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第42話
【 倉科side 】
石橋の身柄を確保したと連絡が入ったのは、それから30分後のことだった。
現場で取り押さえられた石橋は、まだ容疑を否定してるらしいけど・・・・・・
この鉄ちゃんの上司は、偉いだけじゃなく、とても有能な鑑識さんらしく、石橋が犯人であるっていう証拠はかなり出てきているらしい。
指紋とか、監視カメラの映像とか・・・・・・
鉄ちゃんに証拠隠滅させたはずのデータとか、いろいろ・・・・・・復元して・・・・・・
「さて、私は本部に戻るとするよ・・・・・・これから石橋をオトさなきゃならんし、娘を、真希那を迎えに行ってやらないと・・・・・・」
よっこらしょっと口髭が立ち上がり・・・・・・
っつうか、あんたはどれくらい偉い人なわけ?
充の叔父さんって・・・・・・警察の人ってことしか知らねぇんだけど?
「あ、じゃぁ、私達も」
続いて銀縁の狐目が立ち上がって、里中に手を伸ばした。
「あのね・・・・・・一郎ちゃん・・・・・・出来れば今夜はここにいたい」
だが、里中はその手を取らなかった・・・・・・って言うか、ここにいたいだと?
お前、怪我人なんだから大人しく病院に戻れよ!
石橋捕まったんだから、もう心配ねぇだろうがよ!
「でもウサギちゃんのように可愛らしい君を、このまま狼達の群れに残したままなんて・・・・・・そんなこと僕には出来ないよ!!」
ちょっと待て、誰が狼だって?
「心配で心配で、仕事が手に付かない!」
で、誰がウサギちゃんだって?
ユキのことか?
ユキのことだよなぁ!!
こん中でウサギッて言ったらユキしかいねぇよなぁ?
「だって、一郎ちゃんは、これから光ちゃんと一緒にお仕事に戻っちゃうんでしょ?あの広い家の中に一人でいたくないの・・・・・・怖かったことを思い出しちゃうから・・・・・・出来ればココで・・・・・・ユキ先輩と一緒にいたいの」
いや、だから、病院に戻ればいいんじゃねぇの?
看護師さんとか、他の入院患者とか、結構人いるじゃん?
うわぁ、それ・・・・・・その上目使い、うるうるの瞳でお願いされた日にゃぁ・・・・・・
「そうだね・・・・・・分かったよ」
ダメなんて、言えるわけねぇよなぁ・・・・・・
必殺技だよなぁ・・・・・・必ず殺すって書いて、必殺!
でもな、ここは俺の部屋で、主は俺なんだよ。
「ユキ先輩、一緒にいてもいいですか?」
そこでユキかぁ!
ここの部屋の主は俺だ!
「あぁ、そうだな・・・・・・いいんじゃないか?」
ユキ・・・・・・お前、許可しちゃったんだな・・・・・・
まぁ、里中が犯人じゃなかったわけだし・・・・・・でもなぁ。
「倉科・・・・・・こいつ、一晩だけ置いてやってもいいだろ?」
お前も上目使いっ!
まぁ、しょうがねぇか。
「あぁ、いいけど・・・・・・ベッド一つしかねぇから、里中、お前はソファで・・・・・・」
「えぇ!!!遼先輩、怪我人をソファに寝かせる気ぃ?!」
うるせぇな、啓太・・・・・・じゃぁ、どこに寝かせるんだよ?
ベッドにはユキがいて・・・・・・いや、俺も一緒にいるんだけど・・・・・・
お前らは床で雑魚寝すればいいだろ?
それとも自分らの家に帰ればいいんだし?
ってことで里中はソファだろ?
「雛森くんと一緒にベッドに寝かせてあげればいいじゃん!!遼先輩のベッド、おっきぃんだからさぁ!!」
キングサイズのベッド。
「ユキ先輩、あたし、先輩と御一緒していいんでしょうか?」
おい?
「いいんじゃね?倉科のベッド、二人で寝てても十分な広さがあるし。でも、倉科がベッドで寝たいって、三人で寝るには狭いって言うんなら、俺はソファでいいよ。倉科は一応この部屋の主なんだから・・・・・・」
今、一応って言ったろ?
でも、ユキ・・・・・・今の言葉で皆からの冷たい視線が突き刺さって痛いんですけどぉ?
「遼ちゃんったら心狭ぁい、人間の器ぁ小さぁいっ・・・・・・うぃっく」
要・・・・・・お前、ずっと話しに入ってこないでキッチンにいると思ったら、酒飲んでやがったのか!!
しかも、もう完璧に出来上がっちゃってるじゃんか!
「あぁ!!俺にもちょうーだい!!!事件解決のお祝いしよぉよぉっ!」
「僕はワインがいいかな・・・・・・ホッとしたら喉が渇いちゃったよ」
啓太と充がキッチンに向かっていく。
「倉科?」
「分かった・・・・・・ベッドは、ユキと里中で使っていい。けど、ユキ・・・・・・何かあったらすぐに呼べよ?」
きょとんとした、その純粋な目・・・・・・止めてください。
「何かって・・・・・・何があるんだよ?」
そりゃぁ・・・・・・お前・・・・・・その・・・・・・
銀縁狐目野郎曰く、このウサギちゃん・・・・・・今はこんな華奢っぽくて女の子っぽいかもしんねぇけど・・・・・・元は男だぞ?
それに、お前に気があるんだよ!
いきなりウサギから狼に脱皮したりするかもしれねぇだろ?
しかもな!
ニューハーフって言う人種は、結構力が強いんだよ!
なんかのテレビで見たぞ、俺は!
狙った獲物は絶対に逃がさねぇ!
いきなり狩人の目付きになってだなぁ、襲い掛かってくるんだよ!
そうしたらユキは逃げられないんだよ!
簡単に餌食になっちゃうんだよ!
なすすべなく、お前は喰われちゃうんだよっ!
「里中、お前からユキに触れる事は全面的に禁止する!!」
言ってるそばから、ユキ手ぇ握ってんじゃねぇ!!
てめぇもユキの腰に腕を回すな!
「倉科、里中は怪我人なんだから、誰かが手貸してやらないとと歩けねぇだろ?」
正論だ!
だがしかしっ!
ユキ、お前も自分が怪我人だということを忘れたか?
そうして、次の日・・・・・・
俺の目が覚めたのは、正午を少し過ぎた頃だった。
「おはよう、倉科くん」
充?
朝目覚めて一番最初にお前のドアップを拝まされるとはな・・・・・・世も末だ。
「君が一番お寝坊さんだよ」
俺が一番最後?
ソファの上で、大欠伸をしながら身体を起こして、部屋の中をぐるりと見回した。
「随分静かだな」
まるで誰もいないみたいで・・・・・・
「そりゃあ、今僕達しかいないからね」
あぁ・・・・・・そっか・・・・・・・・・・・・?
「は?」
俺らしかいねぇってどういうことだ?
「ユキは?」
今までの全部夢だったとかってオチじゃねぇだろ?
「要と一緒に一旦事務所に戻るって・・・・・・啓太は大学に行ったし、真央ちゃんは朝一番に八尾さんが迎えに来た・・・・・・結構皆バタバタ動いてたんだけどねぇ・・・・・・君、ほんっとよく寝てたよねぇ」
そんなに感心するな・・・・・・ってか、誰か起こせよ。
そっか、もう皆出掛けてんのかぁ・・・・・・
朝起きてさぁ・・・・・・
ユキが俺を起こしに来てさぁ・・・・・・
「雛森くんがね・・・・・・疲れてるだろうから、倉科はもう少し寝かせておいてやろうって言ったからさぁ・・・・・・雛森くんに起こしてもらえなくって残念?」
充、お前俺の心の中を読んだのか?
そりゃぁ、お前のアップよりユキの方が良かったに決まってんだろ!
「うっせぇよ・・・・・・いらん気ぃ使いやがって」
シャワー浴びてからユキに電話しよ。
あいつ、病院送ってかねぇとな。
あの先生も待ってるだろうし。
「あ、倉科くん、僕も一旦家に帰るから」
「おぉ・・・・・・ん?」
一旦?
「あ、そうだ・・・・・・雛森くんに電話した後、バイト先にも連絡入れた方がいいよ?何回か無断欠勤しちゃったでしょ?」
あ、そういえば・・・・・・
まぁ、それほどモデルという仕事に執着してたわけじゃねぇし・・・・・・
クビになったら別のバイト探せばいいかって思ってたからなぁ。
「あそこの事務所の人達、結構倉科くんのこと気にいってるみたいで、そう簡単には手放してくれなさそうだよ」
「はぁ?」
「倉科くんイケメンだからさ・・・・・・僕の方からもフォロー入れておいたし。じゃぁね」
パタン・・・・・・
充が出て行って、部屋の中には俺一人・・・・・・随分広く感じるなぁ。
それに、すっげぇ静か・・・・・・っつうか静か過ぎる。
「とりあえずシャワー浴びよ」
その10分後・・・・・・
リビングで俺の携帯が鳴り出して・・・・・・
俺は腰にバスタオルを巻きつけて、慌ててバスルームから飛び出した。
相手がユキだと思ったから。
「もしもし?」
ディスプレイを確認せずに、携帯を耳に押し当てて・・・・・・
「あぁ、私だ・・・・・・何か慌てていたようだね」
てめぇか、口髭親父・・・・・・私だ、じゃねぇんだよ!
ちゃんと名乗れよ!
人が折角気持ちよくシャワー浴びてたのに、ユキから掛かってくるかもしれねぇって着信の音量最大にしておいたのに・・・・・・
なんだかすっげぇ損した気分。
っつうか、俺の携帯番号なんで知ってんだ?
「・・・・・・なにか?」
まだ俺達に何か用があるわけ?
石橋はオトせました?
「いやぁ、雛森くんに電話をしたんだけど繋がらなくてね・・・・・・充に聞いて君の携帯に連絡してみたわけだけど・・・・・・」
先にユキに電話したって?
「石橋がね・・・・・・漸く岩月さんと胡桃ちゃん、林原さんの殺害を自供し始めたよ。なんでも、石橋の本命は雛森くんだったみたいでね・・・・・・それに気づいた胡桃ちゃんが、石橋を自分に繋ぎ止めるために行動を起こして・・・・・・・・」
石橋と胡桃ちゃんの不倫・・・・・・
石橋にとって胡桃ちゃんは遊び相手で・・・・・・でも胡桃ちゃんは本気で・・・・・・
そんな石橋を手に入れるために岩月に情報を流して・・・・・・
調べていくうちに、石橋の本命が実はユキだったって知った岩月は殺されて・・・・・・
って、石橋の本命のがユキ?
あんのヤローッ!
「それでね・・・・・・真希那が、雛森恭介さんを殺害した時に彼から奪い取ったモノがあるんだが・・・・・・それを雛森くんに返したくてね」
おっさんから奪い取ったモノ?
「それが原因で、石橋と真希那の次の標的は君だったようだよ」
ふーん・・・・・・・・・・・・?
「はい?」
俺、ですか?
「あははははっ、いやぁ、未然に防げてよかったよぉ」
おい、口髭親父!!
笑うところか?
そこ結構重要なことじゃねぇのか?!
思わず握っていた携帯に力が篭って、ピシッと音がした。
「で、それ私が預かっているから、取りにおいで。場所は・・・・・・・・・」
口髭親父の声の向こう側で、部下らしい人が呼んでるのが聞こえた。
指定された場所を頭の中で繰り返し、何か書くものはないかと辺りを見回す。
「じゃぁ、私はそろそろ戻らないといけないから・・・・・・待ってるよ、倉科くん」
おいおい、いったい何を持ってるんだ?
それが原因で次に狙われるのが俺だったって、何?
俺は、すぐユキに連絡を取ろうと思ったが、電話で話すより直接会った方がいいと思って、バタバタと身支度を済ませ、部屋を飛び出した。
ユキがいる、雛森探偵事務所へ・・・・・・
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