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第30話
【 倉科side 】
「倉科くん、2人を見てると甘すぎて、僕砂を吐きそうだよ」
なんだよ、充?
砂って?
「吐けるもんなら吐いてみろ!」
いや、充なら吐き出せるかもな、砂!
だいだい、見てんなよ!
タダじゃねぇんだよ!
「ごめんね。毎回毎回いいとこ邪魔しちゃって」
充・・・・・・お前、その顔ぜんぜん悪いって思ってねぇだろ?
口角が上がってる。
「そう思うんなら、ちょっとは遠慮しろよ」
ったく、何回目だ?
いつも絶妙なタイミングで邪魔しやがって・・・・・・
まさか、どっかで見てんじゃねぇだろうなぁ?
俺んちだけど、どっか勝手に隠しカメラとか設置されてるのか?
盗聴器とかもあったりするのか?
一度点検する必要ありだな。
「で?」
わざわざ俺達を起こしに来た理由はなんですか?
ただ、おもしろそうだったからとか言ったら、一発殴ってやろう。
うん、そうしよう。
そんな権利は俺にはある。
絶対にある!
「うん。啓太がね、今日、どうしても抜けられない授業があるんだって」
授業?
それって大学の話か?
で、啓太だろ?
俺にも、ユキにも関係ねぇよな?
いつも真面目に授業受けてれば、そんなことにはなんねぇんだよ。
俺今日は必須科目ねぇから、行かなくていいもんよ!
だいたいなぁ、俺は忙しいだよ。
ユキを病院に連れて行かなきゃならねぇし、里中のこともあるし。
「なのにね、啓太ったら大学行かないって言い出してて」
なんでだよ?
単位もらえねぇぞ?
留年する気か?
「啓太曰く、遼先輩みたいに教授に金掴ませて単位ゲットだぜぃって」
ちょっと待て!
なんだよ、その突き上げた拳は?
俺みたいにって・・・・・・
「はぁ?俺がんなことするわけねぇだろっ!」
いや、一度は考えたけど・・・・・・それは考えただけで実行はしてない。
実行する気もないけど。
「そうだよね?それって犯罪になるよね?」
にっこり笑う充の笑顔って・・・・・・なんか怖い。
こいつ、なんか企んでるよな?
で、どうして、俺の両手をぎゅって握るわけ?
ユキにだってされたことねぇんだけど?
いや、近々される予定だけど?
これからもっとラブラブするために、いろいろ計画練らなきゃいけないわけだから忙しいんだ。
だから、こいつに構ってる暇はないんだ。
「おい、充」
なんだろう、ものすっごく嫌な予感がする。
「だからね、倉科くん」
満面の笑顔だなぁ・・・・・・超不吉だ。
「啓太のお目付け役として、一緒に大学行って来て!」
お目付け役?
つまり、俺に啓太を見張れと?
「なんで俺が!」
大学行かなくて、授業受けなくて、単位取れなくて留年したとしても、それは啓太の自業自得だろ?
「雛森くんには要がベッタリ張り付くから」
ベッタリ張り付く?
まるで、2人羽織のように?
要にユキが操作出来るのか?
そりゃなんとなく・・・・・・啓太より、充より、要ならまだ安心できそ・・・・・・っじゃなくって!
「だから!なんで俺なんだよ!」
要か充が啓太について行けばいいだろ?
「だって、僕も要もその大学じゃ部外者だもん」
そ、それは正当な理由だけど・・・・・・
そんなもん、部外者の1人や2人、構内をうろついてたって誰も気にしねぇって!
だいたい、うちの大学、構内を仮装して歩いてる奴らも結構いるから、お前らが2人くらい紛れてたって分かんねぇって。
「それに啓太がね」
これが一番の理由なんだけどって・・・・・・何?
「啓太が言うには、僕がいない間に先輩が抜け駆けしちゃうじゃんってことなんだけど・・・・・・」
抜け駆け?
あいつは何回言ったら解るんだ?
だから、ユキは俺んだっつうの!
お前の入り込む隙間は1ミリも開いてねぇんだよ!
ぽんっと充に肩を叩かれた。
「だからね?面倒くさいから啓太のことヨロシク」
お前、俺の言うこと聞いてねぇだろ!
啓太のこと押し付けてんじゃねぇよ!
俺はまだOKしてねぇだろ!
「あ、雛森くん、そういうわけだから」
どういうわけだよ!
顔洗ってきたのか、ちょっと前髪が濡れてる。
ちゃんと拭いてこいよ。
風邪引いたらどうするんだ!
「雛森くんからも啓太に言ってやって。大学はちゃんと卒業させたいよね?」
ったく・・・・・・
クローゼットからタオルを取り出して・・・・・・
「ユキ」
こっち向いて。
啓太には要か充をつければいいから・・・・・・こいつの言うことは気にしなくていいから。
で、ユキと俺は一緒に・・・・・・
「倉科、今日は啓太と大学に行くのか?」
え?
いや、だから、俺は行かねぇって・・・・・・
「単位やばいんだろ?俺の事はいいから・・・・・・要がいるし」
最後の、要がいるしって、いらんだろっ!
そこは、倉科がいないと寂しいけど、とかって付けるべきじゃねぇの?
「後輩思いなんだな、倉科は」
いや、ユキ、お前の勘違いだぞ?
後輩思いっつったって、そりゃ可愛い後輩限定だろ?
啓太のやつ、可愛いか?
あんなに図体のでかいヤツ、可愛いか?
あぁ、でも今のユキの目・・・・・・キラキラ尊敬な眼差し?
いや、でも俺はお前と一緒に・・・・・・
「ご・・・・・・ごめんな、ユキ。終わったら速攻駆けつけるから、絶対に無茶だけはすんなよ?」
要にも強く念を押しておかねば。
「大丈夫だって」
お前の大丈夫はアテにならねぇんだよ。
タオルをユキの頭に被せて、わしゃわしゃと水分を吸い取る。
ユキの視界から隠れたところで、ギロッと充を睨み付けた。
だいたい、お前が余計なこと言うから!
「さぁ、朝ご飯食べよ」
「うわっ」
って、ユキの手を引っ張るな!
充の手からユキを奪い返そうと腕を伸ばしたら・・・・・・
「倉科くん、携帯鳴ってるよ?」
要が俺の携帯を持ってやって来た。
その間に、充にユキを攫われ・・・・・・伸ばした手の近くに要が携帯を持ってきた。
「誰だよ、こんな朝っぱらから」
要の手から携帯を乱暴に奪い取る。
ディスプレイに・・・・・・石橋・・・・・・?
「・・・・・・はい、倉科」
要が興味ありそうに横で待ってる。
「やぁ、おはよう、倉科くん。よく眠れたかな?」
あんたは、爽やかな目覚めでもお迎えになられましたか?
疲れを感じさせない、元気そうな声だな。
「由貴くんの様子はどうだい?」
心配して、わざわざ?
こんな朝っぱらから?
「大丈夫ですよ」
俺がついてんですから。
「由貴くんが気にしてるだろうから、いち早く連絡してあげなきゃと思ってね」
はぁ。
で、どうしてユキにじゃなくって俺の携帯に?
「里中真央だけれど、一命は取り留めたよ。今はまだ面会謝絶状態で話は聞けてないんだけどね」
そっか・・・・・・ユキに教えてやらないとな。
石橋の話を繰り返し口にして、要にユキへ知らせに行かせた。
「でだ。君達が里中を発見した時、彼、なにか言わなかったかい?」
何かとは?
例えば、誰が自分を刺したかとか?
ユキのことを呼んだのは聞こえたけど・・・・・・その他に?
「倉科、石橋さんから電話って」
もっと近くにいたユキなら、なにか聞いたんだろうか?
でも・・・・・・
ユキは残念ながら、と首を左右に振った。
どうやらユキも聞いてないらしい。
「そうか・・・・・・何か犯人に繋がる手掛かりでもあればと思ったんだけどな」
それから、ユキに携帯を渡して、石橋と会話をさせて・・・・・・
そういえば、昨日石橋に電話した時、奥さん出たんだよなぁ。
まさか既婚者だったとはなぁ。
携帯を折り畳んで、俺に返してくれるユキの手を掴んで、ユキは石橋の奥さんの事を知っているのか聞いてみた。
「清美さんのこと?」
石橋清美。
「逆玉の輿ってやつらしいよ?」
逆玉?
「警察上層部の、お偉いさんのお嬢さんと結婚したんだよ。俺も結婚式に出席したけど、披露宴会場のメンツがすごかったのを覚えてる」
想像してみる。
警察の制服を着た人達がずらっと並んだ披露宴会場・・・・・・
友人席に、ユキとおっさんと、林原と・・・・・・
「・・・・・・もう一人」
ん?
「どうした?」
何か思い出したのか?
宙を見詰めて・・・・・・ゆっくり顔が動いて、俺と目を合わせて・・・・・・
「イワツキ・・・・・・・・・岩月、だ」
ぽそっとユキがその名を口にした。
「岩月って・・・・・・」
確か、前に一度だけ週刊誌に載った胡桃ちゃんの熱愛記事、その記事を書いた記者の名前が岩月とかって充の奴が言ってなかったか?
ってか、どうして今その名前が出てくるんだ?
ぎゅってユキが俺の腕を掴んできて・・・・・・
「俺、石橋さんの披露宴で、岩月浩二って人に会ってる」
え?
マジか?
「同じ席だったんだけど、俺・・・・・・ほとんど誰ともしゃべってなくって・・・・・・恭介が確か・・・・・・4人、中学の同級生とかって」
人見知りが出ちゃってたユキと岩月が繋がった・・・・・・
しかも・・・・・・
「石橋の・・・・・・披露宴で?」
しかも友人席で一緒だったってことは・・・・・・石橋も知ってるわけで・・・・・・
っつうか、友人・・・・・・なんだよな?
「友人なら、岩月ってやつの居場所、石橋は知ってんじゃねぇの?」
自分の披露宴にまで招くほど仲が良かったんだろ?
ん?
なんで石橋はユキに岩月のことを聞いたんだ?
え?
だってそれは、事件に関係してるかもって疑ったからだよな?
でも、友人だったんなら簡単に連絡取れたよな?
それとも何かのきっかけで音信不通になるほど仲が悪くなったとか?
ひょっとしたら、もうとっくに岩月の事情聴取は終わってんのか?
もう一度石橋に連絡して確認してみる・・・・・・か?
俺達に岩月の連絡先教えてくれって言ったら教えてくれるだろうか?
携帯を開いて・・・・・・
着歴を表示させた頃・・・・・・
「大変、大変、大変だよ!」
慌しく近づいてきた啓太が、ユキの腕を掴んで!
またしても攫われ!!
「何が大変か言って行けぇ!!」
俺と要がそれに続いてリビングに入った。
充の手には携帯が握られてて・・・・・・
「あ、倉科くん」
啓太が自分の携帯をユキに見せてる。
そこに表示されているのは、交通事故の記事?
細かい文字がビッシリと並んでいて・・・・・・車がグチャッて潰れた写真が載ってる。
運転席側が随分酷い潰れ方してんなぁ・・・・・・こりゃ運転してたヤツ、即死なんじゃねぇの?
充が持っていた携帯を俺に渡した。
「何だよ?」
啓太と同じ画面を開いているようだけど・・・・・・内容は数週間前の交通事故。
飲酒後運転、欄干を突き破って5メートル下の川に転落・・・・・・
運転手は死亡。
「その運転手が、岩月浩二のことらしいよ」
は?
ユキは真剣に記事を読んでる。
「ちょっと待てよ・・・・・・岩月が死んで・・・・・・た?」
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