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第38話

【 雛森side 】 「大丈夫か、ユキ?」 あの後、俺は気を失ったらしい。 気がついたらあれから1時間以上が過ぎていた。 身体を起こすと額に乗せられていたらしい濡れたタオルが落ちて・・・・・・ 俺は倉科のベッドに寝かされていたようだ。 「倉科・・・・・・俺・・・・・・」 口の中がとてつもなく不味い。 すぐに差し出してくれた水を貰って一気に飲み干す。 「ごめんな、ユキ・・・・・・無理させて」 無理・・・・・・そうだ、あの料理、どうなったんだ? せっかくあいつらが作ってくれたのに・・・・・・悪いことしちゃったけど・・・・・・? 「倉科、なんで笑ってるんだ?」 そういえば、倉科はトイレに逃げたんだよな? 「いや・・・・・・だって・・・・・・お前今啓太達に悪いことしたって思ってるだろ?」 思ってるさ。 味はどうであれ、あれって俺のために作ってくれたんだろ? 心の篭った料理だったんだろ? それを途中でリタイアしちまって・・・・・・ 根性出して全部平らげてから倒れたら良かったのにって・・・・・・それくらいの根性を見せなきゃだったのに。 「あの後、自分達であの料理食って断末魔の叫び声を上げた直後、現在リビングで仲良く3人とも失神中」 失神? 「ったく、近所迷惑だっつうの・・・・・・にして、ユキ、お前よく寝てたぞ。あの声で起きないんだからな」 倉科、感心するなよ・・・・・・ っていうか、その様子から見て倉科はあれ以上料理に手をつけなかったんだな? 「まぁ、そんなことより」 そんなこと? 「なんだよ、ユキ・・・・・・眉間に皺寄ってる。可愛い顔が台無しだぞ?」 かっ! カワイイって・・・・・・ちょっと、眉間を突付くな!! 「でな、お前が寝てる間にパソコンセット完了!例のカードの中身、さっそく見ようぜ」 あ、そうだった。 って、寝室にセッティングしたのか・・・・・・ 既に電源は入っていて、カードを挿すばっかりになっていた。 倉科は俺に椅子を勧めてくれて、俺はその好意を素直に受けた。 「んじゃ、始めるぞ」 倉科の手がマウスを操作して・・・・・・ 画面にはフォルダが2つ並んで現れた。 見出しは数字・・・・・・いや、日付になってるようだ。 フォルダの中には画像が何枚か・・・・・・それが日付順に並んでいて・・・・・・ 倉科がマウスを操作して、画像の表示の仕方を変えて、一枚一枚が大きく見えるように・・・・・・って? 「これ、桐条胡桃と・・・・・・石橋さん?」 そこには、楽しそうに笑いながら腕を組んで歩いている石橋さんと桐条胡桃の姿が写っていた。 どの写真にも・・・・・・2人が写ってる。 角度からして2人は気付いていない感じで・・・・・・要するに隠し撮りされたやつ。 石橋さんの指に・・・・・・結婚指輪はない。 刑事とアイドル・・・・・・ 桐条胡桃はストーカーに悩んでた。 だから、そのボディーガードとして、刑事の石橋さんが彼女の護衛をしてて・・・・・・って、そんな風には見えない。 彼女の表情だって、ストーカーに怯えてるって感じじゃない。 どう見ても、これじゃぁ恋人同士じゃんか。 でも、こんな写真をどうして恭介が? 「ユキ・・・・・・こっちのも開いてみるぞ」 そう俺に断ってから倉科は別のファイルを開いた。 この画像ファイルは、スキャナーで読み取ったもののようだ。 そこには、日付と場所、なにかカラフルな色でごちゃごちゃと・・・・・・って、これ何かのスケジュールみたいな? 「これ、桐条胡桃のスケジュールだ」 「え?」 倉科がその表の中の何日かを指差した。 「この日付と場所・・・・・・これは雑誌社の名前・・・・・・俺もこの日一緒の撮影だったから」 青色の文字が桐条胡桃のスケジュールか。 「赤は・・・・・・石橋さんの非番の日だ」 前に一度だけ恭介から聞いた事がある。 石橋さんの休暇の取り方の法則・・・・・・その日に当てはまる。 何かの調査のとき、石橋さんに連絡を取ろうとしたら、恭介がその日はどの月も石橋さん非番だから警察にはいないって・・・・・・ 桐条胡桃のスケジュールが埋まってなくて、石橋さんの非番の日が重なっている日は何日かある。 そこにピンクで・・・・・・時間が書いてある。 「これ、デートの予定が入ってますって意味かな?」 俺もそう思う。 「つまり、桐条胡桃と石橋さんは恋人同士で・・・・・・これは2人が会える日を記したもの」 誰が記録したんだ? 恭介? いや、でも、これは恭介の字じゃない。 恭介の字は、もっとこう・・・・・・他の人は読めないって言うか・・・・・・ 俺の考えている事が分かったのか、倉科は作成者の名前を表示させた。 「岩月?」 岩月浩二が、このカードを恭介に渡した? 「この中身のこと・・・・・・恭介は、石橋さんに聞いたんだろうか?」 桐条胡桃と付き合ってるのかって・・・・・・ えっと、つまり不倫・・・・・・奥さんを裏切るようなこと、してるのかって聞きに行ったんだろうか? だから石橋さんは恭介を・・・・・・? 少しの間沈黙が流れ・・・・・・ それを破ったのは俺の携帯の着信音だった。 ディスプレイに表示された名前を倉科に見せて・・・・・・ 通話ボタンを押そうとしたら・・・・・・ 「ユキ」 そんな心配そうな顔しないでくれ。 大丈夫だよ、今目の前に倉科がいてくれるから。 「もしもし?」 なんか緊張する・・・・・・ ちょっとだけ携帯を持つ手が震えていて、それに気づいた倉科が手を差し伸べ・・・・・・じゃなくって、スピーカーを押した。 「由貴くん?俺だ・・・・・・今どこにいる?」 石橋さん・・・・・・さっきみたいな雰囲気は感じない。 いつもの石橋さんみたいだけど。 「どこって・・・・・・倉科と一緒ですけど・・・・・・」 後ろが騒がしいみたいですが? 「そうか・・・・・・あのな、由貴くん」 石橋さん、慌ててるみたいだけど何かあったのか? 「里中が」 里中? 「里中真央ですか?」 倉科と目が合う。 「そう、里中真央が病院から姿を消した!!」 え? 「病院から脱走したんだ・・・・・・看護士や、廊下に配置していた警官の隙をついて・・・・・・いなくなった!」 現在行方を捜索中。 「石橋さん、俺達も里中を探します」 何やってんだよ、里中・・・・・・お前を襲ったヤツ見付かってねぇんだぞ? 「おい、ユキ」 俺は石橋さんの答えを聞く前に通話を終了させて立ち上がった。 「聞こえたろ・・・・・・里中が病院からいなくなった・・・・・・俺達で探し出して保護するんだ」 警察より先に・・・・・・ いや、石橋さんより先に里中を見付けて・・・・・・ 「あいつには聞きたい事がたくさんある」 里中を・・・・・・探さなきゃ・・・・・・ その五分後、俺達は倉科のマンションを飛び出して里中真央の捜索を開始した。

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