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第28話

【 雛森side 】 時刻は午前一時・・・・・・ 「どう、カナちゃん、聞こえる?」 要と啓太が俺に持たせる盗聴器や隠しカメラを搭載した小物の最終チェックを行っている。 ったく、最近買い揃えたもんばっかじゃねぇか! 事務所にねぇと思ったら、啓太が持ち歩いてたとは・・・・・・ いつも備品は定位置に戻せって言ってんのに!! また説教しなきゃな。 「OK・・・・・・じゃぁ、次こっちは?」 そんな二人を甲斐が面白そうに見詰めている。 「最新型に買い換えたばっかだったから、ちょうど性能を試せるね」 恭介は最初からソレの取扱説明書読む気なかったなぁ・・・・・・ 昔っから機械音痴だったもんなぁ・・・・・・ 自分で使う気もなかったみたいだし・・・・・・ 買って早々封も切らずに俺に渡して、説明書の熟読よろしく、だもんな。 その割に、新しい機種どんどん買ってきて・・・・・・ 店の人が薦めてくるもん、片っ端から買ってたかもな。 「最近のは薄くって軽くって・・・・・・パッと見、これが盗聴器やカメラだなんて気付かないよ」 まるでスパイ映画に出てくるような小道具を要から受け取り、俺が着るはずの上着の袖口に忍ばせたり・・・・・・ 胸ポケットに隠してみたり・・・・・・ 「ユキが店の中に入ったら、啓太は裏口、要は表・・・・・・充は車の中で画面見ながら指示出してくれ」 倉科の指示に全員が頷く。 あれ? ところで倉科は? 「俺は、こっそりユキの後から店の中に入る」 え? そんなことして大丈夫なのか? 「倉科?」 「なんとかなる!」 そ、そうなのか? いや、そうはならないだろう? 閉店後の店だぞ? いや、でも倉科なら上手いこと出来そうな気がする。 なんでも器用にやってのけるから。 もしこれが啓太だったら・・・・・・無理だな。 すぐに見付かって店から叩き出される。 「よし。じゃぁ、それぞれ武器は・・・・・・」 武器? そう言ってそれぞれが取り出したのは・・・・・・ 要は恭介が作ったモデルガン風のスタンガン・・・・・・今まで使用したことはない。 倉科の手には、結構強力な催涙スプレー・・・・・・ そして、啓太は・・・・・・水鉄砲? 「啓太、水鉄砲って・・・・・・」 中の水・・・・・・なんか赤いな。 「中は啓太特製激辛汁でありまっす!!」 激辛・・・・・・すっごく自信満々みたいだけど・・・・・・ 俺の記憶が確かならば、お前の銃の腕前は、ものすっごくヘタじゃなかったか? それって、命中しないと効果ないんじゃねぇ? そもそも液体の中に赤くて細かい物体が浮遊してるようだけど、いざって時に目詰まり起こして使い物にならないなんてことねぇか? 「何、雛森くん?」 超疑いの眼差しぃ・・・・・・を向けてみた。 「・・・・・・別に」 窓の外に視線を移す。 店への出入は少ない。 最後の客と思われる男が店を出たのは、午前二時を少し回った頃だった。 「あれ?」 ふいに甲斐が声を上げた。 車中の全員の視線が甲斐へと向けられる。 「どうした、充?」 「・・・・・・いや・・・・・・気のせいかな?こんな時間にこんなところにいるわけないし」 甲斐の視線は外に向いたまま。 「なになに?充ちゃんの知り合いでもいたの?」 興味津々で啓太が甲斐の視線を追う。 「うーん?ちらっと視界の隅に入っただけなんだけど・・・・・・きっと僕の見間違いだよ」 くすくす笑いながら、甲斐が再び店の出入り口に視線を向けた時・・・・・・ 看板の明かりが消された。 『薔薇の館』店は閉店した。 従業員らしき女性・・・・・・達が数人出てきた。 っつうか、ごついなぁ・・・・・・ 雑誌に載ってた里中とは大違いだ。 その後すぐに・・・・・・ 背の高い、派手な女性が出てきて、さっき出てきた数人と合流・・・・・・さっさと店から遠ざかって行った。 裏口があるのは調査済みだけど、従業員はほとんど使用しないらしい。 その裏口のドアは全体に錆びていて、ノブは回らず、重量もかなりあるため簡単に開ける事は出来ないとのこと。 彼女達の姿が見えなくなった頃、俺の携帯が着信を告げた。 ディスプレイは『非通知』になっている。 けど、これってタイミング的にも里中からだよな? 「もしもし?」 俺が携帯を耳に当てると、隣から倉科が耳を近づけてきてドキッとした。 一気に手の平に汗が浮かんだのが判る。 だって、こんな近くに倉科の顔がぁ! が・・・・・・甲斐の手が背後から伸びて、俺の携帯をピッと・・・・・・ あぁ、スピーカー? 「もしもし?エミリでぇっす!お店閉まりましたから、もういつでもいいですよぉ?」 なんかムカつくんだよなぁ・・・・・・ 一番最初に電話に出た時と雰囲気が違うんだよなぁ? 相手が俺だって分かったから? 「あぁ、分かった」 「そんなに緊張しないで下さいよぉ、気楽にしてください」 うるせぇよ・・・・・・この時間、そのテンションにはついていけない。 「すぐ行く」 「はぁい!お待ちしてまぁすっ!!」 ふざけやがって・・・・・・絶対一発はぶん殴ってやる!! 元だけど、男だもんな? 殴ったっていいよな? だって、俺はナイフで刺されたわけだし? よし。 殴ってよし! 携帯を折り畳み、ジーンズの尻ポケットに押し込む。 「行動開始!!」 ポンッと倉科が手を叩いた。 助手席から降り、キッと店の出入り口を睨みつける。 続々と倉科、要、啓太が車から降りた。 乾いた唇をぺロッと舐めて・・・・・・ 「行ってくる」 ドアを閉めて・・・・・・皆に背を向けた。 一歩踏み出した瞬間・・・・・・ 「なんだ?」 再び俺の携帯が鳴り始めた。 「誰だよ、こんな時に?」 眉間に皺を寄せて倉科が近寄ってくる。 携帯を開くと、今度は番号が表示されているけど・・・・・・ この番号って確か・・・・・・ 「あの店のだ」 『薔薇の館』から掛かって来てる。 「は?」 なんで? ディスプレイに表示されているのは、今里中真央がいるはずの、目の前の店の番号。 「なんだよ?すぐ近くにいたからもう着くって?」 数秒、数分のことで遅いとでも文句を言いに掛けてきたのかと思った。 けど・・・・・・ 「先輩来ちゃダメ!!」 ガシャン!! 里中の叫び声と、何かが割れた音がして・・・・・・通話は途切れた。 来るな? なんだよ? 何があったんだ? 俺達は顔を見合わせて、店へと飛び込んだ。 扉を開けると地下へ続く階段があって・・・・・・ その先に、もう一つの扉があった。 倉科を先頭に階段を駆け下りて、ノブに手を掛ける。 鍵は掛かっていなかったから、何の抵抗もなく扉は開いた。 明かりは点いたまま・・・・・・人影はなし。 シンと店内は静まり返っている。 「里中?」 呼んでみたが返事はない。 誰もいないのか? 俺、騙されたんだろうか? それとも、本当に俺が一人で来たか試されたのか? 「里中?」 倉科も呼びかける。 店の中はそれほど大きなものではなかった。 中央に大きなシャンデリアが天井から下げられている。 テーブル同士間には仕切りがあって、隣は見えないようになっていた。 「罠だったりして?」 啓太、嫌なことを言うな。 一歩・・・・・・ また一歩と・・・・・・ 4人で少しずつ奥へと進む。 絨毯はふかふかで、俺達の足音を消している。 バタン!! 更に奥から大きな音がして、全員の肩が飛び上がった。 「何?」 啓太と要が様子を見に走って行く。 その方角にあるのは確か裏口だったか? 「大丈夫か?」 倉科、少し驚いたけど・・・・・・そんなに心配するなよ。 「平気・・・・・・それより、里中は?」 ぐるりと店内を見回して、ある一点で止まる。 それはカウンターの向こう側。 いろいろな形のグラスが並べられている棚の戸が開いている。 いくつかは使用中なのか・・・・・・ いや、もう誰も客はいないんだから使用中なわけはないよな・・・・・・ 片付けられてないわけもないし・・・・・・ けど、随分スペースが開いている。 その理由は・・・・・・ ゆっくりカウンターに近づき、手を乗せた。 そして・・・・・・ 「倉科・・・・・・救急車と警察呼んで」 俺はカウンターを飛び越えて、そこに倒れていたヤツの側に膝をついた。 「おい、ユキ!」 俺の動きを追ってカウンターを覗き込んだ倉科は、すぐに携帯を開いたが、どうも圏外だったらしい。 床に転がっていた子機を拾い上げて、救急車と警察へ連絡を取った。 「里中?」 呼吸は・・・・・・弱いけどしてる・・・・・・脈は? 「里中」 回りにはグラスの破片が散乱。 うつ伏せになって倒れている里中の背中にはサバイバルナイフが突き刺さってて・・・・・・ 「ユキ、ガラスで怪我すんなよ?」 さっきまで俺と話していたのに・・・・・・ 「誰かが裏口から出てったみたいだよって、えぇ?!」 誰かって誰だよ! 男か? 女か? それぐらい、ちゃんと見て来い、啓太! 「なんでこんなことになっちゃってるの?」 戻ってきた2人が騒ぎ始めた。 さっきの大きな音は、裏口の扉を閉めた音らしい。 錆びてるし、結構な重量で開けられないんじゃなかったのか? そこから走り去っていく後姿を2人は目撃したらしく、啓太が後を追ったがすぐに見失ってしまった、と。 ったく、情けねぇぜ。 「・・・・・・ユ・・・・・・キ・・・・・・っ」 え? 里中、意識があるのか? 微かに聞こえた里中の声は、今にも消え入りそうで・・・・・・ でも、俺を呼んだんだってことは分かった。 でも・・・・・・今の声・・・・・・ 「・・・・・・せん・・・・・・い・・・・・・」 やっぱり違う・・・・・・さっきの電話の声じゃない。 こいつの声、さっき俺と話してた声じゃない・・・・・・ 「里中、今救急車を呼んだから・・・・・・だから、がんばれ!」 俺、なんでコイツを励ましてんだろう・・・・・・ こいつは恭介を殺したかもしれないのに。 俺の事も殺そうとしたかもしれない奴なのに・・・・・・でも・・・・・・ 里中の震える手が伸びて、俺の上着の裾を掴んだ。 「ユキ・・・・・・せ・・・・・・ぱ・・・・・・」 里中の口が、何か言いたそうに動くけれど、それは言葉にはならなかった。 ただ空気が漏れるだけで・・・・・・ 「里中」 上着の裾を掴む里中の手に俺は自分の手を重ねた。 「大丈夫だ、すぐに救急車が来るから」 要がカウンターを飛び越えて、俺と同じように膝をつく。 「応急処置、しないと・・・・・・大事な証人なんだから」 あぁ、死なせてたまるか。 こいつには、いろいろ聞きたいことがある。

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