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第22話
【 倉科side 】
俺はユキが好き。
「・・・・・・・・・だろうね」
だろうね?
なんで、そこで呆れたような顔して溜息を吐く?
今までの会話はなんだったんだよ?
「あのね、倉科くん・・・・・・君ね、ずっと中途半端な態度してたって気付いてる?」
中途半端?
俺が何したってんだよ?
「視線がずっと雛森くんのこと追っかけてるんだよ?」
は?
俺そんなにユキのこと見てたか?
ってか、それに気づく充は俺のことずっと見てたのか?
お前、実は俺のファンか?
「雛森くんのことが心配で心配で堪らないってだけじゃなくってね」
え?
だって、あいつすぐに無茶するから、誰かがブレーキ掛けないと。
「要や啓太が雛森くんと話してる時に、自分がどんな顔してるか知らないでしょ?」
どんなって・・・・・・普通だろ?
「僕らの前で雛森くんのこと呼ぶとき、ユキって呼ぶくせに、僕らには雛森って言い直して」
ユキって呼んでいいのは俺だけだ。
「嫉妬心は放出しっぱなしだし。倉科くんって、結構独占欲が強いよね」
充が立ち上がった。
「さっきの、僕が雛森くんに告白しよっかなってのは冗談だよ。倉科くんの気持ちが知りたかったんだ」
そのまま、ユキがいる寝室へ向かっていく。
なんで?
お前、何しようとしてるわけ?
「僕はちゃんと2人のこと応援してあげるからね」
応援って?
あぁ、たぶん、ユキ寝てないんだろうなぁ・・・・・・って、充、なんで部屋に入って行く?
「ちょっ、充?」
俺は慌てて充の後を追いかけた。
そして。
「倉科くんって雛森くんのこと好きで好きで堪らないみたいだね?」
満面の笑顔でなんて事を?!
ほら見ろ、ユキ真っ赤で固まってるじゃねぇか!!
「充!!お前、前置きもなくいきなり何言って!!!」
「前置きなんて嫌って言うほどあったんじゃない?それに、これは事実なんだし?これからお互いよく話し合いなよ」
ぐいっと俺の腕を引っ張って、更にユキに向かって背中を押された。
そりゃ、事実だけど。
なんか展開がいきなりで、頭が追い付かないっていうか。
俺達結局徹夜じゃん?
睡眠って大切だよな?
充の行動が理解できない。
「犯人も見付けなきゃならないんだし!!早めに済ませてね!!その間に朝食用意しておくから・・・・・・あ、雛森くんはパン?ご飯?」
この展開についていけないな、ユキも・・・・・・きょとんとしたまま、ぽかんと口を開けて充を見上げている。
更に朝飯何がいいって・・・・・・
ん?ところで早めに済ませるって・・・・・・何を?
「雛森くん、朝は?」
ユキの顎に触るな!!
「へ?あ、お、おはよう・・・・・・ございます?」
お前も挨拶かよ!!
「じゃなくって、朝食はどうする?」
俺が充の手を叩き払っても、ヤツは平然とユキに聞いてる。
「えっと・・・・・・俺朝は、食べな、い」
「ちゃんと食べなきゃダァメ!!朝は基本だよ!栄養摂って、さっさと怪我治してもらわないと・・・・・・こっちで適当に作るからね」
そう言って、充は部屋を出て行った。
残されたのは、俺と・・・・・・ユキ・・・・・・
ユキはベッドの上でただ瞬きを繰り返している。
今は必死にこの状況を理解しようとしてんだろうな。
あ、こいつ目ぇ充血してる・・・・・・やっぱり寝てねぇな・・・・・・って、寝れねぇよな?
とにかく説明しなければ、と気を取り直して・・・・・・
「ユキ」
俺は両手でユキの頬を挟んだ。
俺の顔がユキの瞳いっぱいに映って・・・・・・
「くっ、くらっ、くらっくら」
ボンッとユキの顔が熱くなって、すぐに瞳が潤んできて・・・・・・
「ゆ、ゆゆきっ」
お前の緊張が腕から伝わってきて・・・・・・
俺まで、たぶん今真っ赤なんだろうなぁ・・・・・・
「えっと・・・・・・その、そういうことなんだけど・・・・・・」
って、俺、ちゃんと言わないと!!
「いや、えっとさぁ・・・・・・」
何からどう言えばいいんだろうか・・・・・・
思わず、混乱した俺はユキの華奢な身体をぎゅーっと抱き締めてしまった。
「く、倉科?!」
ユキ、声がひっくり返ったな。
「いいから・・・・・・ごめん、ちょっとこのままで聞いて・・・・・・」
今は恥ずかしすぎて顔が上げられん!!
心臓だって爆発しそうなほどバクバクいってるし・・・・・・
これ、このバクバクがユキに気付かれたら俺恰好悪いな。
落ち着け・・・・・・落ち着け、俺!!
深呼吸・・・・・・
すーはー・・・・・・すーはー・・・・・・はい!本番!!
「あのな、ユキ・・・・・・俺、お前のこと・・・・・・好き、みたいなんだ」
あ、間違えた。
「みたい、じゃなくて・・・・・・俺は、ユキが好きなんだ」
ユキの手が俺の背中の服・・・・・・掴んだ。
まだギュッとは抱きついてくれないんだな。
「本当は・・・・・・たぶん、ユキに告白された中三ん時も・・・・・・いや、もっと前、ユキが告ってくるずっと前から・・・・・・・」
自覚がなかっただけで・・・・・・
ユキが俺以外の奴等と楽しそうにしてたとき、ムカついてた。
ユキにじゃなくて、その相手に・・・・・・俺、嫉妬してたんだ。
いつも、ユキの気を引くのに必死だった。
ユキを俺が独り占めしたくて。
「・・・・・・・・・・・・うそだ」
そりゃな、いきなりは信じてくれねぇよな?
「うそじゃない。本当だって・・・・・・自覚したのはさっきだけど・・・・・・」
さりげなく、ユキの後頭部・・・・・・髪に指を入れてみた。
「く、倉科?」
びくんっとユキが大きく震えた。
「俺がいつからお前のこと好きだったかなんて・・・・・・遡ったらたぶん、出会った頃までいくかもな?」
一目合ったその日からぁ恋の花咲く事もある、べべんべんべん・・・・・・・・・・・・
なんかで聞いたことがあるけど、まさにそれだったと思う。
最初に見たとき、ずがぁんって稲妻が落ちたんだよ。
衝撃的だったんだよ。
周囲にピンクのハートが飛び散ったんだよ。
チカチカと星も飛び散ったんだ。
俺は、こいつを守ってやらなきゃって思った。
「俺が手ぇ出すたびに、ユキがその手を取ってくれるか・・・・・・いつもドキドキしてた」
ユキのことを知りたくて、ユキに俺のことも知ってほしくて。
半ば強引に俺の世界へ引っ張り込んだ。
俺と同じ景色を見てほしくって・・・・・・
俺はお前の笑顔が見たくって・・・・・・
えっと・・・・・・
「えっと・・・・・・だから、何が言いたいかと言うと・・・・・・その、俺は!!」
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!何やってんの、先輩!!!!」
残念、邪魔が入った。
なんとなぁく嫌な予感はしてたんだよ。
小さく舌打ちして、振り返ると、部屋の入口に啓太と・・・・・・まだ眠そうな要までいやがった。
「うるせぇなぁ、ユキとコミュニケーションを図ってるところだ。邪魔すんな」
しっしと手を振るが、啓太はズカズカと部屋の中に侵入してきた。
「雛森くん、一度包帯替えよう。僕がやってあげる。変態先輩は外に出ててよ、エッチ!」
なんだと?
言うに事欠いて『変態先輩』って、お前・・・・・・
俺はユキを抱いている腕に更に力を込めた。
絶対離さねぇから!
「俺が替える。お前ら充が朝食用意してるだろう?そっち手伝ってこいよ」
何人分あると思ってんだよ。
充が大変だろ?
「だって、充さんがそろそろいい時間だから二人を呼んできてって」
ココへ来た経緯を御丁寧に要が説明してくれる。
充のヤロー・・・・・・これからって時に!!
どっかにカメラでも隠してあるのか?
「とにかく、お前らは!!」
あっちに行ってろ、と言おうとして・・・・・・
「雛森くん、僕が包帯替えてあげるね」
更に登場した充によって、三人とも寝室の外へと追い出された。
え?ってか、なんで俺まで?
充は俺達のこと応援してくれるって言ってなかったか?
それで、どうして俺まで追い出されるんだよ?
俺達三人は、締められた寝室の扉の前に仲良く並んで、中からユキ達が出てくるのを待っていた。
だいたい、俺達男同士なんだぞ?
包帯替えるだけなのに、なんで締め出されにゃならんのか?
更に、どうして扉まで閉められにゃならんのか?
っつうかココは俺んちだぞ!!
「ねぇ先輩」
ぶぅっと膨れっ面の啓太が、扉を見詰めたまま呼んだ。
俺は無言でその横顔を一瞥して、視線は再び寝室の扉に固定した。
「遼先輩!」
啓太が睨んでくる。
「・・・・・・・・・・・・んだよ?」
「先輩と雛森くんって・・・・・・やっぱり恋人同士なの?」
やっぱりって・・・・・・啓太にまで気付かれるほど、俺の態度って露骨だったのか?
「別れたんじゃなかったの?」
は?
別れる前に付き合ってもいねぇよ。
「僕ね・・・・・・雛森くんのこと好きなんだ」
は?
「なんだよ、突然?」
いきなりな告白だなぁ、おい。
今までそんなこと一言も・・・・・・
いや、そういえば、そんな素振りはあちこちで見た気がする。
「啓太・・・・・・無理だから諦めなって言っただろ?二人は相思相愛ってやつなんだからぁ」
お前、それを要に相談してたわけ?
お前らそういう恋バナする仲なのか・・・・・・
「うっさいな!!僕は本気で雛森くんのこと好きなんだよ!!」
ちょっと待てって、がしっと啓太の口を押さえつけるが、間に合わなかった・・・・・・
声でけぇんだよ!
絶対今の啓太の声中に聞こえたよな。
こりゃ当分ユキのヤツ、ここから出てこねぇんだろうな・・・・・・・・・・・・
はぁ、んで・・・・・・こっちはどうすっかなぁ?
「ライクじゃないよ、ラブだからね!!」
俺の手を剥がして・・・・・・更に詰め寄ってくる。
そうだなぁ・・・・・・啓太のやつ、冗談で言ってるんじゃなさそうだ・・・・・・ってことは、俺のライバル出現ってやつ?
いやいや、俺の方がまだ有利だろ・・・・・・なんたって両想いなんだから。
「でも残念だったな、啓太・・・・・・ユキ・・・・・・雛森由貴は俺の事が好きなんだぜ?」
ここは先輩として余裕の態度を示しながら、ふふんと鼻を鳴らして・・・・・
「ぬぅっ!僕だって、僕だってねぇ!」
お前は片思いだもんな。
「下告上だもんね!!」
は?
「下が上に告白するって書いて下告上!略奪愛だもん!失楽園だもん!光源氏計画だもん!」
全部が意味不明だっての!
「とにかく!!!雛森くんを遼先輩から奪う!!」
できるもんならやってみろよ・・・・・・
まぁ、無駄だろうけど。
さっきのユキの態度だって、まだ俺に一途って感じだったし・・・・・・
啓太がいきなり好きだって告白したって、ふらふらっとそっちに靡くわけねぇもん。
だいたい、俺、啓太より格好いいし?
出来る男、倉科遼!
「うわっ、ナルシストな顔してる!!」
「啓太ったら・・・・・・なんで突然積極的に雛森くん大好きアピールをかましてるの?」
要が最もな疑問を口にする。
俺がユキに再会するまで、お前らの邪魔するヤツなんていなかったろ?
まぁ、ユキに告白したって、あいつはその気ぜんっぜんねぇだろうけどなぁ。
だって、ずうぅぅぅっと俺のことが好きだったんだから。
「だって、今まで雛森くん、誰とも同じような感じで一線引いてて、誰のものにもならないっていう、孤高の人っていうか、一匹狼っていう感じでさぁ!焦らなくっても、少しずつ時間をかけて、徐々に僕に慣れていってもらおうって・・・・・・結構順調にきてたのに!!」
ギッと俺にガン飛ばした。
「ライバルが遼先輩なんだったら、うかうかしてらんない!!」
またライバル宣言・・・・・・
「・・・・・・お前、男が好きだったのか?」
まぁ、ユキは、その辺の女共よりは可愛いと思うけど?
「雛森くんだから好きなの!!誰でもいいってわけじゃないもんね!!」
確かに・・・・・・俺と啓太がチュッチュするのは考えられねぇな・・・・・・・
ちゅっちゅ?
「先輩、なんか超エロい顔してる」
「ばっ馬鹿野郎!!うるせぇよ!!」
はっずー・・・・・・俺今顔真っ赤なんだろうなぁ・・・・・・
俺とユキの・・・・・・ちゅう・・・・・・想像して動揺しまくって。
「だいたい、先輩が何を想像したのか分かるけど、現実には雛森くんの相手は僕だからね!!」
啓太とユキが?
ふん、それはやっぱり有り得ねぇな。
だって想像できねぇもん。
「・・・・・・もう好きにして・・・・・・あ、充さん、終わったの?」
要が俺達に愛想を尽かし、振り返った視界の先に部屋から出てきた充が・・・・・・
こいつの表情から、それまでの俺達の会話が全て中に筒抜けだった事が分かる。
つまり、ユキにもばっちり聞こえてたんだろうな。
「雛森くん、当分部屋から出ないって」
だよな。
そうなるよな、あいつは。
「えぇぇぇ!!なんで?!まさか、先輩のせいで怪我悪化しちゃったの?大丈夫、ひなっふが!!!!!」
今にも寝室に飛び込んでいこうとした啓太を捕まえて、羽交い絞め。
誰のせいだと?
てめぇが、でっけぇ声で叫ぶからだろうが!
「・・・・・・明るい三角形だね」
俺達の横を通り過ぎる際、充が落として行った言葉。
三角関係って、俺とユキと啓太のことか?
馬鹿、俺とユキの間に啓太が割り込めるわけねぇ・・・・・・だろ?
「ユキ、また後で様子見に来るから。ゆっくり休んでおけよ?」
「ユキちゃん、また後でね!!!」
俺の手を強引に退かして啓太が叫んだが・・・・・・『ユキ』だとぉ?!
ごつん、と啓太の頭部に拳を落としてリビングに引っ張っていく。
「いったいなぁ、もう!!暴力反対!!!」
たいして痛くねぇだろ!
俺は優しいから、ちゃんと加減してやったろうが!
「お前が『ユキ』って呼ぶな!!呼んでいいのは俺だけなんだよ」
そう呼ぶことで、俺は特別なんだって・・・・・・思ってたのに。
「じゃぁ、ひなちゃん?」
そう啓太が首を傾げた時、充が・・・・・・
「でも、雛森くんは倉科くんのこと名字で呼ぶんだね?今まで『遼』って名前で呼ばれたことないの?」
ん?
「あ、俺は啓太!!啓太って名前でちゃんと呼んでくれてるもんね!!」
何勝ち誇ったような顔して・・・・・・
けど、そうだ・・・・・・俺、名前で呼んでもらったこと・・・・・・一度もないような?
「僕も、要って呼んでもらってる」
何気に入って来るんじゃねぇよ、要。
「じゃぁ、僕もそのうち甲斐さん、から充ちゃんって呼んでもらえるのかな?」
なんで『ちゃん』なんだよ?
「ってか、呼び方なんてどうでもいいだろうが?」
なんで俺は名字なんだ?
「じゃぁ僕が雛森くんのこと『ユキちゃん』って呼んだっていいじゃん?」
「それはダメだっつってんだろ!」
俺、『遼』って呼ばせたい・・・・・・
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