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第25話
【 雛森side 】
見張りで立っていた1人の警官に事情を説明して・・・・・・
石橋さんの許可はもらったからって言ったら、『立入り禁止』の黄色いテープを上げてくれた。
ほんとはもらってないんだけど・・・・・・後で謝っておこう。
彼女の部屋の鍵を開けてもらって・・・・・・
俺達は中へ足を踏み入れた。
もちろん靴を脱いで・・・・・・
「おじゃまします」
そう誰もが声を掛けた。
「入りま~す」
もちろん中から帰ってくる言葉はなかった。
手前の扉から一つずつ、開いたままになっている扉から中を覗く。
何処もかしこも警察が調べたであろう形跡が残っていた。
寝室、クローゼットの戸も開いていて、鏡台の引き出しも引っ張り出されてて、ベッドの上に置かれている。
ちょっと乱暴に扱われている箇所もあって・・・・・・
あれじゃぁ、警察が調べたのか物盗りが入って荒らしたのか分からないんじゃねぇの?
いくら亡くなってるからって、もうちょっと考えてやりゃぁいいのに・・・・・・
ココ、女の子の部屋なんだぞ。
リビングには、彼女の載っている雑誌が乱雑にテーブルの上に並んで置いてあった。
キッチン、冷蔵庫の中は空に近かった。
缶ビールが二本に・・・・・・賞味期限切れの惣菜?
流しは綺麗に片付けられている。
彼女に彼氏がいたのかどうかって聞かれたら・・・・・・
う~ん?
形跡はないなぁ。
コップが2つお揃いのが並んで伏せてあったり、歯ブラシが2本立ってたりって・・・・・・ベタな証拠品でもあればいいけど、それらは見当たらない。
「あれ?」
リビングで外されたままになっていたテレビの配線をなぜか繋ぎ直していた倉科が首を捻った。
台と、壁との隙間に何かが落ちているらしい。
啓太と倉科、要もほんの少し手を貸して、家具を移動させて・・・・・・
「手帳だね」
甲斐が落ちていたモノを拾って俺にくれた。
ピンクの小さな花が表紙の手帳。
最近のものではないようだけど・・・・・・そもそも警察が見落としたのか?
とりあえず・・・・・・
「開くぞ」
そっと表紙を捲った。
「え?」
なんで?
「あ」
隣から啓太が手帳を覗き込む。
「雛森くんだ」
そこに俺の写真が挟んであった。
隠し撮りされたものじゃない。
俺の真正面でカメラを構えて撮ったみたいだから・・・・・・中学の体育祭みたいだけど、覚えがない。
隣には倉科がいて、肩を組んでカメラに向かって笑ってる。
っつうか、トイレの前で撮ってる・・・・・・もっと別の・・・・・・背景のいいところで撮ればいいのに。
「この写真、いつの?」
「中三の体育祭だな、これは」
要に聞かれて倉科が応える。
「その時に撮った写真を胡桃ちゃんが持ってるってことは、その時、既に2人は胡桃ちゃんと出会ってたってことでしょ?」
啓太が写真を取り上げて・・・・・・
「いや、あの頃、俺達の周囲って男ばっかりで・・・・・・ちょっと記憶にないけど」
いつも男ばっか5、6人くらいでワチャワチャしてた。
それに、その連中にも彼女がいたとか、出来たって話は聞かなかったと思う。
「だよなぁ?」
倉科も思い当たらないようだ。
「胡桃ちゃんみたいな可愛い子なら忘れるわけねぇもんなぁ?」
へぇ・・・・・・可愛い子なら忘れないんだ。
で、桐条胡桃は、倉科の可愛い子の範囲に入るんだ。
へぇ・・・・・・
「じゃぁ、胡桃ちゃんに頼まれた誰かが雛森くん達の写真を撮ったのかな?」
学年も違ったし・・・・・・そういうことなら有り得るのかもしれないな。
ページを捲る。
几帳面にスケジュールが綴られていた。
時間、場所、その日誰に会ったのか、その人とどんなことを話したのか、小さな文字でびっしりと埋まっている・・・・・・
カラフルだな・・・・・・感情によって色を使い分けてたのかな?
日記代わりにもしてたみたいだな・・・・・・いくつかプリクラも貼られてる。
彼氏っぽいのは映ってない、か。
女友達とばっかみたいだな。
雑誌で見るアイドルの胡桃ちゃんじゃない、もっと自然な印象を受ける・・・・・・本来の彼女ってこんな感じなんだろうな。
プリクラの中の胡桃ちゃんは幸せそうに笑ってた。
「?」
何枚か捲って手を止める。
「このページ・・・・・・破られた跡がある」
日にちが飛んでる・・・・・・
前後の内容からは何が書いてあったのか想像は出来そうもない。
「あぁ、ホントだ・・・・・・何が書いてあったんだろうな?」
倉科に手帳が渡る。
「どれ?」
それを横から甲斐が覗き込んで・・・・・・
「あ、ちょっと貸してみて・・・・・・鉛筆ある?」
倉科から甲斐に手帳が移動して・・・・・・受け取った甲斐は、啓太から渡された鉛筆を突然・・・・・・
「おい充?」
「甲斐さん?」
開いていたページを黒く擦り始めた。
けど、すぐにその意図が分かって、誰もが沈黙した。
そして・・・・・・
「出た」
文字が浮かび上がってきた。
「どのページ見ても、彼女かなりの筆圧じゃない?もしかしたらって思ったけど、やっぱりね・・・・・・これで破られたページに何が書いてあったのか分かるよ」
誰が破ったのかも分かればいいけど・・・・・・
俺は内容を書き写すために自分の手帳を開いた。
「○月×日、真央と待ち合わせ」
まお・・・・・・里中真央?
「いきなり?」
「その前後には里中真央って名前は登場してないよね?」
甲斐の手元を覗き込んで、倉科が眉間に皺を刻んだ。
「それから?」
そんな二人の間から啓太が手帳を覗き込んでいる。
「えっと、偶然一緒だった彼を紹介?真央が驚いてる、当たり前だ、彼氏を紹介出来て嬉しい」
彼?
「彼って・・・・・・桐条胡桃に彼氏っていたのか?」
そう言えば・・・・・・テレビ局に送られてきたモノの中に、桐条胡桃の恋人から贈られたものらしいっていうピアスが入っていたって・・・・・・
「彼女の恋人の件って、結局ガセだったらしいけど、前に1回だけ週刊誌に小さく記事が載ったんでしょ?」
その記事を書いた人間に会って話が出来ないだろうか?
俺達が調べても、男の存在は発見できなかったわけだし。
その記者が、完全にでっち上げた話なのか・・・・・・
それとも・・・・・・決定的ではなかったにしろ、恋人の存在を匂わす何かを掴んだのか・・・・・・
一度話を聞いてみたい。
そう言ったら、甲斐が・・・・・・
「じゃぁ、僕の知り合いに聞いておいてあげるよ」
って言うから、その件は甲斐に任せることにした。
芸能関係に詳しい知り合いがいるらしい。
ま、あんたもモデルなんて仕事してるわけだし?
「携帯には彼氏さんのアドレスって登録されてないのかなぁ?」
要が携帯を開いて・・・・・・って、それ桐条胡桃の携帯じゃぁ?
その前に、彼氏の名前分からないのにどうやって探すんだよ?
「普通彼氏のアドレスって短縮に入れるよね?」
そうなのか?
そういうもんなのか?
彼氏って・・・・・・え?
俺、倉科のアドレス短縮に設定してねぇ・・・・・・
え?
か、かかかっ、彼氏?
「雛森くん?顔赤いけど大丈夫?」
うわっ、要!
「えっ、えっとぉ、桐条胡桃の彼氏に連絡取れねぇか?」
いきなり顔覗き込んでくんなよ!
「それがねぇ、無さそうなんだよ」
短縮に設定されているのが、実家と所属事務所、事務所の社長さん・・・・・・林原さん・・・・・・
「ねぇ、胡桃ちゃんの携帯に里中真央のアドレスとかって登録されてないの?」
「ない」
即答。
そんなものは俺がとっくに調べた。
「里中真央とも、真央とも登録されてない」
腹違いの兄貴の名前はなかった。
「じゃぁ、エミリは?」
ん?
なんで突然女の名前なんて・・・・・・
あぁ、そうか、里中真央が店で名乗っている名前・・・・・・
「あった」
要がディスプレイに表示した、『エミリ』の名で登録されているナンバーを手帳に書き込んだ。
「なんで真央じゃなくってエミリで登録してるんだろ?」
啓太が首を捻る。
「さぁな、里中本人に聞いてみればいいさ。ってわけで、俺がその番号に掛けてみようか?」
何気ない俺の一言。
でも、誰もが驚きの表情で俺を見て・・・・・・
「ダメだ」
倉科?
「ダメに決まってるでしょ!!」
啓太・・・・・・なんで決まってるんだ?
「ダメだよ」
要・・・・・・
「ダァメ!!」
甲斐にまで・・・・・・鼻の頭をツンッて突かれて、全員に却下されてしまった。
でも、折角里中真央の携帯のナンバーが分かったのに、何もしないなんて・・・・・・
「俺が掛ける」
そう手を上げたのは倉科だった。
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