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第21話

【 倉科side 】 「おい、ちょっ!!てんめぇ、勝手に切ってんじゃねぇ!!!」 あの人って誰だよ!!! つまり、犯人は一人じゃなくって、誰か共犯者がいるってことだよな? 俺の態度に大体のことは飲み込めただろうけど、俺は一応ヤツと話した事をこの場にいる全員に説明した。 ユキは石橋に犯人から連絡が来たことを伝えた。 どうやらまだ繋がったままになっていたらしい携帯を持つ手が、少しだけ震えているように思う。 そりゃ、自分が狙われてるんだから怖くないわけがねぇよな? 他の奴らには平気な顔してるように見えるかもしれないけど・・・・・・ あいつの細かな仕草の変化を俺が見逃すわけねぇっつうの。 無理しやがって。 顔色もどことなく悪い気がするし、今日は早めに休ませるようにして・・・・・・ 「雛森くん、無理しないで。顔色も良くないし、もう休んだ方がいいよ」 俺が声を掛けようとして、間に充が入りやがった。 ってか、ワザとだろ? お前、俺が今ユキに話しかけようとしてたの気づいてたよな? 「そうだよ、雛森くん。(無理矢理)退院したばっかなんだし、先輩のベッドってキングサイズだから、なんだったら僕が添い寝してあげようか?」 更に啓太が俺を押し退けてユキとの間に身体を滑り込ませてきた。 お前も『キングサイズ』を強調するな! しかも、添い寝ってなんだ! 「そんで子守唄歌ってあげる」 啓太の子守唄もいらん!! お前の声はでけぇから、うるさくて寝られねぇっ! 途中で歌詞が解らなくなって、ふんふん言ってるだけだろうがっ! 「キングサイズって、どれくらい大きいの?」 どれどれってサイズを確認しに席を立つ要・・・・・・ こいつらも今日泊まって行く・・・・・・んだろう、な・・・・・・いや、呼び戻したのは俺だけど。 まぁ、ユキの気が紛れるんなら、それでいっかとか思うけど。 この失敗した感はいったい・・・・・・ 「はいはい、お前らはここで雑魚寝しろ!俺がユ、雛森についてっから」 優しい俺が毛布出してやるから・・・・・・って、なんだよ? 何なんだよ、お前らのその目は? じとっと・・・・・・ 「うわぁ・・・・・・倉科くんのエッチ」 は? 何を言い出すんだ、要。 「先輩、怪我人の雛森くんに何する気?」 なんだって? 啓太、俺がユキに何をするって? 「え?そうなの?倉科くんって、実はそっち側のお人だったわけ?きゃっ、僕達も危ないのかしらん」 充・・・・・・小指を立ててしゃべるな! 「てめぇらなぁ!!って、そこでユキも顔真っ赤になって黙ってんなよ!!」 そんなこんなで、俺はユキを寝室へ連れて行き、奴らのために毛布を出してやり・・・・・・ っと、風呂に入りたいって充の我儘を聞き入れて、いろいろ用意してやって・・・・・・ 要と啓太は結局ビールを大量に飲んで潰れて・・・・・・ 漸く落ち着いてリビングのソファに腰を下すと、風呂から上がった充がタオルを肩に掛けて戻ってきた。 「あらら、もう二人とも寝ちゃったの?これから付き合ってもらおうと思ってたのに・・・・・・残念」 そのままキッチンへ入っていって、冷蔵庫からビールを二本取り出した。 俺に向かって一本を投げて寄越し、リビングに戻ってくる。 「雛森くんはどう?寝た?」 今日はいろいろあったし。 「一応ベッドに寝かしつけてきたけど・・・・・・たぶん、まだ寝てねぇだろうな」 あとでまた様子見に行くけどさ。 起きてたら、眠れるまで側にいて・・・・・・ 「この二人、ちゃんと分かってるのかなぁ・・・・・・ふふっ、幸せそうな顔して眠ってるね」 充の指先が啓太の頬を突く。 ま、分かってるだろうぜ? 「こいつらもユ、雛森のこと心配してるんだ。そのこと、あいつも分かってるから・・・・・・」 あいつ、気ぃ使い過ぎなんだよ・・・・・・ こいつらに対してまで遠慮することねぇんだ。 「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」 「何?」 ビール缶のタブを起こして、グビッと一口飲んだ俺に、妙に真剣な顔つきで充が・・・・・・ 「中学の時に告白された男の子って、相手は雛森くんでしょ?」 ぶはっと、思いっきり充の顔に向かってビールを噴出してしまった。 うぅ、鼻にツンッときたぁ・・・・・・ 「ちょっと、僕今シャワー浴びてきたばっかりなんだけど?」 充がいらん事を言うからだろうが!! だいたい! 「な、なんで?どうして?!どこらへんが?いや、えっと、どういうこと?」 俺、支離滅裂・・・・・・ ユキが充に言う・・・・・・わけねぇよな? 「なんとなく、君達の様子を見ていれば分かるというか・・・・・・雛森くん純粋そうだから、すぐ顔に出て・・・・・・あぁ、もう、べたべたじゃん」 タオルを取りに行く充の背中を見送って、俺は自分の両頬に手を当てた。 熱くなってやがるってことは赤くなってる? これって、言葉にしなくっても態度で肯定してるってことで・・・・・・え? ユキの顔に出てたって? 「で、な、なんなんだよ?」 戻ってきた充が再び俺の前に腰を下ろす。 「今はどうなの?」 今って? どうなのって・・・・・・何が? 「現在の倉科くんは、雛森くんのことどう思ってるわけ?」 どうって? あいつの事は放っておけない・・・・・・ 俺がちゃんと見てないと、すぐに無茶して倒れるし・・・・・・ 思い込み激しいし・・・・・・ 人とのコミュニケーションは苦手だし。 俺が側にいてやらないといけないって・・・・・・思ってて・・・・・・ 「俺は・・・・・・」 俺は他の奴らとは違う、俺の事を特別扱いしろって・・・・・・アピールしてみたこともある・・・・・・ ずっと・・・・・・あいつの隣が俺の居場所だった。 あいつが隣にいると安心できた。 ユキの隣に俺以外のヤツがいることなんてなくて・・・・・・いつも一緒にいて・・・・・・ それが当然・・・・・・当たり前で・・・・・・変わることなんてないと思ってた。 好きか嫌いかって聞かれたら、迷わず好きって言う。 ユキは、俺のこと好きって言ってくれた。 俺は、それに・・・・・・ちゃんと応えてない。 あの時の俺は、ユキを傷つけてしまった。 俺の想いを・・・・・・ユキにちゃんと伝えてない。 ただ、ユキを傷つけただけ。 「・・・・・・しなくん・・・・・・倉科くんってば」 ヒラヒラと手を目の前で振られて我に返る。 「何回も呼んでるのに・・・・・・目開けたまま寝てたら気持ち悪いんですけど?」 気持ち悪い・・・・・・俺、充に気持ち悪いって言われた・・・・・・ 俺はその単語を、よりにもよってユキに向けて使っちまった。 充に言われたって何とも思わねぇけど、これがユキだったらって考えたら・・・・・・ 「倉科、気持ち悪い」 ユキが俺のこと・・・・・・気持ち悪いって・・・・・・ 「倉科、気持ち悪い」 ダメだ。 心臓が痛い・・・・・・ 今ユキにそんなこと言われたら・・・・・・深海に沈んで、暫く浮かんでこれなさそう・・・・・・ 「倉科くんが、今雛森くんのこと何とも思ってないんだったらさぁ」 ユキのこと・・・・・・ 「僕が告白しちゃっていい?」 告白? は? 誰が誰になんだって? じっと充を見つめる。 充は薄らと笑みを浮かべてて、でも俺から目を逸らすことはなく、俺達はただ見つめあう形になっていた。 「倉科くん、ちゃんと聞こえてる?」 聞こえてる・・・・・・ちゃんと聞こえた。 聞こえたけど、お前、今変なこと言っただろう? 「僕さ、雛森くんと一緒にいるうちに、彼のこと気になっちゃってさ」 お前、ユキと、そんなに一緒にいたか? 二人っきりにさせたこともねぇよな? 気になったって、ユキのどういうとこを? お前が俺よりユキのこと知ってるわけねぇし。 だって、俺はお前よりユキと付き合い長いし。 「雛森くんってさ、コップで水飲む時なんかこう、舌先がコップの淵に触れるじゃない?あれ、なんかちょっとエロくない?」 え?エロい? お前、ユキのドコ見てんだよ? 充、お前、ユキに何する気だ? 「僕の腕の中にすっぽり収まりそうなサイズだし」 お前、妄想の中でユキのこと抱きしめたのか? 誰に断ってそんなこと妄想してんだよ! ユキは・・・・・・ユキはなぁ、お前なんか好みじゃねぇんだよ! 「ねぇ、僕と雛森くんってお似合いカップルだと思わない?」 東の空が薄っすら明るくなってきた。 俺、寝てないから、充が変なこと言ってるように聞こえるんだろうか? いろんなことが一度に起こって、俺の頭は混乱してるのか? 「雛森くん可愛いじゃない?僕男の子でも雛森くんならいっかって思ってさぁ」 男でもユキならいっかって? 「でも、雛森くんって、未だに君のこと好きみたいじゃない?」 そうだよ、ユキは俺のことが・・・・・・へ? え? ユキはまだ俺のこと・・・・・・好きって? うそ? マジで? ユキはまだ俺のことが好き? 「ま、そんな一途な雛森くんでも、僕なら、君の事を忘れさせてあげられる自信があるからさぁ」 俺の事を忘れさせる自信? なんだよ、それ? ユキが・・・・・・充を好きになるってのか? そんなことって・・・・・・ないだろ? 「でも、一応、君の気持ちも聞いておかないとね?僕達、親友だから」 俺達親友だったのか? 「倉科くんが、雛森くんのこと何とも思ってないんなら、心置きなく・・・・・・」 ちょっと待て、充・・・・・・ユキが、お前を好きになるわけねぇって・・・・・・ だって、お前も言ったじゃん? ユキはまだ、俺の事を好きだって・・・・・・ だから、俺はまだ・・・・・・ 「俺は・・・・・・ユキのこと・・・・・・」 ぼんやりと寝室の方へ視線を動かす。 扉は閉められたまま。 そんな扉に中学時代のユキの姿が浮かび上がった。 あれは、卒業式の後、あいつが校舎裏に呼び出して・・・・・・ この地域で一番大きな桜の木があって、その下に立ってたユキ。 あの時、ユキはどんな表情をしてた? もったいねぇなぁ、ちゃんと見てなかったんだなぁ、思い出せねぇなんて・・・・・・ すぅ、はぁ・・・・・・一度大きく息を吸って、ゆっくり吐き出して・・・・・・ とくん、とくんと、ゆっくりだけど、ちょっとずつ早くなる鼓動を感じながら、充と目を合わせ・・・・・・ 嫌だな。 ユキが俺の側からいなくなって、充の隣にいたりなんかしたら・・・・・・嫌だ。 だって、俺は、ユキのこと・・・・・・ 「俺はユキのこと・・・・・・好きだ」 口にして実感する。 俺は、雛森由貴の事が好き。 それは、ちゃんと恋愛感情として・・・・・・ユキは誰にも譲れない。 「だから、お前にも渡せねぇ」

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