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第32話

【 倉科side 】 くそっ! なんで俺が、啓太と一緒に大学の授業を・・・・・・ しかも、俺にはまったく関係のねぇ科の授業を大人しく受けてなきゃならねぇんだ! 啓太の単位のため? そんなもん、俺の知ったこっちゃねぇっつうの! って、当の啓太は何してやがる? 「ねぇ、遼先輩」 お前の手元のソレはなんだ? 今まで珍しく静かだと思ったら・・・・・・ 大人しく授業を受けていて、教授が黒板に書いてる事を、真剣に、真面目にノートに書き写してたんじゃねぇのか? 「お前、何やってんだよ?」 誰のせいで俺が今ここにいると思ってんだ? 「これ、どう思う?」 それまで書いていたノートを俺に向かって差し出してきた啓太をギロッと睨みつけてから・・・・・・ えっと・・・・・・なんだ? 中央に、桐条胡桃の名前があって・・・・・・ 「胡桃ちゃんの彼氏って・・・・・・誰なんだろうかと思って」 その名前を取り囲むように書かれた名前が林原と雛森恭介・・・・・・で、岩月浩二? マネージャーに探偵にフリージャーナリスト? 共通点って言ったら、皆死んでることか? 「例えばさ、その彼氏さんと胡桃ちゃんが付き合ってることを知ったファンがさ、2人のお付き合いを許さないからって殺しちゃうみたいなパターンって・・・・・・ドラマでもあるじゃん?」 もう一人、名前が分からないからクルッと円を描いた。 彼女と、それぞれの名前を線で結び、啓太が言葉を付け足していく。 マネージャー林原と、売出し中のタレント桐条胡桃の恋・・・・・・ 狙われた人気急上昇中のアイドル桐条胡桃を守る正義のヒーロー雛森恭介との恋・・・・・・ フリージャーナリストの岩月とは・・・・・・どうなんだろうな? この2人は線だけを結んで、コメントなし。 思い浮かばなかったのか? そこで、なにかを思い出したらしい啓太の持つペンが、もう1人の名前を書き足した。 「里中真央。」 禁断の義兄妹の恋? でも、それはありえねぇんじゃねぇの? だって、里中って、新人類ニューハーフって言われてる奴で・・・・・・ 「それが実はカモフラージュなのかもよ?」 なるほど。 まぁ、そりゃそうだけど・・・・・・里中本人に話が聞ければ、はっきりするだろう・・・・・・ん? ちょっと待て! 「里中に彼氏を紹介したって例の手帳に書いてあっただろ?」 ぼそっと指摘すると・・・・・・ 「あ」 その事を思い出した啓太の一言は予想以上に大きく、教授の鋭い視線が跳んできた。 自分の口を大袈裟に塞いで、啓太は教壇に向かってペコリと一礼する。 すぐに授業は再開された。 暫くの間、大人しく啓太は前を向いていて・・・・・・ その隣で俺は、手元のノートを睨みつけていた。 そういえば、里中が一緒にあの豪邸で住んでるっていう公務員と派手な男の正体、分かってねぇんだよな? いっちょ、石橋に調べてもらうか? いや、もう知ってるかもしれねぇよな? 里中が襲われたことで、一緒に住んでた人間にも連絡がいってるよな? 聞いたら教えてくれるんだろうか? 捜査情報だからなぁ・・・・・・俺ただの一般市民だし。 ユキには連絡がいってたりするのか? チラッと携帯を覗き込んだが、ユキからの着信も、メールも・・・・・・なにもない。 ユキ・・・・・・大人しく病院行ったかなぁ? 「・・・・・・ねぇ、先輩」 啓太が前を向いたまま呼ぶから・・・・・・俺も視線は下に向けたまま、その言葉の続きを待った。 「あのね・・・・・・もう1つあるんだけど・・・・・・これは雛森くんの前では言えないから・・・・・・」 ユキに内緒の話? 啓太の手が伸びてきて、ノートを引っ張り寄せる。 そこに・・・・・・ 「この人だったら、どう思う?」 啓太が書いたのは、石橋達也? どうって? 雛森恭介の同級生で・・・・・・ ユキのことも大事にしてくれてそうで・・・・・・ いや、実際大事にされてるみたいだけど・・・・・・ 今回の事件のことだって、自分の睡眠削って休みなく駆けずり回ってるって聞いて・・・・・・るぞ? すっげぇ真面目な刑事なんだろ? 「もし・・・・・・こうだとしたら、どう思う?」 啓太のペンが桐条胡桃と石橋を線で繋ぎ・・・・・・ 「石橋さんが、実は胡桃ちゃんの恋人だったりなんかしたら、どう思う?」 はぁ? お前、何言ってんだよ? あいつには清美さんっていう奥さんがいるんだろ? 逆玉だって言ってて・・・・・・え? なんだよ、つまり、桐条胡桃が石橋の愛人っ? ってか、石橋が彼女と浮気してったてのか? いや、でも、まさか・・・・・・なぁ? 「この間、石橋さんから直接僕に連絡があったんだ」 啓太に? この間っていつだ? 「雛森くんが病院を無理矢理退院しちゃう前だったと思う・・・・・・所長から、何か預かったものはないかって聞かれたんだ」 なんでそんなことを啓太に聞いたんだ? あん時は、ナースセンターに、ユキが退院する時に渡してやってくれってコインロッカーの鍵を置いていったんだよな? 石橋が聞いたのは、その鍵のことなんだろうか? 啓太自体は、おっさんから何も預かった物はなかったらしい。 「何もないですけど、雛森くんならって話をしたんだ。その後、所長の寝室がぐしゃぐしゃにされて・・・・・・」 石橋はあの部屋の合鍵を持っているって・・・・・・聞いたけど・・・・・・ 「あのアルバムに本当は何か仕掛けがあって・・・・・・もっと詳しく調べたら、石橋さんが犯人だっていう証拠が見付かったりして・・・・・・」 まさか・・・・・・ 「動機は?」 どうしてって啓太に聞いてみるけど・・・・・・ でも、なんとなく、啓太の言いたい事が分かった・・・・・・ 「胡桃ちゃんとのことが、奥さんにバレそうだったから・・・・・・とか?」 石橋の奥さんは、警察上層部の・・・・・・お偉いさんの娘だって言ってた。 もし、桐条胡桃と浮気してたことがバレたら、警察にいられなくなる。 いやそれだけじゃなく、相当なダメージを食らうよな? だから、桐条胡桃を殺した? 啓太の手元にあるノートを引っ張り寄せて、啓太の手からペンを奪うと・・・・・・石橋と岩月を線で結んだ。 桐条胡桃と石橋が恋人同士だっていうネタを岩月は掴んでいた・・・・・・ だから、岩月を殺し・・・・・・? いや、岩月は交通事故だって言ってたな・・・・・・ 偶然・・・・・・か? 結果オーライってことになるのか・・・・・・2人のことを知っている人間が死んだんだ。 あのニュースはきっと石橋も知ってる。 林原の場合は・・・・・・桐条胡桃から石橋の事がバレて、林原からおっさんに伝わって・・・・・・ でも、こいつらは同級生で・・・・・・披露宴にまで呼ぶほど仲が良かったんだよな? そんな奴等を・・・・・・自分の出世のために殺せるのか? 岩月はどんな奴か知らねぇからともかく、林原やおっさんが石橋を脅迫するとは思えない。 「ねぇ、どう思う?」 授業が終わり、次々に生徒が部屋を出て行く中、俺達はまだ席に座ったまま・・・・・・ 「・・・・・・先輩?」 じゃぁ、ユキは? 「ユキを襲ったのは石橋じゃなかったよな?」 監視カメラの映像は俺達も見た。 石橋本人の目の前で。 あれは、石橋じゃなかった。 石橋だったらユキだって気付いたかもしれない。 里中を襲ったのは? 「里中のとこに行く前、俺は石橋に連絡を入れてる」 俺達が里中と話をするために、『薔薇の館』へ行くって伝えてほしいと・・・・・・ 石橋の奥さんに伝言して・・・・・・ 里中は義理の妹だった桐条胡桃から石橋の存在を聞かされていて、その口封じ・・・・・・だとしても・・・・・・ やっぱり、ユキは? 「・・・・・・わかんねぇ」 ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱して、ぐりぐりとペンでノートを黒く塗り潰す。 「啓太の言う通り、石橋犯人説、納得できる部分もあるけどできねぇ部分もあるよなぁ」 そういえば、石橋はユキに、岩月を知っているかって聞いてきたことがあったよな? ユキは知らないって言って・・・・・・ その後でヤツの披露宴で一緒の席に座ってたって思い出して・・・・・・でも、それだけだ。 ユキは桐条胡桃の彼氏を知らなかった。 石橋がユキを襲う理由は? 「いい線行ってると思ったんだけどなぁ」 啓太が残念そうに立ち上がる。 「お前、いつから石橋のこと疑ってたんだよ?」 この部屋にはもう俺達2人しか残っていない。 「僕らが胡桃ちゃんのボディーガードやってた時、何回か石橋さんを見かけた事があったんだ」 こっそり警察が警護してた・・・・・・なんてことは? ほら、石橋と林原ってお友達なんだから。 「でね、前に胡桃ちゃんが・・・・・・好きな人と一緒にいる方法があるとしたら、啓太くんは、それがどんなに卑怯な手でも使いますかって聞かれたことがあってね」 卑怯な手? 「お前はなんて答えたんだ?」 卑怯って・・・・・・どんな手? 「もちろんって答えた」 もちろん? お前、どんな手を使うつもりだ? ってか、そうしたら何て? 「その手が、相手にとっては最悪な手でも?って聞き返されて・・・・・・答えに困っちゃったんだけど」 相手にとっては最悪? 「その質問に・・・・・・石橋さんってピッタリ合う人だよなぁって、何となく思ったら・・・・・・次から次に当てはまっていくって言うか」 パカッと携帯を開いて時間を確認する。 まだ後1つ、出なきゃならない授業がある。 ユキから連絡ねぇなぁ・・・・・・まだ、診察終わってねぇのかなぁ? ちゃんと病院行ったんだろうなぁ? 要のヤツ、ちゃんとユキを病院に連れてったんだろうなぁ? 「先輩、さっきの話、雛森くんにはまだ内緒にしといてよ?」 さっきの・・・・・・石橋犯人説? 言えるわけねぇよ。 ユキは多分石橋のこと、これっぽっちも疑ってねぇよ。 でも、啓太の推理も全部・・・・・・否定できないわけで・・・・・・ 「・・・・・・充に聞いてみるか?」 そうだ。 あいつなら、警察の中に知人がいるって・・・・・・あれ? それって鉄ちゃんのことだったか? いや・・・・・・そうだ、叔父さんだ。 充の叔父さんが警察に勤めてるって・・・・・・そこから石橋の事を探ってみる。 次の授業で使う教室に辿り着き、俺達は一番後ろの席についた。 充に用件を簡潔にまとめてメールする。 もちろん、最後には、ユキには内緒って言葉を付け足しておいた。 何もなきゃそれでいい・・・・・・ 俺達疑ってごめんなさい、だ。 でも、そうじゃなかったら・・・・・・ 石橋がこの事件に係わってたら・・・・・・ユキは・・・・・・また泣く。 泣かせたくねぇけど・・・・・・ 犯人はまだユキも狙ってるんだ。 さっさと犯人を見付けねぇとユキが危ない。 すぐに充から返信がきた。 了解って・・・・・・まだ続きが・・・・・・ 「啓太」 送られてきたメールを表示させたまま、携帯を啓太の前にスライドさせた。 岩月浩二の事故についての報告・・・・・・ヤツは、酒を一滴も飲めない人間だった。 で、その事故を偶然目撃、通報したのが・・・・・・ 「石橋さん?」 おいおい、疑惑が確信に・・・・・・ ユキは・・・・・・ユキは今無事なんだろうか? 今すぐ声を聞きたいけど・・・・・・ 教授が教室に入ってきて・・・・・・ 壇上に上がって・・・・・・授業の準備を始めた。 「啓太、ちょっとユキに連絡してくっから、お前はちゃんと授業受けてろ」 啓太から携帯を取り上げて、そっと教室の後ろから廊下に出た。 この時間なら、もう診察は終わっているはず。 診察終わったよぉのメールくれてもいいだろ? ユキの場合、メールは・・・・・・見ない可能性が大だな。 いや、見てもスルーする気だな。 あいつ、自分の都合が悪かったら見て見ぬふりするからなぁ。 直接電話してやる。 ユキのナンバーを呼び出して・・・・・・出ない。 もう一度掛けても・・・・・・出ない。 要は・・・・・・出ない。 2人とも、電波の届かない場所にいるのか、電源が入っていないため掛かりません・・・・・・って。 つまり、まだ病院? ちゃんと電源を切ってるってことか? それとも、ただ単に、電源を入れ忘れてるのか? 要は天然そうだけど、ユキはワザとやってるのかも・・・・・・ さては・・・・・・入院中の里中に会おうとしてて、俺から連絡が入るのを避けてるとか? きっと俺が止めるから。 ユキなら有り得る。 こうなったら、教室の中の啓太にメールを発信して・・・・・・ 俺は帰る! もうマンションにいるかもしれないし、まだだったら病院に行ってみる! すぐに啓太から返信がきて・・・・・・ 「よし。聞き分けの良い子だ」 ユキに無茶をさせたくないのは、啓太も同じだ。 連絡が取れないんだから心配になるのは、あいつも一緒。 啓太と一緒に乗ってきた車でマンションに帰ってきても、まだ駐車場にもう1台の俺の車は停まってなかった。 前回のことを考えて・・・・・・こんなに診察に時間が掛かるわけはない。 とりあえず、病院へ向かう事にした。 診察を終えたら、ちょうど里中が目を覚ましたとか? 警察の事情聴取が始まるから、一緒にいさせてってユキが我儘を言ったとか? 浮かんでくるのは里中に関係していることばっかり。 病院の駐車場は混んでいて・・・・・・ 漸く車を停めて、中に飛び込んだ俺は真っ直ぐに受付へ走って行って・・・・・・ 見たことのある看護士を呼び止めて・・・・・・ 「え?由貴ちゃんなら、とっくに帰ったわよ?」 帰った・・・・・・だって? マンションにはいなかったのに? すれ違ったのか? 「ユキ」 ど~こ~に~行ったぁ? すぐに駐車場へ引き返し、携帯を開く。 ひょっとして繋がるようになっているだろうかと、ユキのナンバーを呼び出して・・・・・・ コール音・・・・・・ 「倉科?」 なんだ、その半疑問形は! 俺から電話が掛かってくるのは不思議か? 「倉科?じゃねぇんだよ!!」 思わず怒鳴りつけてしまった。 「大学から帰ってきてみれば、まだお前ら帰ってきてねぇし・・・・・・だからって病院に来てみればもうとっくに診察を終えて帰ったって言われるし!!」 まぁ、無事でいるならいいんだけど・・・・・・ 「で、今何処にいんの?」 車の中っぽいけど? 何処に向かってるんだ? 「今、例の豪邸に向かってる」 豪邸? 里中の病室には面会謝絶の札が掛かっていて、そいつの病室の前で・・・・・・甲斐鉄平の妹に会った? そこには鉄ちゃんもいて・・・・・・ 去り際に聞こえたその妹の声が、里中が襲われた日に掛かってきた・・・・・・ いや、こっちから掛けたんだったか? その時に電話口に出た相手の声だったって? え? ちょっと待てよ・・・・・・ ユキと要は、鉄ちゃんのこと(妹セット)を疑ってるのか? 動機は・・・・・・分かんない? これから調べる? で、豪邸に向かってるのは、そこに里中と住んでいた公務員と派手な男って奴らの正体を調べに行く・・・・・・と その公務員が、鉄ちゃんだとでも? いや、それはないだろう? だって、あの豪邸と鉄ちゃんって似合わない。 まぁ、確かに、ユキの言う通り、鉄ちゃんは鑑識なんだから、いろいろ証拠隠滅とか出来るだろうけど・・・・・・ 動機の線から言うなら、石橋が怪しいって・・・・・・言った方がいいんだろうか? 俺らの推理の方がよっぽど真実に近い気がするんだけど。 この調子だと、まったく石橋のこと疑ってねぇもんな? でも、今のユキに石橋が怪しいって言っても・・・・・・納得しない・・・・・・よな? こっちの推理が完璧に固まるまでは、石橋犯人説は、ユキには言わない方がいいな。 「着いた・・・・・・何か分かったら連絡いれるから」 え? おい、ユキ? 「きっ、切りやがった」 あんまり無茶するなよぉ・・・・・・

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