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第20話
【 倉科side 】
どのチャンネルもCMばっかで・・・・・・漸く始まったのはニュース番組だった。
ユキも俺も、たぶん充も画面に暫く見入っていたと思う。
まぁ、俺の場合、見入っていたというか、次にどう会話を繋げればいいのか分からなかっただけだけど・・・・・・
別にこれといったニュースはなかった。
そのニュースでおっさんと林原が殺されたことは報道されなかったし。
お天気お姉さんが出てきて、明日の天気予報が始まった。
明日は雲の多い一日になるでしょう・・・・・・でも、傘は必要なさそうっと・・・・・・
で、またCMに切り替わり、次の時間から始まる番宣が数秒流れて、またCM。
「CM多いっちゅうんじゃ」
今日は何曜だっけ、と思い浮かべながら俺はリモコンを探した。
その時。
「こんばんは。この時間は予定を変更しまして、報道特別番組をお送りします」
カチッとスーツを着込んだ男が画面に現れた。
画面いっぱいに躍る文字を見て、誰もが驚いたと思う。
「連続・・・・・・殺人、事件発生?」
そのアナウンサーは事件の内容、被害者達の情報を淡々と述べていく。
被害者の名前は伏せられているが、自分達の知っている情報と一致する部分が多い。
最近人気急上昇中だった女性タレントKが殺害される。
そしてそのマネージャーHも死亡・・・・・・使われてるイニシャル、まんまじゃねぇか?
そのタレントKが実はストーカーに悩んでいて、そいつの調査を依頼された探偵が殺され・・・・・・たって?
桐条胡桃に林原、おっさん、この三人のことだよな?
でも、さっきのニュースでも出てこなかったじゃんか?
なんでいきなり?
しかも特番って?
「警察が情報提供したのか?」
公開捜査ってやつ?
そんなに捜査って行き詰ってんのか?
いや、そんなわけねぇよな?
まだ始まったばっかだし、集めた情報の整理だって途中なんじゃねぇの?
公開するにしたって、こんなタイミングでするわけねぇよな?
「石橋さんからはそんなこと聞いてない」
ユキも訳が分からないといった感じだ。
「あ」
俺の携帯が着信。
相手は、同じ番組を見ているらしい啓太からだった。
その背後からは要の声が聞こえるから、まだ一緒にいるようだ。
「ねぇ、先輩、今テレビ見てる?これって何?」
落ち着け、啓太・・・・・・
「俺らも驚いてるっつうの!お前らも今見てるのか?今からこっちに来れねぇか?」
すぐに行くという啓太の返事を聞いて通話を終了させる。
ユキは大丈夫だろうか?
携帯を強く握り締めて、俯いていたユキの顔を覗き込む。
「ユキ?」
「石橋さんに連絡してみる」
アドレスを呼び出して、携帯を耳に近づけて・・・・・・
数回コールの後、石橋が出たようだ。
俺はその携帯に手を伸ばして、スピーカーのボタンを押した。
やっぱり背後が騒々しい。
「あ、石橋さん?今テレビで・・・・・・」
テレビなんか見てる暇ないって言うかと思いきや・・・・・・
「あぁ、由貴くんも見てるんだね・・・・・・おかげで署内大騒動だよ」
あちこちから電話が掛かってきているらしい。
この番組の内容は事実なのか、否か。
警察が情報提供したのではないのなら、一体誰が?
「すぐにテレビ局に問い合わせたんだが、匿名でFAXが送られてきて、更にはバイク便が届いて・・・・・・その中に、犯人が使ったらしい血のついたタオルや、被害者のかもしれないモノが幾つか入ってたらしくってね」
廃旅館で見付かった身元不明の女性の遺体が桐条胡桃だと言う事は伏せてあったが、何人かのフリージャーナリストやベテラン記者の人達は薄々感ずいていたようだったという。
そこへ、今回テレビ局に送られてきた箱の中に、見たことのあるアクセサリーを見つけて、これは信憑性があるものだと確信したらしい。
「そのアクセサリーって?」
ソファに積まれていた雑誌を捲り、桐条胡桃のページを開いた。
「どうやら、恋人に贈られたものらしいピアスなんだけどね」
桐条胡桃に恋人?
「桐条胡桃の恋人の件は、過去に1回だけ、週刊誌に小さく記事が載ったらしいよ・・・・・・でも、それはガセだったらしいんだ」
警察の捜査でも、桐条胡桃の恋人は発見できず・・・・・・か。
今は、このテレビ放送を止めようと上層部が動いているらしい。
「それとね・・・・・・これは、まだ確認が取れてないんだが・・・・・・」
ピンポーン、と来訪のチャイムが鳴って・・・・・・充が啓太と要を出迎えに玄関へ向かった。
「テレビ局に送られてきたモノの中に、恭介の手帳が入ってたみたいなんだ」
石橋がおっさんの名を出した瞬間、テレビに『探偵』と書かれたフリップの男が映った。
まだ正体不明の、真っ黒な全身タイツの犯人役が・・・・・・
おっさん役の男に馬乗りになって・・・・・・
凶器の変わりに手にしたボールペンを・・・・・振り下ろして・・・・・・
顔に、胸に・・・・・・腹に・・・・・・何度も、何度も・・・・・・ボールペンを突き立てて・・・・・・
最後・・・・・・心臓へズブリと・・・・・・・・・
スタジオの空気が凍ってる。
スクープだって飛びついたけど、これ放送してたら大量のクレームがくるんじゃねぇの?
ユキの携帯に送られてきた写真を思い出して顔を顰めた。
おっさんの腹も顔も・・・・・・ぐちゃぐちゃで・・・・・・
画面が真っ赤に染まっていて・・・・・・
思い出しただけでも気分が悪くなる。
「ユキ、大丈夫か?」
今のは、おっさんが襲われたときのことだって・・・・・・分かってるよな?
瞬きもせずに、ジッと画面を見詰めているユキの肩にそっと触れる。
「大丈夫・・・・・・ごめん」
まだ石橋と繋がっている携帯を握り締めたまま、テレビから視線を外さない。
少しして、変なタイミングでCMが始まった。
本来なら、犯人から届けられたものは重要な証拠品なんだから、すぐに警察に提出しなければならなかったんだ。
まぁ、この放送を強行した奴等、皆処分対象だろうなぁ・・・・・・気の毒だけど。
大スクープだって思ったかもしれないけど・・・・・・
実際に人が3人も亡くなってる事件なんだ。
いくら警察から情報が下りてこないからって・・・・・・あんなのを放送するのは拙かっただろ・・・・・・
殺しの現場なんて再現するもんじゃない。
しかも、まだ犯人は野放しなんだ。
視聴者の不安を煽るだけ・・・・・・
「由貴くん?」
そういえば、まだ石橋と繋がったままだった。
「ようやく放送を止められたみたいだよ・・・・・・いやぁ、参った参った」
苦笑してる石橋の顔が目に浮かぶ。
「テレビ局に送られてきた証拠品の数々を押収しに向かったから・・・・・・由貴くんにすぐ恭介のを返してやりたいけど、もう少し待っててくれな?」
おっさんの手帳・・・・・・
ソレに犯人に繋がる手がかりは残されてるんだろうか?
CMが明け、そのテレビ局のアナウンサーが再び映し出されたとき、彼らは頭を下げた。
先程は、不適切な放送を・・・・・・うんぬんかんぬん・・・・・・
うん、まぁ、軽率だった、よな。
「犯人が自分の犯行を自慢してるのかなぁ?」
そうかもしれない、俺は啓太の言葉に同感だ。
3人も殺してんのにテレビも新聞も、どこも取り上げていなかった。
犯人は自分の犯行を世間に言いたくて仕方なかったんだ・・・・・・きっと。
ふざけんなっつうの!
その時、何処かで携帯の着信音が鳴り始めた。
俺のじゃないし・・・・・・ユキはまだ石橋と繋がっている。
啓太でもなさそうだし、要もきょろきょろしている。
充は、我関せずと言った感じでテレビを見てるし・・・・・・・・・・・・
ちょっと待て?
これって、まさか?
「桐条胡桃の携帯?!」
帰って来た時に脱いだ上着のポケットに入れたままになっていた彼女の携帯が鳴って・・・・・・
俺は慌てて携帯を取りに行き、まだ鳴り続ける携帯を開いた。
「非通知?」
ディスプレイには相手の名前は表示されていない。
ピッ・・・・・・
「もしもし?」
相手に動揺を悟られないよう、冷静な声を出したつもりだ。
出せたはず・・・・・・だと思う。
「あ、今度は倉科さん?ってことは、今二人一緒なんですかぁ?」
「ってめぇ!!」
またボイスチェンジャー使ってやがる・・・・・・
俺の怒鳴り声に、その場にいた全員がこちらに注目した。
ユキ、そんな不安な顔しなくっていいって。
俺は深呼吸を一つして、携帯を握り直した。
「今テレビ見ててくれました?」
今放送された報道番組のことを言っているんだろう。
「お前何のつもりだ?」
慎重に・・・・・・冷静に・・・・・・落ち着け、俺。
「なんのつもりって・・・・・・もっとワイドショーとかで話題になってさぁ、何年、何十年と犯人が分からないままでぇ、懸賞金とか掛けられたりしてぇ、でも結局迷宮入りしてぇ」
遊びのつもりなのかよ?
「何年か後に特番で、あの時の事件はこうだったとかって振り返ったりしてねぇ」
「お前の目的はなんなんだよ?」
くすくす笑いながら話しやがるから、だんだん腹立ってきた。
「目的?そうだねぇ、まずは雛森さん、かな?」
「てめぇ!!なんでユキを狙うんだ!!」
ビクッとユキの身体が大きく震えて、手から携帯が落ちた。
背後からユキを支えるように充が手を添えて、こちらの様子をジッと見ている。
「なんでって、僕の言うこと聞かないから悪いんだよ?」
言うこと聞かないってなんなんだよ!
ユキはてめぇのもんじゃねぇぞっ!
「ユキがお前に何をした?ってか、お前誰なんだよ?」
マジでユキとコイツ・・・・・・何か関係あんのか?
「あの人がね・・・・・・教えてくれたんだ・・・・・・手に入れたかったら」
ブツ・・・・・・
いきなり通話が切られた。
一方的に・・・・・・突然・・・・・・電波が悪いわけでもないのに・・・・・・
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