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第33話

【 雛森side 】 「あら、あなた達」 ちょうど外へ出てきた奥さんとバッタリ・・・・・・ 「また調査?ちょうど退屈していたところなの!さぁ、入ってちょうだい!」 入ってちょうだいって・・・・・・ 要と一緒にお宅にお邪魔して・・・・・・ この前通してくれた部屋とは別の部屋へ入った。 この部屋からも前の家の玄関がよく見える。 すぐに家政婦の女性が俺達にってコーヒーを持ってきてくれた。 「あれから、あたくし達も前のお宅のこと、いろいろ気にして見てたんですけどねぇ」 奥さんだけは紅茶で・・・・・・そのティーカップを口元に運びながらちらっと視線を外へ向けた。 「誰も帰ってこないんですのよ」 そう、誰も帰ってこない・・・・・・ 「帰ってこない?」 誰も? 里中のことを知って病院に行ってるとか? いや、里中の見舞いに来た人間なんていないはず・・・・・・そんな情報は入ってない。 「えぇ、夜だって明かり一つ点かないし・・・・・・シーンとしてて人の気配もしないし・・・・・・郵便ポストにほらアソコ。新聞詰め込まれたままになってるでしょ」 そう言われて窓の外を見てみれば、確かにポストの口に、これでもかって新聞が押し込まれたままになっている。 「それでね、気になって、チャイムを押しに行ってみたんだけど、やっぱり返事がなくってね」 奥さん、意外と行動派なんですね・・・・・・ 「・・・・・・そうですか」 俺が奥さんの話を聞いている間、要はさっき病院で録画してきた装置を、この部屋のテレビに繋いでいた。 そして、準備が整い・・・・・・ 「すいませんが奥さん、ちょっと確認してほしいんですが」 そう言って要は再生ボタンを押した。 画面には病院の廊下が映し出されて・・・・・・俺と、甲斐真希那がいた。 「あら」 カチャッとカップをテーブルに置いて、奥さんが俺のほうを向く。 「あなた、どこかお悪いのかしら?」 映し出された光景は、そこが病院だという事がすぐに分かる場所だった。 「あ、いえ・・・・・・あの、奥さん、この人達なんですけど・・・・・・」 音声が入っていないけど・・・・・・そこにちょうど甲斐鉄平が現れた。 「あら・・・・・・この人」 「御存知ですか?」 ぐいっと要が身を乗り出す。 やっぱり、里中と一緒に暮らしていた公務員っていうのは・・・・・・甲斐鉄平? 「えぇ、1、2度見かけたことがあるわね?」 1、2度?その程度? 「前の家に住んでるのって、この人ではないんですか?」 要の予想は外れた。 「いいえ、違いますよ」 違う・・・・・・やっぱり甲斐鉄平ではあの豪邸には住めないよな。 「あの奥さん、よぉっく見てくださいね」 要、そんなに食い下がったってしょうがねぇだろ? 違うんだってさ。 「えぇ確か、この方は・・・・・・部下の方だったんじゃなかったかしら・・・・・・ねぇ、良子さん」 え? 「そうですね・・・・・・確か、奥様がお声を掛けられたときに、そうおっしゃってたと思いますが」 部下? 「この人と話をされたんですか?」 甲斐鉄平と会話を交わした? 「えぇ、少しだけね。イケメンでしたから・・・・・・」 奥さんはニッコリと笑った。 イケメンかなぁ? 倉科の方がよっぽど・・・・・・いい男だと思うんだけど。 「その時、少し顔色が悪かったから大丈夫って聞いてさしあげたの・・・・・・そうしたら、ちょっと仕事が忙しくって寝不足なだけなので、全然平気ですって笑ってらっしゃったわ」 その後、甲斐鉄平は家の中に招かれて入って行ったらしい。 残念ながら奥さん達は、甲斐鉄平がその家から帰るところは見ていない・・・・・・っと。 「じゃぁ、奥さん、こっちの女の子は見たことありませんか?」 要はそう言って甲斐真希那を指差した。 「うーん・・・・・・どうかしら良子さん?」 俺の腕に絡みついて、ぐいぐい胸を押し当ててる映像が・・・・・・ 俺の顔も真っ赤で・・・・・・ 「さぁ、私は見た事はありません」 今、チラッと俺を見ましたね? 「そうねぇ・・・・・・あたくしもちょっと覚えがありませんわ」 奥さん、貴方も今俺を見ましたね? 俺、好きであんなことされてたわけじゃありませんからね? 誤解しないでくださいよ? 俺だって慣れてないんですから、あんなことされて、対処に困っていたというか・・・・・・ でもまぁ・・・・・・これ以上の情報を期待できない、か。 その後は、奥さんの世間話に付き合わされて・・・・・・ 一時間以上はお邪魔してたと思うんだけど・・・・・・漸く話のキリがついて、俺達は腰を上げた。 って言うか、今逃げないと当分帰れなくなりそうで・・・・・・ 「あの、また何か聞きに来る事があると思いますので、その時はよろしくお願いします」 要がペコッと頭を下げ、俺もそれに続いて一礼・・・・・・ 玄関の扉を開けて・・・・・・ 外は雨が降っていた。 「あら、傘はお持ちかしら?」 「あ、いえ、車、すぐそこなんで」 俺達は家の前に駐車してある車にダッシュ・・・・・・ 要が運転席に、俺が助手席にそれぞれ乗り込んだ。 「要、一旦事務所に行ってくれ」 甲斐鉄平の上司なら、恭介は知っているかも。 鑑識にも何人か知り合いがいた。 恭介の手帳はまだ戻って来てないし・・・・・・ 携帯も見付かってないけど、俺がプレゼントする前の手帳がどっかにあったはずだし・・・・・・ 恭介の事務所の机ん中から名刺とか出てくるかもしれない。 ゆっくりと車が動き出した。 「僕雨の日の運転って苦手なんだよね」 は? なんだよ? 今そんな告白すんなよ・・・・・・なんなら運転変わろうか? 「要、ワイパー動かせ」 こら、要。 お前の伸ばした指の先にあるのは・・・・・・ 「ハザードじゃなくって、こっち」 ワイパーのスイッチを入れてやる。 「それからな、要・・・・・・車線変更しなきゃならねぇのにサイドミラー畳んだままだぞ?」 俺に言われて、慌ててサイドミラーを開いた。 マジで大丈夫だろうか? 俺、無事に事務所に辿り着く事が出来るのか? 「ねぇ、雛森くん」 相変わらずノロノロ運転の要が話し掛けてきたけど、俺と話してて大丈夫か? 運転に集中してなくてもいいのか? 道間違えたりしないか? 「なんだよ?」 だんだん道が混んできた。 今の内に車線変更しておいた方がいいと思う。 「所長はどこまで調べてたんだろうね?」 恭介? 「最初は胡桃ちゃんのストーカーをやっつけるために、その存在を探して・・・・・・その後、雛森くんが襲われて、胡桃ちゃんが殺されちゃって・・・・・・」 恭介の調査がどこまで進んでいたのか? きっと、あの手帳にはびっしり書き込まれてたんだろうなぁ・・・・・・ ビリビリに破られてたって・・・・・・石橋さん、言ってた。 「でも、所長が何もしないまま簡単に殺されるわけないと思うんだよ」 ん? お前は、あの動画を見てないから・・・・・・ あんな血だらけで・・・・・・ぐしゃぐしゃに顔を潰されてて・・・・・・ 「きっと、雛森くんには何か分かるように、ヒントを残しておいてくれてないかなぁって思ってさぁ」 俺にヒント? 「でも、雛森くんの携帯に送られてきた動画って消しちゃったんだよね?」 要、正確には消されちゃった、だ。 そうだな・・・・・・ あれを細かく分析したら、犯人に繋がる何かが見付かったかもしれねぇなぁ。 俺の脳裏にはしっかり焼きついてるけど、恭介が俺に残してくれたメッセージなんて? 「あのロッカーには卒業アルバムが入ってたじゃない?」 恭介がナースセンターに置いていった鍵。 俺の卒業した中学の、卒業アルバム。 それは、俺の卒業した年じゃなくって、桐条胡桃、里中真央、甲斐真希那、三人が卒業した年のアルバムだった。 「ただのアルバムじゃないのかもよ?」 もっと詳しく調べてみる? 普通にページを捲っただけじゃ、何も挟んでなかったぞ? でも・・・・・・なんでもないのに、恭介がロッカーの中に入れて、俺にその鍵を託すわけ・・・・・・ 「なぁ要、あのアルバムってどこにやった?」 倉科の車ん中で見た覚えはあるけど、その後は? 「アルバムは倉科くんの家にあるけど?」 倉科んち? 「倉科くんちに先行く?」 今からだと車線変更・・・・・・お前には無理だ。 隣を流れる車の列を眺めながら・・・・・・ 「いや、このまま事務所に行ってくれ」 俺は携帯を取り出した。 「何処に掛けるの?」 要、お前はいいから前向いて運転しててくれ。 「倉科・・・・・・さっきのこともあるから連絡入れておこうと思って」 倉科の奴、ずっと携帯を手元に置いていたんだろうか? コール音が鳴る前に繋がった。 「ユキ?」 早い。 「倉科、あのさ、今なんだけど・・・・・・」 手に入れた情報を手短に話し、俺達は一旦事務所へ行くと伝えた。 で、その間にやっておいてほしいことがある。 「例の卒業アルバムなんだけど」 「アルバム?」 ガサガサと音が聞こえる。 「それ徹底的に調べてほしいんだ」 徹底的に、を強調する。 「調べる?何を?」 何をって、今回の事件のことで何か関係があるものがないかどうか。 「雛森くん、俺も調べるの手伝うから安心して!」 恐らく倉科から携帯を奪ったんだろう啓太が、直後小さな呻き声を上げた。 「倉科、アルバムの原型を留めて無くてもいいから、徹底的にバラして」 よく推理小説に出てくる、背表紙とか、ページの間に何かマイクロチップのようなモノが隠されてないかとか? 俺達が見たのって、桐条胡桃と里中と甲斐真希那が載ってるページだけだから、その他に何かあったかもしれない。 「了解、アルバムのことは俺に任せとけ」 そこで俺は一旦通話を切った。

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