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第39話
【 倉科side 】
「・・・・・・・・・・・・くしゅん」
俺の隣でユキが小さなくしゃみをして肩を震わせた。
石橋からユキの携帯に、何者かに刺されて意識不明の重体だった里中が病院から姿を消したと連絡を受けた。
俺達はそのまま夜の街へ飛び出して・・・・・・
俺はユキから片時も離れず・・・・・・ぴったりとくっついている。
いや、要と充から、どんな状況に陥ろうとユキを一人にしちゃダメだと言われ・・・・・・
言われなくてもユキを一人っきりにする気はなかったが・・・・・・
あの二人が啓太を引き剥したり抑え込んでくれたりしていたが、まぁ、ユキと二人っきりになれることは・・・・・・残念ながら少なかったな・・・・・・
おっと、話を戻そう。
俺達は何日も、何日も里中を探して回ったが、里中の居場所はさっぱり掴めていなかった。
「ユキ、大丈夫か?」
「平気だ」
即答すんなよ!
しかも、お前の言う平気って言葉も、大丈夫の次に当てにならねぇんだよ。
俺は着ていたジャケットをユキの肩に羽織らせた。
「く、倉科?!」
ん?暖かいだろ?
あれ?
なんか顔赤くねぇか?
ひょっとして熱あったりとかする?
「ちょっとユキ」
自分の額と、ユキの額に手を当ててみるけど、俺の手よりは熱い気がするんだけどよく分かんねぇなぁ?
「くくくっ倉科!さっ、寒いだろ?」
いや、そのジャケット、別に返してくれようとしなくてもいいんだけど?
「俺体丈夫だし、今少し暑いくらいだし、だからって脱いだら持って歩くの面倒だし、それユキが着てて」
風邪ひくなよ?
それにしても里中のやつ、いったい何処に行っちまったんだ?
何の当ても無いまま、俺達は夜の街中を歩き回っている。
一応里中が勤めていた店にも行ってみたが、出勤していなかった・・・・・・まぁ、想定範囲内だ。
刺されてすぐに働きに出るわきゃねぇっつうの。
だいたい、刺された場所がその店なんだから。
その犯人はまだ捕まってねぇし。
店が営業中ってだけでも驚いたぞ。
そこで殺人未遂事件があったってぇのに客もいたし。
店員、ってか、里中のお仲間さん方に里中の居場所について聞いてみると、いくつか候補を挙げてくれたけど・・・・・・
どれも病院からは遠いんだよなぁ。
一応連絡してみたけど、行ってないみたいだし。
まぁ、嘘つかれてたら分かんねぇけど、声の感じからしてそんな雰囲気はなかったし。
それだけの距離があれば、結構な人間に目撃されてそうだけどなぁ。
里中の自宅っていうか・・・・・・例の豪邸の方は充達が張ってるけど、まだ奴を見付けたとか、誰かが帰ってきたって連絡は入らないし。
怪我人の足でフラフラ歩いてて、検問してる警察の網にも引っ掛からない。
病院で着せられる服って、こんな街中歩いてたら目立つよなぁ・・・・・・
どっかで着替えたんだろうか?
いや、その場合、その着替えを誰が用意するんだよ?
そもそも、その辺の店の人とかタクシーの運転手に聞いても里中らしき人物は見てないって言うし・・・・・・
誰かが里中に手を貸してるのは間違いないよなぁ?
「倉科」
「ん?」
うわぁ・・・・・・俺のジャケットでけぇ。
ユキ華奢だから肩落ちてんじゃん・・・・・・
袖口からちょこっとしか指先見えねぇ・・・・・・そんなユキの手が俺の上着の裾を引っ張った。
店から少し離れた位置にハザードをつけて停車させておいた俺の愛車に向かう途中、ユキが足を止めて俺を見上げる。
上目遣いって・・・・・・なんかヤバイ・・・・・・
なんかこう・・・・・・うっ!って鼻血出そうになる。
じゃなくって!!
「・・・・・・携帯」
へ?
ユキの手の中で、マナーモード設定中の携帯が小さく震えながらチカチカ光ってる。
ディスプレイには・・・・・・
「え?」
おっさんの名前が・・・・・・
「・・・・・・恭介の携帯から掛かってきた」
ぎゅっとユキの手が俺の上着を握り締めた。
おっさん殺して奪った携帯?
つまり、ここに来て、いきなり犯人と接触ぅ?
「・・・・・・どうしよう?」
不安に揺れる瞳に俺の顔が映ってる。
どうしようって言ったって、コレは犯人に繋がる唯一の手がかりじゃねぇか?
「よし。ユキ、出よう!」
大丈夫だ、俺が側にいるんだから・・・・・・
「大丈夫、俺が全力でユキのこと守るから・・・・・・出て、ユキ」
ユキを安心させるように抱き締める。
小さく震えている体・・・・・・これは寒いから、じゃない。
大丈夫。
俺が、お前に勇気をあげる・・・・・・
お前は一人じゃない。
俺が一緒だ。
「ん」
ユキは俺の腕の中で大きく深呼吸をしてから、携帯を耳に近づけた。
「・・・・・・っ」
その携帯に俺も耳を近づけていって・・・・・・
ユキが第一声を発しようとした瞬間!
「ユキ先輩助けてっ!あいつがっ!いやぁっ!」
女の悲鳴が聞こえた。
ビクッと大きく震えたユキの体を咄嗟に強く抱き締め・・・・・・ってか、今なんて?
ユキ、先輩?
誰だよって俺は思ったのに、ユキには心当たりがあったみたいで・・・・・・
「まき、な?真希那?お前、甲斐真希那か?」
え?
あの卒業アルバムに載っていた甲斐真希那の顔が思い浮かんだ。
黒髪のストレートロングで、日本人形みたいで、可愛かったって印象はあるけど?
どうしてこの子が、おっさんの携帯を持っててユキに電話を掛けてくるんだ?
しかも助けてって?
「助けて!あいつがぁ!」
写真の真希那ちゃんからは想像できない叫び声・・・・・・
なんか、超取り乱してるみたいだけど?
どうしたんだ?
何があった?
「落ち着け、真希那・・・・・・真希那?聞こえてるか?なぁ、あいつって誰だ?お前今何処にいる?」
この子に、ちゃんとユキの声届いてるか?
雑音もひどいな。
どっかを走ってるのか?
部屋の中、じゃねぇな・・・・・・外か?
「ユキ先輩助けてぇ!あいつ、お兄ちゃんを殺しちゃったぁ!」
え?
なんだって?
誰を殺したって?
「殺した?」
ユキと目が合った。
「私も殺されちゃうっ!嫌だっ!死にたくないっ!」
真希那ちゃんの兄貴って言ったら・・・・・・鉄ちゃん?
え?
なんで鉄ちゃんが殺されるんだ?
「真希那、今何処にいるんだ?助けに行くから、今何処にいるのか教えてくれ!」
誰に殺されるって言うんだよ?
「いやぁ!あいつが来るっ・・・・・・ユキ先輩!助けて!助けてぇっ!死にたくないよぉっ!」
ダメだ、こっちの声届いてねぇ・・・・・・完全にパニックに陥ってる。
「真希那っ!落ち着けっ!俺がこれから迎えに行くから!真希那っ、お前が今何処にいるのか教えてくれ?まきっ・・・・・・」
ユキが叱りつけるように名前を呼んで・・・・・・
「先輩の・・・・・・っ!いやあぁぁぁぁっ!」
ゴトッ・・・・・・
え?
今の鈍い音って、携帯落としたのか?
「・・・・・・真希那?」
悲鳴が消えた?
「おい、真希那?」
彼女の声が聞こえてこない。
通話が途切れた・・・・・・わけじゃ、ねぇ・・・・・・ディスプレイにはちゃんと通話中の文字が表示されてる。
「真希那、返事しろっ!」
なのに、ユキの呼び掛けに全然応じない。
嫌な予感がする・・・・・・
「まきっ!!」
「大丈夫だよ、由貴くん」
え?
今の声って・・・・・・思い当たる人物は一人しかいない。
ユキにも相手の声の正体は分かったようで・・・・・・
「・・・・・・・・・い、し・・・橋、さん?」
石橋が甲斐真希那と一緒にいる?
彼女を、石橋が助けた・・・・・・のか?
「もう大丈夫だよ、由貴くん」
何が?
何がもう大丈夫なんだ?
彼女を保護したから?
「石橋・・・・・・さん?真希那は、甲斐真希那はどうし・・・・・・?」
さっきまで取り乱していた彼女の声が、全然聞こえてこない。
石橋が現れて落ち着いたのか?
彼女の叫んでいたアイツって奴がいなくなったから大人しくなった?
「甲斐真希那なら今・・・・・・目の前で柵を飛び越えて、ふっくくくっ・・・・・飛び降りたよ」
は?
「え?」
飛び降りた?
携帯を落としそうになったユキの手に、自分の手を重ねて力を入れる。
「もう逃げられないと観念したんだろうね・・・・・・馬鹿な子だよ」
逃げられない?
何から?
「これでもう君は安全だ・・・・・・あぁ、見る見るうちに血の海が広がっていくね」
石橋のヤツ、笑ってる?
あんたの目の前で人が飛び降りたんだろ?
何がおかしいんだ?
「どういう、ことですか?」
ユキ、声が震えてる。
甲斐真希那が何処かから飛び降りて・・・・・・ユキが安全?
「由貴くんを刺した犯人が、甲斐真希那だったんだよ」
ユキを殺そうとした・・・・・・犯人が、あのアルバムの黒髪美少女、甲斐真希那?
あの日本人形みたいな、か弱そうな美少女が?
「あの子は、由貴くんが自分のものだと勘違いしていてね」
やれやれって感じで、ため息交じりに石橋が説明を始めた。
「君を刺したのは、こんなにも熱視線を送っているのに自分に振り向かないからって罰を与えた、と・・・・・・由貴くんが優しく接した桐条胡桃を嫌いになって、その彼女のマネージャーである林原が由貴くんに向ける視線にもムカついて・・・・・・そして、いつも由貴くんにべったり寄り添ってた恭介が憎くて・・・・・・嫉妬に狂った彼女が次々に彼らを殺していった・・・・・・まぁ、そんな感じのシナリオ」
石橋?
何がそんなにおかしいんだ?
笑いながら話す内容じゃねぇよな?
「特に恭介のときは酷かったな・・・・・・なにもかもがグチャグチャだったもんなぁ」
桐条胡桃は、あんたの浮気相手で・・・・・・
「血とか一面に飛び散って、肉片なんかも転がってて」
おっさんはユキのことを、すっげぇ大事にしてて・・・・・・
ユキだって、おっさんのことを・・・・・・
「由貴くん、俺が君を守ってあげたよ」
石橋がユキを守った?
「俺が君の・・・・・・本当の王子様だった・・・・・・なぁんてね」
あんた、何言ってんだ・・・・・・ってか、あんた警察なんだから一般市民を守るのは当たり前だろっ!
ってか、王子様ってなんだ?
ユキがお姫様だとでも言うのかよ!
「石橋さん・・・・・・里中を襲ったのは誰?」
病院からいなくなって、まだ見付かってない里中の安否は?
「岩月さんを殺したのは・・・・・・誰?」
ユキ、ずっと震えてる。
「全部・・・・・・甲斐真希那の仕業ってことでいいんじゃないかい?動機なんていくらでもでっち上げられるんだから。俺が全部うまくやっておいてあげるよ」
ユキ・・・・・俺は今お前に、ちゃんと勇気を与えられてるか?
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