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第37話

【 雛森side 】 「でな、ユキ、俺んちのパソコン、今調子悪くってコイツ見れねぇんだ」 中身はまだ見れてないんだ・・・・・・一体、何が入ってるんだろう? 恭介・・・・・・さっきの石橋さんは一体なんだったんだろう? あんな石橋さんを、俺は知らない。 石橋さんが恭介を殺したのか? なんで? 林原さんも? 岩月さんも? 石橋さんが殺した? 「ユキ?」 あぁ、ごめん、倉科。 俺のこと、ものすっごく心配してくれてるね。 さっきのこと、要達から聞いてたもんな。 えっと、倉科とさっきまで話してたのって・・・・・・あ、パソコン? 「事務所に行けばパソコンあるけど」 さっきの電話の時に言ってくれれば、パソコン持って来たんだけど。 「いや・・・・・・ちょうどいいから新しいの買おうと思って。ユキ達が帰ってくる前に近所の電気屋でパンフレットもらってきたんだ!」 はい? そんな嬉しそうに各メーカーのパソコンをテーブルの上に並べるなよ。 ん?買おうと思ってって・・・・・・? 即買い? 俺の場合、そんなポンッと買えるもんじゃねぇんだけどなぁ。 「なぁ、ユキ、どれがいい?」 どうしてそれを俺に聞くんだ? 「倉科が選べばいいと思うんだけど」 最終的には金出す奴の権限が一番強いんだから。 「でも一応皆の意見聞いておいたほうがいいかなぁっと」 一応、なんだ。 で、皆とか言いながら、俺にだけ聞いてくれるの? 「う~ん」 どうも倉科の表情からは既にメーカーも機種も決まっているようだ。 そうだなぁ・・・・・・倉科が選びそうなパソコンって言ったら・・・・・・ 「これは?」 俺はそう言って一枚のパンフレットを手にした。 デザイン的にも、仕様も・・・・・・倉科の好みのものだと思う・・・・・・ 後からいろいろなオプションも付けやすそうだし? 中学から倉科の好みが変わってなければ・・・・・・だけど。 「お?やっぱり、ユキもそう思うか?」 良かった、俺大正解。 「じゃぁ、買いに行こ!」 へ? ぐいっと倉科に腕を引っ張られて、玄関に連れて行かれる。 「こ、これから?」 俺、まださっき帰ってきたばっかり・・・・・・ それに、今は出掛ける気分じゃねぇんだけどぉ・・・・・・ 「古いのは啓太に車へ積んどけって言っておいたから」 いや、そうじゃなくって・・・・・・えっと、そうじゃないんだけど・・・・・・まぁ、いっか。 倉科と一緒にいたら、少しは気分が紛れるかな? てっきりついてくるかと思っていた啓太や要、甲斐は留守番らしい。 つまり、俺は倉科と二人っきりで電気店へ向かったわけで・・・・・・ 倉科はしゃべりっぱなし・・・・・・ 新しいパソコンに替える事がよっぽど嬉しいんだろう・・・・・・ 店員にパソコンの在庫を確認してもらっている最中もずっと口が動いている。 息継ぎのタイミングが絶妙だ。 相手に相槌のスキも与えない。 偶然にも(?)残り一台のみ。 初期設定とかの作業は自分達で出来るので・・・・・・ほんと、機械関係に強いよな、倉科は。 って、倉科、ニコニコ現金払いかよ。 っていうか、いつもそんな大金持ち歩いてるわけ? 数十数万、ポンッて・・・・・・カードじゃないんだな。 なんか・・・・・・ドキドキしちゃったよ、俺。 「うっしゃ!!ユキ、帰ろうぜ」 他にもいくつかオプション買い込んで・・・・・・って、同じモノが倉科の部屋にもあったような気がするけど? そこを指摘したら、バージョンが違うと言われて・・・・・・ 今買った物の性能がどうとか・・・・・・ 二つあればアレが出来る、これはこうなるとかって、うるさくて・・・・・・ 細かく説明してくれても俺にはチンブンカンプンで・・・・・・ 途中からは話を聞いてるフリをしながら窓の外を眺めていた。 俺がこんなだから、倉科が一生懸命気を紛らわしてくれてるんだろうな。 だって、こんなに倉科がおしゃべりなわけねぇもん。 いっつも無口・・・・・・でもないけど、クールで・・・・・・カッコいいもんな。 ちゃんとしなきゃ。 帰ったら、啓太達にも心配かけないようにしないと。 俺は、しっかりしないと。 今だけ、この時間、この空間だけ、もうちょっとだけ倉科のこの声に甘えていよう。 マンションに着くと、すぐに啓太が飛び出してきて、俺が運ぼうと思っていた機材を全て持って行ってしまった。 「俺も運ぶの手伝おうか?」 まだ倉科の両手塞がっているから、どっちかの紙袋一つくらい俺が・・・・・・ 「怪我人なんだから、いいって・・・・・・俺に任せておけよ。ユキは俺より先に行って、自動ドアとか開けてくれればいいから」 って、そんなこと言われてもなぁ・・・・・・ 他にはすることねぇから、倉科の言う通りになっちゃったんだけど・・・・・・ 俺一緒に行って結局何もしなかったし。 倉科の部屋の扉を開けると、中から、すっごく変な匂いが漂ってきた。 俺の腹の虫がタイミング良く鳴いて、背後で倉科が笑いやがった。 けど、その笑顔はすぐに消えた。 「ちょうど出来たみたいだな」 何が? ってか、この臭いの原因を知ってるのか? とてもイイ匂いだなとは、お世辞でも言えないぞ? 「俺らが出掛けてる間、夕飯の用意しとけって3人に言っておいたんだ」 夕飯の用意? え? 啓太とか要って料理出来るのか? 「本に載ってるまんまだとあれだから、僕なりにアレンジを加えてみたんだ」 要・・・・・・別に本のままでいいと思うぞ? 見た目は問題なさそうだけど・・・・・・どこかの店のメニューみたいに、ちゃんとしてるけど? なんだろうな、部屋の中に充満しているこの臭いは・・・・・・ お前ら気付いてないのか? ずっとこの部屋の中にいるから、鼻がバカになってるのか? この臭いに色をつけるなら・・・・・・紫色と深緑色のマーブル? 黄色もトッピングしてみる? テーブルの上一杯に並べられた料理・・・・・・ え? 俺が一番最初に食えと? 3人で期待の目を俺に向けてくるけど・・・・・・この臭いなんとかならねぇのか? なんだか、目がシバシバする。 見た目に騙されて口に入れたら最後、とんでもないことが起こりそうで怖ぇ。 どうしようかと倉科を見ると・・・・・・ 「よし、んじゃ、まず俺が・・・・・・・・・」 ひくって口角が上がった。 箸じゃなくてスプーンで・・・・・・ ドロッて、なんかその液体重そうだな。 本当に食えるもんなのか? 「んぐっ」 「倉科さ~ん?」 これでもかって眉間に深い皺を刻みこんで、口元押さえて・・・・・・ 「ぬぐっ、うぅっ・・・・・・んぅ」 トイレに駆け込みやがった。 そういうリアクションなのかよ! 「何アレ?」 啓太、不思議そうに倉科の背中を見てやるなよ。 「僕らの料理が美味しすぎて泣くぐらい感動しちゃったんだよ」 要、お前も啓太と同じように倉科にその視線を送るな。 さぁどうする、俺? 「さぁ、倉科くんのことは放っておいて!」 甲斐・・・・・・あんた、本当は分かっててやってねぇか? 「雛森くんのために栄養一杯つくものって考えながら3人で一生懸命作ったんだよ」 一生懸命って強調しなくっても分かってる。 お、俺のために・・・・・・なんだよな? 啓太・・・・・・そうだよな、心が篭ってれば味なんて・・・・・・ お前らの行為を無にしちゃダメ、だよな? ダメ、だよな? だ・・・・・・め・・・・・・・・・・だな? 「い、いただきます」 箸を手にして、一番近い位置の皿に手を伸ばした。 プツッて・・・・・・ 今プシュッて・・・・・・なにか中から黒っぽい液体が飛び出ましたけど? 「それね、僕の自信作なんだ!」 要の自信作・・・・・・これ、黒すぎじゃねぇか? 黒なんて本来口の中に入れる色じゃねぇぞぉ! それでも俺はありったけの勇気を引っ張り出して・・・・・・ パクッと一口。

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