弟ってことになってるらしいよ」
おぉ、ユキみたいにメモ取って、探偵っぽいじゃねぇか。
でもまぁ、公務員とその弟、女の正体は判らず・・・・・・ねぇ?
怪しいよなぁ?
「表札が出てないから、名前は分からないらしいんだけど」
詰めが甘いじゃねぇか!
「でね、さっき鉄ちゃんから連絡があったんだけど・・・・・・」
桐条胡桃の兄は店で『エミリ』と呼ばれているらしいっと。
店って言ったら、店だな・・・・・・
どんな店って言わなくても・・・・・・うん・・・・・・分かるから・・・・・・
店の名前は『薔薇の館』って・・・・・・はははっ・・・・・・
「その『エミリ』の本名は、里中真央・・・・・・卒業アルバムに載ってた」
そんなヤツが、なんでユキを襲ったんだ?
そもそも、なんで桐条胡桃と入れ替わる必要があったんだ?
腹違いとは言え、自分の妹を殺して、おっさんと林原を殺して・・・・・・・
まだユキを狙ってるかもなんて・・・・・・
いったい、ユキが何をしたって言うんだ?
人に恨みを買うようなこと、ユキがするわけねぇんだ!
順番的には桐条胡桃、ユキ、おっさん、林原・・・・・・か。
里中は・・・・・・どんな理由があったかは分からねぇけど、桐条胡桃を殺して成り代わる。
桐条胡桃と違う部分に気付いたマネージャーの林原が、おっさんに相談する。
依頼を受けたおっさんが調査した結果、本物の桐条胡桃が殺されていたことを知り、秘密を知ってしまった二人は里中に殺された・・・・・だとして・・・・・・ユキはどうして?
ユキはどう関係してるんだ?
「なぁ、ユキ・・・・・・前に犯人から電話があったとき、なんて言われたんだ?」
「何って・・・・・・次は失敗しない・・・・・・次に裏切れば絶対に殺す・・・・・・だったかな?」
なに?
そう言えば俺、その電話の内容って詳しく聞いてなかったけど・・・・・・
「次は失敗しないってことは、また命を狙われるってこと確実じゃねぇか!!」
で、裏切るって何だよ?
「ユキは里中と面識はないんだろ?」
「ない」
即答だな・・・・・・うん、隠してる様子もない。
あの時・・・・・・・・・・おっさんに言われたからな。
ユキの演技力を舐めんなって。
お前なんか簡単に騙せるんだからなって。
随分と自慢されたからな。
さすが俺の甥っ子だって。
特に、自分のことになると・・・・・・
「なぁ、話は変わるけどユキ、ちょっと」
くいっとユキの胸倉を掴んで引き寄せ、耳元で。
「お前、痛み止めは持ってきたか?」
暫くココで待機の身だ。
本当なら入院してなきゃならないくらいの大怪我してるんだから。
ねぇんなら啓太に取りに行かせて・・・・・・
「薬関係は一式啓太が持ってる。俺が持っていてもどうせ飲まないからって」
ナイスだ、啓太。
それにしても、腹刺されたって言うのに涼しい顔してやがる。
いつ痛み止めの効果が無くなるか・・・・・・
見極めるの難しそうだな・・・・・・
「無理しないですぐに飲めよ?これから何が起こるか分からねぇんだから」
素直に頷いたのを確認して、俺は窓の外へと視線を移した。
まだ何の動きもない。
そんな中、ユキの上着のポケットの中で携帯が音を鳴らした。
奥さんに一言断って、ディスプレイを覗き込む。
「倉科、石橋さんからだ・・・・・・ちょっと外す」
そのまま俺の前を通り過ぎて、廊下に出ていく。
何話すんだろう?
また俺に黙って一人で動いたりしないように・・・・・・うん、そうだな、しょうがない。
立ち聞きはよくないけど、しょうがない。
「・・・・・・まだ、恭介の気配が残ってるあの部屋に」
ユキ?おっさんの部屋?
「・・・・・・いえ。なかったんですか?」
ない?
おっさんの部屋、あのグチャグチャになってる部屋で、あの時ユキは何も無くなったもんはないって言ってなかったか?
やっぱり何か盗まれてたのか?
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