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第34話

【 倉科side 】 ユキから一方的に電話を切られて・・・・・・数分が経過。 じっと携帯を睨みつけているけれど、掛かってこなくて・・・・・・ いつまでも病院の駐車場で待ってるわけにもいかないし・・・・・・ 仕方なく、とりあえず一旦マンションへ帰ることにした。 あの豪邸のお向かいさん・・・・・・奥さんの顔を思い浮かべる。 旦那さんは出張中・・・・・・奥さんの中では既に他界。 イケメン大好き・・・・・・ユキは可愛い。 噂好き・・・・・・ユキは格好の餌食? 大丈夫だろうか・・・・・・いくら情報を得るためって言っても、あの奥さん、そう簡単には解放してくれないぞ。 泣いてねぇかな? 無理してねぇかな? 俺に連絡入れること忘れてねぇかな? いや、別に、居場所ははっきりしてるんだし、1人っきりじゃなくって要と一緒なんだから、こんなに心配する必要はねぇけど・・・・・・ 信号で引っ掛かる度に携帯を覗き込む。 ユキからメールも着信履歴もなし。 マンションに戻って来て駐車場で携帯を開いても、ユキから連絡なし。 部屋に辿り着いて、靴を脱いで、携帯を見ても変わらない。 メール、メッセージ問い合わせを押しても、何もありませんときたもんだ。 思い切って、こっちから掛けてみるか? もう、とっくに用件は済んでいるのに、あの奥さんから逃げられなくて困ってるだけなのかも? 俺が電話を掛けた事によって、それを口実にして席を・・・・・・いや、待て。 まだ話の途中だったら? 邪魔したくねぇもんなぁ・・・・・・あの奥さん相手に必至だろうし。 ってことは、やっぱり、ユキからの連絡を待たないといけねぇのか。 ドスンッとソファに沈んで、携帯を掲げる。 「光らねぇなぁ」 そのまま背後へバスンッと倒れこんで、じーっと携帯を睨みつける。 盛大な溜息を吐き出して・・・・・・ 「とりあえず、コーヒー淹れようか」 独り言なんか言ってみる。 落ち着こう、俺。 一旦、携帯から手を離そうか、俺。 カチッと携帯をガラスのテーブルの上に置いて・・・・・・ ソファから立ち上がって・・・・・・ その間、ずっと視線は携帯に釘付けだったけど。 携帯・・・・・・鳴らねぇ。 一歩、キッチンに踏み出して・・・・・・ やっぱり、側にいない間に電話が鳴って、すぐに出られないといけないっつうんで携帯を持って行く。 別に、誰に言われたってわけじゃねぇんだけど。 で、コーヒーを淹れてる間も連絡はなく・・・・・・ いきなり玄関のドアが開いて、啓太が飛び込んできても・・・・・・ 「雛森くんは?」 お前、ただいまは?なんて、ツッコミを入れる事が出来なかった。 「連絡待ち」 待ってるんです。 健気に、俺はユキからの連絡を待っているわけです。 ん? 本当に待ってていいんだよな? ユキ、お前、俺に連絡してきてくれるよな? まさか・・・・・・また勝手に動いてねぇだろうなぁ? ギロッと啓太を睨みつける。 前例があるからな! 「な、なに?」 ユキの退院を簡単に許しやがって。 「べ~つ~に!」 大体だ! こいつが、ユキをベッドに縛り付けるなり、なんなりしてりゃ・・・・・・ いや、そんなことをしたって、その内俺らの目を盗んで逃亡するな・・・・・・ユキなら。 だったら、目の届くところ、手の届くところで連れて歩いてた方が・・・・・・マシ、か。 「で、啓太・・・・・・それは?」 不思議そうに小首を傾げる啓太の手が・・・・・・茶封筒を抱えている。 「これ?」 俺に差し出してきた茶封筒・・・・・・結構重いな。 「さっきマンションの前で知らないオジサンが・・・・・・君が倉科遼くんかい?って言って近づいてきて」 俺? 「えぇ、そうですけど何かって答えたら」 声真似はいい・・・・・・ってか、勝手に俺になりきるなよ! なんなんだよ、そのポーズは! ナルシストっぽくねぇか? おまっ・・・・・・そのドヤ顔やめろ! なんかムカつく! 「これを役立ててくれたまえって」 役立てろ? 既に中身を飲み干して空になったカップを横に退けて、テーブルの上に中身を出す。 ガサガサと出てきたのは・・・・・・ 「紙?」 何かがビッシリ書き込まれた紙の束と・・・・・・ ビリビリに破れた紙の切れ端・・・・・・ なんだろう・・・・・・これって手帳っぽい? 「啓太、知らないオッサンってどんな感じのオッサンだったんだ?」 それにしても、きったねぇ字だなぁ・・・・・・読めねぇ。 これ日本語か? 「サングラスした、ひょろっと細い感じの、いかにも怪しいオジサン」 自分もコーヒーを飲むと言ってキッチンに入って行く啓太の背中に向かって、俺のも淹れろと命令して再び紙に視線を落とす。 啓太の言う、ひょろっと細いオッサンに心当たりはない。 だが、オッサンは俺の事を知っていた。 けれど、そのオッサンは啓太と俺を間違えた。 ってことは、そのオッサンと俺は面識ないってことだよな? 「なぁ、他には何か言ってなかったか?」 2人分のカップを手に戻ってきた啓太を見上げ、差し出されたカップに手を伸ばす。 「あまり無茶はしないようにって言われた」 無茶をするな? 「ねぇ、これ、なんの役に立つんだろう?」 ビリビリに破れている紙の切れ端をパズルのように啓太が合わせ始めた。 役にって・・・・・・何の? 俺個人に役立つもの? それとも・・・・・・これ、この事件に関係してる? ちょっと待てよ・・・・・・そのオッサン、なんで俺が今起こってる事件を調べてるって知ってんだ? 「なんで捕まえとかねぇんだよ」 ボソッと呟いた俺の言葉が聞こえたのか、啓太が手元から視線を上げた。 「先輩、なんかパニック中なところ悪いんだけどぉ?」 はぁ? あんだよ、パニック中って・・・・・・ 文句を言おうと口を開いた俺に向かって、一枚の紙の切れ端を俺に向かって突き出してきた。 「ここ・・・・・・なんかさぁ、『石橋』って読めない?」 啓太の手からソレをもらって・・・・・・ 「読めなくない事もない」 確かに・・・・・・『石橋』って・・・・・・ってことは、これ日本語で書かれてんだな。 汚すぎだ。 「あ、ここも・・・・・・見て見て、今度は『岩月』だって」 お前・・・・・・なんでそんなに見付けられるんだよ? 啓太って間違い探しとか、ウォーリーを探せ、みたいなやつ得意だったのか? それとも、同類だから解読できるとか? 「他は?」 俺も何か見付けてぇなぁって、そう思って紙に手を伸ばした瞬間・・・・・・ チカッと携帯が光った気がして! 速攻・・・・・・ 「ユキ?」 掛かってきた! やっと、掛かってきた! 待ってた・・・・・・待ってたんだよ、ユキ。 いや、信じてたぞ? お前が連絡くれるって、俺は信じて待ってたんだ。 「倉科・・・・・・あのさ・・・・・・今なんだけど・・・・・・」 やっと、あの奥さんから解放されたんだな・・・・・・ 恐かったろ、あの奥さん相手に・・・・・・うんうん、頑張ったな、ユキ。 で、もう帰ってくるんだろ? 帰ってきたら、思いっきり甘やかして・・・・・・ は? 事務所に行く? 豪邸に住んでいる公務員の正体が、鉄ちゃんの上司? 「例の卒業アルバムなんだけど・・・・・・」 例のアルバム? 「アルバム?」 確かここら辺に置いておいたよな? あれ・・・・・・って、ソファの下かよ! ガサガサと紙袋を広げ、中から卒業アルバムを取り出した。 「それ、徹底的に調べてほしいんだ」 徹底的? 「調べる?調べるって何を?」 このアルバムに何かあるのか? パラパラ捲っている隙に、啓太の手が伸びてきて・・・・・・ 「雛森くん、俺も調べるの手伝うから安心して!!」 携帯を奪った啓太を蹴飛ばす。 「うっ!」 綺麗に腹に決まった。 ったく・・・・・・蹲った啓太に冷ややかな視線を送り・・・・・・ 携帯を持ち直す。 「倉科、アルバムの原型を留めて無くてもいいから、徹底的にバラして」 ユキに頼られてる。 「了解・・・・・・アルバムのことは俺に任せとけ」 で、お前はさっさと事務所に行って取るもん取って、さっさと帰って来いよ。 プツッと電話が切れた瞬間・・・・・・ バリバリ・・・・・・メキッ! バキッ! 「・・・・・・啓太」 その腕力でアルバムを破壊するな。 俺がカッターナイフで繊細に解体作業を行おうと思っていたのに・・・・・・ モノの数秒で卒業アルバムが、アルバムでなくなった。 「お前なぁ、載ってる写真に何かメッセージらしきもんとかあったらどうすんの?」 さっきの紙パズルの方はもういいのか? あれは、お前にしか解読出来そうもねぇぞ? 「おい啓っ」 「あ」 啓太が声を上げたと同時に、なにか黒い小さなモノが転がり落ちた。 バラバラに破壊されたアルバムの欠片に紛れ込む前に、拾い上げたソレは・・・・・・ 「マイクロSDカードってヤツじゃないの?」 俺の指からソレを抜き取って、啓太は自分の携帯に差し込んだ。 何が入ってるんだ? 「携帯じゃ見れないみたい」 んじゃ、パソコン・・・・・・ 「あ」 ダメだ。 俺のパソコン、今調子悪いし・・・・・・カードリーダー壊れてた。 まぁ、いい機会だから買うか・・・・・・ ユキが帰ってきたら、一緒にパソコン買いに行こう。 よし、そうしよう。 その間、こいつに、このバラバラな紙片を解読させよう。 俺はユキと2人っきりでお買い物! そうと決まれば! ユキに電話だ!

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