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第40話

【 倉科side 】 「由貴くん、君はこれ以上何も考えなくていいんだ」 石橋の声のトーンが変わった。 「石橋さん!」 ユキが声を荒げる。 「甲斐真希那が一連の事件の犯人だ。まぁ、俺にはまだやらなきゃいけないことがあるんだ・・・・・・すべてを彼女の仕業にするためにも、早急にやらなきゃならないことが」 待てよ。 彼女だけで、あんな残忍な犯行が出来るって、そんなことを他の人間が納得出来ると思ってるのか? アルバムで見る限り、あんな細腕で、大の男を二人も殺せるようには見えなかった。 おっさんを、あんな残虐な殺し方出来るようには・・・・・・ 「全てが終わったら君を迎えに行くよ」 はぁ? 「あぁ、清美も始末しないとな・・・・・ふふふっ」 なんだよ、それ! 「石橋っ!てめぇ何言ってんっ!」 肝心な時に俺の携帯が鳴り・・・・・・ 小さく舌打ちして俺はディスプレイを覗きこんだ。 「充?」 こんな時になんだってんだ! 今お前としゃべってる暇はねぇんだよ! 切るつもりだったのに・・・・・・ 「倉科くん!ちゃんと雛森くんと一緒だよね?君達今何処!」 間違えた。 しかも、お前も随分興奮してるじゃねぇか! だがな! 今はユキが・・・・・・あれ? 「誰?」 石橋とは・・・・・・通話終わっちゃったのか? 「・・・・・・充から」 差し出されたユキの手に、思わず俺の携帯を乗せてしまった。 「甲斐さん、従兄弟の鉄平さんと真希那さんのことなんですが・・・・・・」 そうだ・・・・・・鉄ちゃん、殺されたとかって・・・・・・ 真希那ちゃんが、あいつに殺されちゃったって言ってたってことは、鉄ちゃんを殺したのは石橋? 「雛森くん?今鉄ちゃんから電話があって!」 え? 鉄ちゃんから電話? え? あの世から電話出来るのか・・・・・・・って、なわけねぇから、無事だったのか? 「石橋さんに刺されたって。でも、運良く急所は外れてて、近くを通りかかった人が救急車を呼んでくれたらしいんだけど・・・・・・一緒に逃げてたはずの真希那ちゃんが、何処に行ったか分からないって、ひどく取り乱してて」 石橋に・・・・・・刺された・・・・・・ でも、鉄ちゃんは生きてるんだな? 良かった。 「甲斐さん・・・・・・俺、さっきまで真希那さんと話してました」 話してた・・・・・・って言っても、彼女は一方的に、ユキに助けを求めて・・・・・・ そして・・・・・・石橋に追い詰められて・・・・・・・・・ 悲鳴が聞こえて・・・・・・ その時の様子を充に伝え・・・・・・ 「石橋さんが・・・・・・彼女が自分の目の前で飛び降りたって・・・・・・」 充からすぐに言葉は返ってこなかった。 まぁ、当然だけど・・・・・・ 今必死にユキの言葉を理解しようとしてるんだろう。 何処から飛び降りたのかも聞けなかったな。 「充、お前今誰かと一緒にいるのか?」 なんだろう? 充の後ろで誰かが話している声が聞こえているけど、啓太達の声じゃない。 誰と一緒にいるんだ? 「OK分かった・・・・・詳しい事は帰ってから話すから、二人とも一旦マンションに戻っててくれない?」 は? 「真希那ちゃんの捜索は既に始めてるから」 なんだよ、いきなり? それに、里中のことはどうすんだよ? 石橋の野郎、早急にやらなきゃいけないことがあるって言ってたんだぞ。 それって、里中のことも始末するってことじゃねぇのか? だったらさっさと里中のこと見付けねぇと! それに、奥さんの清美さんだって危ないんだから保護しねぇと! 「おい、充?」 「いい?警察にはくれぐれも内密にね!!誰にもしゃべっちゃダメだからね!!」 そのまま充は俺の返事を聞かず、一方的に通話を終了させた。 「警察に内密?」 充の言葉を繰り返してみる。 石橋の協力者がいるとか? 「・・・・・・・・・倉科、帰ろ?」 ユキが俺の手を引っ張った。 「あ、あぁ・・・・・・・・・ユキ」 ユキ・・・・・・お前、さっき石橋になんて返事した? 迎えに行くって言われたよな? さっき充に邪魔されたから・・・・・・俺、そん時お前がなんて返事したのか聞いてねぇんだけど? ユキの手、ずっと震えてる。 「ユキ」 運転席に乗り込み、助手席に座ったユキの頬に手を伸ばした。 ほっぺた冷てぇなぁ。 早く帰って、暖めてやりてぇけど・・・・・・その前に! 「ユキ」 じっとその瞳を覗き込む。 「お前、最後の方、石橋に何て言われた?」 俺の言葉にユキの瞳が揺れる。 お前、俺に言わないで・・・・・・一人で何かする気だったろ? そうはいかねぇからな! 「そん、な・・・の・・・・・・迎えに行くって言われた・・・・・・倉科だって聞いてたろ?」 そこら辺まではな。 「どこで会う約束をしたんだ?」 ほら、微かに反応した。 俺もだいぶ慣れてきたよ。 お前のちょっとした反応、見逃さないようになったろ? 石橋に言われたんだろ? 何処へ迎えに行くからって、そこで待ってろって言われたんだろ? 「絶対に一人でなんか行かせねぇからな!」 ユキの指先が、俺の指に微かに触れた。 もっと、ちゃんと触ってくれればいいのに。 ちゃんと俺の手を握れよ! 「・・・・・・そんなこと、しない」 じゃぁ、なんで目を伏せる? どうして目線を外した? 俺に隠してることがあるからだよな? 「ユキ、ちゃんと俺の目を見ろ」 叱り付けて・・・・・・頬を固定して、目を合わせる。 めっちゃ不安そうな顔してんじゃん。 「お、れ・・・・・・俺のせいで、倉科を死なせたくない」 あ、泣く。 そのままユキを引っ張り寄せて、ぎゅっと強く抱き締めた。 「死なねぇよ、俺は」 ユキが俺の肩口に額を押し当て、その腕が俺の背中に回った。 ぎゅってしがみ付いて来たユキは、さっきより震えてる気がする。 「・・・・・・だって、石橋さんが・・・・・・一人でおいでって・・・・・・俺が行けば倉科を・・・・・・倉科の事は・・・・・・死なせたく、ないだろって」 俺を、死なせたくないだろ、だとぉ? あんの野郎!! ユキを一人呼び出して何する気なんだ! 「お前は俺の側を離れんな・・・・・・石橋なんかにユキを渡さねぇ!」 いや絶対離さねぇ! 「俺は死なないし、お前とずっと一緒にいる。これからずっとだ!」 このままユキを離す事は出来なくて・・・・・・暫くユキを抱き締めてた。 ユキが声も出さずに泣いていたから。 こんなに怖がらせやがって! 絶対許さねぇ! 「ユキ」 離れたくない、ってか、離したくない。 けどマンションに帰らなきゃいけなくって・・・・・・ そっと身体を離すと、ユキはどうにか泣き止んでいたようで・・・・・・ 「こんなに泣いて・・・・・・明日、腫れるぞ?」 目尻に残ってた涙を袖で拭ってやって・・・・・・ 「お前は俺が守る。そう言ったろ?」 ユキにシートベルトをつけてや・・・・・・って! 「うわっとっ!」 俺の袖口を握ってくるから、安心させるようにユキの髪をクシャクシャと掻き乱して、ニッと口角を吊り上げた。 俺の笑顔は人を安心させる効果を持っている・・・・・・と、自負している。 「とりあえず、帰ろうぜ?」 袖口を掴んでいたユキの手を離して、その手の指を絡めて・・・・・・ そのまま、片手をユキと繋いだまま・・・・・・ 「これ以上待たせると、あいつら暴れて・・・・・・特に啓太が暴れて、俺の部屋がぐっちゃぐちゃになっちまうから」 そんな俺の手にユキはもう片方の手を添えて・・・・・・小さく頷いた。 「ん、帰ろ」 ユキがまだ無理してんだろうけど、なんとか笑顔を作ってくれて・・・・・・ 俺は車をマンションへ走らせた。

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