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第24話

【 雛森side 】 待合室に倉科達を待たせて、俺は一人診察室へ入って行った。 「まったく君は、いつも無茶ばかりして」 俺の主治医は、昔から何度か世話になっている。 体調を崩したり、怪我をしたりした時は、いつも恭介に引っ張ってこられた。 この先生は、恭介の事を過保護だと言った人だ。 そう言われて恭介は納得がいかないといった表情を見せたが、俺もその通りだと思う。 ちょっと熱が出たからって・・・・・・普通なら市販の薬飲んで、大人しく寝てればいいじゃんってのに、先生を夜中に叩き起こしたこともある。 時には、転んで少々手の平を擦りむいただけだってのにレントゲンを撮らなきゃ気が済まない・・・・・・ 折れてたらどうするんだぁ! 先生の胸倉を掴んでそう叫んだ恭介を思い出した。 「・・・・・・よし、問題ない。順調だな」 傷の具合を診たり、体温を測ったり・・・・・・ 一通りの検査をしてから包帯を巻き直してもらっている時だった。 「そういえば、君が退院してから御見舞いの人が一人、尋ねてきていたそうだよ」 俺に見舞い? そんな知り合いに心当たりは全くと言っていいほどいない。 「可愛らしい感じのお嬢さんって聞いたが・・・・・・彼女か?」 医者が小指を立てて、二マッと笑う。 「そんなわけないでしょ?人違いですよ、人違い」 俺に彼女なんているわけないっつうの。 「そうかぁ?女性陣が騒いでたぞ、由貴ちゃんったらいつの間にって、がははははっ」 俺に彼女が出来るとそんなにおかしいのか、おっさん? ギロッと睨みつけてやると、悪ふざけが過ぎたと反省した主治医は、コホンと一つ咳払いをしてカルテを手にした。 「よし・・・・・・また明日も来いよ、絶対に!!」 主治医は、『絶対に!』を強調した。 俺の病院嫌いは有名だったから・・・・・・ 強く念押ししておかないとって思っているみたいで、倉科達のいる待合室へ行くまでの間、すれ違う看護士達からも『また明日』と何度も言われ続けて・・・・・・ 「明日の予約はもう済ませたからな」 最後に、倉科がそう笑った。 病院を出た俺達は、一路、桐条胡桃のマンションを目指した。 途中、石橋さんから連絡が入って、恭介の手帳のことを聞いた。 中身はほとんどが破り取られていて、そこから犯人に繋がりそうな手掛かりは見付からなかった・・・・・・と。 挟み込んであったはずの、俺と恭介の写真もなくなっていて・・・・・・ 登録されていたアドレスも・・・・・・ アドレス・・・・・・? そういえば、恭介の携帯って? 遺留品の中に、恭介の携帯ってあったんだろうか? 石橋さんは何も言ってなかった・・・・・・ 俺に、あの写真を送ってきたのは恭介の携帯からだった。 ってことは、犯人が恭介の携帯を持ち去ったんだろうか? そうだとしたら、GPSで犯人の居場所を特定出来るんじゃないのか? でも・・・・・・恭介の携帯、電源が入っていないらしくって、GPSに反応がないって石橋さんは言う。 俺が気づく前に石橋さんも調べてくれてたみたいだ。 「・・・・・・そっか」 残念だけど、仕方がないよな。 「ところでさ、なぁ、由貴くん・・・・・・岩月って男を知ってるかい?」 ちょっと迷ったっぽいけど、石橋さんにそう聞かれた。 いわつき・・・・・・イワツキ・・・・・・・・・? どっかで聞いた事がある気もするけれど、思い出せず・・・・・・ 「すいません、ちょっと判りませんが・・・・・・その人がどうかしたんですか?」 って聞き返したんだけど・・・・・・何か事件に拘わってるんですか? この事件に関係なきゃ、今聞かないよね? 「いや、知らないならいいんだ・・・・・・関係ないかもしれないし」 え~?! 気になるじゃないですか? イワツキ・・・・・・か。 今までの依頼人にそんな名前の人はいなかったと思うけど・・・・・・ 恭介の個人的な知り合いは、俺も何人かは知ってるけど・・・・・・イワツキなんて人は聞いた事がないなぁ? 帰りに事務所へ寄ってもらって調べてみようか。 「ごめんな、由貴くん」 まだ被害者の遺留品は、それぞれの家族へ引渡しが出来ないという石橋さんに謝罪されて慌てた。 「あ、いえ・・・・・・大丈夫です」 捜査ぶっ通しで、ロクに休めてないんだろうなぁ・・・・・・ ちょっとでも・・・・・・ほんのちょっとでも、俺が力になれたら・・・・・・ 「あの、俺もイワツキって人のこと調べてみます。何か判ったら連絡しますね?」 で、通話を終了・・・・・・ 倉科がものすごく聞きたそうな顔をしていたので、後ろの三人にも聞こえるように石橋さんとの会話を話して聞かせた。 要もイワツキという人には心当たりがないようだ。 ってことは、依頼人じゃないってことだよな? じゃぁ、俺が知らない、恭介の古い知り合いとか? 恭介とどういう関係の人なんだろうか? ちょうど、桐条胡桃のマンションが見えてきた。 腹刺されてから初めてその現場へ行くわけだけど・・・・・・気分のいいもんじゃないよなぁ。 「だいたい、なんで雛森くんが刺された現場にもう一回行きたいなんて言うのさ」 言い出したのは要だった。 「だって、気になる事があるんだもん。気になる事は徹底的に調べないといけないって教わったでしょう?」 そう、恭介がそう教えた。 自分が納得するまでとことん調べろって。 それに費やす金も時間も厭わないって。 いやいや、金のことはちゃんと考えろって、俺はいつも言ってたんだけど。 「何が気になってるんだよ?」 運転しながら倉科が疑問の声を上げる。 刺されて、エレベーターの中に押し込まれた俺を見付けてくれた第一発見者。 倉科が来てくれなかったら、俺、そのまま・・・・・・ゾクッと体が震えた。 「ん・・・・・・ちょっとねぇ」 何だよ? 「気になった場所があるんだ」 俺があの時車を停めた場所が偶然空いていて、倉科はそこへ車を滑り込ませて停止させた。 啓太が最初に下りて、助手席のドアを開けてくれて・・・・・・ 俺を先頭にマンションへ・・・・・・ ん? 入れない。 あれ? あ、そういえばココって・・・・・・ 「オートロック?」 自動ドアが開かない。 「「「「オートロック」」」」 俺以外の四人が同時に頷いて俺の言葉を繰り返した。 「なんで?」 桐条胡桃から連絡が来て、駆けつけた時はすんなり開いたのに。 「あの時・・・・・・俺、普通に入れた」 俺が来る事を知っていた桐条胡桃が前もってロックを外していたんだろうか? 誰かに狙われていて、パニック寸前だったんじゃ・・・・・・ないのか? その彼女が、助けに来るはずの俺のためにロックを解除・・・・・・出来ただろうか? 「とりあえず、管理人さんに事情を話して中へ入れてもらおう」 甲斐を先頭に管理人室へぞろぞろ歩いて行く。 ガラス窓を叩くと、ワイドショーに夢中だった管理人が俺達に気付いて・・・・・・ 「やぁ、あの時の・・・・・・もう大丈夫なのかい?」 管理人は俺達の・・・・・・っつうか、俺の顔を覚えていて・・・・・・俺達を中へ招き入れてくれた。 中へ入って最初に・・・・・・俺が刺されたエレベーターの前に立った。 監視カメラの位置を確認して、要がキョロキョロ辺りを見回している間にボタンを押す。 一階に停まっていたエレベーターの扉はすぐに開いた。 甲斐の足がエレベーターの扉を押さえるように差し込まれる。 「俺らが発見した時、お前はここに座ってて・・・・・・」 倉科がエレベーターに乗り込み、床を指差した。 俺を見付けてくれた時、林原さんも一緒だったと言う。 「防犯カメラの場所から死角になる箇所がいくつかあるね・・・・・・ここと、ここ、それから・・・・・・」 要が指摘しながら捲る捜査資料を取り上げて、パラパラ捲ると、いくつかの写真が貼り付けてあった。 写真からは見えない・・・・・・つまり、防犯カメラに映らない箇所から外へ抜けられる扉があるのは・・・・・・ 要が指差した方角にあった。 普段は使われていないのか、手前には観葉植物の鉢植えが幾つか置かれているけれど、その奥に扉らしきものがあった。 啓太と一緒に扉を確認・・・・・・ 鍵のツマミ部分と、ノブは・・・・・・埃はない、綺麗だな? 掃除されてるから? 素手で触る・・・・・・わけはねぇから、指紋は取れないだろうけど、数日の内に使用した形跡はある。 管理人さんの話じゃ、ここ何年も封鎖したまんまだって言ってたから・・・・・・ 「こいつが・・・・・・ユキの事刺した奴か」 さっきの防犯カメラの映像から抜き出したらしい、犯人の姿が写っていた。 けど、ぼんやりとしていて、はっきりとは分からない。 この犯人は、あの扉から外へ出たのは間違いないと思う。 「そういや前にユキが言ってた、桐条胡桃の首筋には二つの黒子が並んであったって言ってた件だけど」 あぁ、そんなことも言ってたな・・・・・・その後、女を見るとき何処から見るのかって話になって逸れちまったけど。 倉科が何かやらしいこと想像したのか、にまぁって笑ったから・・・・・・ 「さっき病院で待ってるときに置いてあった雑誌見てたんだけど、やっぱり、どの桐条胡桃にも黒子はなかったぜ?」 そっか。 「色っぽく見せるために書いてたのかも?」 そう要は言うけれど、目元とか、口元じゃなくって首になんて書いたりするのか? 最近はそういうもんなのか? 俺の考え方って古い? 里中に黒子・・・・・・あるだろうか? アルバムは詰襟だったから首元見えなかったし。 俺達はそのままエレベーターで桐条胡桃の部屋へ向かった。

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