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第31話
【 雛森side 】
桐条胡桃に恋人の存在・・・・・・
その記事を週刊誌に載せたフリージャーナリスト、岩月浩二は交通事故で亡くなっていた。
その岩月と俺は、石橋さんの披露宴の席で一緒のテーブルに座っていて・・・・・・俺、あんまり印象に残ってないけど。
その人が飲酒運転をしてガードレールを突き破って崖下へ転落、死亡・・・・・・
そんな衝撃を食らった数分後・・・・・・
啓太に引っ張られて倉科は大学へ・・・・・・
甲斐は岩月浩二の交通事故について、もう少し詳しく調べてみるからって言って出かけて行った。
で・・・・・・
倉科の部屋に、俺と要だけが残っている。
家主がいないのに俺達いてもいいんだろうか?
「ほら、雛森くんも!用意出来たら行くよ」
なに?
「なに、その顔は?」
お前こそなんだよ?
俺の顔が不服か?
「行くって何処に?」
俺らに予定なんて?
「倉科くんが予約入れておいてくれた病院」
あ・・・・・・そっか。
はっ!ってことは、里中もいるあの病院だよな?
会って話が出来れば・・・・・・
「よし、行こう!」
今すぐ行こう!
「おら、要!ぐずぐずすんな!」
そう思って来たものの・・・・・・
里中の病室の前には警官が2人と、面会謝絶の札が掛かっていた。
警察の事情聴取もまだらしい。
意識が戻っていないのだという。
仕方がないので、主治医の診察を大人しく受ける事にした。
「おぉ、サボらずによく来たな」
そんな満面な笑みで俺を出迎えてくれた主治医。
その前にある小さな丸い椅子に腰掛ける。
「なぁ先生・・・・・・今朝方運ばれてきた里中真央ってやつ、目が覚めたら俺一番に会わせてくんね?」
警察よりも先に話がしたいんだけど?
一番にってところを強調してみた。
「あぁ、由貴くんを刺したかもしれない犯人っていう子?」
そんなこと誰から聞いたんだ?
俺を刺したかもだなんて・・・・・・
そんなこと聞いたら・・・・・・
うーんっと考える素振りをしてから、医者はやっぱり俺の想像通りの答えを返した。
「ダメだな」
だろうな。
「いつ目が覚めるかも分からんし・・・・・・何より、加害者かもしれない子と被害者の君・・・・・・許可は出来ない」
言われることは分かるんだけど・・・・・・
里中は俺に危害を加えたりしない・・・・・・と思うんだよなぁ?
何の根拠もねぇけど、そんな気がしてて。
話したこともないから、えっと、ただの勘でしかないんだけど。
あいつ、悪いヤツじゃない気がするんだよなぁ。
これをどうやって説明したらいいんだろう?
まぁ、俺を刺してないっていう証拠を見つけられたらいいんだろうけど。
つまり俺が証明してやれたらいいんだけど、俺も自分を刺した犯人をしっかり見てないからなぁ。
石橋さんに頼んでみようか・・・・・・せめて事情聴取に立ち合わせてくれないかって・・・・・・
取調室に入れなくっても、マジックミラー越しでもでもいいからって。
診察を終え、包帯を巻き直してもらって、俺は医者と別れた。
そのまま、要のいる待合室ではなく、もう一度里中の病室へと向かう。
警護に立ってる警官に上手いこと言えば、中に入れてもらえるかもしれない。
眠ってるかもしれないけど・・・・・・
ひょっとしたら起きてて、なにか聞けるかもしれないし?
なんて、淡い期待もあったりしたんだけど・・・・・・
「あれ?」
さっき通った時にはいたのに・・・・・・今扉の前には誰もいない。
部屋札にはちゃんと『里中真央』と書かれていて、『面会謝絶』の札は掛かったままだ。
でもこれはチャンスだ。
一応ノックして、扉に手を掛ける。
中から返事はないけれどぉ・・・・・・お邪魔しちゃおうかなぁ?
「ユキ先輩?」
いきなり背後から声を掛けられて動きを止めた。
っつうか、先輩?
俺の事、ユキ先輩なんて呼ぶ奴いたっけ?
そう思いながら振り返ると、そこに・・・・・・
里中と・・・・・・ってことは、桐条胡桃もか・・・・・・2人と同い年くらいの女の子がニッコリ笑って、目をキラキラ輝かせて立っていた。
何がそんなに嬉しいのかは分からないけど。
そんな彼女に見覚えはない。
「えっと・・・・・・?」
誰って聞くのは失礼なんだろうか?
この子は俺のこと知ってるみたいだしなぁ。
「き・・・・・・み、は?」
う~ん・・・・・・でも、やっぱり見たことないと思うんだけど?
「真希那です。甲斐真希那」
ブイッてピースサインを顔の近くで・・・・・・へ?
今、甲斐って?
「マキナちゃんって・・・・・・えっと、鑑識の甲斐さんの妹の?」
え、ちょっと待って。
「いやん!真希那って呼んでください!」
だって、あの卒業アルバムに載ってた真希那ちゃんって、日本人形みたいに黒髪のストレートで・・・・・・
えっと色白で・・・・・・繊細そうに見えて?
倉科が可愛いって言った、あの子・・・・・・だよな?
「鉄平お兄ちゃんのことご存知なんですか?」
すっげぇ健康そう。
写真で見た時は、薄幸の美少女って感じだったと思うんだけど。
あの儚げ加減は何処へ?
「え・・・・・・あ、あぁうん・・・・・・随分お世話になってて」
最初の印象と随分掛け離れてる。
「ずるいなぁ、お兄ちゃん。ちっともそんなこと教えてくれなかったけど」
栗色の髪がふわふわと揺れて、少し陽に焼けた腕が俺の腕に絡んできた。
「でもでも、こんなところでユキ先輩に会えるなんて感激ですぅ」
ちょっと!
む、胸が当たるんですけど・・・・・・
ぐっ、ぐいぐい押し当てんなよ!
俺こういうの慣れてねぇから、どうしたらいいのか分かんねぇよ!
「君達そこで何をしているんだ?」
そこへ、何処へ行っていたのか、2人の警官が戻ってきた。
「あれ、君達は確か・・・・・・雛森さん・・・・・・と甲斐の妹さん?」
この子のこと知ってる・・・・・・ってことは、甲斐鉄平の妹で間違いないんだな。
「はい!お仕事お苦労様です!!」
片方の腕は俺の腕に絡めたまま、彼女は警官らに敬礼した。
ってか、離してくれねぇかな?
ほら、警官の視線が痛い・・・・・・
「たまたま通り掛かったら、この部屋の前に誰もいなかったので・・・・・・」
たまたまですよ、偶然ですから。
里中の病室に潜り込めたらいいなぁなんて、ちょっとしか・・・・・・1ミクロくらいしか思ってませんから。
で、あんた方は警護外れて何やってたんすか?
「あ、あぁ・・・・・・上からの呼び出しだってんで行ってみたら切れていた」
呼び出された?
「俺は手洗いに行ってて・・・・・・行く前だったら電話が終わるの待ってたんだけどね」
偶然なんだろうか?
ここの警護は2人。
1人になった時を見計らって、もう1人を呼び出して・・・・・・
その間に、誰かが里中の病室に入った?
一応、俺の目の前で中を確認してくれたけど、特に異常は見られず、里中は静かに眠っていた。
誰かが里中の口を塞ごうとしているとか、って考えすぎかな?
犯人が知られちゃ拙いことを、里中が握ってるとか。
里中の人間関係・・・・・・
あの豪邸で、里中と一緒に暮らしているっていう公務員と・・・・・・派手な男・・・・・・
彼らの正体はまだ何も分かってない。
2人は里中の見舞いに来るだろうか?
「ユキ先輩?どうかしました?」
っていうか・・・・・・
「いつまでくっついてんの?」
べったりじゃねぇか!
「えぇ?!いいじゃないですか、減るもんじゃないんだし?だって、せっかく会えたんですもん!」
もん、じゃねぇんだよ。
俺くっつかれるの苦手なんだよ!
はっ、恥ずかしいだろ!
「俺これから行くとこあるんだよ。だから離してくんね?」
なんで、この子の腕外れねぇんだ?
そんなに力入れてるようにも見えないんだけど・・・・・・つまり、俺が非力だと?
「じゃぁ、真希那も一緒に行きます」
は?
「ここでお会いしたのも何かの縁!!私、ユキ先輩のお手伝いしちゃいます!!!」
こ、この子、何らかの病気で入退院を繰り返してるんじゃなかったか?
「遊びじゃないんだけど?」
俺らと一緒にいて危険な目にでもあったら、甲斐さんに悪い。
「あ、私、お兄ちゃんの仕事の関係で、結構いろんなこと知ってますよ?いろいろ先輩のお役に立てると思うんです!」
自信満々にブイッてされてもなぁ・・・・・・情報提供はありがたいけど。
どうしようか・・・・・・腕、離してくれそうもないし。
俺は仕方なく、真希那ちゃんを連れて要のいる待合室へ向かった。
そして案の定・・・・・・
「なに、その子?」
要、目が据わってる・・・・・・俺を睨んだってしょうがねぇだろ?
俺が無理矢理連れてきたわけじゃねぇんだよ。
外せねぇんだよ、この子の腕。
めちゃくちゃ強ぇんだぞ?
「こ、こちら鑑識の、甲斐さんの妹で・・・・・・」
ん?
なんか一瞬、バチッて火花が2人の間で炸裂したような気がしたけど?
「真希那です」
だから、ブイッ!はいらねぇっつうの・・・・・・
「え?」
おぉ、驚いてる・・・・・・
そうだよな、あの卒業アルバムとは全然違うもんなぁ・・・・・・女って、化けるよなぁ。
「そうなんだ・・・・・・で、その真希那ちゃんがどうして?」
俺に聞かれても知らねぇよ。
直接彼女に聞いてくれ。
「はい、私、ユキ先輩のお手伝いをしようと思って」
ニコニコ笑いながら要と話を始めたけど・・・・・・
この子、本当は何か用事があって病院を訪れたんじゃないのか?
ほら、持病があるんだろ?
定期健診とか、誰かの見舞いとか?
手に小さな紙袋を持ってて、中に高級そうな黒い箱が入っているのが見える。
「真希那ちゃんはどうして今日ここへ来たの?」
要が質問する。
「友達のお見舞いです」
見舞い・・・・・・それ持ってるってことは、まだ済んでねぇんだよな?
「その子に会いに行かなくていいの?」
要、なんでその子を睨むんだ?
っつうか、バチバチ火花散らしてるように見えるのは俺の気のせい?
「いいんです。今日は無理っぽいんでまたの機会にします。それに、折角ユキ先輩に会えたんですもん!」
いや、だから、ぐりぐりって・・・・・・胸、当たってるから・・・・・・
俺、そういう免疫ねぇんだよ!
恥ずかしいから離れろよ!
それに、犯人が俺を狙ってきたら、この子まで巻き込んじまう・・・・・・
どうしようかと迷っていた時だった。
「真希那」
彼女を呼んだ人が現れた。
「あ、甲斐さん」
要がその人の名を口にした。
「雛森さんと鬼頭さん、偶然ですね・・・・・・真希那と一緒にいらっしゃるなんて、びっくりしました」
甲斐鉄平が俺達の姿を見付けて飛んできた。
「さっき、里中の病室の前で偶然会って」
里中、という名前に、甲斐が微かに反応を示した。
もちろん、それを俺も要も見逃していない。
「・・・・・・そうですか」
昨夜の被害者が里中真央だと言う事も、ここに里中が入院していて、どの病室にいるのかも、この人は知ってるよな?
だいたい今、どうしてココにこの人はいるんだ?
友達の見舞いに来たっていうこの子の付き添いか?
付き添いがいるほど体調が悪いようにも見えないけど。
まさか、シスコン?
妹と話す甲斐さん、さりげなく観察してみる。
今日の甲斐さんは眼鏡をしていない・・・・・・コンタクト嵌めてるようだ。
「真希那、突然いなくなったりしたら兄ちゃん心配するだろ?」
これは演技じゃなく、本当に彼女のことを心配してたようだ。
「大丈夫よ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは過保護すぎるの!!早く妹離れしてちょうだい!!」
確か2人は血が繋がってない兄妹。
「あ、じゃぁ、俺達行きますね」
彼女の腕の力が緩んだ隙に、要が俺の腕を引っ張った。
「要?」
漸く腕を解放されたけど・・・・・・
「え、ユキ先輩!!」
すぐにまた俺を掴もうと手が伸びてきた。
けれど、それは宙を掴んだ。
「ごめん、また今度ね」
要は俺が答えるより先にそう継げて、俺の手首を強く引っ張った。
「ちょっとぉ、信じらんなぁい!」
へ?
何?
今の声・・・・・・?
「真希那!」
甲斐が叱り付けるように声を荒げ・・・・・・
俺は、要に引っ張られるままに角を曲がった。
「要」
黙って要は俺を引っ張っていく。
早くこの場から立ち去りたいとばかりに・・・・・・
看護士や、通院患者の間をすり抜けて・・・・・・
自動ドアを抜けて・・・・・・
倉科の車が停車してある場所まで一度も止まることなくズンズン歩いていく。
「要!」
漸く離れた要の手・・・・・・掴まれていた俺の手首は赤くなっていた。
馬鹿力が!
「変だよね?」
変?
「どうして入退院を繰り返してるっていう真希那ちゃんがあんなに元気で、しかも里中真央の病室の前にいたの?」
考えられるのは、2人は知り合いだったってことだろ?
同じ学校で、同じ学年なんだから。
「それに、さっき僕が雛森くんのこと引っ張って離れようとした時聞こえた声って・・・・・・」
要が言いたいことは分かる。
あの声は・・・・・・
「俺が『薔薇の館』に掛けたときに話した相手の声だ」
つまり、あの店に、俺が里中に電話を掛けたとき、甲斐真希那も一緒にいたんだ。
途中から雰囲気が変わったって思ったのは、里中からあの子に変わったから・・・・・・
じゃぁ、里中を襲ったのは、甲斐真希那?
それとも、彼女を探していたのかもしれない甲斐鉄平?
「ねぇ、雛森くん・・・・・・甲斐鉄平さんなら鑑識だから、指紋とか、監視カメラの映像とか、簡単に操作できちゃうよね?」
お前の言いたいことは分かるけど、簡単に・・・・・・ってのはどうかな?
鑑識だけど、下っ端っぽいじゃん?
上司ならともかく・・・・・・
あ、でも胡桃ちゃんの携帯をあの人から渡してもらってるんだよな?
その時って上司に許可取ったりとかせず、あの人の独断で?
まぁ、早く事件現場に入れて、自分に都合の悪い証拠とか出てきたら、隠すとか、処分するとかは簡単に出来そうだけど・・・・・・
「鑑識さんって、公務員だよね?」
・・・・・・そうだな。
「例の公務員の正体、これから調べに行こうよ」
「例の公務員?」
あの閑静な住宅街の豪邸・・・・・・
里中真央と一緒に暮らしているっていう公務員のことか?
「急に気になってきちゃった・・・・・・あの里中が一緒に暮らしてた公務員のこと」
それって、里中真央と一緒に暮らしてるのは甲斐鉄平だって言いたいのか?
今にも雨が降ってきそうな、暗く、分厚い雲の下を、要の運転する車が静かに発進する。
「でも、あの人の給料で、あんな豪邸に住めるわけねぇだろ?」
詳しい事は従兄弟の甲斐の方に聞けば分かるだろうけど・・・・・・
何の役職もついてねぇ、ぺーぺーは・・・・・・やっぱ無理だろう?
第一、あの豪邸と、あの甲斐鉄平・・・・・・似合わねぇ。
「雛森くん・・・・・・人を外見で判断しちゃダメって、所長にも言われてたでしょ?それに!お金を出したのは里中の方かもしれないじゃん」
そりゃそうだけど・・・・・・
それにしたって、里中だって客からチップもらってたとしても・・・・・・それほど給料高くねぇだろ?
「あの豪邸に暮らしてる公務員が甲斐鉄平なのかどうかって、どうやって確かめるんだよ?」
役所に行って調べるって言っても、いろいろ書類用意しねぇといけねぇんだぞ?
面倒だぞ?
何日も待たないといけないし。
それとも、またあの豪邸の前の家にお邪魔して聞き込みでもするか?
俺、あそこのおばさん、ちょっと苦手なんだよなぁ・・・・・・
よくしゃべってくれるけど・・・・・・
あのパワーにはついていけねぇって言うか・・・・・・
「コレ見て」
ハンドルを握っていた左手を外して、俺に向ける。
その袖口に、キラッと光るモノ?
それって・・・・・・レンズ?
カメラ?
「この映像を、前に住んでる奥さんに見てもらうんだ」
用意周到って言うか・・・・・・
いつでも、どんな時でも録画出来るように毎日袖口にカメラ仕込んでるんだろうか?
「甲斐鉄平なら鑑識なんだから、それぞれの現場で自分の指紋がついてたって不思議じゃないし・・・・・・」
いや、普通手袋してるから指紋はつかないと思うぜ?
「証拠隠滅だって簡単だよ」
いくつ目かの角を曲がり、車は例の豪邸へ・・・・・・
あと数百メートルと言うところで、俺の携帯が着信音を鳴らした。
相手は・・・・・・
「倉科?」
「倉科?じゃねぇんだよ!!」
いきなり怒鳴るなよ!!
なんだよ、俺何かしたっけ?
「大学から帰ってきてみれば、まだお前ら帰ってきてねぇし・・・・・・だからって病院に来てみればもうとっくに診察を終えて帰ったって言われるし!!」
あ・・・・・・心配してくれたのか。
「で、今何処にいんの?」
何処って・・・・・・
俺が現在向かっている場所と理由を簡潔に・・・・・・素直に話した。
甲斐鉄平を思いっきり2人して疑ってますってのを付け加えて。
すぐに倉科からの返事はなかった。
沈黙が続く中、車は止まる。
「着いた・・・・・・何か分かったら連絡いれるから」
俺は、倉科の返事を待たず通話を終了させて携帯をポケットに押し込んだ。
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